『終焉』が近いであろう青空世界で私達は生きる......らしいよ? 作:エリオ(別同位体)
ホシノ救出のスチルと掛け合わせた感じを考えて「朝日」→「烈日」に。オンパロス要素はないです(NYN姉貴)
あと先に謝っときます。イオリ推しの先生のみなさま申し訳ございません。今回ばかりはアンチ・ヘイトが輝くかもしれない
ブラックマーケットでの大騒動、および闇銀行襲撃事件から数日が経過した。
奪取に成功した集金記録の書類によって、隠されていた驚くべき事実が露呈する。
対策委員会が血の滲む思いで納めた返済額、788万の集金。
あろうことか、その資金の行き先は、度々アビドスへの襲撃を企てていた「カタカタヘルメット団」へと流れていたのだ。
そして、その間の取引仲介にカイザーローンの職員が加担していたという事実。
すなわち、債権者であるカイザーローンがヘルメット団を裏で裏操り、債務者であるアビドス高校を追い詰めていたという構図であった。
対策委員会はこの露骨な悪行に強い憤りを覚えるも、同時にある不可解な謎が浮かび上がる。
何故なら、このような暴挙に出たところで待っているのは、アビドス高校および自治域の完全な崩壊だからだ。
最終的に借金の回収は不可能となり、貸している側としても一切の利益が得られなくなる。
同行してくれたヒフミも交えて議論を重ねたものの、敵の真の狙いは不透明なまま。
確固たる結論には至らず、現時点では「様子見」という名の保留に留めることとなった。
ヒフミは本校であるトリニティ総合学園へと戻り、生徒会「ティーパーティ」へ事の顛末を報告することに。
そうして数日間、対策委員会がカイザーローンについて引き続き調査を進める中で、その事件は起きた。
事の始まりは、とある店舗の爆破テロだった。
あるクライアントの依頼によって、アビドス高校と敵対関係に陥ってしまった【便利屋68】。
社長【陸八魔アル】、室長【浅黄ムツキ】、課長【鬼方カヨコ】、平社員【伊草ハルカ】。
母校ゲヘナ学園から指名手配を受けつつも、立派なアウトローを目指す非合法零細企業である。
彼女たちはあろうことか、対策委員会の面々が足繁く通う馴染みのラーメン屋「柴関ラーメン」で爆破事故(自爆テロ)を引き起こしてしまったのだ。
彼女たちに直接的な悪意はなかったものの、直前に襲撃を受けた経緯もあり、激怒した対策委員会は聞く耳を持たない。
対策委員会と便利屋68。
義憤と抵抗。双方の陣営による全面対決は避けられない状況となった。
先生の的確な指揮もあり、戦況は便利屋側に圧倒的劣勢。勝敗の行方はアビドス側へと傾きつつあった。
だがその時、予想外の第三勢力が突如として介入する。
【ゲヘナ風紀委員会】
ゲヘナ学園の風紀を司るはずの治安維持組織が、なぜかアビドス自治区へと侵攻。
投入された戦力は、百を超える一個中隊規模の大部隊であった。
泥沼の三つ巴の戦いを経て、ようやく静けさを取り戻しかけた頃。
この暴挙の下手人であるゲヘナ学園行政官【天雨アコ】が姿を現す。
アビドスへ足を踏み入れた理由として、「ゲヘナ自治区外で暴れ回る便利屋68の捕縛」という名目を主張するアコ。
しかし、カヨコはそれがただの表向きな建前であることを見破る。
鋭い追及に観念したアコは、自身の真の目的を自ら口にした。
アコの真の狙い─────それは先生の身柄の確保。
シャーレという不確定要素を事前に排除し、近々予定されている険悪なトリニティとの条約(エデン条約)に支障を出させないこと。
加えて便利屋の捕縛も一度に狙うという、一石二鳥の企てを誇らしげに語るアコ行政官。
『─────風紀委員会、攻撃を開始します。対策委員会と便利屋を制圧して、先生を安全に確保してください。総員攻撃準備!』
「よくもショットガンの乱射なんて決めてくれたな……覚悟しろ!!」
「ああもう、どうすれば…………」
「かかって来なさい!便利屋68の名に懸けて返り討ちにしてやるわ!行くわよ!!」
「先生を守る。みんな準備はいい?」
「ええ!」「はい!!」
『敵、包囲を始めています!先生!私たちと便利屋68の指揮、お願いします!』
「”まかせて!”」
先生を奪わせまいと奮い立つ対策委員会。
ついで扱いに憤怒を燃やす便利屋68。
かくして、対策委員会・便利屋68の臨時同盟対ゲヘナ風紀委員会による大混戦の幕が上がろうとしていた。
「──双方。そこまで」
たった1発の乾いた銃声が響くまでは。
「あれって……アラネアさん!?」
光の遮られた昏い裏路地から、ひとつの影が歩み出る。
現れたのは、男装の麗人─────レディ・アラネア。
かつてヒフミと共にブラックマーケットにてアビドスを手助けした、あの謎の傭兵であった。
片手にサブマシンガンを携え、双方の陣営の真っ只中へと優雅に割り込むと、彼女は呑気な調子で声を掛けた。
「やほっ♪ 来たわよ、先生と対策委員会のみんな」
予期せぬ人物の乱入に、対策委員会と先生が茫然とする中、ノノミが口を開く。
「アラネアさん、どうしてここに?」
「どうしてって? 約束通りよ。ラーメンを食べに来たのだけれど……今はそれどころじゃなさそうね」
『あはは……。それには色々と事情がありまして────』
柴関ラーメンであったはずの、惨憺たる瓦礫の山。
彼女がここへやって来た理由を察し、申し訳なさそうにする対策委員会。
惨状を見て落胆してみせるアラネアは、突如現れた闖入者に困惑する風紀委員会と便利屋68を他所に、アビドス陣営と気ままに雑談を始める。
「お前は……!?」
「ハアイ、お久しぶり。同じゲヘナから姿を消した割には楽しそうね、鬼方カヨコ」
ただひとり。
カヨコは愉悦を浮かべるアラネアの姿を目にし、慄然と息を呑んでいた。
「なぜお前がここに居る……ッ! 『
「えっ? どうしたのカヨコ? あの人と知り合いなの?」
『ヴィヴァルディの蜘蛛? あれ……確か、前にどこかで見たような……?』
普段は間抜けな仲間に呆れつつも、豊富な知識と鋭い観察眼で組織を支える便利屋68の要。
冷静沈着な彼女が見せたことのないような表情に、アルも不安を隠せない。
カヨコは必死の形相で、対策委員会、先生、そして愛する仲間たちへ警告を発しようとする。
だが言葉を紡ぐより早く、アラネアは心外だと言わんばかりに切ない表情を作ってみせた。
「そんなに警戒しなくてもいいわ、カヨコ。あなたの大切なお仲間へ手出しするつもりはないもの」
「だって、私が用があるのは…………風紀委員会だもの」
アラネアはおもむろにサブマシンガンを風紀委員会へ向け、一切の躊躇なく引き金を引いた。
放たれた実弾が、風紀委員のひとりを容赦なく穿つ。
味方が眼前で撃ち倒された光景に、呆然と固まる風紀委員会。
当然、撃ち抜いたアラネアを見つめる対策委員会と先生も愕然とするほかなかった。
『何者ですか!? いきなり攻撃するなんて……ゲヘナ学園の風紀委員会と知っての狼藉ですか!』
「狼藉? ゲヘナらしくもなく秩序を謳う連中の割には、”美食”や”温泉”ごときに手を焼いている弱者の集まりに、そんなことを言う資格があるのかしら?」
『な、なんですって……!?』
冷ややかな声で容赦なく風紀委員会を切り捨てるアラネア。
自分たちを「弱者」と切り捨てられ、風紀委員たちの間に激しい動揺が広がる。
当然、その不躾な評価に憤慨した突撃隊長【銀鏡イオリ】と、一年生の【火宮チナツ】が突っかかった。
「部外者のくせに、随分となめ切った評価をしてくれるじゃないか」
「だってそうでしょう? 思慮浅薄で盲信な行政官。精度だけが取り柄の二番手スナイパー。思考を放棄した有象無象の群れ。修羅場を潜った不良たちからは『風紀委員長さえ居なければ楽な連中』と陰口を叩かれる始末。ここまで来れば、ただの穀潰しと変わらないわ」
「穀潰しだと……!? お前……ッ!」
「落ち着いてください、イオリ! 何か誤解をされているようですが、私たちは常日頃からゲヘナのために……」
「なら、なぜ矯正局へ送らないの?」
「えっ……?」
”矯正局”という決定的な単語に、チナツの言葉が詰まる。
アラネアは心底くだらなさそうに吐き捨てた。
「度を越した不良生徒は矯正局へ送るのが筋でしょう。まさか反省室程度の牢屋で済ませているの? お行儀の良いトリニティであれ、実績主義のミレニアムであれ、厳しい厳罰が存在するのに対して、生ぬるい反省室で秩序を保とうだなんて……本当にゲヘナの風紀委員会はおめでたい『いい子ちゃん』ね。お花畑な思考が羨ましいわ」
「そ、それは……」
「あいつ、どこまでバカにすれば気が済むんだ……ッ!」
困惑を隠せないチナツと、怒りで拳を握りしめるイオリ。
他の風紀委員たちも徹底的に見下され、怒りのままに銃口を向け始める。
それでもアラネアの舌鋒は止まらない。
「あら、顔を真っ赤にして。なら、良いことを教えてあげるわ。反省しない不良生徒を更生させる、本当の方法を」
「余計なお世話だ! ゲヘナの風紀は私たちだけで……っ」
「二度と生を実感できないような、絶望的な死刑を見せつけるのよ」
瞬間。アビドス自治区の空気が凍りついた。
風紀委員会どころか、便利屋68、対策委員会、そして大人である先生すらも絶句する。
「な、何を言っているの……」
「あら、死刑は少し言い過ぎたかしら? そうね、具体的には拷問。爪剥ぎ、電気椅子、あるいは完璧な洗脳教育なんてどうかしら? 特におすすめは洗脳教育よ。愛くるしいペットに愛を注ぐように叩き込めば、嘘みたいに素直な子供に変わるわ。これなら初心者でも……」
「やめてください!!」
あまりにも常軌を逸した非人道的な提案。
生徒の口から出たとは思えないおぞましい拷問の言葉に、チナツが叫び声を上げる。
悪党を目指すアルも、彼女に感謝を抱いていた対策委員会の面々も同様に青ざめていた。
アラネアを除く全員が、それ以上聴くことを拒絶していた。
「そんな恐ろしいことを平然と言うなんて……拷問だなんて……っ!」
「あら、優しいのね? けれど”かつてのゲヘナ”なら、この程度の拷問なんて日常茶飯事だったけれど……そうでしょう?」
チラリとカヨコへ視線を送るアラネア。
当のカヨコは固く口を閉ざし、触れられたくない過去であるかのように黙秘を貫く。
「まあ、無理にやらせるつもりもないけれど。マコトが議長の座に就いている限り、そんな面倒なことをする必要もないでしょうし……」
「例え話を聞かされただけでここまで怯えるなんて……失望したわ。こんな弱者に慕われる風紀委員長の器も、大したことはなさそうね」
『──────は……?』
今、この女は何と言った?
アラネアは風紀委員会にとって、決して許しがたい言葉を口にした。
全員が心から尊敬し、絶対の忠誠を誓う存在─────【風紀委員長】に対する明確な侮辱。
殺気。
対策委員会や便利屋と対峙していた時とも、拷問の話に戦慄していた時とも違う。純粋な狂気と激怒が風紀委員会全体を支配する。
それでも行政官という立ち位置にあるアコは、残された冷静さで即座に撤回を命じた。
『今……委員長のことを侮辱しましたね? 今すぐ撤回しなさい』
「事実を言ったまでよ。ゲヘナの不良生徒が改心しない理由をもう一度教えてあげましょうか? 弱すぎる君たちのせいで、彼女たちは好き勝手に暴れ回れるのよ。そんな舐められた組織のトップを務めるなんて、私から見れば空崎ヒナには”委員長の資格”なんて微塵もないわ」
『──ッ!!』
アコの理性が、完全に打ち切られた。
『──風紀委員会、攻撃対象を変更します! 対策委員会と便利屋ではなく、あの不敬者を……ヒナ委員長を侮辱した下衆を即刻粛正しなさいッ! 総員、攻撃開始ッ!』
「あああッ! 流石の私でも委員長をバカにされて黙っていられるかッ!! 私に続けぇッ!」
怒りに顔を歪めたアコの号令と共に、斬り込み隊長イオリ率いる風紀委員会の全戦力が雪崩を打って押し寄せる。
百を超す軍勢。その圧倒的な圧迫感が、たったひとりの生徒へと集中した。
「あのバカ……ッ!」
怒りに任せて突撃する風紀委員会と、感情に任せた最悪の命令を下したアコに、カヨコは頭を抱える。
「死ねえええええ!!!!」
風紀委員会の重火器・戦車部隊から放たれた砲弾が、アラネアを目がけて炸裂する。
過剰すぎる火力の集中により、黒々とした爆煙が巻き起こり一帯を包み込んだ。
だが─────直撃を受けたはずの爆煙の中から姿を現したのは、傷一つないアラネアの姿であった。
アラネア……不敵に微笑むカフカは、瞬時に本来の衣装へと身を包み、両手に二丁のサブマシンガンを構えて楽しげに笑う。
「さあ、ゲヘナ学園風紀委員会の皆さん♪」
「少しばかり……私と踊りましょうッ!!」
ここから始まるのは、一方的で残虐な蹂躙劇であった。
カフカ対ゲヘナ風紀委員会。
彼女たちは対策委員会と便利屋68を置き去りにしたまま、凄絶な乱闘を展開し始めていた。
「一体、どうなっているの……?」
「そんなの私が知るわけないでしょッ!?」
あまりの展開にシロコが困惑し、セリカも目の前の状況が理解できずパニックに陥る。
何故、わざわざ風紀委員会を煽り立てて敵に回したのか。
疑問で頭が一杯になる一同の中、先生は静かにカヨコへと歩み寄った。彼女なら何かを知っていると直感したからだ。
「……先生。こうして落ち着いて話すのは、柴関ラーメン以来だね」
「”カヨコ。アラネアについて何か知っているなら教えてほしい”」
「そうよカヨコ! あの人が現れてから様子がおかしいわ。一体どうしちゃったのよ!?」
「落ち着いて、社長。喋るから……まず第一に、あいつの名前は『アラネア』なんかじゃない」
全員の視線がカヨコに集中する。
彼女は深いため息を漏らし、隠すことなく自身の知る事実を打ち明けた。
「──神秘ハンター『ヴィヴァルディの蜘蛛・カフカ』。かつてゲヘナ学園に在籍していた悪魔で、今や裏社会で知らない者はいない大悪党だよ」
「”神秘ハンター……?”」
「うん。私たちなんかよりずっと深い闇に潜んでいる、本当の意味でヤバい連中だよ。『
「ヤペラー音楽館……その事件なら私も聞いたことがあります。アラネアさんが、そんな凶悪犯だったなんて……」
カヨコの口から次々と明かされる凄惨な罪状。
ある大企業の令嬢であるノノミもその事件の噂を耳にしていたのか、ショックを隠せない。
親切に助けてくれた恩人が、まさか指名手配の凶悪犯だとは信じたくなかった。
「でも、なんでそんな犯罪者がアビドスに来たの……?」
「さあね。けれど少なくとも、神秘ハンターは明確な『目的』があって行動している。それは確かだよ。アビドスに”それ”が存在するんじゃない?」
『────やっぱりありました!』
「アヤネちゃん!?」
『思い出したんです! 便利屋のみなさんの情報を調べていた時、確かに見かけました!』
カヨコに続き、アヤネも思い出したようにアビドス本校から通信を送る。
以前、便利屋について調査していた際、彼女はカフカのファイルにも目を通していたのだ。
当時は武器の追跡に手一杯だったため流し読み程度だったが、変装したアラネアと出会った際に覚えた違和感の正体がこれで繋がった。
画面に表示されたのは、カフカの指名手配ファイル。
顔写真と「趣味:コートの収集」とだけ書かれた簡素な内容。
『改めて調べ直したところ、ヴァルキューレ警察学校からも破格の懸賞金が掛けられていました。その額は……』
懸賞金:108億9900万
「108億ッーーーーー!!!?」
規格外すぎる金額に、セリカを筆頭に驚愕の声が響き渡る。
アビドスの借金の十倍以上に相当する莫大な大金だ。叫び出すのも無理はない。便利屋の面々や先生も目を丸くしていた。
「すごい金額……これだけあれば学校の復興どころか……」
「小さな自治区ひとつなら丸ごと買えてしまいますね……」
『お気持ちは分かります。この金額を見たら誰だってそう考えてしまいますよね……』
「捕まえましょう! ……って、私何を言っているの!? あの人が犯罪者だとしても、命の恩人よ!? 落ち着け私……っ」
混乱する生徒たちの中、先生だけはその破格の懸賞金から恐るべき事実に思い至る。
「”……けれど、それほどの大金が懸けられているのに捕まっていないということは”」
「察しがいいね。要するに、それだけ手に負えない相手ということ。ヴァルキューレはおろか、SRT特殊学園やトリニティの正義実現委員会ですら捕縛できなかった」
それを聞き、アルは脂汗を流しながらカヨコに尋ねる。
「……ちなみにだけどカヨコ。あなたから見て、あのカフカっていう人はどれくらい強いの……?」
「…………ヒナとタイマンで戦ったとしても、余裕で生還するどころか、一方的に打ちのめす可能性すらあるよ」
「「「まっ!?」」」
「勘違いしないでほしいけれど、これは私の個人的な推測だし、ヒナが負けると言っているわけじゃない。けれど……だからこそ、あの女は恐ろしい」
狼狽える仲間たちを前に、カヨコは静かにカフカの恐ろしさを語り続ける。
「あいつは『恐怖』を持たない、優雅で残酷な殺し屋」
「二年前のゲヘナで、当時の生徒会の下でその手腕を振るい、ゲヘナ全体を裏から支配していた」
「立場や人が変わろうと、その圧倒的な実力と頭脳は衰えていない。むしろ悪辣さに磨きがかかっている」
戦場へ目を向ければ、そこに広がっているのは一方的に風紀委員会を弄ぶカフカの姿。
たった一人の敵に翻弄され、崩壊していく風紀委員会。
焦りを隠せず、必死に指揮を執るアコ。
そんな彼女たちに向けられるカヨコの目には、憐憫の色が浮かんでいた。
「このままじゃ……風紀委員会は”壊滅する”」
「アコは……風紀委員会は、取り返しのつかない大馬鹿な真似をしたんだ」
「余計なプライドを捨てて、
カヨコはそう呟くと、戦いへ介入することを完全に諦めた。
自分たちの手には負えない─────悟りと諦観を交えながら、悲惨な戦状を静観するのだった。
風紀委員会へ牙を剥いたカフカ。
数的な戦力差だけを見れば、風紀委員会側が圧倒的に有利であり、集団によるリンチと表現しても差し支えない状況であった。
白ひとつだけで百通りある多彩色を塗りつぶせるか?
答えは否。白だけでは様々な色には勝てず、取り込まれるか逆に塗りつぶされるのみ。
風紀委員会は様々な色がある側だ。
風紀委員たち一人ひとりの能力は決して低くはない。
最強と称される風紀委員長【空崎ヒナ】の領域には届かずとも、十分に鍛え上げられた精鋭たちだ。
互いの死角を補い合い、統制された連携で秩序を乱す違反者を追い詰めていく。
【美食研究会】や【温泉開発部】のような規格外のテロリスト相手には苦戦を強いられるものの、日頃の治安維持を支えてきたのは彼女たちであった。
─────いける。私たちなら。
便利屋などではなく、敬愛する
「「うおおおおお!!!」」
「あら怖い。落ち着きなさい♪」
果敢に突撃した十名の風紀委員。
しかし、その全員がカフカの放った正確無比な銃弾によって一瞬で無力化される。
急所を撃ち抜かれ、悶絶して倒れ込む風紀委員たち。対するカフカの表情には笑みすら浮かんでいた。
「うぐッ……!」
「この程度かしら? もっともっと私を楽しませて頂戴」
「舐めるなッ!!!!」
不遜な態度に激昂し、乱射する風紀委員たち。
カフカは舞うような足さばきで弾幕を回避し、鮮やかに射撃を叩き返す。
単なる銃撃戦に留まらず、懐へ飛び込んでの体術、崩れた瓦礫や地形を利用した立体的な戦闘。あらゆる技術を駆使し、瞬く間に風紀委員を削っていく。
「あら?」
戦況を圧倒する最中、カフカのサブマシンガンの引き金が重く固まった。
空薬莢の排出不良─────いわゆる「ジャム(弾詰まり)」。
高速で連射を果たす自動火器において稀に発生する動作不良が、この決定的な瞬間に発生したのだ。
「ジャムったぞ。今が攻め時だ!」
「撃って!!」
前衛にカフカと同じサブマシンガン、ショットガン、そしてアサルトライフル。後衛にはイオリを含めたスナイパーライフルを扱う狙撃手たち。風紀委員会はサブマシンガンの隙を突く形で、全集中攻撃の陣形を完璧に整えていた。
絶対絶命の窮地。しかしカフカは微動だにせず、それどころか面白可笑しく口元を弛ませた。
銃弾が放たれる0.2秒前。最も近い位置に居た風紀委員たちに、異変が起こる。
「え?」
「残念。近接手段なら幾らでもあるのよ」
手にしていた銃が、真っ二つに断ち割れる。
カフカの手には動作不良を起こした短機関銃ではなく、一振りの刀。
その刀の一閃によって、前衛の
「ちょうどいい
「ッ!? 撃つな、射撃をやめろ!」
異変に気付いたイオリは即座に射撃を止めるよう叫ぶが、遅い。
むしろイオリの制止の声が原因となり、動惑から指先に力が掛かって引き金を引いてしまった者が現れる。
弾丸の雨がカフカに向けて降り注ぐ。
だが、カフカは武器を失った数名の風紀委員をお得意の糸で瞬時にまとめ上げ、そのまま肉の盾とした。
盾の役目をされてしまった風紀委員たち。それだけに留まらず、カフカはありえない形でそれを後衛の狙撃部隊へ投擲した。
「なっ……!?」
投げ飛ばされた味方の質量に耐え切れず、後衛の狙撃部隊はそのまま押し潰される形で後方へ倒れ込んでいく。
味方を盾にされた挙句、人間砲弾としてぶつけられるという前代未聞の惨状に、イオリと風紀委員たちは言葉を失うほかなかった。
「なんだとッ!?」
「うわあああ!!!!?」
後衛は崩壊した。
だが、動揺する暇はない。戦車部隊が味方を助けようと戦車を走らせ砲弾を撃つ準備を始める。
しかし、カフカは砲弾を撃たれる前に接近し、横薙ぎで一閃を描く。
戦車は銃と同じく、二手に分かれ、操縦した乗り手が露わになる。
「戦車が真っ二つに!?」
「そんなバカなッ!?トリニティのヤツとタメ張れる新品だぞ!」
「よそ見は厳禁」
「「しまっ……ッ!」」
言っている間にも乗り手たちは撃たれ、戦車は大爆発を起こす。
その一瞬の隙を逃さず、カフカは抜刀した刀を手に更に一気に間合いを詰める。
風紀委員たちが立て直すよりも早く、鋭く一閃された刃が残る射手たちの武器を次々と寸断。
さらに間髪入れず、地面に転がっていた風紀委員のアサルトライフルとサブマシンガンを滑らかに拾い上げると、両手に構えてパニック状態に陥った陣営へ向けて容赦なく弾丸を叩き込み始めた。
圧倒的な暴力とスピード。
戦場を縦横無尽に駆け巡り、まるで優雅なステップでも踏むかのように敵をなぎ倒していくカフカ。
「ひっ……! 悪魔だ……!!」
「助けて……ヒナ委員長……!!」
一個中隊を誇っていたゲヘナ風紀委員会の圧倒的戦力は、たった一人の「悪魔」の手によって、わずか数分のうちに壊滅状態へと追い込まれていた。
転がる風紀委員たちの惨状。
これにより、一個中隊の大部分は戦闘不能。残るは隊長イオリと10人程度の先鋭、チナツ率いる救護班のみ。
『そんな……百人以上の風紀委員会が……たった一人に……!?』
震える声で呟くアコ。
目の前で繰り広げられたあまりの光景に、冷静さを欠いていたはずの彼女の顔にも、明確な絶望と恐怖が焦りとなって浮かび上がっていた。
硝煙が漂う中、血も傷も一切負っていないカフカが、ゆっくりと残る風紀委員へ向かって歩み寄ってくる。
その手に握られた二丁のサブマシンガンからは、薄く煙が立ち上っていた。
白ひとつだけでは百通りある多彩色を塗りつぶせない。だが、それが黒色なら?
黒は明度と彩度が最も低い「無彩色」であり、光をすべて吸収・遮断する。黒が大きければ大きい程色は黒に塗りつぶされる。
今回の場合、カフカは全ての覆う黒。
風紀委員会は次々と黒に浸食されるように数が潰される。
多勢に無勢。
まさにそう表現せざる負えない戦況だった。
カフカから放たれる
「さて……残るはあなたたちだけね」
カフカは優美に微笑みながら、絶望に身をすくませるチナツたちへ向けて、静かに銃口を突きつけ─────。
「よくも仲間をッ! 許さない……!」
圧倒的不利な状況の中、風紀委員会の切り込み隊長が、倒れた仲間の敵討ちとばかりに怒りの牙を剥く。
【クラックショット】
イオリが愛用するスナイパーライフル。
超遠距離から鋭い弾丸が射出されるが、カフカは戦闘のさなかに散らばった瓦礫を糸で自在に手繰り寄せ、即席の防壁へと変えて見せた。
「いい腕ね、風紀委員会の切り込み隊長と呼ばれるだけのことはあるわ。けれど、その程度の狙撃じゃ私には届かない」
「なら、届くところまで近づくだけだ!」
遠距離からの射撃では決定打になり得ないと踏んだイオリは、即座に近接格闘戦を選択。
互いが放つサブマシンガンとスナイパーライフルの弾幕が交錯する中、両者は一瞬にして肉薄する。
射撃を織り交ぜた熾烈なインファイト。
銃弾を吐き出しながら拳を振るい、蹴りを繰り出し、時には銃床や頬当てで直接殴りつける泥臭い打ち合い。
イオリの頬を、一筋の汗が伝い落ちる。
近接戦闘自体は、彼女にとって決して珍しいものではない。校則違反者を制圧する際、身一つで取り押さえる機会は多く、それ相応の腕組みは鍛え上げてきた自負があった。
だからこそ─────目の前に立つ相手の底知れない実力が、戦慄と共に理解できてしまう。
(コイツ……目茶苦茶強いッ……!)
ただの不良生徒などとは次元が違う。攻撃の威力、身体の柔軟性、そして一撃の精密性。そのどれをとっても完全な格上。
彼女の脳裏に一瞬、敬愛する
目の前の女は、まるで命のやり取りそのものを楽しむ凄絶な狩人。
死線の死闘に狂喜を見出す本物の狂人だ。
(私たちは、こんなバケモノに喧嘩を売っていたのか……! まったく、今日は最高の厄日だッ!)
胸中で激しく悪態をつきながらも、戦いを止めるという選択肢など存在しない。
そう腹を括った瞬間、激しい火花と不穏な重低音がイオリの耳元を掠め去った。
「…………なんだッ!?」
咄嗟にカフカとの距離を取り、飛来したものの正体を確認するイオリ。
そこに突き刺さっていたのは、怪しく明滅する一本の針と、それに繋がれた細いワイヤー。針からはパチパチと激しい電流が放たれていた。
(電流の網針……!?)
「あーら、外れちゃった。残念」
まさかの搦め手の登場に、イオリは警戒の度合いを極限まで高める。
「でも、次は痛いわよ?」
「ッ!?」
高電圧を帯びた網状の針が、逃げ場を塞ぐようにイオリの全身を覆い尽くさんと迫り来る。
(ッ!! 不味い不味い不味いッ! アレに直撃したら絶対
キヴォトスの生徒たちは銃弾に対して強い耐性を持つが、電流に対しては並の人間より多少強い程度に過ぎない。
長引けば間違いなくこちらが不利に追い込まれる─────そう悟ったイオリは、一か八か全存在を賭けた賭けに出る。
回避に徹していた先ほどまでの動きを一変させ、イオリは最後の一手を狙ってカフカの懐へと全力でダッシュする。
カフカもまた、イオリの決死の狙いを察知し、余裕の笑みを浮かべたまま迎え撃とうとした。
「残念、あと一歩……っ」
間合いが交差する、まさに直前。
イオリの右手から、カフカの顔面へ向けて何かが激しく叩きつけられた。
(目潰し……なるほど、砕けたアスファルトの粉末ね)
視界を完全に遮られたことで、カフカの動きが一瞬だけ途切れる。
これこそが、イオリが死地の中で待ち望んでいた唯一の勝機。
「もらったッ!!!」
狙うは前額部。人間のあらゆる防護を穿つ急所。
勝利の女神は、イオリへ手を差し伸べたかに見えた。
「素晴らしい判断ね。……けれど、残念」
刹那、イオリの側腹部に凄まじい衝撃が突き抜けた。
唐突すぎる打撃によって、彼女の身体は無様に宙を舞い、地べたへと吹き飛ぶ。
「ッ!!? 撃たれた……? 一体どこから……」
視界を奪われた以上、カフカから直接的な攻撃は不可能だったはずだ。
引き金を引く仕草も、予備動作すら一切見えなかった。
「な……ッ!?」
痛む体に鞭を打ち、滲む目を開いたイオリを待ち受けていたのは、到底信じがたい地獄の光景だった。
先ほどまで倒れ伏していたはずの風紀委員たち。
その全員が、無機質な銃口を仲間であるはずのイオリへと向けていたのだ。
「お前たち……どうして……」
「さあ、行きなさい♪」
カフカが愉しげに号令をかけた瞬間、糸を引かれた傀儡のように動き出す風紀委員たち。
「やめろ! 私が誰だか分からないのか!?」
必死の形相で訴えかけるイオリだったが、彼女たちの瞳には光がなく、完全に虚無と化していた。生気など一切感じられない。
カフカはイオリと激しい攻防を繰り広げながら、倒れて意識が混濁していた風紀委員たちへと密かに糸を飛ばしていたのだ。
ワイヤーを通じてカフカの神秘による強い「暗示」を流し込まれた風紀委員たちは、自我を奪われたただの駒へと成り果てていた。
駒へと変えられた彼女たちは、命じられるままイオリの身体へと押し寄せ、力任せに組み付いていく。
「何をしているんですか皆さん!! 目を覚ましてください!」
「力、強……っ!? お前、こんな握力強くなかっただろ!!」
「イオリ隊長から離れろーッ!!」
激しい乱戦を遠目で見守ることしかできなかったチナツ率いる救護班も、ここに至って決死の加勢に入る。
イオリにしがみつく仲間を必死の思いではがそうとする救護班の生徒たち。
「え……?」
やっとの思いで一人を引き剥がしたその時。風紀委員の胸元に、一つのプラスチック製の小箱が取り付けられているのが目に入った。
救護班の見覚えがあるそれ─────それは、仲間が所持していた
何故こんなものが、と救護班が戦慄した瞬間、遠く離れたカフカの手元で小型の起動スイッチが掲げられる。
「ポン♪」
呑気で愛くるしい合図と共に、スイッチが押し込まれた。
設置型爆弾が眩い閃光を放ち、イオリとチナツたちを容赦なく包み込んでいく。
緩やかに時間が流れる感覚の中、風紀委員会は何が起きたのかすら正しく理解できぬまま、激しい爆炎と共に吹き飛ばされたのだった。
『ゲヘナ風紀委員会部隊長、および風紀委員全員の撃破を確認しました。…………ぜ、全滅です』
平静を装おうとしながらも、激しく震えるアヤネの声が通信越しに広場へ響き渡る。
目の前に広がる凄惨な光景に、茫然自失となる先生たち。特に便利屋68の面々は、強い動揺を隠しきれずにいた。
風紀委員会という組織の圧倒的な恐怖を、身をもって知っているのは他ならぬ彼女たちだからだ。幾度となく矛交えた天敵の、あまりにも呆気ない敗北。
『そ、そんな……』
『ぜ、全滅だなんて……風紀委員会が、たった一人を相手に……?』
当然、遠方の指揮所から映像を眺めていたアコも例外ではなかった。
あり得ない。これほどの多勢を相手に圧倒するなど、そんな芸芸はヒナ委員長だけに許された神業のはずだ。
アビドス対策委員会と便利屋68の連合を相手にして破れたというのなら、まだ理解の余地はあった。”先生”という不確定要素が介在したのだと無理やり理由をつけて納得させたかもしれない。
しかし、これはあまりにも情けなく、救いようがない。
たった一人の敵を前にして完璧に屈し、風紀委員会は死屍累々と地に伏している。
現在のアコの表情は、絶望そのものであった。
己の独断専行によって先生を手駒に収めるどころか、一個部隊の壊滅という最悪の結果を招いてしまった。崇拝するヒナ委員長に対し、一体どのような顔をして報告すれば良いというのか。
「がっかりね。ここまでゲヘナが弱体化していたなんて予想外だわ」
(そう見えるだけの)死体累々の道を、カフカが優雅に歩いていく。
大きなため息を吐きながら、地に倒れる風紀委員たちを氷のように冷ややかな瞳で見下ろした。
「……まあ、二年前より平和になった結果だということは理解してあげましょう。けれど、強くなりたいという向上心がまるで感じられないわね。君たちが敬愛してやまない委員長が
交戦してはっきりと理解できた。
風紀委員会の全体的な実力は、精々”そこそこ”の域を出ない。最強と称される風紀委員長という絶対的な壁がすぐ近くに存在するせいで、誰もが自らの成長を諦め、「あの人さえ居ればいい」と思考を放棄しているのだ。
母校を裏切ったカフカにとって、ゲヘナの未来などどうでもいい。しかし、
ゆえに─────カフカは”試練”を与えるべく、過激な行動へと出た。
その試練とは。
彼女は倒れ伏すイオリの
「ぐあああああっ!!!?」
『イオリッ!?』
弱り切った身体に、鋭い痛みが突き刺さる。
カフカの突然の凶行を目撃し、先生たちは言葉を失った。
「これを見ている風紀委員会の皆さん。君たちへ贈る、元先輩からのちょっとした『試練』よ」
「今から30秒おきに、カウントダウンを3つ数えるわ。その間に私を撃つなり、彼女を助けるなり、行動を起こせた者が一人でもいるなら、謝罪でも土下座でも何でもしてあげる」
「誰も来ないのなら……君たちの隊長の
あまりにも理不尽な死刑宣告。
その言葉を耳にした場にいる全員の背筋に、凍りつくような寒気が走る。
『ま、待ってください! 冗談ですよね!? 命を奪うなんて、それこそキヴォトスでは取り返しのつかない大重罪ですよ!? それを分かって言っているんですか!!』
「理解……ね。これを見てまだ冗談だと思えるなんて、本当に呑気なものね」
「が、あああああああッ!!!!!」
踏みつける足にジワジワと体重をかけていくカフカ。
それに比例してイオリの絶叫が激しさを増す。はったりなどではない、本気で命を奪う気だという絶望的な事実がその場を支配した。
「”待って!それ以上はやめてくれ!!”」
「先生の言う通り、これ以上アビドスで好き勝手させない」
「助けてもらったことには感謝しますが、これ以上の一線を越えさせるわけにはいきません!」
「そうよ! 私たちの街で血が流れるなんて、絶対に御免だわッ!!」
「ムツキ、ハルカ、カヨコ! 対策委員会に続いてあの人を止めるわよ!」
「はい、アル様!!」
「そうだね、流石にコレは笑えないや……!」
「仕方ない。こればかりは意地でも止めないと」
これ以上の惨劇を許すわけにはいかないと、一斉に飛び出そうとする先生と生徒たち。
こちらへ向かって駆け出す全員に向け、カフカはあの決定的な言葉を口にした。
「聞いて」
その言葉が耳に達した瞬間、全員の身体に強烈な違和感が走る。
「”こ、これは……あの時の……ッ!?”」
「ん!!? な、なにこれ……身体が……動かない……!?」
不可抗力の全身体の麻痺。
前日、先生だけに与えたあの拘束と同じ不可視の束縛が、全員の足をその場に縫い付けた。
「悪いけれど、これはゲヘナ同士の問題なの。見たくないのなら大人しく目を瞑っていて頂戴」
「それじゃ、始めるわね。いち……にーーい」
静かに開始されるカウントダウン。
代償はイオリの命。カフカの宣告通りなら、30秒ごとに進むカウントの中で風紀委員会の誰かが立ち上がらない限り、彼女の命の保障はない。
だが、風紀委員たちは先程の戦闘によって壊滅的な打撃を受けている。動こうと身を捩るだけで、激痛によって指一本動かすことができない。
29秒が経過したその時、アコが通信越しに悲痛な叫びを上げた。
『分かりました! 私たちが……私たちが悪かったですッ! アビドス自治区に無断侵攻したことも、先生を拉致しようとしたことも、あなたに攻撃を加えたこともすべて謝罪します! だから……だからお願いです、止めてくださいッ!』
いつものプライド高い彼女からは想像もつかない言葉。涙を流しながら、風紀委員とイオリの命を救うために必死で頭を下げるアコ。
しかし─────
「残念だけれど、あなたは対象外よ。求めるのは倒れている風紀委員たちの意志。私が求めているのは口先の責任ではなく”勇気”なの。そこから全力で走って助けに来るというのなら話は別だけど」
『そ、そんな……!?』
「さんじゅう。─────カウント1」
「ゔ、あああああああッ!!!!!」
残りのカウントは2。踏みつける足の力が増し、イオリの絶叫が再び肉肉しく響き渡る。
目の前で繰り広げられる惨劇に、倒れ伏す者たちが必死で身を起こそうともがく。
「い、おり……っ!」
「う、動け……動けよッ! この出来損ないの身体……っ!」
「た、隊長……っ!」
チナツをはじめ、イオリと親しい風紀委員たちが立ち上がろうと足に力を込める。
しかし、C4爆弾の至近爆発によるダメージはあまりにも大きすぎた。全身が悲鳴を上げ、膝を立てることすら叶わない。
「カウント2。残り30秒もあとわずかよ」
「あ、ああああ………っ」
残りカウントは1。
イオリの絶叫は弱々しい呻き声へと変わり、すでに意識の限界を迎えていた。
「”やめてくれ……頼むから止めてくれ……!”」
先生の目から涙が溢れ出る。
自力で抗い、シッテムの箱を起動させ、言葉を尽くして拘束を破ろうと試みるが、不可視の縛鎖は微動だにしない。
無情にも秒数は刻まれ、ついにその時が訪れる。
「時間切れね。残念だわ、結局イキの良い獲物は現れなかったみたい」
カフカは静かにサブマシンガンの銃口を、イオリの頭部へと突きつけた。
その先に待っているのは、確実な”死”であった。
「
「イオリぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「”やめろぉぉぉぉぉぉッ!!!!!”」
チナツと先生の悲痛な大絶叫が重なる。
カフカが躊躇なく引き金を引こうとした、まさにその瞬間。彼女の頭上を巨大な影が覆い尽くした。
「────やっと来たわね」
カフカは歓喜の表情を浮かべ、迷うことなく上空に向けて弾幕を掃射する。
放たれた弾丸の先に佇んでいたのは、ひとつの人影。
ゲヘナ学園の校章を模した漆黒の天輪に、猛々しい悪魔の翼を広げた、豊かな白髪の少女─────。
瀕死のイオリの視界に、自分たちのすべてを背負う頼もしい
「委員長……」
ゲヘナ風紀委員長《/b】【《b》空崎ヒナ】
押し寄せるサブマシンガンの弾幕を意にも介さず、己の身体のみで弾き返すと、身の丈ほどもある超大型機関銃【終幕:デストロイヤー】を構え、カフカへ向けて圧倒的な弾丸の嵐を解き放つ。
対するカフカも即座にイオリから足を離すと、華麗な回避行動と共に激しい銃撃戦を開始。
空と地を焦がす壮絶な火線の交錯を経て、両者は互いに視線を交わし、対峙した。
「私の後輩に何をしているの、カフカ」
「久しぶりヒナ♪ いつぶりかしら?」
ゲヘナ最強の風紀委員長と、かつてゲヘナを揺るがしたヴィヴァルディの蜘蛛。
二年の月日を経て、二つの異能が再びまみえる。
静かな憎悪と殺意。愉悦と冷徹。
ヒナとカフカ─────交わることのない二人の関係は、どこまでも歪で険悪そのものであった。
『い、委員長!? 来てくださっていたんですかッ!?』
状況の急変に、驚愕の声を上げるアコ。
委員長は遠方への出張中だったはず。なぜ今、このアビドス自治区に現れたのか。
「アコ」
次の瞬間、アコの思考が完全に凍りついた。
ただ名前を呼ばれただけだというのに、その声色は極限まで冷たく、恐ろしいほどの怒りを孕んでいた。
「委員会を独断で他学園の自治区へ侵攻させたこと。加えて、この惨状」
「あとで、しっかり説明してもらうわ。覚悟しておきなさい」
「は、はいぃ……っ」
アコはその場に崩れ落ちる。
戦況に希望の光が差したとはいえ、この後に待ち受けるお説教を考えれば絶望的であった。
「委員長ッ……!」
「ごめんなさい、私たちは……」
「反省はあと。チナツ、救護班の動力は?」
「な、なんとか動けそうです! 身体は悲鳴を上げていますが……!」
「今すぐアビドスから撤退し、隊員の治療を最優先して。この場の始末は私が付けるわ」
カフカから目を逸らさぬまま、テキパキと指示を飛ばす風紀委員長。
その命令に従い、ボロボロになりながらも救護班は撤退の準備を開始する。
ヒナは背後で傷つく風紀委員たちに向け、ぼそりと小さな言葉を落とした。
「……聞いて。本当なら、許可なく他校の自治区へ入ったことは許されないわ。……でも、みんなが生きていてくれてよかった」
その不器用な慰めの言葉に、風紀委員全員が涙を流す。
その光景を眺めていたカフカは、心底面白そうに口元を綻ばせた。
「随分と慕われているのね。情報部に居た頃とは大違いだわ」
「……そういう貴女こそ変わったね。以前の貴女なら後輩の指導なんてせず、ゴミのように扱って肉の盾にしていたはずだけれど」
「懐かしいわね。あの頃は生き甲斐なんて何一つ無かったわ。つくづくゲヘナを裏切って正解だったと実感するわね」
「それは何より。……なら答えなさい。────”
息を呑むような威圧感がカフカを襲う。
しかしカフカはそれをそよ風のように受け流し、呑気に自分の髪を指で弄くってみせた。
「さあ? あんなおもちゃ、今となっては使う必要もないし、あれでキヴォトスを支配する気なんて微塵もないわ。むしろ私が隠し持っていた方が安全じゃないかしら?」
「貴女が使おうと使うまいと、所持している以上……私たちはそれを破壊する”責任”があるの。隠さずすべて吐いてもらうわ」
二人が発する一触即発の重苦しい空気に、思わず後ずさりする先生と対策委員会。
いつの間にか便利屋68が姿を消していることにも気づかぬまま、現場がカフカとヒナの緊張感に呑み込まれていたその時─────対策委員会にとって聞き馴染んだ、気だるげな声が響いた。
「うへ~……こいつはまた、えらいことになってるじゃ~ん」
「「「ホシノ先輩!」」」
小鳥遊ホシノ。
アビドス対策委員会の最上級生が、どういうわけかこの土壇場でようやく姿を現した。
対策委員会が安堵と共に詰め寄る中、ヒナはホシノの姿を認めるやいなや、驚きに目を見開く。
「うへー……遅刻しちゃった? ごめんね~、お昼寝が気持ち良すぎてさ♪」
「昼寝ぇ!? こっちは命がけだったのよ!? とんだ怠け者ね!」
「ん。遅い。もう大体片付いた。けど……」
「これはこれで、すごく大変な状況なんですよね……」
傷つきながら逃げ惑う風紀委員たち。
そして、至近距離で一歩も引かず睨み合うカフカとヒナ。
確かに「大変な状況」だと、ホシノも状況を察した。
「で、結局これはどういう状況なの?」
「色々とあって、便利屋と一緒にゲヘナ風紀委員会とやり合っていた。けど、途中でアラネア……ううん、カフカが乱入してきてたったひとりで風紀委員会をボコボコにした」
「ちょっと待ってシロコちゃん、状況説明はありがたいんだけど……情報が多すぎて呑み込めないというか……」
「小鳥遊ホシノ」
「ん? 君は……」
困惑して頭を抱えるホシノに、ヒナが静かに呼びかける。
「空崎ヒナ。ゲヘナ学園の風紀委員長を務めているわ。……勝手な申し出だとは理解しているけれど、アビドスに協力を要請させてほしい」
「いやいや、急に言われても……」
「そうよ! 協力しろだなんて、第一アンタたちが無断でアビドスへ押し掛けて来なければ……!」
「それについては、本当に申し訳なかったと思っているわ。これを機に、風紀委員会が
ヒナは静かに、深々と頭を下げる。
その予期せぬ誠実な態度に、対策委員会の面々は驚愕の表情を浮かべた。
キヴォトス全域にその名を轟かせる最強の風紀委員長が、他校の生徒に向けて頭を下げるなど、誰も想像すらしていなかったからだ。
「その上で、無礼を承知でお願を聞いてほしいの」
「────カフカ。彼女はゲヘナ学園が総力を挙げて追っている大罪人よ」
「二年前、姿を消して以来、情報部ですら足取りを掴めなかった相手なの。勿論、タダで協力してくれとは言わないわ。ゲヘナ学園から相応の報奨金を支払うことも約束する」
ヒナにとって、カフカは何としてでもここで討ち果たすべき宿敵。
この場で姿を現した意図は不明だが、千載一遇の好機であることに違いはない。
しかし相手は、自分一人だけで完封できるほど甘い怪物ではない。ここは誇りを捨ててでも、アビドス対策委員会へ協力を求めるのが最善だと判断したのだ。
頭を下げるヒナの姿を見つめ、ホシノは溜息を吐くと、意を決したように答えた。
「顔を上げてよ、風紀委員長ちゃん。……良いよ、そのお願い、乗ってあげる」
「ちょっとホシノ先輩!? 相手は私たちを助けてくれた恩人なのよ!?」
セリカが思わず声を張り上げると、ホシノはやれやれと首を振って彼女を嗜めた。
「セリカちゃんの言う通り、アラネア……ううん、カフカさんは恩人かもしれない」
「……けれどね」
アビドスを血に染めようとしたおバカさんを、
ホシノの全身から、凄まじい殺気が放たれる。
ブラックマーケットで貸しがあったとはいえ、己の愛する大切な居場所を汚そうとした暴挙は決して見過ごせない。
一人称は”おじさん”ではなく”私”。ホシノの堪忍袋の緒は、完全に切れていた。
普段のだらしない姿からは想像もつかない圧迫感に、気圧される対策委員会。
ホシノは愛銃「Eye_of_Horus」を構え直すと、静かに先生へ指示を仰いだ。
「良いよね、先生?」
「”……分かった。彼女には聞きたいことも、言わなきゃいけないこともある”」
─────彼女を捕まえよう。
ヒナから明かされたカフカの真実を知った上で、なお彼女との対話を試みるため、先生はシッテムの箱を起動し、指揮の準備を整える。
これはただの殲滅ではなく「捕獲」。対策委員会の4人も先生の意図を理解し、複雑な思いを抱えながらも武器を構えた。
前方に風紀委員長。
後方にアビドス対策委員会。
いかなる不測の事態にも対応できるよう先生が指揮を執り、全員でカフカを詰むための完璧な包囲網を形成していく。
絶対絶命とも言えるその状況を前にして、カフカはなおも愉しげな笑みを浮かべていた。
「ふふ♪」
「……何がおかしいの?」
「別に? さて、困ったわね。ゲヘナとアビドスの最強が二人、そこに精鋭揃いの対策委員会。おまけに先生の神がかり的な指揮が加わるとなれば、切り抜けるのは極めて困難。大勢を相手にしたせいで今の私は疲労困憊、誰が見ても絶体絶命ね」
「”……降伏してくれるの? それなら一番助かるんだけど”」
いいえ、とカフカは優雅に首を振った。
「申し訳ないけれど、今の私はゲヘナのカフカではなく【神秘ハンターのカフカ】なの。過去の因縁なんて関係なく、誰であろうと捕まるわけにはいかない身なのよ。そうでしょ……」
「────
彼岸、葬送
「”!? みんな伏せてッ!!”」
先生の即座の警告も虚しく、対策委員会は一歩反応が遅れ、ホシノとヒナでさえ防ぎきれぬまま、高密度の斬撃が直撃した。
「「「きゃあああ!!」」」
「うぐっ!?」
「がぁっ……!?」
彼岸花が狂い咲くように舞い散り、吹き飛ばされる生徒たち。
激しい煙が巻き起こる中、カフカの隣に新たな影が静かに舞い降りる。
黒いフードとロングコートを身に纏った、背の高い人物。
深く被ったフードによって顔は覆われているが、覗く髪は濃灰色、そして頭上にはひび割れた異質な天輪が浮遊していた。
その片手には銃ではなく、漆黒の刀身に無数の亀裂が走る不気味な剣が握られている。
「……お前は遊びすぎる。余計な敵を作ってどうするつもりだ」
「今後の私の”脚本”に必要な展開なのよ。それじゃあ、エスコートをお願いできるかしら?」
その人物はカフカの腰を片手で引き寄せ、カフカもまた当然のようにその肩へと身を預けた。
「逃がさないッ!!」
誰よりも早く跳ね起きたヒナが、去りゆく二人に向けて怒りの弾幕を叩き込む。
しかし謎の人物は避ける素振りすら見せず、背中で平然とヒナの攻撃を受け止めた。
一撃必殺の威力を誇るデストロイヤーの連続射撃を背中で受けながら、微動だにせず立ち尽くす黒フードの人物。
カフカから「刃ちゃん」と呼ばれたその者は、悔しさと怒りに顔を歪めるヒナを振り返り、酷薄な笑みを浮かべた。
「今のが……ゲヘナの風紀委員長の
「ッ!」
「いい、なかなかだ。……………だからこそ味わえぬ今が惜しい」
名残惜しそうに呟くと、腰を深く落とし、剣を低く構え直す。
「余さず受け取れ────彼岸、葬送」
振り抜かれた一閃と共に、血のように鮮烈な赤い斬撃が再びヒナを襲う。
「ぐ、あああああッ!!!!」
今度は正面から防ぎに入ったヒナだったが、斬撃に込められた圧倒的な質量に耐えきれず、瓦礫の山へと叩き付けられた。
「がぁっ……!?」
斬撃のダメージか、それとも壁に激突した衝撃か。
風紀委員長の座に就いて以来、久しく忘れていた強烈な”痛み”がヒナの全身を苛む。
吐血し、膝をつくヒナ。
その姿を横目で見下ろしながら、カフカは倒れ伏す全員に向けて優雅に手を振った。
「じゃあね、ヒナ。それと対策委員会と先生。またいつか、顔を合わせる日を楽しみにしているわ」
「カフカぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
怨嗟に満ちたヒナの叫びを背に、カフカたちはアビドスの郊外へと姿を消していく。
一体、彼女たちの目的は何だったのか。
それを確かめる術もないまま、彼女たちの存在はアビドスを吹き抜ける砂嵐のように、瞬く間に過ぎ去り消えていった─────。
まさかMAPPA産のスタレアニメを見られるとは…このリハクの目をもってしても…。
星核ハンターの深掘りしてくれるのかな……銀狼が愉悦の使令だったから更にプロット考えし直しの羽目になったの……(泣)逆にブルアカは連邦生徒会長の件で面白かったし、ストーリー構想がスムーズに進みそう。
あとFOX小隊実装おめでとう!限定なのでみなさん課金はほどほどに……。
【おまけと小話】
Q. 神秘ハンターってなにやかしたの?
A.色々。義憤やら金儲け、喧嘩売られた等など。
カイザーハローワークの倒産 → サム
ゴールデンフリース号不正豪遊事件 → 銀狼
DOG小隊敗北事件 → 刃ちゃん
ヤペラー音楽館 → カフカ
因みに、カフカの二つ名である【ヴィヴァルディ】は”外の世界”から流れた遺物【アントニオの楽譜】を使って演奏したのをきっかけで名が付けられた。その後「慈愛の怪盗」と楽譜を巡って結果音楽館は壊滅。あーかわいそう
Q.なんでイオリを酷い目に遭わせたの?
A.思いのほか風紀委員会が弱すぎたため、失望と苛立ち故の行動。同時にヒナ及びゲヘナへの挑発する意味合いもある。尚本気でイオリを殺す気はなかった模様。
あとカフカの冷酷さを強調するためと作者が不憫なイオリを見たいがためです。あーかわいそう
《解説》カフカについて
今作のカフカはかつてゲヘナ学園に所属し
ある日を境にカフカはエリオと出逢い、自身の願いのためにゲヘナ学園を裏切りました。
同時に
そのため、犬猿の仲で知られるヒナとマコトが協力してでも追い求める唯一の相手でもある。当然なにか知っていそうなカヨコも周知の事実。
なら、なんでそんな重要人物を三年生であるアコが気付かなかったのか?
アコの人物像として「行政官」という地位に登り詰めた程、血の滲むような努力の末に獲得した努力家とヒナから明言されている。→つまり当時はただのゲヘナ生で下っ端だった。
一方で感情的で公私混同に走りやすい性格で、昔からヒナのことを心酔していた可能性あり。それにより上位組織の生徒会のことは二の次だったと推測。
それに伴い、アコにとってカフカは名前だけ聞いたことある有名人程度だったわけです。
まあ、もし知ってたとしても蹂躙される未来は変わりませんが。あーかわいそうあーかわいそう
※2026年8月2日 改稿済み