伏黒家の末裔、現代最強の生まれ変わりと噂される女に見初められる 作:呪術児
呪術高専に入学して早々、術者の力を図る為に実践授業を行う事になった。
「とはいっても、今年の一年坊二人には必要ないと思うがね…」
実習の為に低級の呪霊が湧いたという東京を少し出た首都圏近郊の廃ビルを目指して歩く最中、担任の”日下部”がやる気の感じられない発言をする。
(ったく、担任はやる気なし…そして、)
「密着すんじゃねーよ。離れて歩け、不可侵はどうしたんだよ。」
俺にくっついて離れない”現代最強”の再来、生まれ変わりとも揶揄されている”五条瞳”…
「ま、今の呪術高専に不純異性交遊みたいな校則はないからな…」
日下部は俺達をカップルだとでも思ってるのだろうか。肯定するような発言に勘弁してくれ。
「せんせーしつもーん。」
呪霊は東京都心にしか出ないんじゃないのかと、瞳が質問している。
「何事にも例外はあるもんだろ。」
それでも、東京外に呪霊が発生する事は0じゃない。なので東京外には魔除けの呪符や呪物などを五芒星の形に配置するなどして対策はしているのだが…
特に廃ビルなどは心霊スポットとして、恐怖という負の感情の受け皿になる。
「ま、東京の外にそう強い呪霊が出る事はないがな。」
形式は形式、最強だろうと優秀だろうと関係ない。
「御託は良い、さっさと向かって終わらせるぞ。」
お前は可愛げがないなと、日下部は毒付いていた。
………
東京近郊はすぐ隣が呪霊の発生地と言う事も相まって年々過疎化が進んでいる。その影響を如実に受けたのだろう。市街地の隅も隅、何年も放置されたのか壁はひび割れ、
『闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え』
「帳、貼れるんだ。」
「俺を舐めてるのか?」
意外そうな顔をする瞳に、初歩的な結界術くらい使えると俺は反発する。彼女はバカにしたのではなく、いい意味での驚きだと返された。
「流石に討祓する時までベタベタするとは言わないよな?」
俺は上階、お前は下から呪いを祓っていき中央で合流するのがはやいだろうと、俺はさっさと瞳から離れる為の方便を言い残して逃げ出した。
「フフ、さっさと片付けてまた一緒に…」
俺は耳を呪力で覆って彼女の声が届かないようにした。
「さーて、さっさと雑魚共を片付けて蓮と合流しなきゃ!」
拳に呪力を込めて、瞳も彼を追って廃ビルに突入した。
………
「あー、つまらないつまらない………」
予想通りというか、湧いている呪霊は殆どが4級の蠅頭、甘く見積もっても3級が関の山というレベルがちょくちょくいる程度だ。この程度なら術式を使うまでもない。
「ま、術式使っちゃうと余波がヤバいし、最初から使う気ないけど。」
老朽化の進んだ建造物内で”無下限呪術”を解放しようものなら、間違いなく崩壊してしまう。自分には不可侵があるから届かないし、呪力で強化すれば建物の崩落程度で傷など付く事はないが。
蓮が建造物が破壊されて無事でいられるのか、憂うのはそこである。
「その程度で死ぬようなタマなら…」
彼の強さを試す一環として、ふとこの建物を壊す勢いで呪霊を祓ってもいいんじゃないかとも一瞬思ったが、自分の中にある善性が駄目だと否決した。
建物は四階ある、既に一階と二階の雑魚は倒した。蓮が上手い事討祓を進めていれば合流出来る筈…
「!」『ヒヒッ』
三階で目にしたのは醜悪な光景、小賢しい呪いだった。
「呪いの強さにも色々あるが、」
楊枝を噛み締める癖で遊びながら日下部は独り言つ。
「単純に等級ではかれる強さだけじゃない。知恵をつけた呪霊は…」
瞳が目にしたのは正に、悪知恵を覚えた呪霊であった。
「た、たすけて…!」
全身毛むくじゃら、黒い爪の生えた呪霊が子供を人質にしている。大方近所の子供が心霊スポットに遊びに来て襲われたのだろう。首筋に黒い爪が突き刺さり、赤い血が滲んでいる。
「………。」
子供を巻き込まないように奴を殺せるか?術式を使うのは絶対駄目だ。確実に巻き込んでしまう。
なら体術で…いや、首に突き刺さった爪がより深く入り込んだり、搔っ切ってしまうかもしれない。反転術式のアウトプットは術者本人が使うそれより効率は半分以下に落ちる。重傷を治すのには向いていない。
(子供が怪我するのは仕方ないとして、反転術式のアウトプットで治すのに賭けるか?)
(ああ、弱者に気を遣うのって本当にメンドクサイ………)
『ヒヒッ!』
人間を害する事しか考えていない呪霊は、鼻から両者を殺すつもりだ。しかし、目の前の術者との力関係はちゃんと把握している。子供を掴んだまま、考えを巡らせ立ち留まった瞳に一歩一歩近付いていく。
(フン、近付いてくれるなら丁度いいや。)
奴の注意が子供から離れた瞬間に即殺、奴の爪が私の命に届く事はないのだから………
『解』
キンッ
『ヒッ!?』
突如として、瞳の背後から”見えない斬撃”が飛んで、子供の首を掴んでいた方の腕を斬り飛ばした。斬撃の行き着いた先の壁には仰々しい破壊の痕が残った。
ザシュッ
その隙を見逃さない瞳ではない。呪力で肉体を治される前に、”六眼”で把握している呪霊の”核”を破壊した。
「うわー、怖かったよォ…」
子供は安心を求めたのか、瞳の脚に縋って泣き叫んでいる。
「フフッ」
これに懲りたら、二度と心霊スポットで遊んじゃ駄目よと、瞳は優しくたしなめた。
「フッ、”現代最強の生まれ変わり”と噂されるお前が…」
低級な呪霊を前にして手こずるなんて思わなかったぞと、蓮に煽られる。
「………その呼び方やめてくれる?」
ゾワッ
子供と蓮の背筋が寒くなる。最強から発せられる本気の負の感情、心臓に悪すぎる。子供の方は涙が止んで彼女から後ずさってしまうくらいだ。
ニコッ
「ごめんね!でもこれに懲りたら、その呼び方はやめてほしいな。」
産まれてからと言うもの、知らぬ先祖の生まれ変わりだの先祖帰りだの、家の連中も外の呪術関係者からも耳にタコが出来るくらいその謳い文句を聞いてきた。
(私は私だ。)私は露知らぬ”現代最強”じゃない、”五条瞳”なんだ。
「そんな事言って、アンタは雑魚呪霊祓うのに時間掛かり過ぎでしょ!アンタが四階から降りてくる前にこっちは三階まで到達してんだけど!」
「フンッ子供を助けられたのは俺のお陰だろうが。」
確かに、本来触れたものを斬り裂く”御厨子”の”解”を、”空気”を対象とする事で疑似的に”飛ばす斬撃”に昇華させる”術式拡張”まで至ってるのは見事だが…
「フフッ、まあ…今回みたいなシチュエーションには…アンタの斬撃の方が適してるかもね。」
「………。」
瞳がつい零した誉め言葉に、蓮は豆鉄砲でも喰らったような顔をする。
「さ、帰ろ帰ろ!」
そんな彼の顔を嗤いながら、瞳は困惑がまだ残っている子供の手を引いて行ってしまった。
「なんだアイツ…」
蓮は困惑しながら、彼女達の後に続いた。
伏黒家の先祖が”華”という名前だったのにちなんで、華に関係する名前を付ける習わしが出来たとか出来てないとか…