伏黒家の末裔、現代最強の生まれ変わりと噂される女に見初められる 作:呪術児
今日の授業は最悪だった。昨日瞳の馬鹿に二度も死の淵まで追い詰められ、反転のアウトプットで蘇生されるというあまりにも野蛮な修行を課されたダメージがまだ残っている。体の節々が痛くて授業に集中できない。これでアイツは俺を強くする為の善意だと本気で思ってそうで質が悪い。
「コラ。」「いてぇ………」
担任の日下部が上の空だった俺にちゃんと授業を聞けよと教科書で軽くごつかれた。
「お前は入学早々問題行動ばかり起こしてるが、授業と任務だけは真面目に取り組む奴だと思ってたんだがなァ」
自慢ではないが、座学の成績はかなりいい方だ。授業も任務もサボったことはない。
「………すみません。」
魔虚羅の自爆儀式をした負い目もあるが、ここで瞳の奴がどうのと言うのはあまりにもガキッぽいなと憚られた。瞳は外面だけはいいから、日下部に昨日の事を言っても信じて貰えないだろう。
昨日見回りの先生に体育館で寝落ちしたのも怒られたばかりだし。
(反転術式、円鹿が使えればな。)
自覚していた事だが、どんな方法でも反転術式を使えるようになるのが俺の課題なんて事は俺自身が一番分かっている。瞳の奴は”御厨子”を領域に外付けして調伏しろなんて無茶を言っていたが。
”帳”や”簡易領域”などの簡易的な結界くらいなら俺にも使える。しかし呪術戦の極致”領域展開”となると話は別だ。
(どうしても出来ないんだよな。自分の心の内、”心象風景”を外に広げるイメージ。)
結界術は複雑だ。現実空間にスケールの違う空間を重ねる感覚、己のテリトリーを世界に上書きする感覚がイマイチ掴めない。
「二度目だぞ。」トンッ
教科書で叩かれるのは本日二度目だ。なんだかんだ、俺は瞳の言葉に影響を受けて、どうすればより強い術師になれるのかばかり考えていたらしい。
「すみません。」一先ず今は忘れて、授業に集中しなくては。
クスッ 担任に叩かれる俺を見て、瞳の奴は愉快そうに笑っている。マジマジと睨んでやろうかとも思ったが、また叩かれるのは嫌だしその方が余計奴は喜びそうだからやめた。
………
「あれっ、私の修業プランに乗ってくれたんだ♡うれしー」
放課後、一目散に向かった体育館には、俺より先に奴がいた。俺が教室を出る時は悠々自適に菓子を頬張っていた気がするが、無下限呪術のマーキングワープで先回りしたのだろう。
「お前の為に来た訳じゃねぇよ。体育館は各々が鍛錬に使う場所だろうが。」
「てっきり昨日の鍛錬がハードすぎて投げ出しちゃうかと思ったからさ♪いいねぇその反骨的な態度…」
瞳は獲物でも見るかのように舌なめずりをし俺は思わず寒気を覚える。どうせ寮に戻っても………というより、全世界のどこに行こうとも、彼女にマーキングされた俺に逃げ場などないのは分かっている。
「もし俺が逃げだしたら、ワープして追って来るんだろ。」
「えへへ、それはどうかな?アンタがそんな軟弱な奴だったら、案外興味無くしちゃうかも!」
結構意外な答えだったが、瞳が嘘を付いているようには見えなかった。だったら自室に引きこもれば良かったとも考えたが、それはそれでなんか腹立つし、俺のプライドでは結局ここへ来る選択をしただろう。
「目標は覚えてるよね?」
「反転術式の習得、その為に”円鹿”を調伏する、円鹿を倒す為に御厨子を外付けできる領域を構築する…」
「フフッ。授業中さ、そのことばかり考えてたんじゃない?」
ホンッッッ当にコイツは気味が悪い。マジで何なんだ?”六眼”に相手の心を読む力があるなんて聞いた事はない。まさか”読心術”でも使えて…俺と同じ”生得術式”を二つ持ってる人間なのかとさえ思える。
「人の心を読むのが上手いのはさ、単純に洞察力が高いからなんだよねぇ。」
そういうところだ、また心を見透かされた。もしかしてコイツ…人間じゃなくて”神”なのでは?という疑念が頭をよぎってしまった。俺と同じ15歳にして人外染みた強さも有しているし…
「はいはい、お喋りはこのくらいにして…」
別にお前と喋りたかったわけじゃないのに彼女の切り上げるような態度は非常にムカつく。
ビュンッ
(はやっ…)
蒼を利用した高速移動で俺の横に立って腕を強引に巻き付けてくる。彼女の速さにはいつも面食らう。
「ムフフ、今日はまだイチャイチャしてなかったよね。」
「…馴れ合いはさっきで終わるんじゃなかったのか?」
「違う違う、まあ実益は兼ねてるけどね?これからする実演指導には必要な事だからさ。」
そこはかとなく、嫌な予感がする…
「領域を覚える為には、まずは実際に見せるところからだよね!」
無茶苦茶だ。本当に無茶苦茶だコイツ。本物の領域に俺を引き込む気か?俺をまた殺すつもりか?
彼女はゆっくりと、薬指と小指はたたみ、伸ばした人差し指に中指を絡ませる。”帝釈天印”だ。
領域展開
先程まで体育館だった景色は一転、目の前に広がるのは広大な宇宙空間だ。どことなく寒い気がするが、右手には絡み付いた瞳の体温を感じ、その温度差に変な気分を覚える。
(これが瞳の心の中…)
俺には出来ない心象風景の具現化を平然とやってのける。その天賦の才に僅かだが嫉妬心を覚えるが、それ以上に、宇宙という規格外に圧倒された。どんな心中をしていたら、人の内側に宇宙が広がるというのだろう。
「結界ってのはさ、対外条件や対内条件、体積に構築速度…色々混ぜ合わせて各々がピンとくるものを昇華させるんだよ。」
「頭で小難しく考えるのもいいけど…最終的には感覚?っていうか。」
「一番大事なのは…世界に自分のテリトリーを広げる”圧倒的な自己”とでもいうのかな。」
「………って、聞いてるの?」
瞳は俺の為に色々かいつまんで説明してくれたようだが、正直一言一句耳に入ってなかった。
「悪い………聞いてなかった。」
「………。」
瞳は無言でヒシヒシと圧を発してくる。呪力に込められた怒気、正直滅茶苦茶怖い。
コイツは俺とタメの15歳の女とはいえ全人類最強の女だ。蛇に睨まれたカエルの気分だよ。なんて言い訳しようか…
「あー…お前の領域さ、宇宙空間が辺り一面に広がってるけど………」
「なんか…圧倒されるというか、その…”綺麗”だったから。」
「!」俺がまくしたてたのは彼女を鎮めるための言い訳ではあるが、別に嘘ではなかった。
宇宙の写真を見て綺麗だと思うなんて別に普通の感性だろ。
「………。」
彼女は無言のままだが少し俯いて、顔を赤らめはじめた………もしかして今の発言で好感度を稼いでしまったのか。最悪だ、だったら怒りを買う方がマシ…
「ヤダもう!私の心象風景が綺麗だなんて、気恥ずかしくなる事いわないでよ!」
バシッバシッと、瞳は俺の背中を叩いて……………………………………………………………
「あっ…」
突然、俺の頭に大量の情報が流れ込んできた。鼻からはダラダラ血が流れてくる。
五条瞳の使う領域展開 ”
無下限呪術を結界に流し込んだその領域の必中効果は、”無限の情報の伝達と思考の強制”
必中対象外となるのは、彼女自身と彼女が触れた者…背中を叩く時に、一瞬だが伏黒
「あわわ…い、一旦領域を解除して…」
倒れたレンの頭に反転術式のアウトプットを掛ける。六眼で脳のどの部位を負傷したかは原子レベルで分かる。
「………今日の修業はここまでかな。」
結局、昨日レンに言ったとっておきの呪具を使う機会はなかったが、
「フフ…」
心の内側を綺麗だと褒められた…今日の収穫はそれだけでも十分だ。
涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)とは、仏教における究極の”悟り”の境地を指し、煩悩や苦しみが完全に消え去り、絶対的な安らぎと平和に満ちた状態
静の字を情に変えてますが、これは彼女の”強者故の孤独”を”寂しい” ”情”とイメージしました。
五条悟や彼女の心象風景が宇宙空間なのは孤独のイメージなのかな?なんて思ったりして。