『終焉』が近いであろう青空世界で私達は生きる......らしいよ? 作:エリオ(別同位体)
仕事場の移転など様々なことが重なり、2ヶ月以上更新なし。
しかも今回は色々な要因のせいで難産ものでした。長い間待たせてしまい申し訳ありません。
今回は里音スコトと同じくオリ生徒が出ます。
彼…女と違って、完全な本作オリジナルの
【第一次補修授業部模試】
ハナコ─────不合格 (4点)
アズサ─────不合格 (33点)
コハル─────不合格 (15点)
ヒフミ─────合格(68点)
ホタル─────合格(77点)
『…………』
別館の大掃除を終え、記念に5人で写真も撮影した補修授業部。
合宿最初の夜を迎え、彼女たちは自分たちの現実的な実力を把握するため、『模擬試験』を行っていた。
目的達成のために何ができて、何が足りないのか。どの位置に立っているのかを把握するため───昨晩、ヒフミが寝る間も惜しんで作成したテスト用紙。その結果は、ご覧の通りである。
当日の第一次テスト同様、あまりにも惨敗と言わざるを得ない結果。
この調子で第二次試験に臨むなど、以ての外だった。
「……これが、今の私たちの現実です。ですので!」
改めて結果を見つめ直したヒフミは、特に不合格だった3人に向き直り、きっぱりと方針を宣言した。
「ここから一週間、効率的な勉強法とスケジュールで特訓を行います!!」
こうして補修授業部は、ヒフミと先生の監修による計画的な学習を開始したのだった。
それから少し時が過ぎて───。
アズサがモモフレンズに魅了されたり、コハルがうっかり
天気は快晴。小鳥たちのさえずりが心地よく響く時間帯。
補修授業部のみんなが教室に揃っている中、大掃除を終えたばかりのプールサイドで、先生はある生徒と向き合っていた。
「あはっ、まさか久しぶりに
「”まあね。元々気分転換とスタートとして掃除をやっていたんだ。お待たせ。要件があるって聞いたけど……ミカ?”」
生徒会ティーパーティーの一角「パテル分派代表」 聖園ミカ。
補修授業部を立ち上げたナギサと並ぶ生徒会長のひとりが、様子見、或いは顔合わせとして先生の元を訪れていた。
彼女の口から、先生は様々な事実を知ることになる。
まずは、ナギサから調査を依頼されていた「トリニティの裏切り者」について。結論から言えば、その人物とは─────白洲アズサであった。
「”アズサが……?”」
「うん。知っているかもしれないけど、あの子、実はトリニティに最初からいたわけじゃないんだ」
続けてミカは語る。
アズサは遥か過去に異なる思想を持っていたというだけでトリニティから弾圧された分派─────「アリウス分校」の生徒であると。
元々トリニティは、様々な学園が存在する混沌とした自治区だった。「第一回公会議」における合意を経て、「パテル」「フィリウス」「サンクトゥス」の3つの主要学園を中心とした連合を形成。後にキヴォトスが知ることとなる三大学園の一角、トリニティ総合学園へと統合された。
この時、統合に反対したアリウス分派は連合となったトリニティから迫害を受け、自治区からも追放。キヴォトスの表舞台から姿を消したのだった。その痕跡は、キヴォトスの中枢を担う連邦生徒会すら把握していない。
「”……そんな歴史があったなんて”」
「まあね。知らないのも無理はないよ、アリウスの存在はトリニティにとって黒歴史だし」
迫害の末に追いやられ、影すらも消された存在。それがアリウス分校。
さらにミカは言葉を重ねる。
エデン条約とは「第一回公会議の再現」であり、かつてバラバラだった
その渦中で、ティーパーティーの本来のホストであった『百合園セイア』のヘイローが破壊されたのだと告げられた。
衝撃的な事実に戦慄する先生に対し、ひと通りの情報を明かしたミカが一呼吸を置く。
「……まぁ色々先生に教えちゃったけど、私からお願いしたいのは、大変な中でアズサちゃんを守ってあげて欲しいの。なんたって、あの子を転校させたのは私なんだから」
「”ミカが?”」
「そう。私はアリウスと和解したいんだ。だって、私たちはこんなに恵まれているのに、アリウスの子たちは学ぶことすらできないなんて……あまりにも酷いでしょ? だから私はその初めの一歩としてアズサちゃんを和解の象徴にしたの。……ナギちゃんに疑いをかけるまでは、ね」
先生も知っての通り、補修授業部とはナギサから見て「容疑者」を集めた檻に過ぎない。
ハナコは元より優秀で上層部との関わりが深く、コハル自身は無実だが正義実現委員会に対する「人質」。ヒフミはナギサと親しく、ブラックマーケット等への出入りが多かったため……それぞれ理由が存在していた。ヒフミに関してはさもありなん。
「”待って、ならホタルは? 彼女はどんな理由で疑われているの……?”」
「……あ、そういえば忘れてた。ホタルちゃんね。なんて言うべきかな……あの子については、よく分からないんだよね」
「”分からない?”」
どういう意味かと先生が首を傾げると、ミカは把握している範囲の情報を口にした。
「暁ホタル。彼女の以前の経歴が、全くと言っていいほど見つからないの」
「”見つからない?”」
「文字通り。初等部や中等部の記録が全然見つからないんだよね。唯一分かっているのは『マルタ分校』に所属していたっていう一点だけ。……ううん、それすら怪しいんだけど」
暁ホタルの背景について語るミカ。その口から飛び出したのは、思いもよらない事実だった。
「彼女が所属していたマルタ分校は、トリニティの学園のひとつなんだけど……4ヶ月前に、とっくに崩壊しているよ」
「”……え?”」
「……あ、ちょっと言い方が良くなかったかな。正確には物理的な壊滅じゃなくて、政治機関の崩壊。廃校になったわけじゃないから誤解しないでね?」
「これは私たちティーパーティーと、ゲヘナの生徒会しか知らない情報なんだけど……」
「『ブラザーフッド事変』。ゲヘナに巣食うマフィア・ブラザーフッドと、神秘ハンターとの争い。ゲヘナとトリニティ南東部地域を巻き込んだ大事件であり……エデン条約締結への決定打となった出来事だよ」
『ブラザーフッド事変』─────。
4ヶ月前、まだ連邦生徒会長が在籍し、オデュッセイア海洋学園が遠征に出る前のこと。
ゲヘナとトリニティの境界線上にて、その惨劇は巻き起こった。
ゲヘナ自治区のマフィア『ブラザーフッド』が、神秘ハンター「ヴィヴァルディの蜘蛛」「パンクロード」「血塗れの剣客」と接触。過去にヤペラー音楽館事件で関係者が酷い目に遭わされたブラザーフッドは、報復として彼らを襲撃した。
さらに、七囚人のひとり「伝説のスケバン」やカイザーまでもが介入。混迷を極めた抗争は周辺の住民を巻き込み、トリニティのマルタ分校に壊滅的な被害を齎したという。
「そんなことがあって、故郷とも呼べる学校からホタルちゃんは避難という形でトリニティ本校に転校。……なんだけど、さっきも言った通り、彼女の経歴があまりにもなさすぎるの。そこをナギサちゃんに疑われたって感じかな」
ミカは、幼馴染が頭を抱えていた光景を思い出して肩をすくめる。
マルタ分校から提出された彼女の生徒情報は、ほぼ空白に近かった。
政治機関の復活が見込めない中、無理を押してマルタ分校の生徒に話を聞き出しても、返ってきたのは─────
『ホタル? そんな子、居たっけ?』
という、まさかの言葉。
マルタ分校の代表に問いただせば「件の一件で生徒データが消失した」の一点張り。
そんな詳細不明・不透明な背景を抱えながらも、臨時転校生としてやってきたホタルは、トリニティの社会にすんなりと馴染み、さらには優秀な成績を収めていた。傍から見れば怪しさの塊である。
当初は単なる疑問として片隅に追いやられていたが、百合園セイアの襲撃事件により「裏切り者」の存在が現実味を帯びたことで、無視できない案件となった。そうしてナギサは、優等生であるホタルを補修授業部へ強制入部させたのだった。
「”それは……あまり生徒に対してこんなことは言いたくないけれど、確かに不自然だね”」
「でしょ? でもね、私個人としては、ホタルちゃんが裏切り者だとは思いにくいんだよね。……まぁ、ただの勘なんだけど」
「”どうしてそう思うの?”」
「
明確な根拠はない。けれど、確信を込めた声でミカは呟く。
「だって、ホタルちゃんは自警団として治安維持に貢献しているし、勇気を出して私の
あんなにもまっすぐで良い子が、裏切り者なわけがない。
ミカは自信を覗かせて笑う。
「だから、これは私の予想なんだけどね。ホタルちゃんは裏切り者そのものというより、エデン条約を否定する『第三勢力』の駒として利用されているんじゃないかな。……マルタ分校に関わり、正義実現委員会とも交戦したその第三勢力のこと、先生も聞き覚えがあるでしょ?」
「”それって、まさか……”」
「そう、神秘ハンター。ホタルちゃんはあいつらに操られているんじゃないかな」
突拍子もない推測だが、筋は通っていた。神秘ハンターのNo.2は人を容易く人形のように操ると噂されている。
ミカの読みはこうだ。彼らはエデン条約の締結を不都合と捉え、『ブラザーフッド事変』の混乱に乗じてホタルを連れ去り、操り人形としてマルタ分校経由でトリニティへ侵入させたのではないか───と。
彼の「熔火騎士」がティーパーティーに接触してきたのも、すべては奴らの計画の一環だったとしたら。
「これが私の予想。どうかな?」
「”…………辻褄自体は、確かに合っているかもしれないね”」
先生は頷きつつも、胸の中に小さな疑問を抱く。
アビドスでの短い関わりの中で、先生は神秘ハンターたちの素顔を僅かながら知っている。本当に彼女たちは、両校の平和を繋ぐはずのエデン条約を拒絶しているのだろうか、と。
「”……話は変わるけれど、ミカ自身はエデン条約をどう思っているの?”」
「私? 正直に言えば、反対だよ。ゲヘナのことがどうしても嫌いだしね。でも私はホストじゃないし、反対したところで結局はナギちゃんたちの賛成派に流されちゃった。そんな中で勝手にアズサちゃんを入学させたり、ホタルちゃんを気にいちゃったり……ある意味、ナギちゃんから見れば私こそが『裏切り者』なのかもね」
自虐的に微笑みながら、ミカは言葉を続ける。
「でもね、見方を変えればナギちゃん自身だって『トリニティの裏切り者』と言えるんじゃないかな。今まで保たれてきたトリニティの
そう言って、ミカは自らの想いと選択を先生に委ねるように見つめた。
「先生。先生はいつだって生徒の味方だよね? なら、最後には決めてほしいの。裏切り者を見つけてナギちゃんを信じるか……それとも、アズサちゃんとホタルちゃんを護って、私を信じるか」
返答を待つことなく、ミカは可憐な微笑みを残してプールサイドを後にした。
トリニティを包み込む陰謀と思惑、そして生徒たちが抱える切実な願いを先生の胸に投げかけたまま。
─────
ミカと別れ、すぐに補修授業部が待つ教室へと戻った先生。
そんな先生を出迎えたのは、とびきりの笑顔を浮かべたヒフミだった。
「”ごめん、ちょっと遅くなっちゃった。ヒフミ、すごく嬉しそうだね。もしかして……”」
「はい! 先生を待っている間にさっきの模試を受けて、ちょうど結果が出たところなんです! ぜひ見てください!」
ヒフミから手渡された一枚の紙を、先生はさっそく覗き込んだ。
「”どれどれ……?”」
【第二次補修授業部模試】
ハナコ ─────不合格(8点)
アズサ ─────不合格(58点)
コハル ─────不合格(49点)
ヒフミ ─────合格(64点)
ホタル ─────合格(80点)
「”これは……!?”」
と思わず声をあげる先生。
第一次模試と比べて、結果は一目瞭然だった。総合的に見ればまだ不合格の範囲内ではあるものの、前回とは比較にならないほど良い結果を示している。
「……紙一重の差だった」
「はい! 本当に紙一重の差ですよ、アズサちゃん! すごく惜しかったです!」
「嘘……! 見て見て、ヒフミ! 私も点数が上がってる!」
「はい! 分かります、コハルちゃん! 一気に49点まで伸びるなんて、伸びしろならこの中で一番ですよ!」
特にアズサとコハル。
補修授業部の中でも特に勉強に苦戦していた彼女たちにとって、自分の成長をはっきりと実感できる結果だった。
対するハナコはというと——。
「それじゃあ、えっと、その、ハナコちゃんは……」
「ヒフミちゃん? なぜそんなに声量を落としているんですか? 最初の2点から4点、そして今回の8点ですよ♪ このペースでいけば合格点は確実に取れます♪」
「た、確かにそうかもしれませんが……」
「いや、ヒフミちゃん。流石にそこは自信を持って否定しようよ。今回は模試だからいいけど、本番でそれをやったら流石に『メッ!』だからね?」
「は〜〜い♡」
模試ならまだしも、一次試験のように本番で同じ点数を出したらでそれこそヒフミが危惧する退学に近づいていく。
ホタルの注意にも、ハナコはどこ吹く風といった様子で軽返事を返し、微笑みを浮かべている。
とはいえ、彼女の経歴を見るに意図的に低い点数を取っているのは周知の事実。あとはどうにかして彼女の心を溶かし、本気を出させれば問題ない。今は深く追及しなくても大丈夫だろう。
「……………必ずや、あの可愛いやつを手に入れてみせる。それが私の戦う目的だ」
「アズサちゃん!? なんだか目的が変わっていませんか!? 私たちは落第を免れるために……いえ、モモフレンズファンとしては嬉しいのですが……!」
「そう言えばそうだった。勿論、ついでにそれも頑張ってみせる」
「いや、ついでって。なんでアレでやる気出てるのよ(困惑)」
「アズサちゃん、すっかりモモフレンズにハマっていますね」
「あはは……。でも、やっぱり目的意識って大事だね」
楽しそうに喜び合う5人の会話を聞きながら、先生は思わず、ひとりの生徒へと視線を向けた。
「”……………………”」
「? ……先生? どうしてあたしをじっと見てるの?」
ホタルである。
先生はどうしても、先ほどミカから聞かされた彼女の背景のことが頭から離れずにいた。
ミカは「ホタルは神秘ハンターのNo.2によって操られている」と推測していたが、どうも腑に落ちない。
先生は神秘ハンターのNo.2───カフカについて、短い付き合いながらもある程度の人柄を知っている。
確かに人を操れるし、”悪魔”と恐れられるに相応しい人間だ。だが、自分や対策委員会に対して事態解決の手を貸してくれたこともあるため、一概には言えない。それに……
(”…………操られているようには見えないんだよね。カフカの『言霊』って、あの一目で操られていると分かる独特の圧というか重苦しさがあるし。以前、ブラックマーケットで別れる時や、風紀委員の子たちを操った時のような雰囲気が全く感じられないしなぁ。う~~ん……”)
何より先生自身、カフカの言霊による暗示に二度もかけられた経験がある。
一度目はブラックマーケット。二度目は風紀委員会との戦いにて。
そんな経緯があり、直接術にかかった本人だからこそ「本当にお手上げ状態で操られているか否か」の感覚がなんとなく身についていたのだった。
とりあえず操られている可能性も考慮しつつ、先生はすっとぼけてみせた。
「”あ、いや。ちょっと考え事をしていただけだよ。それよりも、ホタルもよく頑張っているね。今のところ補修授業部の中でトップだよ”」
「え? あ、ありがとう先生。……う~~~ん。でもやっぱり数学が全然ダメだ。ヒフミちゃん、ハナコちゃん、時間が空いた時でいいから、少し数学を手伝ってくれない?」
「ほ、ホタルちゃん。そんなに思い悩まなくても、もう十分ですよ? 誰だって苦手なものはありますし……」
「一応、念のためだよ。ほら、もしかしたら出題側が合格基準値を上げてくるかもしれないし。何事も油断は禁物だからね」
「真面目ですね、ホタルちゃんは」
返ってきた模試用紙を凝視するホタル。現時点で補修授業部トップの座に位置していながらも、合格点に届いている現状に甘んじることなく、苦手分野である数学を克服しようとしているようだ。
『 ピンポーン 』
「チャイム?」
「あら? どなたでしょうか?」
そんな時だった。
教室に誰かが訪れたことを知らせるインターホンが鳴り響く。
「こんな外れの合宿所に……? 一体どなたでしょうか?」
ここはティーパーティーが用意した、実質的な補修授業部の拠点である。しかし本校舎から離れた別館ということもあり、訪れる者は限られている。今回は誰も来る予定がないはずだが……ティーパーティーの関係者だろうか、とヒフミと先生は首を傾げる。
だが、廊下から流れてきたのは聞き覚えのない
『し、失礼いたします! ほ、補修授業部のみなさんに用があって来ましたっ!』
『こっちもお邪魔します。中は思ったより綺麗だね? ……勝手に入ってもよかったのかな』
両者ともおどおどした様子だが、片方は礼儀正しく清楚な雰囲気を纏い、もう片方は勝手に入り込んだことに少し罪悪感を抱いているようだ。
「あら? この声は……」
「うそ。なんでここに……?」
真っ先に反応を示したのはハナコとホタルだった。
どうやら二人は来訪者に心当たりがあるらしい。だが、その反応は対照的だった。ハナコが平常心で受け止めているのに対し、ホタルに至っては全くの予想外といった表情を浮かべている。
「”二人とも、今来た人に何か心当たりが……?”」
「はい。もしかしたら、ですが」
「あ、あたしも……。でも、どうして……」
(あたしの記憶が確かなら……ここに来るのは、シスターフッドの
「侵入者か」
「え? アズサちゃん、いま何て───」
アズサがボソリと呟いた、その直後だった。
突如として爆炎と轟音が吹き荒れ、地面が大きく揺れた。
───ドォォォォォンッ!!!
『きゃあああっ!!!?』
『うわああああああ!!!?』
直後、廊下からやってきたと思われる者たちの悲鳴が激しく響き渡る。
あまりにも突然の爆発事故に、アズサ以外の全員が呆然と固まった。
事の下手人と思われるアズサに対し、ヒフミが「何をやったんだ!?」と言わんばかりの気迫で問い詰めた。
「アズサちゃん!? 今の何ですかッ!?」
「ブービートラップだ」
「ブービートラップッ!? もしかして、あたしが酷い目に遭ったあの時の!? 全部除去したんじゃなかったの!?!?!」
ホタルの頭に蘇るのは、合宿初日の記憶。
アズサが仕掛けた地雷をうっかり踏み抜いてしまい、黒焦げになった苦い思い出。
「全部じゃない。確かに大半は除いたが、万が一に備えて一部のポイントに再設置しておいた。
『ごほ、ごほ…なんで地雷が?』
『………え、ちょっと待ってッ!!マリーちゃん、まえ、前見てェッ!?』
『え?───きゃあああっ!!!?』
再び起こる爆発、そして甲高い悲鳴。
みんなが呆然とする中、アズサだけ無表情から少し口角を上げて聞いてる。その顔はどことなく喜ばしい表情を浮かんでいた。
「よし。聞いた限り上手く作動していてなりよりだ。逃げた先を予測し、連鎖的に敵の進行を止める。我ながら上出来だ」
「まったく上出来じゃないですよッ!?なに無差別的に訪れた人を攻撃しているんですか!!?早く助けに行きますよ!!」
地雷に巻き込まれた訪問者の安否を確認するため、全員が廊下へ。地雷原であろう玄関先に向かおうとしたその前に……
ドンガラガッシャーンと、教室の扉から勢いよく誰かが飛び出してくる。
同時に爆発による風が吹き、煙が舞う。
数秒も待たない内に次第にその煙はスッと晴れ、その姿を現した。
「………ここ、安全地帯っぽい場所、ね?………ま、マリーちゃん大丈夫?」
「え、ええ。こほっ、煙が………」
正体は、橙色の髪にヴェールの下に隠れているケモノ耳が印象的なシスター。
もうひとりは前髪テールとスパイクヘアを合わせた、煌めく銀髪の少女。
シスターは腰を抜かしたのか、銀髪少女に背負われ、煙を吸ってしまい咳が止まらないようだった。
「だ、大丈夫ですか?」
「ごほっごほっ!!きっ…けほっ…今日も平和と安寧が……げほっ…はぁ…うっ…けほっ…あなた共に……ありますように…かほっ」
「いや、まずはご自身の安寧を……!?」
「た、たたた、多分マリーちゃんは煙でむせただけだと思うよぉ。い、一応ぼ、ボクも平気。………いやそれなりにダメージくらったかもしれないけど。特に足に衝撃が効いているけど、多分平気……じゃないかも」
「いやどっちなんですかッ!!?」
思っていた以上に満身創痍じゃないか、とツッコミを入れるヒフミ。
(とりあえず、後でアズサちゃんは説教です)とヒフミは心の中で誓いつつ、どこか被害者二人から見覚えのある特徴が目についた。
片や制服がシスター服。もう片方は腕に『
このことから二人の身分が判明した。
「見たところ、シスターフッドと
「えぇっと。ボクたちは………」
事情を説明しようとする目がグルグルとなる銀髪少女が必死に口を開こうとする。
と、その前に彼女を目にしたホタルがやはり、と確信めいつつ、半ば驚きの表情でその少女を確認した。
「
ナツカと呼ばれた銀髪少女もまた、ホタルを見た途端、ブワッと涙目で声を荒らげながら、彼女に向かって飛び込んだ。
「ボダルぢゃぁんだぁあぁあ、“会”ぃだかっだよぉおおお”!”!”」
「ぐぇっ!??」
「「「「「ほ、ホタル((ちゃん))ッーーーーー!???????」」」」」
勢い余ったナツカの抱きつきが、運悪くホタルのお腹にダイレクトヒット。
色々とお口からえずくホタルを見て、補修授業部と先生は思わず、叫んでしまった。
「ほら、アズサ。謝った方がいいわよ」
「そうですよ。アズサちゃん」
「う、うん」
ヒフミとコハルにマリーの前まで引っ張られるアズサ。
被害者であるマリーは「?」を浮かべているも、アズサは申し訳なさそうにマリーに頭を下げた。
「ごめん、敵襲だと思ったから…………」
「て、敵襲……?えと?だ、大丈夫ですよ?」
「それから、あなたも………ごめん」
「………………ヒィ!?」
マリーは困惑しながらも、アズサの謝罪を真面目に受け止めたもの……。もう一人は違った。
謝ったに関わらず、ナツカと呼ばれた少女はアズサを避け、ホタルの腕に抱きつきながら、彼女の背中に隠れるようにへと逃げた。
「……………ナツカちゃん。別に彼女は君に悪意を以て害したわけじゃないよ。だよね?アズサちゃん」
「ああ。まさか、ホタルの友人だと思ってもいなかった。許してくれとは言わない。でも、ほんとにごめん。お詫びに私が出来ることなら、何でもするつもりだ」
「………わ、分かった。そこまでしなくてもいいよぉーー」
アズサの誠心誠意の姿勢に、彼女はようやく謝罪を受け入れる。
「”それで君たちの名前は……?”」
そう先生は二人に名前を伺う。
二人とも各々違う反応を見せながら、先生に自己紹介をした。
「初めまして連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの───先生。トリニティ総合学園1年生シスターフッド所属の伊落マリーと申します」
「”マリーだね。こちらこそ。………………あのぉ、ホタルに隠れている君は?”」
「………………」
「…………ナツカちゃん」
「── はいぃ。
…………トリニティ自警団及び『
「”よろしくね! ナツカ”」
「あ、あんまり見ないでくださいいィ…」
「”ええ………”」
再びホタルの背に隠れるナツカの反応を見て、先生はちょっと落ち込む。
そんな先生と恐れているナツカを宥めるよう、ホタルはちょっとばかり補足を入れようとする。
「ごめんね。ナツカちゃんは、前にイジメを受けたせいで、少し知らない人に対して怖がりなんだ。これでも自警団に入ってからちょっと人付き合いが良くなっているから、大目に見にあげてね」
ホタルの説明に(怖がりな子なんだね)と先生は納得し、とりあえず、怖がらせないようナツカに軽い挨拶をするのだった。
「マリーちゃん。此処に来た理由があるんじゃないの?」
「そ、そう言えば、どうしてシスターフッドがここに……?」
「私に……用があるわけではなさそうですね。様子を見る限り、私がここにいるとは思っていなかったようですし」
三人が疑問を口にする。
それを聞いてハッと気付いたように、マリーは本題を切り出した。
「こちらに補修授業部の方々がいらっしゃると伺いまして、同じく用事のあったナツカさんとご一緒にお邪魔した次第です。……ただ、ハナコさんがここにいらっしゃるとは思いもしませんでした」
「………………………………私も成績が良くありませんので」
「そう……でしたか」
知り合いであるらしいハナコとマリー。
しかし、ふたりの間に流れる空気は重い。特にマリーの表情には、どこか申し訳なさそうな色が滲み出ていた。
険悪とまではいかないものの、過去に何らかの浅からぬ浅からぬ因縁があるのは明らかだった。その重苦しい雰囲気を察し、コハルが首を傾げてハナコへ尋ねる。
「今更だけど、ハナコ、知り合いなの?」
「ええ。少しばかりシスターフッドと関わりがありましてね。そんなことよりマリーちゃん、本題を」
「……はい。本日は補修授業部の白洲アズサさんにお会いしたく、足を運ばせていただきました」
「私?」
思いがけず自身の名前が挙がり、アズサは呆然と声を漏らす。
マリーが語るには、以前アズサに助けられたという生徒から『感謝の言葉を伝えてほしい』と頼まれたのだという。依頼主の事情を汲み取ったマリーは、被害者会を経由してこうして補修授業部の拠点まで訪れたとのことだった。
話の経緯を聞けば、いじめの現場を見かねたアズサが手を差し伸べたのだという。
ここまでは心温まる美談であった。
だが────問題はその先だった。
アズサに返り討ちに遭ったいじめの首謀者たちが、正義実現委員会へ通報。歪曲して伝わった情報を真に受けた委員会側が発砲したことを皮切りに、大規模な抗争へと発展してしまったらしい。その激闘は、実質3時間にも及んだという。
大規模抗争の記憶に思い当たる節があったコハルが戦慄する一方で、当事者であるアズサはどこか他人事のように無関心な反応を示していた。それどころか、自分に助けられた生徒へ向けて淡々と言葉を紡ぐ。
「事情は理解した。私はただ、見ていて度し難いと思って行動したまで。それに気の毒だが、されるがままになって何もしないのは別だ。たとえ虚しくとも、抵抗し続けるべきだ。……その子にそう伝えておいてくれ」
「……分かりました。あの方にそう伝えておきます。……アズサさんのことは『暴力を信奉する氷の魔女』と噂で大袈裟に噂されていましたが、やっぱり噂は噂ですね」
「?」
確かにアズサは問題児だ。所々喧嘩早く、赤点を取る上にどこか常識がズレている部分も目立つ。だが、その根底には揺るぎない芯があった。
いじめという不条理に納得も妥協もせず、抗い続ける────マリーは彼女がそういう人間なのだと理解したのだった。
「それではこの辺で。ナツカさん、そろそろ帰りますよ」
用件を終え、そろそろ辞去しようとしたマリー。
帰ろうとした矢先、すっかり置き去りになっていたナツカの存在を思い出す。
「………………」
「……ナツカさん?」
だが、当のナツカ本人は未だにホタルに抱きついたままだ。
全員の視線が集中する中、彼女はホタルにくっついた姿勢のまま、ボソッとマリーへ告げた。
「……まだホタルちゃんとまだ話したい」
「……分かりました。どうぞごゆっくりご友人とお話ししてください」
「……ごめんね」
「いえいえ。では、皆さんまたどこかで」
そう言い残し、マリーは笑顔で静かに去っていった。
「ごめんみんな。少し席を外すね。ここからはふたりっきり話さないとダメみたい」
「えっと、構いませんが……一体なんのお話を………?」
「うーーーーん。ちょっとした世間話かな?1時間も掛からないから、長く掛からないよ。場所は………プールにいるからもし長くなっちゃったら呼んでね」
「”………分かった。いってらっしゃい”」
そう言ってホタルはナツカに抱き着かれたまま、教室から退出。
教室に残った全員は互いに顔を見せ合う。
「ナツカちゃんでしたか?随分とホタルちゃんと親しげでしたね。まるで
「そうね。見てて恥ずかしくなるくらいべったりね」
「察するにイジメられていた所を助けてもらい、そのせいでホタルちゃんに惚れ込んでいるようですね。………ちょっとうらやましいですね♪」
「………………一応、聞くけど。どこを見てうらやましいって思ったのよ」
「え?それは勿論♪ホタルちゃんに対してのスキンシップですよ♪それにしてもあの子、気弱に見えて侮れませんね。私たちがマリーちゃんとおはなししている間に、二の腕とか、背中とか堪能していましたし。
挙句の果てにおっp「エッチなのはダメ!死刑!!このドスケベピンク、なんで助けないのよこのバカ!!?」
あのナツカという2年生。まさか公然の場で堂々とセクハラ行為をしていた事実に顔真っ赤になるコハル。
「こうしちゃ居られないわ。今すぐホタルをあの小変態から救いに行くわよ!」
「え、ちょっとコハルちゃん!?」
ホタルを助けるべく、教室に勢い良く出ようとしたところ。
「コハルちゃん、その役目私に譲っていただけないでしょうか?」
突然。ハナコの言葉によってその足を止めた。
「………あんたが?」
「ハイ♪」
「却下よ!却下!!どさくさに紛れて、あんたもホタルをア、アレとか触ろうと企んでいるんじゃないの!!」
「ひどいですね。まあ、普段の行いのせいで否定はできませんが。別にホタルちゃんにアレコレするつもりはないですよ♪ただちょっと気になるな、思いまして」
みんなの前から一歩二歩と離れ、ハナコは廊下へ続く扉へ。
「………というわけで。どうしても気になるので少し覗きに行きますね♪」
「え?勉強は!?」
「もちろん。戻ってきたら使った時間分やりますよ♪………………あのナツカちゃんって子。不思議と他人のような気がしないんですよね」
どうしても気になるのか。ヒフミとコハルが足止めを促すが効果なし。
仕方がないと思った先生は一先ず、教室に出る許可を出した。
「”あんまりホタルとナツカに邪魔にならないようにしてね”」
「先生!?………………はあ、分かりました。先生がOKを言うなら止めません。できるだけ早く戻って下さい」
「ハーイ♡本当に覗き見するだけですので。それはじっくりと♡」
「変に言いださなくてもいいからサッサと行って、戻ってきなさい!このスケベピンクッ!!」
「アン♡コハルちゃんヒドーーイ♡………それでは言って来ます♪」
色っぽくふざけた反応のまま、彼女は二人が行ったであろうプールへと向かった。
「ここなら人目がつかないし、誰もいないから安心していいよ」
つい最近掃除したばかり透き通った水が広がるプールに到着したホタル。
みんながいた教室と違い、誰もひとりおらず、風とかの背景音しか聞こえない。
ここなら、思う存分話せるわけだが………話したいと言った本人であるナツカは未だホタルにくっついた。
「………………ナツカちゃん」
「!!………ご、ごめん。つい」
呆れたホタルは諌めるように少し声を強めると、ナツカはようやく離れた。
実のところ、教室から出てここに着くまでずっとお互い密着してた。ジンベイザメに張り付くコバンザメにピッタリと。
「………ああしているとなんでか安心するんだ。ホタルちゃんってどこ触っても温かいから」
「………はあ。この際スキンシップは慣れたからいいけど。せめて、人前は自重しようよ。あと色々なところ
「え、でもああしていると人肌が感じやすくて………」
「………また
「そ、それだけは勘弁して!」
ホタルの言葉にナツカは涙目で言い寄る。
「会長」なる人物に畏れているのか。その表情は必死さがあった。
「それでわざわざここに来た理由は?追試が終わるまで会長からは接触しないよう言われたんじゃ」
「それは………
プルルルル
………待ってちょうど会長から電話がきた」
ナツカが来た理由を述べようとした途端、彼女のポケットからスマホの着信音とバイブレーションが響く。
彼女は恐る恐るホタルも聞こえるようスピーカー状態にし回線を繋げる。
『お久しぶりですねホタルさん。お元気ですか?』
電話の向こうから聞こえる、穏やかでありながらどこか不可解な慇懃めいた声。
その一言だけで、彼女は一瞬にして強張った。
────静まり返ったプールサイドに、電子音が冷たく響く。
補修授業部での穏やかな勉強の日々、ミカが告げた不穏な陰謀、そして『第三勢力』の影と不可解な過去
交錯する思惑の渦は、確実に
迫る第二次試験の行方と、ティーパーティーのトップが下す次なる一手。
静かな水面を揺らす波紋のように、不穏な嵐の予感だけが、未だ明るいはずの別館に暗雲がが垂れ込めるのであった。
まえがきの理由に加えて遅れた要因の1つとして、ナツカを出すかどうか悩んでいたのも原因。
オリジナルキャラと言うのはどう足掻いても賛否両論が出てしまうので。色々悩んだ結果、先行登場という形で出しました。彼女は原作二部に活躍予定です。
前回の設定開示回を機に過去最多の感想数とお気に入り700件超え、遂に評価バーの赤一色に染まりました!ありがとうございます( *´艸`)
やっぱ、みんなこういうクロス設定好きなんだなと改めて思いました。今回も色々と仕込みましたので、是非考察やら楽しんでいただけたら作者として光栄です。
『里見スコト』
崩壊:スターレイル ver.4.5『千の星に賭すチップ』にて
既に察しの良い方が多くいると思われますが、スコトと彼との関係に統合性がつかないのでは?と思った方もいらっしゃるでしょう。
作者的には彼が復活するのでは?と前々から予想していた為、この作品のプロット自体はノーダメ(マジ)
外れたのは幻造:聖杯戦争じゃなくて、千星シティで復活するとは思ってなかったこの1点のみ。まあその辺はいずれおいおい。
調印式を終えたら、里音スコトが渦中に陥るオリジナルイベントをやる予定。お楽しみに