『終焉』が近いであろう青空世界で私達は生きる......らしいよ? 作:エリオ(別同位体)
本小説初期コハルの信頼度はこんな感じ
ホタル(ハスミの信頼補正)>ヒフミ>アズサ>先生>ハナコ
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「えっと、改めまして。短い間ですが、これからもよろしくお願いします」
「”よろしくね”」
「「「………………」」」
「うん。こちらこそ、一緒に追試頑張ろう!」
沈黙という名の無言が三人の口を封じる中、ホタルだけは快活に、その挨拶を拾い上げる。
(気まずい。すごく、気まずいです………!)
ヒフミは思わず、心の中で呟いた。
ちょっとばかりお昼の時間、共に歩き、一度の戦闘を切り抜けて絆が芽生えた。
───などというのは、ただの甘い錯覚だったかもしれない。
いざ「落伍者」同士で膝を突き合わせてみれば、そこに広がるのは純度100%の気まずさ。
それだけに、場の空気を一人で支えるホタルの明るさ。
元気に返してくれたのは、今のヒフミにとって唯一の救いと言っていい。
ヒフミは少し、救われた気がした。
「え、えっと、何か分からない点とか気になる点がありましたら………」
「大丈夫。これからは普通の授業に加えて、毎日放課後に特殊訓練があるってだけでしょ」
「く、訓練と言って良いか分かりませんが、そうです」
一般的なトリニティ生とは、ずれた解釈で納得するアズサの言葉に肯首するヒフミ。
ともあれ、前を向かねば始まらない。
彼女は一呼吸置き、彼女は「落伍者」の部活の目標を告げる。
「私たちが目指すのは、これから行われる特別学力試験で『全員同時に合格する』こと」
「先生も手伝ってくれますし、み、みんなで頑張って落第を免れましょう……!」
加えて、追試こと「特別学力試験」は第三次まであることを告げる。
つまりチャンスは3回。そのうち1回でも全員が同時に合格すれば、この不名誉な「補習授業部」は即解散となり、晴れて普通の学校生活に戻れる。
……言うのは簡単だが、言うまでもなくハードルは激高だった。
「うん、理解した。この集まりはつまり、各自のリタイアを防ぐための措置。…………私としては特に、サボタージュする気も理由も無い」
「えっと、アズサちゃんは、転校してからあまり時間も経ってないんですよね?まだこの学園に慣れてなかったせいもあるでしょうし、みんなで頑張ればなんとかなると思います」
「あら?」
どうやらアズサだけは、他のメンバーとは少し事情が違うらしい。
その違和感を見逃さなかったハナコが、すかさず質問を投げかける。
「白洲さんはこちらに転校されて来たのですか?トリニティに転校だなんて、珍しいですね………?」
「…………」
黙り込むアズサ。
何か地雷を踏んでしまったのか、ヒフミは冷や汗を流し慌てるが、アズサは淡々と「気にしなくてもいい」とだけ返した。
「なるほど。…………私も、アズサちゃんって呼んでもいいですか?」
「……?別に良いけど?」
アズサの素直な態度を見て、ハナコはふっと肩の力を抜いた。
「では、アズサちゃん。ヒフミちゃん。それからコハルちゃんに、ホタルちゃん」
「うふふふ、何だか良い響きですね。私たちはこれから補習授業部の仲間ということで♪」
今まで名字呼びしていたハナコがいきなりの「ちゃん」付けの距離詰めに、ヒフミは密かにホッとした。
これで少しはチームっぽさが出て、みんなで赤点を乗り越えられそうな気がしたからだ。
が、当然そこに水を差すお約束の人物もいる。
コハルは嫌悪感を隠さず、あからさまに嫌そうな顔で、特にハナコをターゲットにロックオンして睨みつけた。
「…………」
「あら、そんな憎悪に満ちた目で、どうしたんですかコハルちゃん?」
「言っておくけど、私は認めないから……!」
一斉に集まる視線の中、コハルは全力で「私はあなたたちとは違う」アピールを炸裂させる。
兎に角「馴れ馴れしくしないでよね!」と言いたくて仕方がない様子だった。
「私は正義実現委員会のエリートだし!私の方が年下だからって、あんたたちを先輩だなんて呼ぶつもりはないから!」
「え、あたしも?」
コハルの尖った拒絶に、ホタルがぽつりと反応したことで空気が一変する。
他の面々は兎も角、情報や口伝によればホタルはただの不可抗力でここにいる唯一のガチ優等生だ。
しかも、コハルが崇拝するハスミ先輩からも一目置かれている存在である。
「あっ!いや、それは…………」
「そっか。仕方ないよね、幾ら成績が良くても、ここに居る時点で先輩って言われる資格なんてナイヨネーー」
死んだ魚の目で、あからさまな棒読みを披露するホタル。
ピュアすぎるコハルは、そのわざとらしい演技にまんまと引っかかり、一瞬で大慌てになった。
「あ、あなたは別よ!…………その、ほ、ホタル先輩」
「冗談だよ。ホタルって呼び捨ててもいいんだよ。見た感じみんな『先輩後輩』のような形式ばった関係は好きそうじゃないようだし、普段通り接しても構わないよ」
くすっと笑ったホタルだが、ここは年上の先輩として一言言っとかないといけない。
コハルに向けて、優しく、しかし確実な正論を突き刺していく。
「でもね。いくら成績が悪くても、これから一緒に頑張る仲間をそんなに拒絶したら傷ついちゃうよ。言葉は刃物と同じ。人を傷つけるのが、コハルちゃんが信じる“正義”なのかな?」
「うっ、それは…………」
ぐうの音も出ない正論だった。
目の前の3人は問題児だが悪人ではないし、何より、こんな狭い器の自分を正義実現委員会の先輩たちに見られたら、それこそ幻滅されてしまう。
「…………ごめん。言い過ぎた」
コハルは気まずそうに視線を落とし、ちいさく謝罪した。
「か、顔を上げてください、コハルちゃん。私は気にしてませんから……!」
「かく言う私もだ。寧ろ、きっぱりと言えるその姿勢は好きだ」
「…………ありがと」
ヒフミとアズサの聖人っぷりに、コハルは救われる。
「…………ちょっと言い過ぎじゃありませんか?」
「そうかもね。でも、なんでコハルちゃん。君にだけすごい目で睨んでいたんだろう?」
「ああ、それは水着でコハルちゃんにアレやコレや、シタせいですかね♪」
「??????????」
「ちょっと!誤解を招くような言い方は止めてッ!?ホタル!こいつの言う事は無視して!無視ッ!!」
最後にハナコがぶち込んだ不穏な爆弾発言に、ホタルの脳内がハテナマークで埋め尽くされる。
それはさておき。この日、コハルはほんの少しだけ大人になった。
「………というわけで。ホタルちゃんが言ったように私たち補習授業部の中でまで、先輩後輩なんて扱いは必要ない。私としては何も問題はないと思いますが……他のみんなさんは?」
「異議なし。そもそも私はそういう文化は不慣れだし」
「あ、あうう……一応私も」
「あたしも同じく♪」
「じゃあ決まりね!私たちは名前で呼び合う仲で留まりましょう!」
「”早速まとまりが出来て、私は安心したよ”」
改めて、補習授業部の関係についてフラットなものに落ち着いた5人。
教壇から微笑ましく見守る先生の前で、一件落着……と思いきや、ここでコハルがとんでもない爆弾発言をポロリとこぼした。
「あと、そもそもの話。私が試験に落ちたのはあくまで……飛び級の為に、一つ上の2年生用のテストを受けたせいだから!成績上問題ないはずよ!」
「あら、飛び級?どうしてそんなことを…………?」
「どうしても何も…!私はこれから正義実現委員会を背負う立場になるわけだし……」
『飛び級』………学年制をとっている学校で、1学年以上を飛び越して上の学年や学校へ進む制度のこと。
実際、キヴォトスでは下の子が自身より上の学年を目指す者も多くおり、現にゲヘナ学園と山海経高級中学校では11歳の初等部の子がそれなりの立場に居座っている。
「背伸びしちゃったんだね。あれでも、それで落第ってことは…………」
「ホタル先ぱ…………ホタルの思っている通り、何度も受けました」
「そ、それは補習授業部に入れられるよ………!なんで辞めなかったの……」
一度目なら兎も角、何度も受けたとなると、それは問題になる。
天才のそれとは違い、コハルの場合はただの見栄と玉砕の歴史だった。
ホタルの容赦ない正論ツッコミに、教室内の誰もが「そりゃ補習行きだわ……」と心の中で深く納得する。「落伍者」に落とされるのも無理もない。
ホタルはちょっと呆れながらも、コハルは熱くなりながら、言い続ける。
「それは……いや、そうじゃなくて、私が言いたいのは!私は本当の力を隠しているの!」
「「「「?」」」」
全員の脳内に巨大なハテナマークが浮かぶ。
なにを言っているんだ、この1年生は?
「つまり、今度のテストはちゃんと、1年生のやつを受けるから!それだったら優秀な成績を収めてはい終わりってわけよ!分かる?」
「「「???」」」
「…………おお」
「…………」
ヒフミ、ハナコ、先生の混乱は深まるばかり。
しかしアズサだけは「なるほど、真の力を隠していたのか」とガチで納得している。
ホタルに至っては、もはや言葉を失い、憐みの目でそっと顔を覆うしかなかった。
「え、えっとコハルちゃん、残念だけどそれは…………」
「そう言うわけで!短い付き合いで残念だったけど!私は一足早く寮に帰って準備するから。じゃあね、精々頑張ってね!アハハハ!」
「あ、あの、この部は1人が合格しても全員じゃないと…………!ああ、行ってしまいました………」
ホタルとヒフミの引き止めも虚しく、コハルは高笑いと共に教室を飛び出していった。
哀れな彼女はまだ知らない。
この部活のルールは「全員同時合格」
例えコハルが1人だけ満点を取ろうが、他の4人が落ちれば連帯責任で全員アウトなのだ。
なぜそんな鬼畜な縛りプレイ仕様なのかは、設立者のナギサのみぞ知るである
「出会ってから分かってましたが。ふふ、コハルちゃんはテンションの上下がすごくて、見ていて面白いですね♡」
「…………経歴を隠していたのか。すごいなコハルは。因みに私は前のところと違いは大きかったから、1年生の試験を受けてた。古典以外ダメだった」
「あらあら、逆にアズサちゃんは対照的に、ブレずに冷静ですし。この部活。色々と楽しくなりそうですね♡」
よりによって下の学年のテストで古典以外全滅したアズサと、マイペースすぎるハナコ。
お気楽な2人を前に、この中で「まだマトモな感性」を持つホタルとヒフミは、お互いに顔を見合わせて深い青息を吐き出すのだった。
「…………どうしよう。あたし、先行きが不安になってきちゃった」
「あーう……」
「”せ、先生もなんとかサポートするから、ふたりとも諦めないで!!?”」
こうして、ツッコミどころ満載の自己紹介だけで補習授業部の記念すべき第一日は更けていった。
【補習授業部2日目】
放課後の空き教室に集まった彼女たちは、目指す「全員合格」に向けて絶賛自習中だった。
「ハナコ、この問題はどう解けば良い?」
「どれですか?ああ、なるほど。これは倍数判定法で…………」
「あら、コハルちゃん。なにか分からない所でもありました?」
「…………別にないわよ」
「因みにそのページは、今回のテスト範囲ではありませんよ」
「えっ、嘘っ!!?い、いや全然分かっていたし………!」
アズサが真剣に取り組み、コハルが空回りで悶絶する中、ハナコが的確にサポートしていく。
予想外にしっかり勉強している3人の姿を見て、先生とヒフミは顔を見合わせた。
「”みんな頑張っているね”」
「はい!これなら、合格できそうです!」
ヒフミは一気にテンションを上げた。
昨日の不安はどこへやら、まさかここまで全員が集中して机に向かうとは嬉しい誤算だ。
「ハナコちゃんが何だかとってもすごくって………!それにアズサも学習意欲たっぷりです!コハルちゃんは実力も隠しているし、おまけに先生が作ってくれた分りやすい解説もあります。これなら、もしかしたら余裕で一発合格できてしまうかもません!」
希望に満ちた瞳で大はしゃぎするヒフミ。
確かにこれなら一発クリアも夢ではない。
……それはそれとして、もう一人のメンバー、ホタルの姿が見当たらない。
「”そう言えば、ホタルは?”」
「ホタルちゃんなら、後から来るそうで。もうそろそろ来てもいい時間ですが…………」
「ごめん!遅れちゃった!」
その時、蝶番の教室の扉が勢いよく開いた。
どうやら、ようやく来たようだ。
「遅いわよホタ………なにその荷物ッ!?」
遅刻を叱りつけようとしたコハルが、あまりの光景に言葉を失う。
現れたホタルは、肩や腕、背中など、人間の限界まで大量の本や紙が詰まった紙袋を抱え込んでいた。
「そ、そのまえに助けて、くれる、と……嬉しい、なあ……」
「わわわ! 今助けますッ!!!」
限界寸前で顔を青くしているホタルを見て、全員で救出に飛びついた。
ようやく重労働から解放されたホタルは、ぐっと背伸びをしながらお礼を言う。
「ありがとう……!このまま潰れるかと思っちゃった」
「これ、もしかして教材?しかも、使い込まれた跡がある」
アズサが手にとったのは、大量の問題集や教科書、そして試験範囲が精密に解説されたノートの数々だった。みんなの視線が集まる中、ホタルは少し恥ずかしそうに理由を明かした。
「クラスのみんなからの貰い物なんだ。『特別学力試験頑張って!』って応援されちゃって…………最初は袋1つ半分しかなかったんだけど、途中でお世話になっている先輩や自警団のみんなからもどんどん追加されて。気づいたらこんなになっちゃった」
なるほど。この教材たちはホタルを応援する人たちの気持ちの結晶というわけだ。
だからといって、いくらなんでも量が多すぎる。
応援という名の物理攻撃でホタルを圧死させる気だろうか。
余談だが、ここに来る途中でスズミや、その隣にいた元気な自警団の1年生が荷物を半分持ってくれたらしい。持つべきものは親切な友人である。
何はともあれ、これだけの教材があればテスト対策は万全。
ヒフミは思わずガッツポーズをしそうになったが、そこはトリニティの生徒らしく、心の中だけで力強く拳を握りしめた。
それはそれとして、ヒフミは近くにあった袋から、一冊のノートを手に取ってみる。
それは、いまは3年生になっているであろう先輩が書いた自作のノート。
試験範囲である数学の数式が、非常に美しい文字で分かりやすくまとめられている。
「このノートすごい分かりやすいです。これ、クラスのお友達だけじゃなくて先輩たちも含めてですか? ホタルちゃん、随分とみんなに親しまれているんですね」
「4月に転校してから、色々なひとにお世話になっちゃって………」
「むっ?ホタルも転校生だったのか?」
アズサが「転校」というワードに鋭く反応した。
まさか、目の前の少女も自分と同じ境遇だったとは意外だったらしい。
それは他のみんなも同じだったようで、一斉にホタルへ視線を向ける。ホタルは特に隠す様子もなく、あっさりと答えた。
「うん。あたしは『マルタ分校』から来たんだ」
「”マルタ分校?”」
聞いたこともない学校名に、先生が不思議そうに首を傾げる。
その疑問に答えるように、ヒフミが先生に向けて解説を入れた。
「マルタ分校は自治区の南東部にあるトリニティに属する分校のひとつですね。属していると言っても、半ばトリニティから独立した地域ですが、それなりに栄えていて観光客も多く賑わったところらしいです」
ヒフミの流暢な説明に全員が感心して耳を傾ける中、当のホタルだけは少し意外そうな顔をした。
「確かにあそこは賑わっているけど…………ゲヘナの自治区に最も近い学園もあって所属する人たちは武闘派ぞろい。二つの意味でここ、中枢部の人たちから煙たがられているのに、よく知っているね、ヒフミちゃん」
「あ、ああははは、ナギサ様から自治区の歴史を少し…かじっただけですよ」
嘘である。
本当のところは、あの地区がアビドス自治区、もっと言えばブラックマーケット行きの交通便がある場所である。
以前「アイス屋限定ペロロ様人形」をどうしても手に入れるため、マルタ分校の自治区を必死に通り抜けた過去がある。
更に言えば、ヒフミが
後ろめたさからヒフミが密かに冷や汗を流す中、その隣からハナコが不思議そうにホタルに質問を投げかける。
「私もその学校のことは知ってますが、ホタルちゃんはどうして転校を?」
「…………そう言えば、このことは
「”情報規制?”」
先生が言葉を拾った一瞬、ホタルは「しまった」という顔で慌てて取り繕った。
「ううん!こっちの話。強いて言うなら、色々と学校側の問題で転校したの!そろそろあたしも勉強しなくちゃ……!私、数学だけはからっきしだけど、他は得意だから!どんどん頼ってね!」
「そ、それじゃ、早速教えて欲しいところがあるんだけど…………」
「分かった。今行くね、コハルちゃん………!」
「あ、待ってくださ……」
「ハナコ。そろそろ古文入りたい。引き続き、教えてほしい」
「…………分かりました。今はテスト勉強の方に集中しましょうか♪」
ホタルが何か不穏な不条理ワードを呟いた気もしたが、彼女が強引に話を切り替えたことで、補習授業部は再び自習モードへと戻った。
ハナコとアズサ
コハルとホタル
綺麗に二組のペアに分かれて机に向かう彼女たちの姿を、先生とヒフミは教壇から温かく見守るのだった。
「”…………ホタルは何か隠しているようだけど”」
「”それは置いといて、いまはいい感じみたいだね”」
ホタルの過去、特にマルタ分校については気になることだらけだが、自習自体は極めて順調だ。
「そうですね。先程言いましたが、これなら試験は何とかなりそうです」
「本音を言えば、もの、すっ……ごく心配してたんですよ………」
「実は、『もし一次試験で不合格者が出たら、合宿をしてください』とティーパーティーから言われまして」
合宿?という不穏な単語に先生は不審がる。
「はい。…………それに、もし三次試験まで全てダメだったら…………あうう………」
「”な、なにが起こるの?”」
心配そうに寄り添う先生だが、ヒフミはさっきのホタルのような慌てぶりで、全力で首を振った。
「な、なんでもありません……!心配は杞憂で終わりますし、暗い話はここまでにしましょう………!」
「”…………………そうだね”」
確かに合格すれば問題ない。
彼女たちが第一次特別学力試験に合格できるよう、先生は気を取り直し、業務へと戻る。
その前にあの凶器じみた教材の山を整理することにしなくては………。
そんな中、ヒフミはハナコとホタルの二人について、こっそり思考を巡らせていた。
まずはハナコだ。
(…………ハナコちゃんはどうやら勉強できる子のようですし。なら、どうして落第してしまったのでしょう……?)
(何か事情でもあるのでしょうか?)
アズサを教える手際は完璧だし、ノートの解答も非の打ち所がない。
スク水で登場した時はどうなることかと思ったが、中身はかなりのキレ者だ。
だからこそ、補習授業部にいる理由がわからない。
そしてもう一人、ホタル。ハナコとは真逆の意味で、この場にいるのが謎だった。
(ホタルちゃんに関しては家の都合で、テストが受けられなかった。私と違い、仕方がない状況に陥った結果。補習授業部に入られた)
(資料や話によると他の3人と比べて、成績や生活態度は優等生そのもの。彼女の言う通り、数学以外なら完璧って言ってましたし、何より人当たりが良くなかったコハルちゃんとは相性良いです)
(でも、なんででしょう?それなら、ただの追試で十分なはず……。なんでティーパーティーは彼女を補習授業部に?)
極めつけは、先ほど口にしていた物騒なワード。
これが補習授業部に入れられた原因なのか?
(それに……”情報規制”?一体マルタ分校で何が……?)
(ううう……。ふたりについては謎だらけですが、考えてもキリがありませんね!)
(無事全員で合格したら一緒に食事会でも誘いましょう。モモフレンズのぬいぐるみでもプレゼントしてみてもいいかもしれません……!)
ふたりのことは一旦忘れ、ヒフミは無理やり頭を切り替え、自分の勉強に集中し始めた。
しかし、この時のヒフミはまだ知る由もなかった。
まさか、補習授業部がこの先にとんでもない陰謀と混沌に巻き込まれていくのかを
【第一次特別学力試験 当日】
「それじゃ!行ってきます先生!」
「”みんな頑張って!!”」
ヒフミ、アズサ、コハル、ハナコ、そしてホタル。
彼女たち補習授業部5人は、ついに運命のテスト本番を迎えた。
教室入り口付近で先生に見送られながら、静かに室内へと足を踏み入れる5人。
テスト───
それは今までの努力が残酷なほどストレートに反映される、学生にとって最大の壁。
どんな問題が出るのかという不安。不合格への恐怖。
解けるはずだと分かっていても、いざ本番となると、どうしても頭と心臓のバクバクが止まらなくなる。
伽藍洞と広々とした教室は、トリニティらしい白と木目を基調にした、歴史を感じさせるアンティークな空間。5人はそれぞれ指定された席につく。
数分後、試験官のロボット職員が入室してきた。
その手には、厳重に封印された試験問題の封筒が握られている。職員は淡々と説明を始めた。
「試験時間は90分。チャイムが鳴ったら、始めてください」
「ふうう…………よし!」
一番前の席で、ホタルが小さく深呼吸をして気合を入れる。
彼女の後ろにはヒフミとコハル、更にその後方にはハナコとアズサが陣取っていた。
開始五分前。職員の手によって、問題用紙が5人の机に裏返しで配られていく。
手元に用紙が届くと、教室は完全な静寂に包まれた。
今この空間に響くのは、筆記用具を整えるわずかな音と、誰かの小さな息遣いだけだ。
そして──────
キーンコーンカーンコーン……。
──────始まりを告げるチャイムが鳴り響く。
「それでは始めてください!」
職員の合図と同時に、少女たちは一斉に問題用紙をひっくり返した。
静謐でピリついた空間に、一斉にペン先が走る音が広がる。
第一次特別学力試験 開始。
試験科目は「歴史」「数学」「古文」「科学」「他言語」の5ジャンル。
───カリカリ、カリ……カツッ。
誰もがシャーペンや鉛筆を握りしめ、一心不乱に問題を解き進めていく。
咳払いひとつなく、全員の集中力はマックスだ。
(答えは上から順にa、古代オーパーツ、聖カタリナ。…………よし予習した内容通り!)
(あっ、これ……補習授業でやったところです!先生に解説して頂いた内容や、みんなで勉強していた問題が、ほとんどそのまま………!)
嬉々揚々。ホタルとヒフミは軽快に筆を進め、心の中でガッツポーズを決めた。
まるでキャンバスに迷いなく筆を走らせる画家の如く、スラスラと解答欄が埋まっていく。そして、二人はある決定的な事実に気がついた。
(これって初級……いえ、基礎の基礎レベルの問題! これまで色々と怖いこと言われてきましたが、もしかしてこれは、私たちへの救済措置でしょうか!?)
(優しい問題。これなら、みんないけそう!)
これなら全員合格も夢じゃない。
二人は確かな手応えを感じながら、更にペンを走らせるのだった。
しかし………!
「こ、これは……え、えぇっと………」
コハル。
ここで彼女の筆の勢いが急減速した。
完全に手が止まり、頭を抱えてぐるぐると悩み始めている。誰か彼女に自信をあげてほしい。
(──────!?いま、何だか嫌な予感が走ったような………?気のせい……だよね?)
その不穏な空気を一番前のホタルが敏感に察知したが、今はテスト本番。
自習の時のように助け舟を出すことはできない。ホタルは危機に瀕している誰かを心配しつつも、今は目の前にある最大の敵、大の苦手である「数学」の問題に挑むしかなかった。
逆にハナコはというと……?
「ふふっ……♪」
なんということだろう。彼女はペンを握るどころか、すでに問題用紙を裏返していた。
どうやらとっくの昔に解き終わっているらしい。カンニングは……した形跡は見当たらない。
いまハナコは頬杖をつきながら、仲間たちの奮闘を優雅に見守っている。
余った退屈な時間を、寧ろ穏やかに楽しんでいる様子だった。
「…………ふむ、これはこうか?」
そしてアズサは、どこまでも冷静だった。お手本のように背筋をピンと伸ばし、視線を問題へと注ぐ。静かに、そして正確に、解答欄へ文字と数字が並べられていく。
(油断は禁物……!みなさん、最後まで気は抜かず、笑顔でこの補習授業部を卒業しましょう!)
ヒフミは心の中で仲間にエールを送りながら、解答枠を埋め、見直しをする。
それぞれが時間を有効に使い、そして、終わりのチャイムが鳴り響いた。
【第一次特別学力試験から翌日】
「”試験の結果が届いたよーー!!”」
「み、みなさんお疲れ様でした………!」
補習授業部の教室。
いつもと変わらない空気の中、先生が封筒を抱えて教壇に立つ。ヒフミはテストの緊張から解放された反動で、満面の笑みを浮かべていた。
そんな二人の間に、ホタルが大きなクーラーボックスを抱えて入ってくる。
「お疲れみんな、とりあえず無事試験が過ぎたお祝いにジュース買ってきたよ」
「わああ、ありがとうございます!カフェオレください!」
「…………色々ある。もらっていいの?」
「いいよ!好きなどうぞ」
「…………これにする」
ホタルが差し出した冷たいジュースを、5人はそれぞれ手に取っていく。
ヒフミはカフェオレ
アズサはとりあえずお茶
ハナコは(ペットボトルの)ミルクティー
コハルはピーチジュース
そして先生は、デスクワークでお馴染み、妖怪マックス
各自が飲み物を手に取り、喉に流し込んだところで、ヒフミが今回の合格ラインについて説明を始めた。
「どうやら、100点満点中60点以上でしたら合格だそうです。高得点は逃しても、取り敢えず60点のラインさえ超えれば大丈夫です。内容も結構簡単でしたし…………」
合格基準は6割。思ったよりもだいぶ緩い設定だ。
問題自体が基礎レベルだったことを考えれば、これはやけに優しい救済措置と言える。
これなら、全員突破も余裕のはず──────。
「それでは早速、結果発表と行きましょう!」
「イエイ……!」
「ふふふ」
「楽しみだな」
「…………」
拍手する者、ゴクリと唾を呑む者。それぞれの反応の中、ヒフミが答案用紙を持つ先生を促す。
「先生、お願いします!」
先生は封筒の封を破り、まずは運命の1枚目を取り出した。
「”それじゃ、まずはホタルから!”」
「あたしから!?……………ドキドキ」
トップバッターはホタル。意図せず先陣を切った気になるその点数は……。
「”おめでとう!80点台だよ!”」
ホタル 84点
結果:合格
基準点を24点も上回る文句なしのセーフ。ホタルの顔にぱっと輝くような笑顔が咲く。
「~~~!やった!」
「ホタルちゃん凄いです!いきなり84点だなんて、高得点じゃないですか!」
「あ、でもやっぱり数学が……」
喜んだのも束の間。よく見ると苦手分野の「数学」の欄に、目立つようにこれでもかと無慈悲なバツ印が付けられていた。
「確かに合格したけど、悔しいな。銀…ンン!………友達だったら満点だったのに」
「まあ、いいじゃないですか!苦手分野はこれから克服すればいいですし………!」
気を取り直して、先生は2枚目の用紙をめくる。
「”ヒフミ。72点!おめでとう!”」
「は、はいっ!え、本当ですか?やったー!」
ヒフミ 72点
結果:合格
ホタルに続き、ヒフミも無事に安全圏をキープ。
コハル1人を除いて、教室内にはお祝いの温かい拍手が響き渡った。
「ヒフミちゃん、おめでとう!」
「ありがとうございます!無難な点数ですが、何とか良かったです!」
「”さて、次は…………えっ?”」
「「
しかし次の瞬間、先生の口から漏れた奇妙な声に、合格組の二人がピクリと反応する。
まさか、そんなはずは。
先生はなんとも気まずそうな顔で、次の生徒の名前を呼んだ。
その主は──────白洲アズサ。
「”アズサ、…………不合格”」
アズサ 32点
結果:不合格
「「…………はいぃッ!!???」」
「ちっ、紙一重だったか」
悔しそうにチッと舌打ちをするアズサ。しかし、本人のリアクションはあまりにも薄い。
というより、発表された点数に対して、なぜ本人ではなくヒフミとホタルのふたりが一番ひっくり返っていた。
「待ってくださいよ、アズサちゃん。コレ全然一重じゃないですよッ!?」
「そうなのか?あと28点だし………」
「その28点分取れば、問題なかったんですよっ!ハナコちゃんに教えてもらったんですよね!?」
基礎問題で35点は大爆死である。ヒフミのツッコミが炸裂する中、教壇の先生の手がピタリと止まった。
「”次はコハ…………うぅっ!”」
「待って、まさか………!?」
「…………ッ!?(ドキ!)」
さらなる悲劇の予感に、コハルの心臓が跳ね上がる。
無情にも、次に読み上げられたのはコハルの名前だった。
その結果は───────。
コハル 19点
結果:不合格
「コハルちゃんんんんんんんんん!?」
「”あがががががががががが”」
無常。まさかの20点未満。
アズサの点数がマシに見えるレベルの超絶大爆死に、ヒフミと先生は白目を剥いて絶叫した
「なんで!?コハルちゃん、力を隠してんじゃなかったですか!?まさか、また2年の……いや、3年生の試験を内緒で受けたんですかっ!!?」
「ち、違うわよ!そ、それは……か、かなり難しい問題だったし…………」
「小テストレベルでしたよッ!!?」
ヒフミの正論パンチが容赦なくコハルに突き刺さる。
「え、えっと…………」
いたたまれなくなったホタルが、そっとコハルの答案用紙を覗き込んだ。視界に飛び込んできたのは、赤いペンで描かれた大量のバツ印。もはや芸術的なまでの惨状だったが、ホタルはある一点に気づいて声をかける。
「あ、でも。あたしが教えた所はちゃんと丸ついてる……。そこは良かったんだ」
「それは、ホタルの教え方が凄く良かったから…………」
「ありがとう。…………ソレハソレトシテ、60テンダッタラヨカッタンダケドナアァー」
「ご、ごめんなさい………!」
ホタルのジト目&棒読みのツッコミに、コハルは完全にちいさくなって謝るしかなかった。
「あうう………ということは合格したのは私とホタルちゃん、そしてハナコちゃんだけ。次の、二次試験を受けないと………」
「”────────────”」
「…………待って。先生、その目はまさか…………」
ハナコ 2点
結果:不合格
「どうしてですかあッ!?!?!?!?!?!?」
圧倒的。圧倒的に絶望的な一桁の赤点だった。
不合格者二人で終わりかと思いきや、まさかのハナコまで爆死。
信じがたい現実に耐えかねて、ヒフミの絶叫が床に平伏す勢いで教室中に木霊した。
ハナコ、おまえもか
「2点?2点ですか!?20点じゃなくて!?いや、20点でも全くもってアウトなんですが!え?え?え?何が正解だったんですか!?よく見たら、マルがないじゃないですか!!と言うか、待ってください、どういうことですか、ハナコちゃん、いえハナコさん!あなた勉強できそうな感じでしたよね!?現にアズサちゃんの正解したところは合ってますし、何でですか!ワタシノキモチヲ、オンドゥルルラギッタンディスカァアーーーーッ!!」
「落ち着いて!ヒフミちゃん、言葉がおかしくなってるよ!?ほら、カフェオレ飲んで!」
アズサとコハルの大爆死までなら何とか耐えられた。しかし、最後の希望だったハナコの想定外すぎる「2点」に、ヒフミの脳内キャパシティは限界を突破。滑舌と語彙力が完全に崩壊してしまった。
ホタルが差し出したカフェオレを無理やり喉に流し込み、なんとか呼吸をリセットする。
ヒフミは血走った目で、笑顔を崩さないハナコをジッと見据えた。
「私、そういう雰囲気あるみたいなので♡」
「ふ、雰囲気?あ、もしかして本番に弱いとか、そういう……?」
「いえ、ほんとに雰囲気です♡」
あっけらかんと言い放つハナコ。これっぽっちも本番に弱そうな顔はしていない。
「嘘ですよね?ハナコちゃん、あなただけは信じていたのに……!う………。あうぅ………(ドサッ!)」
「”ヒフミが倒れた!!”」
「このひとでな………じゃなかった。誰か、救護騎士団呼んでぇーーーッ!!!!」
【第一次特別学力試験の結果】
ハナコ─────不合格 (2点)
アズサ─────不合格 (32点)
コハル─────不合格 (19点)
ヒフミ─────合格
ホタル─────合格
補習授業部5人中2人合格。
目標未達成なため、補習授業部、合宿決定!!
全員同時合格の目標は無残に散り、お約束通り「恐怖の合宿」への強制連行が確定するのであった。
規則正しい生活を送れた為、短い間隔で投稿できました。みんなもちょっとだけ生活改善しようね
関係ないことですが、水着キサキとWシュンいいですよね。
あと実装してないけどルミとココナ教官も、雛鳥組も。
彼女たちが先生に(〇的な意味で)色々と危ないサンドイッチや抱っこさせる場面は「!?」と思わず声出ました。先生、〇操、まだ大丈夫ですか……?
あと、キサキ。まだ後遺症が残っとるんか…………たまにで良いから先生といっぱい遊んでくれ。
今回のイベントも良イベでとても素晴らしかったです。ありがとうネクソン。
悪い点は恒常且つハフバが近すぎてふたりとも確保できない点ですかねええ………(怨嗟)