伏黒家の末裔、現代最強の生まれ変わりと噂される女に見初められる 作:呪術児
軽い弾みだった。俺の中で何かが切れた。世の中やってはいけない事は数え切れぬほどある。
特に”他者を巻き込む自殺行為”など…
「あはは、アンタ相変わらず弱すぎぃ―”不可侵”は解いてあげてるでしょ?」
「術式なしの私から一本も取れないなんて…男が女に負けるってどんな気持ちなの?」
地に伏せる俺を煽るのは五条家の令嬢、100年振りとかいう”六眼”と”無下限呪術”の抱き合わせで産まれたという”現代最強の術師の生まれ変わり”と称される”
恐らく”六眼”が大好きな”五条家”が彼女の爆誕を祝してご丁寧に目を冠する名前を付けたのだろうが………
高専に入学して早々、模擬授業で俺は彼女にボッコボコに殴られていた。術師は呪霊や呪詛師の命を奪う殺伐とした仕事だ。学生もそれは例外でなく、両親に勧められた”呪術高専”入学も、どうせ碌な奴はいないだろうと期待はしてなかった………が、ここまで癇に障る奴がいるとは。
「クソッ………」
噂には聞いていた。五条家には"怪物"がいると。だが、まさか…ここまで隔絶していたとは思わなかった。
両親はよく俺は”恵”まれている人間だと言っていたし、俺自身強者側だという自負があった。
”呪いの王”に憑かれていたという遠い先祖と同じ術式を二つ持ち、後天的に後付けする場合を除いて、”生得術式”を二つ持って生まれてくるのはレアケース中のレアケースだという。
才能に裏打ちされてるのも相まって、呪術と肉体を研鑽するのは嫌いではなかった。率先して呪霊や呪詛師を狩る任務に従順し、フィジカルも大事だと普段から基礎的なトレーニングも怠らずに行ってきた。実際、俺と同年代で、準1級相当のフィジカルを持ち合わせてる奴はまずいない。
その自尊心が、今日バキバキに折られた。
「アンタの生得術式”十種影法術”。私の家では禁術とされているそれ………先祖の六眼使いを二度も殺してるんでしょ?宇宙人ともガチンコでやり合ったとか。」
「あとは”御厨子”か………斬撃の術式対象を世界にまで拡張すれば不可侵すら切り伏せるんでしょう?でも今のアンタの斬撃、私の服を斬り裂いただけwそんなんじゃ赤子も殺せないよ。」
「先代を殺した術式持ちが入学するっていうから、私も遥々京都から東京の高専まで来たっていうのになあ…即日退学して実家に帰っちゃおうかな。」
言葉の節々から感じる。この女も俺と同じで己を強くする事が好きなのだろう。しかし、俺とはステージが違う。コイツは上で、俺は見下ろされる側。
(俺より強いのはまだいい、いずれ強くなって追い越せばいいだけの事…)
(しかし、コイツのこの言動………!ここまで見下されるのは我慢ならねぇ。)
自覚はあるのだが、俺は昔から人当たりが悪く、少々キレっぽい所があった。良くないとは思いつつも、人間関係は苦手というか、鬱陶しかったのでその悪癖を変えようとは思わなかった。
ブアッ
「やってやるよ。」
「!」両手で拳を突き出す独特の掌印。
「望み通り、先祖と同じような死に方をさせてやるよ。」
俺はやけになってしまった。後にこれが一生の後悔という”呪い”として憑き纏うとも知らずに…
”禪院家の虎の子” ”あらゆる事象への適応” ”最強の後手”という能力を持つ最強の式神。
「おいクソ女。先にあの世で待ってる、せいぜい頑張れ。」「ヒュ~♪」
他者を巻き込んでの”調伏の儀”を行う時、自らに課す縛りとして仮死状態となる。薄れゆく意識の中影に沈んでいく最中、あろうことか奴は口笛を吹いていた。やけっぱちであろうと死を覚悟して奴に一矢報いようとしたというのに。死ぬ間際にまで不快な思いをするなら自爆特攻などしなければ良かったかもしれないと、今更俺は選択を悔いていた。
ゴンッ
………
「死にたてほやほやの心臓を私の呪力で刺激して、ヒューっとやってひょひょいと………」
「かはっ…」「うわきたなっ…」
仮死状態で口膣に貯まった唾液を復活した呼吸で吐き出してしまった。
「………何故お前は生きている。」
「えっ、気にするの私の方?普通自分が助かって良かった~って喜ぶとこでしょハハッウケる。」
恐らく、というより間違いなくだが、俺とコイツが生きているという事は”調伏の儀”の魔虚羅は倒され、俺は”反転術式のアウトプット”なりで蘇生されたのだろうが…
御三家なら魔虚羅を倒す唯一の方法、”適応前に初見の技にて屠る”という事は知っているだろう。が、知っていたとしてなんだという話だ。基本性能も相当バケモノな魔虚羅にそれをキメるにはそれ相応のフィジカルや呪力出力が必要な筈だ。呪力量は六眼持ちなら切れる事はないと聞くが…
それから俺を生き返らせた時に使ったであろう反転術式のアウトプット、コイツの先祖だった現代最強は使えなかったと聞くが、どこまで
俺は通常の反転術式もまだ使えないし。気に入らねぇ気に食わねぇ………羨望や嫉妬心が俺の心を埋め尽くす。
「簡易領域でバフ掛けてさァ………出力最大の”術式反転・赫”をぶつけたら初見で倒せたよ♪」
「いやお前がどうやって魔虚羅を倒したかなんて聞いてねぇよ…」
俺の遮りを無視して、領域展開や”虚式「茈」”を使わなかったのは掌印や詠唱のタメの妨害を警戒しただの最強の式神を”赫”だけでも倒せるか試したかっただのベラベラと喋り出す。
内心どうやって倒したのかは気になっていたので、頭の中まで見透かされているようで気分が悪かった。六眼には相手の思考を読む能力もあったか?と一瞬よぎったくらいだ。
「ンフフ♡」
「なんだよ気持ち悪い…」
コイツの俺を見る目、表情は敗者への侮蔑ではなかった。さっきまでは同じ笑いでも嘲笑しているような感覚だったのに。
「私さ、生まれてこの方自分より弱い奴しか見た事ないの。」
まあ、魔虚羅を単独で刈り取れる者ならそうだろうなと思った。恐らく現存する人類最強はこの女だ、恐らく本気を出せば世界を滅ぼす事だって出来る筈…
「実家の人間はとにかくチヤホヤしてきて凄い凄いって…雑魚共はうやうやしかったり恐れるような目で見てきたりさ…そういうのウンザリしてんだよね。」
いきなり自分語りなんて何がしたいんだコイツと思ったが、死地から甦ったばかりなので話を無視して退散しようと身体を動かす余力がなかった。
「でも、本気で私を倒そうと殴り掛かって、挙句殺そうとまでしたのはアンタが初めてw」
ケラケラと嗤いながら、瞳は俺をまじまじと見つめてくる。
「何が言いたいんだ………?」
それとなく嫌な予感を覚えながら、恐る恐ると言った感じで真意を聞いてしまった俺。
「鈍いな。アンタを私のツレとして認めたって言ってんのよ。」
最強の私にお眼鏡叶うなんてとても光栄だろうと、目の前の女はニコニコしているが………
「イヤ…」「ああっ?」
会ってその日のうちに告白なんて正気の沙汰じゃない………いや、挑発されたくらいでキレて魔虚羅呼び出した俺が言えたことじゃないけど。
考えてみて欲しい。その気になればいつでも俺を殺せる女が本気の殺意を抱きながら発してくる「ああっ?」という唸り声………いくらなんでもエグすぎる。俺はもう黙ってるしかなくなった。
ニコッ
無言を了承と捉えたのか、瞳は笑いながら俺の体を浮遊させる。無下限呪術の”収束”を使った応用だろうか。本当に嫌味なくらい器用すぎる。大技は勿論こんな小技にまで余念がないだなんて。
「このまま医務室まで運んだげるから…また後で話ししようね♡」
俺は決めた。この女の強引さに怯えなくて済むように、コイツより強い術師になってやると。
そうしなければ、少なくとも俺の人生に平穏の二文字は戻ってこないだろう。
「そうだ!まだ名前聞いてなかったよね。」
「…
「レンか…いい名前!」
その後、俺は高専教師に生徒同士の模擬戦で自爆形式の調伏の儀を行った事をこっぴどく怒られた。挑発してきた瞳にはお咎めなしだったのが腹立たしい。
俺が説教されてる時にチラリと奴の方を見たら、ベッと小悪魔みたいに舌を出してきて余計腹が立った。