『終焉』が近いであろう青空世界で私達は生きる......らしいよ?   作:エリオ(別同位体)

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よく来てくれた。残念だが、続きなど初めからない。
だまして悪いが仕事なんでな。死んでもらおう。

なんて、嘘です。でも、パヴァーヌ編1章はここまでです。
どうしても、このあとの流れが本篇そのままになるから、代わりに書きたかった小話4つ?お送り致します。
合計3万字超えです。流石に長すぎたので午前・午後に分けて更新します。
10話記念として受け取ってください(泣)

最後に一言………やってくれたな帰寂(二重の意味で)


Punk Road Spirit on The Millennium Extra

【小話 ゴールデンフリース号豪運事件とは?】

 

ゲーム開発部を廃部から免れることに成功した先生。

あの廃墟の地下工場で眠っていた謎の少女【天童アリス】を保護し、そのままゲーム開発部へと入部するようサポートし、色々あったのも、なんとか鞘に収めることに成功。

 

アリスの出逢いから数日が経たある日。

先生はミレニアムの最高戦力であるC&Cと共に行動していた。

 

白兎(ホワイトバニー)

一部から「()()()()()()()()」と言わされたミレニアムサイエンススクールの問題児【黒崎コユキ】の確保の指示を受け、動き出したC&C。

 

しかし、彼女たち(C&C)は毎回の器物損害賠償を生んでいる常習犯。

色々とご立腹だったセミナー 早瀬ユウカの依頼からお目付役として同行していた先生。

 

これはコユキが逃げた先、オデュッセイア海洋高等学校に構成する船一隻「ゴールデンフリース号」を舞台にひと悶着が起き、遂にコユキを捕まえることができた時に起きた一幕の出来事。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「うあぁああああー! なんで!?なんでですかー! なんで私が捕まるんですかーっ!?」

 

船内の大階段の下、身動きが取れないように捕縛された元セミナー所属【黒崎コユキ】

彼女は床に転がりながらみっともなく喚いていた。

その声をうるさそうに耳を塞ぎながら見下ろすのは、赤いバニーガール衣装に身を包んだC&Cのリーダー、美甘ネルである。

 

「チッ、まったく手間取らせやがって。……第一、遠くからの射線はカリンの十八番だって知ってて突っ走るとか、お前本当にバカだろ」

「ううぅ、暴力反対です! 私はただ、楽しく効率的にお小遣い稼ぎをしてただけなのに……!」

「”もう一回言うけど、カジノでお小遣い稼ぎは、良くないと思うなあ………”」

 

泣き叫ぶコユキの傍らで、同じくバニー姿のカリンがスナイパーライフルを肩に担ぎ、コユキの縄を握りつつ、アカネとアスナが帰宅準備を整えていた。

 

「”みんな、本当にお疲れ様。衣装の件も含めて色々と無茶を言っちゃったけど、これでようやく帰れるね”」

 

同行していたシャーレの先生がホッと胸を撫で下ろすと、隣からアスナが眩しい笑顔で飛びついてくる。

 

「えへへー! 楽しかったね、ご主人様! この格好、すっごく動きやすいから、このままミレニアムまで持って帰っちゃう?」

「それはさすがにセミナーに怒られますよ、アスナ先輩。……さて、長居は無用ですね。早くこの船を出ましょう」

「………待って。────誰かくる」

 

 

アカネが手際よく報告書をまとめ、一同が移動を開始しようとした────まさにその時だった。

 

カリンの声を皮切りに、頭上の階から誰かがくる。

大破して火花を散らす自動ドアの向こうから、カツカツとヒールの高い靴音が響き渡る。

その場にいた全員が警戒して身構える中、一人の少女がエントランスへと足を踏み入れた。

 

オデュッセイア海洋高等学校の制服をスタイリッシュに着こなしたその少女は、中に入った瞬間、完全に硬直した。

丸サングラスで隠された瞳が、今は信じられないものを見たと言わんばかりに丸くなっている。

 

「な、なんじゃこりゃあぁああああーーーッっっ!?」

 

喉を張り裂かんばかりの絶叫をあげたのは、17歳の少女。

薄茶髪でボブカット。どこにでも居そうな神経質そうな顔立ちに、平たい細身の身体。

 

崩れ落ちたクリスタルのシャンデリア、穴だらけの壁、焼け焦げた高級絨毯。

あまりに無残な船の光景を見つめ、彼女の顔は瞬時に絶望へと染まっているではないか。

 

「私の船が……美しく、絢爛豪華で、リッチでゴージャスな自慢の豪華客船が、ボロボロに……っ!?」

「お、()()()()!? 予定より早く生徒会から戻ってきたのですか!?」

 

慌てて駆け寄ってきた配下のバニーガール・ガードのひとりに対し、少女は髪を振り乱し、般若のような形相でその襟を掴んで揺さぶった。

 

「貴様ら、なんだこの有様は!? 何のための警備員だ! 何のための防衛システムだ! やったのはどいつだ! 言え!!」

「そ、それが……そこの大人と、その奥にいるバニーたちの仕業でして……」

 

ガードが怯えながら指差した先には、気まずそうに目を逸らす先生と、武器を構えたままのC&Cの面々がいた。

 

少女はギリ、と奥歯を鳴らし、世界を呪うかのようなドスの利いた、それでいて陰湿な視線を先生へと向ける。

 

「私の船を、めっちゃくちゃにしたのは……お前らか……っ!!」

「”ご、ごめん! き、君は……?”」

 

気圧されながらも両手を挙げて宥めようとする先生に対し、少女は不気味なほど冷徹な、本来の捩くれきった笑みをその細い唇に浮かべてみせた。

一人称は「私」、だがその口から放たれるのは尊大で高圧的な男口調。

 

二階から飛び降り、己の名を誇り高く、彼女は狼のように高々と吠えた。

 

里音(りんと)スコト! このゴールデンフリース号の第一責任者だッ! 私の豪華絢爛、リッチでゴージャスの自慢な豪華客船を荒らした罪は重い!」

 

スコトの怒号に応じるように、周囲のバニーガール・ガードたちが一斉に銃口を向ける。まさに一触即発、第二ラウンドの戦闘がはじまりそうな緊迫した空気が流れる。

しかし、連戦続きのカリンは心底うんざりしたように息を吐き出した。

 

「また、戦闘か……。こっちは潜入やら何やらで、色々と疲れているんだが……」

「黙れ!めっちゃくちゃした本人がため息をつくな!こっちがつきたい!」

 

だが、その言葉を聞いたネルの目がギラリと好戦的に輝く。

ネルは首の骨をゴキリと鳴らし、愛銃を構え直した。

 

「はっ! いいじゃねえか! こっちはコソコソ潜入させられたり、捕まったり、追いかけっこさせられたりで、散々な目でスッキリしてねぇんだよ。ミレニアムに帰る前に、いい泥縄の相手ができたじゃねぇか!」

 

日頃のストレスをぶつける気満々のネル。

しかし、そのセリフの中にあった「ミレニアム」という特定の単語に、スコトの防衛センサーが過剰なまでに反応した。

 

「……()()()()()?」

 

スコトの顔から、さっきまでの傲慢な怒りがサァーッと引いていく。

血の気が失せ、幽霊のように青ざめていく。

 

「お、おい、お前たち、もしかして…………ミレニアム出身か?」

「あん?」

「そうだよー! 私たちはミレニアムサイエンススクールのメイド部だよ〜!」

 

アスナがいつも通りの能天気さでピースサインを作ってみせる。

その瞬間、スコトの時が止まった。

 

「…………」

「オーナー?」

 

声をかけたスタッフの静止を振り切り、スコトはガタガタと細い膝を震わせながら、その場に崩れ落ちた。

そして、あろうことか高価な制服が汚れるのも厭わず、先生たちの足元に向けて、額を床に擦り付けたのである。気取っていたプライドなど微塵もなく、その顔はすでに涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。

 

「帰ってくれ…」

「うん? え?」

「頼む! 帰ってくれ!! この際、弁償も謝罪も要らないから!!! これ以上、私から何も奪わないでくれッ!!!!」

 

生きるためにプライドを犬に食わせた、あまりにも必死な土下座。

C&Cの面々が呆気にとられる中、スコトは床に涙をこぼしながら叫び続ける。

 

「お、オーナー!?何をして……」

「こいつらはミレニアム。ミレニアムだぞ!?お前たちも分かるだろ! あのちびっこいハッカーことあの恐ろしい銀髪女を!」

 

「「「あ……」」」

 

その言葉に、背後にいたスタッフやガードたちの顔が同時に青ざめた。

それは1年前の地獄。彼女たちにとって苦い記憶が脳裏に蘇ったのだ。

 

「うわぁあああ!!?」

「思い出しだしたくないっ!?」

「ご飯減らされるのはいやぁー!!」

 

スタッフたちまで頭を抱えてパニックになり始める。

その様子を見ていたアカネが、眼鏡の奥の目を細めてネルへと囁いた。

 

「ちびっこいハッカーに、恐ろしい銀髪女……。私たちと同じミレニアムの生徒。……リーダー、これって……」

「あぁ……察したわ。道理でここまで狼狽えるわけか」

 

完全に状況に置いていかれている先生が、恐る恐るネルに問いかけた。

 

「”え? 何、どういうこと…?”」

「そう言えば、先生はこの船で起きた事件知らねぇよな。神秘ハンターの『銀狼』って知ってるか?」

「”うん。アビドスの件で1回会ったことあるよ。声だけだったけど…”」

「なら、話が早え。『銀狼』って奴は元々うちの生徒でな。去年、ミレニアムで大事件を起こして退学して、早々この船で外で知らされる程、暴れ散らしたんだよ」

 

カリンが冷ややかな視線を、哀れに震えるオーナーの少女へと向けた。

 

「里音 スコト。ここのオーナーがこの有様なのは……その時のトラウマ、か」

 

スコトは床に頭を押し付けたまま、恨めしそうな、そして怯えきった声で過去の悲劇を告白し始めた。その声は、借金に追われる17歳のリアルな悲鳴だった。

 

「あいつのせいで、私は生徒会からボロボロにされた。たった一コインでSランクを超えた悪夢のSSSランクの光景は今でも忘れない……」

 

悲痛な叫びがエントランスに響く。

 

「不正、ハッキングで、カジノ全体がシステムエラーを吐き出し、遂には半壊。保証金を得るため、生徒会から3年分の借金を背負わされ、苦しい生活を敷かれた。ようやく。ようやく、正常の形で運営できたばかりだというのに……もう、やめて……もう、暴れないで………」

「”うわぁ……さ、災難だったね”」

 

血の涙を流すスコトに先生が憐みの言葉をかける。

同時に彼女は懐からガサゴソと必死の形相で数枚のきらびやかなカードを取り出す。

彼女は懇願するようにカードを先生たちへと向ける。

17歳の少女が、今や完全に哀れな物乞いのように必死にソレを差し出した。

 

「フリーパスチケット渡すから、今度は一般客として来て。お願い」

 

差し出されたのは、この船のフリーパスが5枚。

ただし、C&Cによって頑丈な縄でグルグル巻きにされ、完全に見た目がダサい犯罪者のようになっているコユキの分は、綺麗に除外されていた。

 

「ん?」

 

そのチケットを受け取ったアスナが、不思議そうに小首を傾げる。

 

「このチケットって、さっき渡されたもの? と一緒だね」

「え? あ、そうでしたか。…………ちょっとお待ちを」

 

スコトが血走った目で背後のスタッフを睨みつけ、コソコソと小声で問いかけた。

 

「おい、誰かあのデカい胸にチケット渡したのか?」

「え、ああ、はい。あの方は2時間前程、Sランクに到達した記念として……」

「…………なるほど。なるほど」

 

瞬間、スコトの脳裏にこれ以上のない焦燥が襲う。

 

(マズイ。よりにもよってまたVIPチケットがあるだとぉ!?)

(あの一件から二の前にならないよう、わざわざ0.001%しか、ないように仕組んでいたのに……当たっている?冗談じゃない!!)

(完全純金塗装!クレジット搭載!私のポケットマネーが入った実質私の財産そのもの。それをこの女が!?)

 

ゴールデンフリース号のVIPチケット。

船のゲームでSランクに到達したもののみ手に入るチケットで、手にした者は船における校則を無視できる権利を得ることができ、事実上のなんでもできる券。

 

過去に、銀狼がゲームのシステムを不明ハッキングし、無理やりあり得ないSSSランクに到達し、その権利で船の活動資金を大半奪われた。

この事実はオデュッセイア外に広まり、「ゴールデンフリース号不正豪遊事件」と語られている。

スコトは責任者として、オデュッセイアの生徒会にこってりと尋問された過去を持つ(なんとか、かいくぐった模様)

 

そんな苦い過去を教訓に、スコトはわざと確率を低くし、客から金を巻き上げていたが、スコト自身、まさかまたチケットが他人の手に渡っていたとは思いもよらなかっただろう。

 

「……大変申し訳ございません。お客様。本豪華客船はこのような有様ですので……一旦、お持ちになっているVIPチケットを回収しても」

 

これ以上の損失を防ぐため、アスナの持つ特権を回収しようと手を伸ばすスコト。

しかし、アスナは悪気のない、太陽のような笑顔でパチリと瞬きをした。

 

「あ、ごめん!さっき捨てちゃった! そんな、大切なものだと思わなくて……」

「ゑ?」

 

スコトの動きがピタリと止まる。周囲の空気までが凍りついた。

 

「捨て、た?ど、どこで、捨てた……?」

「うーーーん。大体、30分ぐらいかな?海にポイって……」

 

その言葉が引き金だった。スコトの脳内の何かが完全に吹き飛んだ。

 

「おまえら!! 急ぎ、ダイバーしろ!!!探せええええ!!!!!」

「「「わあああああああ!!!!!!?」」」

 

エントランス内はひっくり返ったような大騒ぎになり、スタッフやバニーガードたちが一斉に潜水装備を取りに走り出す。その大混乱の中心で、アスナだけが不思議そうに首を傾げていた。

 

「あれ……? 私、何かしちゃった?」

「…………アスナ先輩。先輩が持ってたチケットは、ここに居る全員が大金を払ってまで欲しいものなんだ。それを紙切れのようにポイ捨てされたら…………こうなる」

「まあ、アスナ先輩ですからね…………」

「…………なんか、締らねえなあ」

「”あはは…………”」

 

先生が力なく笑う中、はるか遠くのデッキの方から、海へ飛び込むスタッフたちの水音が響いてくる。そして、エントランスには、再び借金の恐怖に直面した17歳オーナーの絶叫が、いつまでも虚しくこだましていた。

 

「もう、借金生活は懲り懲りだあああ!!!!」

 

【ゴールデンフリース号不正豪遊事件とは?】~完~

 

 


 

【小話 飯を食え】

 

どこか遠くで軋むような金属音が響くだけの、静寂に包まれた広大な廃墟。

ミレニアムサイエンススクールの郊外に位置するその立ち入り禁止区域は、かつて文明が存在していた名残を留めながら、今もただ不気味に風化しつつある。

 

その寂れた街道を、ふたつの人影が歩いていた。

 

キヴォトスの裏社会において、その名を知らぬ者はいないとされる指名手配犯────神秘ハンター。

ヴィヴァルディの蜘蛛の異名を持つ「カフカ」

そして、冷徹に刃を研ぎ澄ます血塗れの剣客「刃」

 

数々の修羅場をくぐり抜けてきた彼女たちであったが、電波の遮断された薄暗い路上の真ん中で、今は少々手を焼いている様子だった。

 

「この辺りか?」

「…………此処じゃないわ。電波も悪いし、前に通信した場所と位置情報が一致しないもの」

 

周囲の崩れかけた建物の中を覗き込みながら、刃が低くぶっきらぼうな声を出す。

カフカは手元のスマート端末の画面を見つめ、眉をひそめながら現状のデータをまとめ上げていた。

 

「………銀狼。あいつの通信が途絶えてからどのくらい経った?」

「もう2週間よ。彼女のこれまでの経歴から見て、ミレニアムの特異現象捜査部に捕まったんじゃないかって思っていたけれど……あの『全知』の下には居ないというのはエリオから確認済みよ。となれば、考えられる点はデカグラマトンね。預言者の襲撃に遭ったとしか、私には思い当たらないわ」

 

カフカの懸念に対し、刃はフンと鼻を鳴らして端的に言い放つ。

 

「…………あいつが機械風情にやられるとは思わんが」

 

その言葉に含まれた微かな信頼を感じ取り、カフカは面白がるように艶然とした微笑みを刃に向けた。

 

「あら? 心配してるの?」

「事実を言ったまでだ。あいつの腕は俺たちの中でも不可解な存在(生徒)だ。あの巡礼者擬きに後れを取るとは思えん。それこそ、得意のハッキングで逆に支配するか、あるいは意地でもこちらに情報を送ってくるはずだ」

 

そう言って再び歩き出そうとした、その時だった。

二人の目前にある空間の空気が、爆発的な熱量によって一瞬で歪む。

直後、凄まじい衝撃波を伴って、何かが猛スピードで地上へと落下する。

 

激しい落下の衝撃でドッと巻き上がった砂煙。

その中から、ゆっくりと立ち上がったのは、人型の巨大な鉄塊であった。

それは傍から見れば、ただのロボットのようにも映る。しかし、キヴォトスで一般的に知られているロボット市民や、冷徹に駆動するオートマタの類とは、根本から放つ威圧感が違っていた。

 

その白銀の重厚な装甲は、勇ましくも(おご)そかな造形を誇り、そして、四肢の各部位からは、触れるものすべてを焼き尽くさんとする灼熱の焔が音を立てて噴出していた。

 

《────ここにいましたか、ふたりとも

 

ただそこに佇んでいるだけで周囲の大気を融解させ、触れるものすべてを灰燼に帰す破壊の嵐。

それこそが、目の存在が持つ本質。

 

突如として現れた規格外の戦士を前にしても、カフカは特に驚く様子もなく、むしろ親しげに言葉を掛けた。

 

「あら、()()。貴方まで来たの」

 

 重厚な装甲の主────その正体は、神秘ハンターのひとりである【サム】

「熔火騎士」の異名を持つ機械戦士であり、()もまたカフカや刃と同様に、キヴォトス全域から恐れられる凶悪な犯罪者の一人であった。

 

しかし、サムはその恐るべき外見からは想像もつかないほど、物腰の柔らかい丁寧な敬語でカフカに応じた。

 

《ええ。こちらも彼女のことが心配で、居ても立ってもいられず跳んできました》

「わざわざトリニティからその姿で?」

《はい。万が一の場合を想定してのことです。いまの私はティーパーティーの桐藤ナギサに深く目を付けられている身。これ以上、トリニティに余計な種火を生まぬよう、細心の注意を払い……どうにかこのサムの姿として『廃墟』に辿り着くことができました》

 

そう、サムもまたエリオの脚本に従って行動している最中だった。

『エデン条約』──トリニティとゲヘナ、相反する天敵同士の因縁が複雑に混じり合う、これからの物語。

トリニティの生徒会「ティーパーティー」に3人存在する生徒会長の内のひとりにして、トリニティ三大分派の一つ「フィリウス分派」のリーダーである【桐藤ナギサ】

 

サムは彼女から様々な意味でその動向に目を光らせており、本来であれば軽率に動けない身であった。だが、神秘ハンターの仲間にして「友」である銀狼の危機となれば話は別だった。彼■は万難を排してここに駆けつけたのである。

 

《ふたりとも。ついてきてください。私なら彼女の居場所に心当たりがあります》

「居場所がわかるのか?」

《ええ。と言っても、以前の雑談の最中で、彼女に見せてもらったんです。面白い形で風化した建物を撮った写真を、元に目印にしただけですが》

「充分よ。一刻もはやく、安否を確認しなきゃ」

 

サムが加入したことにより、移動スピードを大幅に加速させた神秘ハンターたち。

そして、一時間も経たぬ間に、遂に写真に記された特徴的な風化ビルを発見した。

 

かつて窓があったであろうコンクリートの大きな隙間に向かって、サムが力強く跳躍し、真っ先に侵入する。

 

《大丈夫ですか! 銀狼ッ!!》

 

土煙を上げて着地したサムたちの前に、探していた銀狼本人がいた。

しかし、当の本人の身体は、床に突っ伏したまま完全に干からびていた。

 

「お、なか、すいた…………」

《銀狼ッ!!!?》

 

その今にも幽体離脱しそうな変わり果てた姿に、サムは思わず機械の声を裏返して驚愕した。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

《…………なるほど。食糧が尽き、余りの空腹で連絡できなかったと》

「…………ごめん」

 

腕を組んで仁王立ちするサムの前で、銀狼はベッドの端に腰掛けながら、気まずそうに視線を泳がせて謝罪の言葉を吐き出した。

 

「『妖怪MAX』……に、即席レーション、それにカップ麺。随分と不健康な食生活をしていたようね」

「…………銀狼」

 

カフカが部屋の隅に散らばったゴミの山を淡々と分析し、それを聞いた刃が、今にも人を殺せそうな凄まじい眼力で銀狼を見据えた。

 

「…………ごめんなさい」

「何に対してだ?」

「…………不健康な生活をしていたこと」

「他は?」

「…………連絡を疎かにしてたこと」

「…………」

 

刃は無言のまま、自身のスマートフォンの画面を銀狼の目の前に突きつけた。そこには、銀狼の全端末を遠隔でロックする【ゲーム依存防止システム】の起動画面が表示されている。

ゲーマーとしてこれ以上ない死刑宣告を目にした銀狼は、文字通り顔を真っ青にし、慌てて涙目で刃の足元に縋り付いた。

 

「やめてそれだけは!? ごめんなさい! ごめんなさい! これを機に生活は絶対に、ちゃーんと見直すから!! 心配かけて、本当にごめんなさいぃッ!!!!」

 

涙と鼻水で顔をぐしょぐしょにしながら喚き散らす銀狼。そのあまりの必死さに、見かねたサムが間に入った。

 

《刃。彼女もここまで深く反省しているようですし、これ以上のお説教はよしてください》

「…………はあああああ」

 

 深く、重いため息をつきながら、刃は静かにスマートフォンをポケットへとしまう。

 

「よ、よかった…………」

《これに懲りて、ちゃんと生活を見直すことを提案しますよ、銀狼》

 

ゲーム生命の危機をどうにか脱した銀狼が、涙を拭って安堵の表情を浮かべる。すると、そのタイミングを見計らったかのように、静かな室内に『ぐうううう……』と、情けない腹の虫の音が鳴り響いた。

 

「…………」

「ちょうどいい時間だし。みんなでご飯にしましょうか?」

 

赤面に染まる銀狼を見て、カフカが優しく微笑む。

 

「そうだな。とは言え、俺たちが安心して食事をできる場は限られている。サム、このメモに書かれた材料の調達を頼む」

 

そう言って、刃はサムに一枚のメモを手渡した。

 

《これは………》

 

そこに書かれた材料と料理名、そして銀狼のために用意された特別な「献立」を見て、サムは思わず言葉を詰まらせた。

 

「え? なに、何が書いているの………?」

《刃。これは、さすがに彼女には…………》

「今日、D.U.にある商店街なら材料が半額セールをやっている。分かったのなら何も言わずに行け。…………銀狼。これは罰だ。いまから俺が作る料理を、余すことなくすべて食せ」

 

淡々と、どこまでも無表情に。まるで凶悪犯に死刑執行を告げる裁判官のように、刃は冷徹な視線で銀狼を見下ろした。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「…………これ、なに?」

 

2時間後。銀狼は目の前のテーブルに並べられた代物を見て、恐る恐る引き攣った声を絞り出した。

机の真ん中に鎮座しているのは、一言で表現するなら『真っ赤に燃えるマグマ』だった。

香ばしくも、立ち上る湯気だけで目と鼻につんと刺すような強烈な刺激臭が漂う中華料理。

 

その名は「麻婆豆腐」。それも、極限まで激辛に仕上げられた究極の一品である。

 

『オレ、マーボー。オマエ、コロス』とでも言わんばかりの凶悪な殺気が、皿全体からオーラとなって銀狼を威圧していた。

 

「食え」

「いやいやいや!? 待って、ムリ! 見たらわかる、これ完全な劇物だから! こんなの空きっ腹に入れたら、一瞬で胃壁がゲームオーバーになっちゃう!!?」

 

銀狼はどちらかと言うと甘党寄りだ。とは言え、辛いモノ自体はカップ麺のバリエーションとして食べた経験はある。

………だが、それとこの目の前にある地獄の業火を煮詰めたような料理とでは、完全に話が別だった。

 

「心配するな。この麻婆にはありったけの栄養素を詰め込んである。タンパク質や脂質、さらにはミネラルも含んでいる。消化しやすい豆腐に、食物繊維が豊富なエノキ。挽肉で腹持ちも良い。唯一の欠点は少々辛い点だが、俺も鬼ではない。口直し用にラッシーも用意した。だから、大人しく食え」

「いやだから……!」

「 い い か ら 飯 を 食 え 」

 

刃から放たれた、逃げ道を一切塞ぐような凄まじい威圧感に、銀狼は完全に気圧されて縮こまる。しかし、このままでは本当に命に関わると直感した彼女は、一か八かの強硬手段に出た。

 

「…………ッ。冗談じゃない! 私は逃げる! それじゃあねっ!!」

 

椅子を蹴ってその場から全速力で飛び退こうとした直後、それを上回る超スピードで、白銀の重厚な装甲────サムの手が銀狼の両肩を上からガッチリと押さえつけた。

 

「は!? サム、ちょっとっ!?」

《申し訳ありません、銀狼。……カフカ》

「銀狼。……私の言うことを()()()?」

 

刃の短い合図とともに、カフカが妖艶に囁く。

その瞬間、銀狼の身体がピきりと完全に停止した。カフカの持つ「言霊」によって、強制的な金縛りに施される。

意識ははっきりしているのに、己の身体は一向に言う事を聞かない。銀狼は必死に抵抗を試みながら、背後の二人に悲痛な叫びを上げた。

 

「離してサム! カフカ! いいの!? 貴方たちもこのまま、刃の作った殺人麻婆の毒気に当てられて一緒に殺されるよ!!」

 

必死な顔で訴え、ここまで至近距離にいたら二人にも危険が及ぶと懸念混じりの忠告をするが、サムは装甲の奥から心苦しそうに、しかし冷酷な事実を告げた。

 

《いえ。心配には及びません。私たちの分のメニューは、麻婆ではないので》

「え?」

 

銀狼が呆然とした瞬間、カフカたちの前に並べられたのは、実に見事で色鮮やかな中華料理の数々だった。

 

サクサクに揚がった春巻き、黄金色のチャーハン、肉汁の詰まった小籠包。さらには女性の身体に優しい新鮮な特製サラダまで用意されている。銀狼に対する『劇物』とは、文字通り雲泥の差、あまりにも残酷な待遇の差であった。

 

「この、裏切り者ぉおおおおおッッ!!!」

「……気が済んだか?」

 

いつの間にか銀狼の目の前に立っていた刃の手には、たっぷりと赤いマグマをすくったレンゲが握られていた。刃はそのレンゲを、金縛りで身動きの取れない銀狼の小さな口元へと、無慈悲に近づけていく。

 

「ま、待って、刃。ねえ、お願い!ねえ、カフカ! サム! 助け、て……っ!」

「送ってやろう、食の佳景に」

「待っ…………んぐ、むっ!!?」

 

真っ赤に染まった中華レンゲが、非情にも彼女の唇を割って滑り込む。

 

────────────いやぁあああああああああああああああああああああっっっ!!!!

 

直後、誰もいない静寂な廃墟の空に、天才ハッカーの魂の底からの絶叫が、いつまでも虚しく木霊し続けるのだった。

 

 

【小話 飯を食え】~完~

 


 

【小話 はじまりの剣】

 

ある日のミレニアムサイエンススクール。いつも通り様々な機械の駆動音と火花の匂いに満ちたエンジニア部の部室に、元気な声が響き渡った。

 

「こんにちわ!」

「おや、よく来たね、アリス。待ってたよ」

 

作業用のゴーグルを額に上げたエンジニア部部長、白石ウタハが快く出迎える。

少女 天童アリスは背中に背負った規格外の超大型兵器を机に置くと、嬉しそうに胸を張った。

 

「はい! ウタハ先輩、今日も『光の剣』の調整をお願いします!」

「っと……いやはや、やっぱりこれを作った張本人の一人である私が言うのもなんだが、君はよくこんな重いものを軽々と持てるね……」

「ふふん、勇者として日頃からキヴォトスを大冒険していますから、これくらい朝飯前です!」

「なるほど、頼もしい限りだ。確かに『光の剣:スーパーノヴァ』、預からせてもらったよ。点検が終わるまで少し時間がかかるけれど、どうするんだい?」

 

ウタハが手際よく工具を準備し始めると、アリスは目を輝かせながら部室の奥を指差した。

 

「そう言えば……ウタハ先輩。もし良かったら、部室の探索をしてもいいですか?」

「部室を? どうしてだい?」

「アリスがみんなと出会ってから、ミレニアムをいろんな場所を冒険しましたが、思い出してみれば、エンジニア部の方はまだちゃんと回っていませんでした。……やっぱり、ダメですか?」

「はは、なるほどね。別に構わないとも。開発中の発明品とか、危険な機械に許可なく触るのだけはダメだけど……それ以外なら自由に冒険していいとも」

「やりました! ありがとうございます、ウタハ先輩!」

 

アリスは嬉しそうにポリゴン調のステップを踏みながら、エンジニア部の広大なエリアへと繰り出した。

 

◇◇◇◇◇◇

 

部室の奥へと進むアリス。道中、あちこちに気になる形状の怪しい機械や、怪しく明滅するボタンがあったが、ウタハとの「触らない」という約束を律儀に守り、じっと我慢して進む。

 

そんな中、アリスの足は資材置き場の片隅にぽつんと置かれた、古びた大きな本棚の前で止まった。

 

「アリス、知ってます! こういう一見なんの変哲もない本棚や怪しい壺からは、必ずアイテムが出るというのを、『ゼルナの伝説』と『ドラゴンテスト』で学びました!」

 

勇者としての直感に突き動かされたアリスは、さっそく本棚へと手をかける。

しかし、小柄なアリスの身長では、最上段の棚にはどうしても手が届かない。

だが、ここで諦める勇者ではなかったアリスは近くにあった作業用の丸椅子を引きずってくると、その上に立ち、さらに部室の道端(通路)で拾ってきた長めの金属の枝(配線パイプの切れ端)を器用に操った。

 

「とおっ……! あと少しです……!」

 

最上段の奥で、明らかに不自然に出っ張っていた一冊の古びた分厚いファイル。アリスが枝の先でそれを引っかけると、ファイルは見事に棚から滑り落ち、アリスの手の中へと収まった。

 

しかし、アイテム獲得の喜びに浸る束の間。

枝を引っかける際に、アリスが本棚のバランスを僅かに崩してしまう。

ガタガタと大きな音を立て、老朽化していた本棚が、無数の専門書と共に一気に前へと傾いた。

 

「わわわっ!?」

 

ドガシャァアアン!!! と、奥から凄まじい衝撃音と物音が鳴り響いた。

 

「アリス!? 今の音は一体───」

 

ちょうど光の剣の初期メンテナンスを終え、アリスを探しに奥へと向かっていたウタハが、大音響に驚いて現場へと駆けつける。

そこでウタハが目にしたのは、完全に崩壊した本棚と、床一面に散らばった大量の本、それもその山に文字通り完璧に押しつぶされているアリスの姿だった。

 

「ア、アリス! 大丈夫かいっ!?」

「ううぅ……勇者アリス、トラップ全弾直撃を受けてしまいました……」

 

ウタハが慌てて重い本棚の残骸や本を退かし、アリスを救出する。

普通の女の子なら大怪我をしていてもおかしくない大惨事だったが、キヴォトスの生徒の例に漏れず、アリスは元々の身体構造が桁外れに頑丈だったため、衣服が少し汚れた程度で怪我一つ負っていなかった。

アリスは慌てて立ち上がると、ペコリと頭を下げて謝罪した。

 

「ごめんなさい、ウタハ先輩! アリスが勝手に探索したせいで、部室をこんなに散らかしてしまいました……」

「はは、いいんだよ。別に本は触ってはいけないと言っていないし、君が無事ならそれで十分さ」

 

ウタハは優しくアリスの頭を撫でて宥めると、二人は床に散らばった古い文献を一緒に片付け始めた。

一冊、また一冊と本を拾い上げていたその時、アリスの手が、衝撃でパカリと開いた状態のまま床に落ちていた、先ほどの分厚いファイルのページで止まった。

 

「………? これは………?」

 

興味津々にその紙面を覗き込むアリス。しかし、そこに描かれていた初期の図面は、アリスが毎日愛用している「光の剣」のデザインとは、似ているようでどこか決定的に異なる別物だった。

 

「アリス?どうしたんだい。おや……それは……」

 

アリスの手元を見たウタハの目が、一瞬だけ驚きに丸くなり、すぐにとても優しく、どこか遠くを愛おしむような光を宿した。

 

「……ふふ、懐かしいな」

「ウタハ先輩、これは何ですか? アリスの剣のようで、アリスの剣じゃありません」

「ああ、それはね、アリス。君の持っている光の剣のプロトタイプだよ。コードネームは【プロメテウス】。……いわば、すべてのはじまりの剣とも言える、大切な品物さ」

「はじまりの剣……っ! アリス、知ってます! 冒険を始めた初心者が、最初に手にする伝説の初期武器のことですね! すごいです! その剣は今、どこのダンジョンにあるのですか!?」

 

大興奮で身を乗り出すアリスに、ウタハは少しだけ困ったように眉を下げて苦笑した。

 

「残念だけど、そのはじまりの剣は、もう今のミレニアムには存在しないんだよ」

「ええっ!? そんな、売却されてしまったのですか……!?」

「はは、違うよ。……よし、少しばかり昔話をしようか」

 

ウタハは近くにあった2脚の丸椅子を引き寄せ、一つに自分が腰掛け、もう一つをアリスに勧めた。アリスが大人しくちょこんと座ると、ウタハはファイルを膝の上に広げ、静かに語り始めた。

 

「去年、ちょうど君がこのミレニアムにやってきたのと、同じくらいの月日のことだった。まだ私がエンジニア部の部長になる前、当時の先輩たちの下に、ひとりの新入生がやってきたんだ」

 

ウタハの脳裏に、一年前の光景が鮮明に蘇る。

 

「その生徒は、当時のミレニアムで『異例の超新星』と謳われていた一年生だった。彼女はね、私たちの部室に堂々と足を踏み入れるなり、こう言ったんだよ。『一般的な規格の銃は私にはちっとも似合わない。でも、自分一人で作るのは専門外だから、あなたたちエンジニア部の力を貸して』とね。まあ、初対面だというのに傲慢さ全開の生徒だったさ」

「ご、傲慢な新入生ですか……!」

「ああ。普通なら怒るところかもしれないけれど、私たちエンジニア部は誰一人として彼女の態度を気にしていなかった。なぜか分かるかい? ───それはね、彼女がその小さな手に持ってきた『設計図』に、部員全員が瞬時に興味津々になってしまったからだ」

 

ウタハはクスクスと笑いながら、当時のその一年生の不敵なセリフを真似てみせた。

 

『もちろん、タダで手伝えとは言わない。……ミレニアムのエンジニア部。あなたたち、宇宙戦艦、興味ない?』

 

「そう言って彼女が私たちに見せてきたのは、信じられないほど精密に書き込まれた『宇宙戦艦』の全体設計図だった。

基礎的なシステムから構造、エンジンの出力計算にいたるまで、どれもがびっしりと構築されていてね。一介の設計士顔負けの、文句なしの一級品だったんだよ。当時の部長だった先輩たちも、当然、私も一目でその図面に釘付けになった。

こんなに美しいロマンの塊が、この世に存在していたなんてね。彼女自身は『まだ未完成のプロトタイプ』だと自虐していたけれど、私たちはそんな言葉すら耳に入らないほど興奮して、彼女の依頼を二つ返事で引き受けたのさ」

 

ウタハはファイルをめくり、幾つもの数式が書き殴られた開発記録のページを愛おしそうになぞる。

 

「宇宙戦艦建造という巨大なロマンの第一歩、そのビーム兵器のモデルケースとして、私たちはその一年生の専用武器……つまり試作品としての『レールガン』の開発に総力を挙げて没頭した。

いやあ、あれは本当に大変だったよ。何せ、当時のキヴォトスでは、個人携行用のレールガンなんて技術的にありふれていなかったからね。

弾を発射するための電磁気力(ローレンツ力)の仕組みや、使用時の安全性の確保、そして何より試作段階の莫大な制作コストに何度も難航したさ。いやぁ……おかげで、技術予算を大幅にオーバーしてしまってね。セミナーから『この請求書は何ですか!?』って抗議の鬼電が、丸一ヶ月も鳴り止まなかったのは……今となっては良い思い出だよ」

「お、鬼電……ユウカが激怒する光景が目に浮かびます……」

「はは、その通り。そして、数々の無理難題を乗り越えて、ついに完成したのがこれさ」

 

ウタハは資料の最終ページに描かれた、美しく洗練された蛍光色のレールガンの図面を指差した。

 

「彼女と私たちエンジニア部の合作【プロトタイプ:プロメテウス】。後に彼女自身の手でさらにカスタマイズされ、現在は【グラディウス:プロメテウス】と呼ばれている特注品さ。

ゲーム的な意味で言うなら、まさに彼女にとっての『はじまりの剣』だね。……アリス。君が今使っている『光の剣:スーパーノヴァ』は、人間が扱う携行火器だったこの『プロメテウス』の基本構造を元にして、本来の目的だった宇宙戦艦の主砲兵器として再設計し直したものなんだよ。

つまり、プロメテウスとスーパーノヴァは……血の繋がった『()()』と呼べる関係なのさ」

 

「プロメテウス……」

 

アリスは資料に描かれた、小さくも力強い「姉」の姿を、吸い込まれるように見つめた。

まさか、エンジニア部から継承した愛銃の背景に、これほどまでに熱い過去の系譜があったとは。

アリスの胸に、かつてない激しい感激が押し寄せてきた。

 

「すごいです! まさかアリスの剣に、そんな熱い秘密があったなんて! はじまりの剣を手にした者……すなわち、アリスと同じ勇者! いえ、主役が登場するよりはるか以前に、この世界に偉大な偉業を遺していった『先代勇者』です!!」

 

アリスは椅子から飛び上がらんばかりに心を弾ませ、目をキラキラと輝かせた。

 

「ウタハ先輩! このはじまりの剣を持つ先代勇者は今どこにいますか!? アリス、お会いして、勇者としての挨拶をしてみたいです!!」

 

エネルギー全開のまま勢いよく問いかけるアリス。だが、その純粋無垢な質問をぶつけられた瞬間、ウタハはそれまでの笑顔を消し、ひどく気まずそうに視線を落とした。

 

「……残念ながら、アリス。あの子に今すぐ会うことは、できないんだ」

「え? ど、どうしてですか……? 先代勇者は、遠くの街へ遠征中なのですか?」

「その子はね、ミレニアムから去ってしまったんだよ。……自主退学さ」

「そ、そんな…………っ。ミレニアムにいないなんて……。居場所は、どこに行けばわからないのですか?」

 

ショックのあまりガタリと肩を落とすアリスに対し、ウタハは静かに首を横に振った。

 

「ああ、こればかりはどうにもね。……私の知り合いが言うにはね、彼女はミレニアムを未曾有の危険に晒した『犯罪者』として扱われてしまっているようだ。会いに行こうにも、少なくとも、このミレニアムの敷地内で会うことはもう二度とないかもしれない」

「うう、ショックです……。まさか、アリスの憧れの先代勇者が、闇の力に呑まれて悪に染まっていたなんて…………」

 

完全にゲームのバッドエンドのような顔をして落ち込むアリス。しかし、ウタハはそんなアリスの顔を優しく見つめ、きっぱりとしたトーンで告げた。

 

「いいや、アリス。それは違うかな」

「違う、ですか?」

「ああ。アリス、君はあの子を『悪堕ちした勇者』なんて言っているけれど、決してそんな大層なものじゃないさ。

あの子……ブローニャはね、ただちょっと人付き合いが不器用なだけの、普通の女の子だよ。そりゃあ口は悪いし、極度の負けず嫌いで、ハッキングで人を困らせるようなところはたくさんあったけれど……根は人情に溢れていてね。自分が認めた仲間や、守りたい人がいれば、影から全力で支えてくれる。そんな奴さ。……傷付きながらも、このミレニアムで数少ない『ロマン』を心から理解し、共有できる子だった」

 

ウタハは愛おしそうに、窓の向こうのキヴォトスの空を見上げた。

 

「退学の件だってそうさ。ミレニアムを危険に晒したという大罪も、あの子のことだ、そうしなくちゃならなかった『彼女なりの絶対的な理由』が、きっと裏にあったはずなんだ。

だから……私は彼女が自主退学を選んだあの日、あえて引き止めず、口を出さなかった」

「止めなかったのですか……?」

「あの子は去り際に言ったんだ。『私には、どうしても目指したい場所がある』ってね。

だから私は信じているのさ。

例え周囲と仲違いを起こしたとしても、チーちゃんたちが退学処分にどれだけ異を唱えようとも……私だけは、彼女の選んだ夢を最期まで応援する。そう心に決めたんだよ」

 

ウタハの言葉をじっと聞いていたアリスは、ポン、と何かを理解したように、大きく手を叩いた。

 

「なるほど、分かりました! ウタハ先輩は、その先代勇者のことが……とっても『好き』なんですね!」

「好き……」

 

あまりにもストレートなアリスの言葉に、ウタハは一瞬だけ呆気に取られ、それから観念したように楽しげに笑った。

 

「ああ、そうかもしれないね。何せあの子が持ち込んでくれたロマンのおかげで、エンジニア部は技術的にも精神的にも、ここまで大きく成長できたんだから。あの子には、返しきれないほどの恩義を感じているさ」

 

ウタハは椅子から立ち上がると、ポンポンと作業服の埃を払った。

 

「さて、そろそろ散らかした本棚を片付けようか。後の片付けは私がやっておくから、アリスは表の作業台に置いてある『光の剣』を───」

 

ウタハがアリスを促そうとした、まさにその瞬間だった。

 

轟!!!!! と、資料室の分厚いスチール製の防音扉から、すべてを圧殺するような凄まじい爆音が響き渡った。

 

直後、頑丈な金属製の扉が紙切れのように【くの字】にへし曲がり、凄まじい風圧と共に、資料室の内部にいたウタハとアリスの方へと猛スピードで吹き飛んできた。

 

吹き飛んだ扉は二人の頭上を掠め、背後の本棚を派手に破壊して静止する。

もうもうと立ち込める白い硝煙とコンクリートの粉塵。激しい衝撃にふたりが視線を上げると───

本来、扉があったはずの完全に崩壊した隔壁の真ん中に、凄まじい怒気を放つ一人の生徒が仁王立ちしていた。C&Cのリーダー、美甘ネルである。

 

「おい! ウタハてめぇ! ここに居やがったか! 表にこいッ!」

「うわあああ! チビメイド!?」

「だれがチビメイドだッ!? ───って、なんだてめぇも居んのか。悪いが今日はウタハに用があってな。あの時のリベンジはまた今度な」

 

アリスを力強く一喝したネルは、すぐに血走った目をウタハへと向けた。さすがのウタハも、ここまでの剣幕で怒るネルの姿に、引き攣った笑みを浮かべるしかない。

 

「ネル? どうしたんだい、そんなに怒って………」

「知らねえとは言わせねえぞ?」

 

カチャリ、とネルが突然、自身の愛銃である『ツイン・ドラゴン』の片方を構え、躊躇なく引き金を引いた。

ドン、と鈍い発射音が資料室に響く。ただし、ネルが狙ったのは二人の身体ではなく、遥か上の天井。しかし、放たれた銃声の響きは、明らかに通常の弾丸のそれとは異なっていた。

 

天井にベチャリと不気味な音を立てて激突し、垂れてきたのは───9x19mmパラベラム弾でも、45ACP弾でもない。どろりとした、極彩色の『真っ赤な液体』だった。

 

「…………あっ」

 

それを見たウタハの口から、思わずといった風に、最高に気まずそうな声が漏れ出た。

 

「……その反応ってことは、やっぱりテメエ、完全に心当たりがあるようだなァ?」

 

ネルの額に青筋が浮かぶ。天井から滴り落ちてきた真っ赤な液体の正体は、高濃度の「()()()()」であった。

 

事の真相は、今日のお昼時にエンジニア部がピザを食していた際、偶然思いついたアイデアとして、調味料を高圧噴射する『ソースガン』を即興で試作したことに端を発する。

その際、何を血迷ったのか、たまたま作業台に置かれていた「点検中の他人の銃」を材料にして組み込んでしまい、その改造元の持ち主こそが、他ならぬネルだったわけである。

 

事の重大さに気づき、共犯者にして後輩である【猫塚ヒビキ】と【豊見コトリ】がコッソリ回収しようと動いていたが…………

 

「いつものアイツら(ヒビキとコトリ)から、薄々察して来てみりゃあ、大正解だったなァ……。人の愛銃を勝手にタバスコ瓶にしやがって……。おい、きっちりけじめ、つけてもらおうか?」

「ははは……いやぁ……」

 

結果は言わずもがな。

じりじりとツイン・ドラゴン(タバスコ入り)を構えて迫ってくる狂犬を前に、ウタハは冷や汗を流しながら、隣にいるアリスの肩にそっと手を置いた。

 

「アリス。申し訳ない、ここの本を片付けておいてくれないかい。後できちんとお小遣いも出すからね」

「ウタハ先輩……?」

 

アリスが首を傾げた、次の瞬間だった。

ウタハ自身、驚異的な反応速度で身を翻すと、ネルの脇をすり抜け、資料室の反対側にある非常出入口へと全速力で脱兎のごとく駆け出した。

 

「あ!? 逃げるんじゃねえ、待て!!コラッ!! 」

 

激怒したネルが、赤いタバスコを撒き散らしながらウタハの後を猛追していく。二人の騒がしい足音は、あっという間に廊下の彼方へと消え去っていった。

静まり返った資料室に、ひとりぽつんと取り残されたアリスは、数秒ほど呆然とした後、パチパチと瞬きをした。

 

「…………お片付けクエスト、開始しましょう」

 

アリス、知ってます。こういう大人の事情は、見なかったことにするのが一番平和であると、ゲームの数々の名作イベントで学びました。

 

残された彼女はウタハに頼まれた通り、真面目に本の山を片付けるべく、小さな両手を差し出す。だがその前に、彼女は床に落ちていた『プロメテウス』の設計図とその名前をもう一度だけ、愛おしそうに見つめた。

 

「先代勇者ブローニャ。…………いつか、本当に出会えるといいですね」

 

まだ見ぬ、姿も知らない先代勇者の不敵な笑みを脳裏に思い浮かべながら、アリスは楽しそうに本を拾い上げる。

 

────────────あああああああああああああああああああああっっっ!!!!?(はるか遠くの廊下から響くウタハの汚い悲鳴)

 

遠くから聞こえるひとりの乙女の絶叫以外、今日のミレニアムも、いつも通り極めて平穏であった。

 

【小話 はじまりの剣】~完~




おまけの補足 前半
【ゴールデンフリース号豪運事件】
・生徒名【里見スコト】
オデュッセイア海洋高等学校 3年生。所属は「ゴールデンフリース号」にしてその「オーナー」
性格は小物。元々はカイザーコーポレーションに所属しようとしたが、組織的にろくでもないと察し候補から切り捨て、色々あって「ゴールデンフリース号」のオーナーとなり、原作のゴールデンフリース号より繁栄させた功労者。狼が目を付けられるまでは……。ドンマイ
実は里音スコトは()()()であり、■■■■・■■■■〇人が■■■■■■結果。この世界の■■■が無理やり■の■を分割してでもキヴォトスに誕生させられた()()()。彼女曰く「カッコよく死んだのに恥ずかしい」とのこと。

【飯を食え】
スタレ原作同様、飯を振舞う刃ちゃん。彼女は滅多に()()()()()()()()()らしい。
それなのに神秘ハンターに振舞う理由は……心から愛している意味合いとも取れる

【はじまりの剣】
当初のプロットでは銀狼の武器RGの名は『グラディウス:プロメテウス』ではなく『ヘヴィアームズ:ラビット(略:重装ウサギ)』だったが、兎となると「ハッカー・バニー」と同じくカルバノグの兎編とどうしてか重ねてしまうし、なにより名前のせいでトンチキになっちゃった。
ということがあり、崩壊3rdで同じ顔である「プロメテウス」の方を採用し、トドメとして言わんとばかりネット情報では銀狼(スタレ)のレールガンの名前がプロメテウスで多く出てきており、満を持してプロメテウスに決定した。

作者が思うに。アリスとプロメテウスはどこか似た寄った境遇と似た者同士かもしれない。

あと、ドラム缶ガニ強すぎ。エリカ、どこ……(未所持)?

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