伏黒家の末裔、現代最強の生まれ変わりと噂される女に見初められる 作:呪術児
ゆっくりと目を開いて、視界に映ったのは真っ白な天井。辺りは白いカーテンに囲まれている。俺は保健室のベッドに寝かされていたようだ。初日に担任の日下部が学校の施設案内をしてくれたから覚えている。
(俺は確か………)
意識を失う直前、俺は瞳の馬鹿と結界術の修業に励んでいた。アイツは実践指導するとか言って俺を十中八九必中必殺であろう領域に巻き込んで…
(そういうことか。)
恐らく、なんらかの事故で彼女の領域の必中効果を喰らって倒れたのだろうと納得した。やっぱりアイツといると碌な事がないな…頭もなんか靄がかかってる感じがするし…
「すぅ…」「ん?」
近くからか細い寝息が聞こえたのでその方を見てみると、座椅子に座ったまま俺を保健室送りにした張本人が気持ちよさそうに眠っていた。
「………。」
俺は苦虫を潰したような顔で彼女を見つめる。コイツと喋ってると苛つくばかりだが、黙っている瞳は本当に美しい。肌と髪は透き通る程白く、顔のパーツも整っている。女にしては体格も良く、全身が鍛え上げられている。そこが逆にムカつく。
(無下限呪術の不可侵は寝てる時も発動しているのか?)
ホンの好奇心と復讐心。寝ている彼女に報復で一発でも浴びせられたらと考えたが、
(ダセーな俺………)
その考えはすぐに捨てた。こんな方法で仕返しをしても意味がない。俺のかねてよりの目標はより強くなる事、今はそこに彼女を引き離せるようになる事も追加されている。
「フフフッ私の美しさに見惚れちゃった?」
「!?」
突然、瞳の奴が目を覚まし話し掛けて来たので面食らってしまった。
「それとも、寝てる私になら一矢報いれるとか考えてた?」
まただ、瞳の洞察力は大したもので、その蒼く澄んだ目は俺の全てを見透かしてくる。
「えへへ、日下部先生に無茶な修行するなって怒られちゃった♡」
これでお互い怒られたねと、お揃いを喜ぶようなバカップル仕草を全開にしてくる。ペアルックとでも言うのかよ…
「目が覚めて良かった!今ちょうどお昼時だからさ、午後の授業からは間に合うよ。」
先に学食にでも行ってるねーと、瞳は去って行った。
「………。」俺は無言のままベッドを出る。別に彼女の後を追おうとした訳じゃない、決して。
「新年度早々、激しく怪我したね。しかも脳とはね…術師にとって、脳は術式や呪力操作を司る部位でブラックボックス。今後は無茶な修行をするなよ。」
カーテンを抜けた先で、保険教諭兼高専術師の治療も担当している先生が声を掛けてきた。確か”家入”という苗字だった気がする。
「………気を付けます。」
怪我したのはどう考えても瞳のせいだが、俺は不満を押し殺して謝罪の意を告げた。
「その間はなんだ。不服だったか?」
「すみません。」
………心を見透かしてくる女がここにもいた。今度何も言われぬよう即答したが、心の中に不服の間があった。今度こそ、俺は保健室を出ようとするが、
「一つだけ伝えておく。」「なんです?」
家入先生に呼び止められた事で、俺は扉に掛けようとした手を引っ込め、振り返った。
「君の彼女の事だが…」「彼女?」
「?五条瞳の事だよ。君のガールフレンドなんだろ。」
既に高専中で、現代最強の術師の心を俺が射止めたということは周知の事実らしい。何なら瞳の実家の”五条家”にも広まっているようだ。俺の術式が先祖の当主を殺したものだというのも相まって賛否両論らしいが…呪術界は狭い界隈なので噂は田舎のように即広まる。流したのは十中八九瞳の奴だろう…勘弁してくれよ。
「君の脳を壊してしまったのに、彼女なりに責任を感じたみたいでね。」
どうやら俺は丸一週間くらい寝込んでたみたいだが、授業時間外は付きっ切りで俺の脳に反転術式を回し続けていたという。俺の為にそこまで…と一瞬思ったが、元はと言えば彼女のせいだし感謝を覚えるのは違うだろうと首を振った。
「高専の保険教諭は反転術式のアウトプットが可能な者が就任する習わしなんだが…」
死と隣り合わせの呪術界なのだから、それは当然の制度であろう。
「私の反転術式の出力は彼女と比べると大分低いからね。」
家入先生は自分も瞳に助けられたとでも言いたいのだろう。
「君の事をそこまで想い、心配してくれる。いい彼女さんを持ったじゃないか。」
「………そうですかね。」
先生は何も言わずにニコリと笑った。恐らくそうだよという肯定の意だろうが…
瞳の奴に壊され、瞳の奴に治された。天と地ほどの差があるのに俺はあいつに想いを寄せられている…怒りと感謝、困惑が混じったような複雑な心境のまま、俺は自室を目指した。
瞳が言っていた修行用の呪具は次の回くらいで出せると思います。