『終焉』が近いであろう青空世界で私達は生きる......らしいよ?   作:エリオ(別同位体)

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GWにギリギリ投稿できませんでした(泣)今からでもGW真っ最中ってことになりませんかね?(無茶ぶり)

皆様のおかげでUA4000、お気に入り100突破しました。かんしゃあ!(natu
感想も10件以上ももらったり、投稿してランキングにランクインしたりなど、すごく励みになりました。これからも出来る限り頑張って投稿しようと思いまする。

今回はちょっとした情報開示回とある人物との対面です
あと長いです、2万字行ってます。おめえ加減しろよと言われていもしょうがないくらい長いです。どうぞ


輝かしい烈日の下で 中編

ゲヘナ学園

学園都市キヴォトスでも一二を争うマンモス校の一角。

「自由と混沌」を校風を掲げ、破天荒・型破りな生徒が多く在学し、領内の治安は「キヴォトス1位」と謳われる程非常に悪い。

 

学級崩壊は常識、教員機関も死当然な世紀末の学園を「秩序と規則」で抑え込むのがキヴォトス最強格のひとり空崎ヒナが率いる【ゲヘナ風紀委員会】

 

風紀委員……彼女たちは行政官の命によりアビドス自治区に侵攻し、シャーレの先生と(ついでに)便利屋68の捕獲を試みるが【神秘ハンター】の手によって部隊は壊滅。

アビドスに足を踏み入れた風紀委員は暫し、救急医学部のもとで治療を専念することになる。

 

場面は静まり返った風紀委員会本部室へと移る。

室内を支配しているのは、肌を刺すような重苦しい沈黙だった。

 

「今回の不祥事で、ゲヘナが被った損害は計り知れないわ」

 

淡々と、しかし冷徹さを帯びた声が室内に落ちる。

書類の束に埋もれた机で、委員長 空崎ヒナは頬杖をつきながら、手元の報告書に視線を落としていた。

 

「アビドスでの実力行使は、対外的には侵略行為と取られても文句は言えない。現場に投入した風紀委員たちはあの悪魔の手によって戦闘不能。……イオリに至っては、全治一ヶ月の重傷よ」

 

ヒナの視線がゆっくりと上がり、目の前の人物を射抜く。

 

「動機は政治的な判断だったようだけど。もしシャーレがトリニティとの条約に不利益をもたらすと危惧したのなら、やり方は他にあったはず。先生がゲヘナを訪れた瞬間に接触するか、或いはチナツと共にD.U.へ向かうべきだった」

 

言葉を重ねるごとに、部屋の空気はさらに密度を増していく。

 

「結果として、本来監視すべき区域に綻びが生じ、不良たちの脱走を許した。昨夜もトリニティ自治区で温泉開発部がまた無許可発掘を強行したと、正義実現委員会から直々に苦情が届いているわ」

 

ヒナは報告書を机に置くと、冷ややかな眼差しで、諸悪の根源である行政官を見下した。

 

「以上が事の顛末。……それで、アコ。何か言い分はあるかしら?」

本当に、申し訳ございませんでしたぁっ!!

 

それは、教科書に載せたいほど見事なまでの土下座。

床に額をこすりつけ、天雨アコは涙ながらに猛省の意を示す。

 

自分を想うがあまりの暴走であったことは、気持ちとしては理解できなくもない。

だが、組織を預かる長としてはその視野の狭さは看過できるものではなかった。アビドスの一件も頭が痛いが、ヒナが何より呆れ、そして戦慄したのは別の点にある。

 

「……理解に苦しむわ。あの悪魔を正しく認識していなかったなんて。情報不足どころか、無知にも程がある」

「返す言葉もありません……。まさか、あの女が委員長の追っている指名手配犯だったなんて……」

 

感情に任せて、ゲヘナが最も恐れる凶悪犯に正面から玉砕しにいった愚行。

相手は、かつて風紀委員になる前のヒナをすら打ち負かした、あの『紫蜘蛛』の悪魔なのだ。その恐ろしさを、三年生である自分たちは誰よりも身に染みて理解しているはずだった。

ヒナは、同じく最高学年であるはずのアコが、なぜあそこまで無謀に牙を剥いたのか。

撤退の間際、彼女に問いかけた際に返ってきた「想定外の答え」を思い出していた。

 

『……えっ? 彼女が、あの『ヴィヴァルディの蜘蛛』? 委員長が長年追っている、あの指名手配犯……なのですか?』

『そうよ。……待って、何かおかしいわね。アコ、あなたも私と同じ十七歳でしょう?』

『ええ、左様ですが……』

 

ヒナの眉間に険しい皺が寄る。

 

『当然、()()()()()()()を共に経験してきたはずよ。しかも、彼女は当時、生徒会に籍を置いていたの。その程度の事実、あのマコトだって知っているはずだわ』

『…………』

『…………アコ? 正直に答えて。あなた、あの悪魔のことをどれくらい知っているの?』

 

数秒の沈黙が室内を支配する。

やがて、アコは消え入りそうな声で、しかし決死の告白を口にした。

 

『…………申し訳ありません! 二年前から委員長を『推す』ことに全霊を捧げていたため、当時の生徒会の内情など、さっぱり存じ上げませんでしたッ!』

『──────(#^ω^)』

あだぁっ!?

 

鈍い音が響き、アコが悲鳴を上げる。

まさか、行政官たる者が「推し事」に熱中するあまり、カフカという脅威を一切認識していなかったとは。発覚したその衝撃的な事実は、今なおヒナの胃を鋭く抉り続けている。

 

だが、いつまでも頭を抱えているわけにはいかない。

不良生徒の鎮圧に加え、トリニティとの条約問題という火種が、すでに足元まで迫っているのだ。

 

「ハァ…しょうがない。アコ、今から一緒に()()()と話し合いに行くわ」

「げぇ…。あの連中のもとへ行くんですか?」

 

「独断によって部隊壊滅」や「超法規的機関重要人物の身柄捕獲」とか度を過ぎた越権行為を他所の自治区でやらかした以上、罰を与えなければならない。

そうしなければ、連邦生徒会や近々同盟予定のトリニティは愚か、各学園から追及は免れない。

後処理と状況悪化を防ぐためにまずはあの連中と話を通さねばならない。

 

「原因の私が言うのもなんですが、あのタヌキども絶対に無茶苦茶なことを言い出しますよ」

「そうね。でも、心配しなくてもいい。少なくとも反省文ぐらいで済むと思うから。今回の件、万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)は風紀委員会に対して道理に合わない罰は課さない」

「どうしてそう言い切れるんです?」

「それは……行ってみれば分かる」

 

ヒナは席を立ち、床に伏していたアコもその後を追う。

 

万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)

 

ゲヘナ学園の生徒会。風紀委員長と行政官は不倶戴天の天敵と話をつけに本部室から彼女たちの本拠地へと向かった。

 

 


 

 

「キキキッ、聞いたぞヒナぁ。風紀委員会は随分とやらかしたようだなぁ?」

 

出会い頭、鼓膜を逆なでするような不躾な笑い声が二人の耳に突き刺さる。 

声の主は、執務机の上に横柄に脚を投げ出し、およそ人の上に立つ者とは思えないマナー違反の姿勢で待ち構えていた。

 

ゲヘナ学園生徒会【万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)】生徒会長兼議長 羽沼マコト。 

 

彼女は隠そうともしない嫌味を顔いっぱいに張り付かせ、獲物を追い詰めたつもりでいる子供のようにニマニマと口角を吊り上げる。

マコトはおもむろに手元の報告書を指先で弄ぶと、追い打ちをかけるように次の言葉を紡ぎ出した。

 

「廃校寸前のアビドスで武力行使。う~~ん?おかしいぞ?このマコト様の記憶では便利屋68を捕まえる理由で遠征を許可したはずだが、アビドスと敵対した挙句まさか噂の”シャーレの先生”の身柄を確保しようとしていた、と情報部の報告書に書いてあるんだが?あん?」

「くっ……!」

 

思わず、むかついた言い方に拳を握るアコ。

とはいえ、言っていることは事実であり、何も言い返せない。

 

「ハアァ……また始まりましたよ、マコト先輩の嫌がらせ」

「懲りないわね……。マコトちゃん程々にしなさーい」

 

いつもと変わらない議長の嫌味を見ながら、のんびりと茶菓子と紅茶を楽しむ他の4人のメンバー。

【棗イロハ】はソファでゴロゴロと読書尽くし。

【京極サツキ】と【元宮チアキ】は万魔殿の愛娘(アイドル)【丹花イブキ】と遊んでいた。

 

「ねぇねぇ見て見て、ニンペロさん!上手にかけたぁー!」

「あら上手にかけているじゃない、ふふふっ」

「やっぱりイブキは可愛いですね!これも記念に撮りましょう!」

 

その様子は家族のように微笑ましく、見て癒される。

その反対側は陰湿な空気が流れているが。

 

「やってくれたな行政官。近々トリニティの奴らと条約があるというのに連邦生徒会、管轄下の組織に喧嘩を売ったとなると…おまえたちの上司である我が万魔殿の信用と信頼は地に落ちる瀬戸際、どう責任とるつもりだぁ?」

「信用と信頼も何も最初からないのでは?」

「アコ」

 

ヒナの鋭い肘打ちが、アコの側胸部へと吸い込まれるように叩き込まれる。

 

「ゔぅッ……っ!?」

 

不運にも急所を捉えたのか、アコは短い悲鳴を飲み込むと、衝撃を受けた箇所を震える手で押さえ、その場に崩れ落ちる。

顔を歪め、脂汗を浮かべて悶絶するその姿。

その無様な姿を、マコトは満足げに、唇の両端を吊り上げて見つめていた。

鼻を鳴らしてほくそ笑みながら、その瞳の奥で嗜虐的な思案を巡らせる。

 

「さて……」しばしの沈黙ののち、最悪の妙案を思いついたマコトは、勝ち誇った笑みを浮かべたまま、震える二人へ逃れられぬ『罰』を宣告した。

 

「やらかした以上、罰は与えんとな。そうだなぁ……よし決めたぞ、風紀委員会は罰として3か月間活動予算を3分の1にとする!」

「なぁ!?」

 

マコトからの罰は理不尽なものだった。

そもそも、風紀委員会は万魔殿から何かしら理由をつけて予算を削減しようと嫌がらせをしている為、その点に関してはいつも通りだが…。

罰の期間を設け、かつたった3分の1の予算で活動するとなる話が違ってくる。

 

ただでさえ風紀委員会は秩序維持にお金がかかるというのに、その程度の額で三ヶ月過ごせと?

冗談じゃない、アコはこの罰に対し抗議した。

 

「いくらなんでもそれは横暴すぎます!馬鹿なんですか!?」

「そのくらいのことしたのだと、自覚しろ」

「と言うか、いつもしてますよね、予算削減。予算を減らされるのは目をつぶりますが、3か月は長すぎます!」

「なんだ?やらかした張本人のくせにやけに偉そうだなぁ?」

「すべての責任は私に背負わせればいいんです!それにまだ治っていない人もいるんですよ。彼女たちの治療費はどうするんですか!?」

「そんなの自己責任だろう?そっちがどうにかしろ」

「ッ! このタヌ……」

 

もういいアコ、黙って、話ができない

 

そうヒナが強く言い放つと犬のように吠えていたアコは怖気づく。

黙って聞いていたが、完全に相手のペースに乗せられている。これでは本題に入ることができない。強制的にアコを下がらせ、今度はヒナがマコトの前に立つ。

 

「確かに風紀委員会は問題を起こした、それは否定できない事実。罰なら受けるつもりよ」

「ほう……。意外だな、いつものおまえなら暴力で私のやり方を否定すると思っていたが、今日はやけに素直じゃないか」

「そうね、でも今回は貴方たちの相手をしにきたんじゃない。()()()()()()()

 

真摯な姿勢を見せるヒナを見て、マコトはくだらないと鼻で笑い糾弾する。

 

「ハ!何を話すつもりだ。言ったはずだが、今回は100%おまえたちに否がある。罰を軽くしようとしても報告書にはびっしりと書いて……」

「その報告書には”一行だけの空白”があるはずよ」

 

ヒナが指で差した所。報告書には確かにアビドスの顛末について正確に書かれている。

だが、一行だけ空白のままの状態。まるで抜き取られたかのように文章が書かれていない。

書類仕事ではありえないミス。この空白のところをマコトは凝視した。

 

「……確かにあるな。おいサツキ、この報告書抜けがあるぞ。後輩の指導はしっかりしておけ」

 

指摘されたところを気にし始めたマコトは責任者であるサツキに問いかける。

彼女は万魔殿の一員であると同時に情報部長を務める有能な生徒。

報告書は情報部の正確な調査に基づいて作成されたもの。つまり、この書類の最終責任者はサツキ本人である。だが……

 

「マコトちゃん、その報告書のことなんだけどそれ、()()()()()()()()()()よ。抜けなんてないわ」

 

珈琲を堪能しつつそう答えるサツキ。当の本人は正式な書類だと言い切り、聞いたマコトは不審に思った。

 

「は?いやいや、何を言っている。こんな抜けがある書類が?ふざけているのか」

「そうは言っても書いた本人は()()()なの。その子は真面目でしっかり仕事する子なんだけど……私も最初なんでここだけ書いてないのか。何度やり直しを求めても『()()()()()()()()()』だって一点張りで言うこと聞かないし、しょうがなく提出したのよ」

「まったく、書いた奴はとんだサボり魔だな!他に何か言っていたか」

「そうね。確か……」

 

 

 

おもいださせないで

 

 

「ひどく()()()()()()そう言っていたわ。なんでかしら?」

「怯えていただと?」

 

報告書にはアビドスの状況と風紀委員の失態が書かれているだけ。

どこに怖がる要素があるのか?

何度読んでも分からず、書いた奴は錯覚したのか、気でも狂ったのか。

 

「書いた子はわざと書かなかった。だから空白ができている」

「……ヒナ、何を企んでいる。こんなことをしてもなんも意味がないぞ」

「企んでなんかいない。そう仕上げたのはその子の意思だよ。彼女は()()()()()()()()()()()から」

 

書類を仕上げた子を想うヒナ。その顔は同情の念に満ちており、余り他人の前でするような表情ではなかった。

 

「読んだら分かると思うけど、そこはアビドスでの戦闘記録が書かれるはずだった箇所よ」

「……確かにちゃんと読めば、シャーレ、アビドス、便利屋の連中が風紀委員と激突しそうな場面で途切れているな。おい行政官、あの場にいたおまえなら分かるはずだろう、何が起こったか教えろ」

「それは………むぐッ」

 

正直にアコはあの日のことを言おうとするが、ヒナによって言葉は遮られる。

 

「おいヒナ、なんで邪魔をする。やっぱり何か企んで……」

「ここはアコじゃなくって、私が言った方がいい。それとマコト、この件はふたりだけで話をしたい」

「ここまで焦らして今更おまえとふたりきりになれ、と?くどい。こっちはおまえたちと違って忙しい身だ。このあとイブキの為に予定を立てているのだ。サッサと言え」

「忠告はした。()()()で言う以上、覚悟して」

 

ヒナとしては本当はマコトとだけで話がしたかった。

風紀委員会と万魔殿。水と油のように合わず、他所からは犬猿の仲で知られている関係。

 

だが、そんな彼女たちが手を取り合う例外が存在する。

 

その存在こそ、カフカ

 

かつてのゲヘナの同胞であり()()()()

裏世界では神秘ハンターのナンバー2、或いはヴィヴァルディの蜘蛛の名で知られる悪女。

ヒナは事の真実を言い出す前に、彼女だけが…否彼女たちしか知らぬ()()()()()()を告げた。

 

()()()()()()()()

「──────」

 

その名が静寂を切り裂いて放たれた瞬間、マコトの空気が一変した。

まるで時間が凍りついたかのように、数秒の間、彼女は微動だにせず固まる。

 

やがて、その顔から表情という表情が抜け落ちていった。つい先ほどまで浮かべていた、人を食ったような嫌味ったらしい笑みも、他者を蔑むような嘲笑も、跡形もなく消え失せている。

そこに残されたのは、冷徹なまでの「真顔」。ただ一点を凝視するその眼差しが、事態の深刻さを雄弁に物語っていた。

 

「2年間私たちの前で姿を見せなかった彼女とアビドスで再会したの」

「彼女はイオリ含めた風紀委員を蹂躙し……」

 

ヒナが当日の状況を説明していた途中、なにかが割れる音が響いた。

 

「サツキ先輩?」

 

全員が音がした方へ目を向けると、サツキが震えていた。

手に持っていた筈のティーカップは床で割れ、入っていた珈琲は豪華な絨毯に染みを作る。だが、そんな些細なことよりサツキの様子がおかしくなり始めた。

 

「痛いのはイヤ痛いのはイヤ痛いのはイヤ痛いのはイヤ痛いのはイヤ痛いのはイヤ痛いのはイヤ痛いのはイヤ!」

 

まるで死人のように顔は青白く染まり、腕を擦りながら、狂ったように呟く。呼吸は過呼吸となり、普通ではない様子なのは一目瞭然だった。

 

「ちょ、どうしちゃったんですか!サツキ先輩!」

「落ち着いてください!」

 

尋常ではない雰囲気を感じたチアキとイロハはサツキに寄り添う。

それでも尚、震えや動悸が収まらない。そんな時、同じく様子を見ていたイブキもまたサツキに寄り添う。

 

「サツキ先輩、大丈夫ー?」

「ハア、ハア、……──────い、いぶきちゃん?」

「どうしたの?顔色ものすごく悪いよ…。お腹でも痛いの?」

「……大丈夫。お腹は痛くないわ。……ただ、怖い……昔のことを思い出したの」

 

イブキのおかげで落ち着きを取り戻したサツキ。

3人は良かったと安堵し、彼女の背中をさする。

 

この光景を見たヒナはため息をつき、隣にいるアコは状況が飲み込めずいた。

 

「やっぱりこうなった…」

 

サツキは極端な怖がりで痛がりな性格。予防接種でさえ極端に痛みを避けている。

それこそ彼女の理想(ゆめ)は催眠術で「世界平和」を願う程に"痛み"に嫌悪感を持っているのだ。

 

彼女の言動を推測するに、あの悪魔によって過去に酷い目に合わされたことがあったのだろう。ここまで取り乱すとはヒナ自身予想しなかったが、余程トラウマを植え付けたのだろうと察せられる。

 

状況が落ち着いた所で、サツキが荒れてから黙っていたマコトが口を開く。

 

「イロハ」

「はいはい、なんですかマコト先輩。いま、手が離せないのですが……」

「確か、このあと出かける予定だったよな」

「そうですよ、マコト先輩がイブキの為にモモフレンズの……」

 

「予定ができた。悪いが今回のお出かけ、()()()()()()()()()

「はい?」

 

このあと、万魔殿はD.U.地区にあるモモフレンズのオフィシャルショップに行くはずだった。

可愛がっているイブキの為にペロロ人形など買ってあげると約束し、万魔殿は皆と一緒に楽しむつもりだった。

 

お出かけを何より楽しみにしていたはずのマコトが自ら辞退すると言ったのだ。

目先の楽しみを放棄し、普段とは違うマコトの様子に驚きを隠せないイロハとチアキ。

 

「マコト先輩、いっしょに行かないの?」

「ああ、ごめんなイブキ。急な用事が出来てしまってな、席が外せなくなった」

「そっか……。残念ーー」

 

急な用事ができてしまったことにイブキは残念そうな顔をする。

そうなってしまった原因になったサツキは申し訳なさそうにマコトに頭を下げた。

 

「……ごめんなさい、マコトちゃん」

「謝罪はいらん。()()()()()、とっと忘れろ。忘れないなら私が行けない分、イブキと楽しんで上書きしてこい」

「……わかったわ。そろそろ行く準備をしましょう、イブキちゃん。ペロロロちゃんシリーズ売り切れるかもしれないわ」

「はーい。あとペロロロちゃんじゃなくペロロ様だよー、サツキ先輩」

 

手をつないで退出したサツキとイブキ。

イブキがいるなら大丈夫だろうと、安堵のため息を吐くマコトは、残ったふたりに顔を向けた。

 

「ふたりとも。今から私はヒナと事を起こしたバカ行政官と話し合いをする。おまえはチアキと一緒にイブキとサツキの面倒を見ろ」

「は、はい!分かりました!今すぐ行ってきます!」

 

命令口調だが、その顔は普段の傲慢さや場違いな自信はなく、彼女らしかぬ冷徹な表情。

そんな彼女を見たチアキは怖がり、扉へと背を向けて走っていった。

残されたイロハは理由を問い質そうと、事の事情を知ろうとする。

 

「待ってくださいマコト先輩。さっきからどういう……」

「イロハ」

 

何も聞くな、問うな。

ただ無言で、そう言ったかのように圧を掛けるマコト。

圧に屈したのか、事情を薄々察することが出来たのか、イロハは食い下がった。

 

「……ハア、分かりました。大人しくイブキと遊んできます。いつぐらいに帰ってくればいいです?」

「ざっと夕方までは遊んで来い。いいか、分かったのならさっさと行ってこい」

「はいはい」

 

生返事で返しながら、イロハもまた扉の方へ向かい、部屋から出ていく。

 

「マコト先輩♪」

 

室内はヒナとマコト、茫然とするアコのみ。話を始めようとした途端、聞き馴染んだ幼い声と共に扉からチョコンとイブキの顔が出てきた。

 

「! な、なんだイブキ、忘れものか?」

「うんうん……お仕事頑張ってね♪」

「……キキッ、ありがとな、いっぱい遊んでこい」

「うん!行ってきます♪」

 

お出かけの挨拶と共に今度こそイブキが行ったのを確認していたマコト。

 

「ふうぅ……さて」

「詳しく聞かせてもらおうか、ヒナ。あの悪魔について存分にな」

 

机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってくるマコト。

彼女は風紀委員の身に起こった状況を聞き出すために、誰もいない室内で威圧的に述べる。

 

対するヒナもまた、当事者であるアコを交えて、マコトとの秘密裏の会議を開く。

 

────── プテルゲスの悪魔 ■■カフカについて、包み隠さずに。

 

 


 

 

マコトはヒナとアコの口から、報告書に書かれていなかった箇所……あの時の惨劇と風紀委員会の現状を知る。これにより風紀委員会が無視できない程の大きなダメージを負っていたことを理解し、同時に指揮官であったアコの浅はかな行動について改めて、顔を引きつらせた。

 

「なるほど状況は理解できた。……しかし行政官。おまえバカか?奴は一つの学園を容易く滅亡させるほどの危険人物だぞ。それを知らずに無謀に突っ込むなど……正気とは思えん」

「くっ…!……悪かったですね、無知で馬鹿で、愚かで、どうせ私なんて……」

「あんまりアコを責めないで、マコト」

 

正直ここは共感するが、これ以上アコを責めたらそれはそれでめんどくさいので、ここいらで止めておく。

 

「奴のことは覚えているな、ヒナ」

「もちろん。今でもあの声に容貌、性格、戦い方、どれもが心に刻まれているもの」

「ああ。敵対するもの、逆らうもの、みな等しく地獄へ叩き殺す無慈悲で残忍な女。私の中ではずっとそうだ。……おまえやアホ行政官の話を聞く限りひとあたりは変わっているようだが、本質は変わってないだろうな」

「……あの、そろそろ、バカとかアホ呼ばわりするのは嫌なので、教えてほしいのですが……あの女って結局何者なのですか?おふたりは彼女とはどんな関係が?」

 

アコが質問すると、ふたりは思い出すようにカフカのことについて答えた。

 

「【()()】。奴のことはお前でも知っているだろ」

 

【雷帝】その名はアコでも知っていた。

かつてゲヘナ学園のトップに立っていた人物。2年前にキヴォトスを混沌へと陥れた暴君。

策略、発明、政治など色々な分野に於いて万雷の天才と謳われたにも関わらず、数多の生徒たちを鉄拳政治で苦しめたゲヘナの汚点。

 

とはいえ、マコトたち高等部の必死の抵抗のおかげで失脚。

現在はゲヘナを「卒業」し、キヴォトスでその姿を消している。

卒業して以後、あの頃のゲヘナを思い出させぬよう、ヒナとマコトは彼女の痕跡を念入りに根絶させたおかげでアビドス含む他所のところでは「雷帝」という生徒という存在はあまり知られていないようだ。

 

「当時のアコは下っ端だったけど、姿と名前だけは知っているはず。そうよね」

「ええ、二年前のゲヘナの生徒会長のことですね?覚えていますが、それが?」

「あの女は()()()()()だ」

 

マコトからの答えにアコは驚愕する。

雷帝の部下?あの女が?

たった数文字の情報に混乱しているアコ。マコトは言葉を続ける。

 

「下っ端だったお前が知らないのも当然だ。奴は裏では雷帝直属秘密個人部隊【プテルゲス】のリーダーとして、雷帝のゲヘナの支配に一役買っていた」

「たったひとりの手によって雷帝に逆らう者を粛正し、囚われた身になった者は残酷な拷問を施してきた。爪剥ぎ、電気椅子など目をつむりたくなるものをな。……サツキもその内のひとりだった」

 

あのときサツキが狼狽えたのは、その時のトラウマのせいだったのか。

同時にアコは納得した。そのような危険因子を委員長と議長が追っているわけを。

 

「なるほど、道理で委員長が危険視するはずです。雷帝が居なくなった後、彼女はゲヘナから()()()()、拷問に使っていたその腕を外で奮っているというわけですから」

「……逃げた、か。残念ながらそれは少し違うわアコ」

「え?」

 

違うとは?雷帝の部下という肩書きに他者を傷つけることを厭わない人間性が原因で追っているのじゃないのか?

 

「カフカが雷帝の関係者だったことも、追っている理由のひとつだけど、それよりも重要な点がある。雷帝が失脚した後、私たちはカフカを捕え「プテルゲス」という名も消そうとした。だが、そこには予想にもしなかったふたつの事実があったの」

「疑問に思わなかったのか。幾ら私たちでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「何を言っているんです?実際、あの時クーデター成功したじゃないですか」

 

そうだ。雷帝を失脚しなければ、二年前ような支配が続いていた。

ふたりを含めた反雷帝派という人たちのおかげで、今の形のゲヘナ…キヴォトスが存在しているのだから。

 

「違うの、アコ。あの時クーデターが成功していたのは、目的である雷帝自身が()()()()()から」

「弱っていた?」

「ああ。クーデター終盤に差し掛かった時、雷帝自らこう答えたのだからな……」

 

ヒナとマコト

ふたりは思い出す。

傷を負ってまで雷帝とは違う混沌を求めて、支配ではなく自由を得るために戦ったあの日を。

 

連邦生徒会や他所の学園の支援を以って、雷帝が支配する部下や拠点を必死の覚悟を持って潰し、雷帝がいる本拠地を攻め込み、遂にその首を獲る事できる瞬間だった。

 

待っていたのは皇帝如き威圧を振りまく傲慢な王の姿ではなく……

血にまみれ、無様に倒れ伏す敗北者そのもの。

 

ふたりを待っていた雷帝は弱りながらも、地に伏させた屈辱か、王としての命令だったのか、彼女は血を吐きながら呟いた。

 

────── カフカが()()()()()()

 

そう述べ、その日を境に雷帝の権威は終わりを告げた。

同時にカフカという生徒もゲヘナから消えたことも、だれひとり知られぬままに。

 

「あの日、奴は上司であった雷帝を裏切り、倉庫に蔵置された”10の雷帝の遺産”を奪い、ゲヘナから逃亡した。私たちはその後に乗っかったに過ぎない。それがクーデターを成功させた本当の真実だ」

「待ってください、雷帝の遺産って…!」

「さすがのアコも、これは知っているね。【雷帝の遺産】彼女によって生み出されたゲヘナの負の遺産。キヴォトスを一瞬で破滅へと導きかねない危険な兵器よ」

 

【雷帝の遺産】それは雷帝自ら余興として発明した破壊兵器。

雷帝は現在キヴォトスにはいない。だが、彼女が遺した数々の発明品は戦後の地雷原のようにキヴォトス各地に残されている。

ヒナとマコトは普段のしがらみを忘れ、遺産を含めた雷帝に関するものを消すために誰も知られぬよう破壊している。

 

改めてカフカの危険性が高いことが理解できる。

何せたったひとりでキヴォトスを一瞬で危機に陥ることができるから。

 

「これで理解したか行政官。奴のことを、その危険性を存分にな」

「はい、しっかりと理解しましたとも。……でも、おかしくないですか?」

 

カフカのことについて理解したアコはある疑問が思い浮かぶ。

現状における彼女についてのゲヘナの対応のことだ。

 

「いまの彼女はヴィヴァルディの蜘蛛という名前で知られているんですよ。なぜ、こんな分かりやすい痕跡を風紀委員会と万魔殿は追わないのですか?」

「答えは簡単なことよ。妨害されているから」

 

ヒナは答えた。ゲヘナがカフカを追えない理由を。

 

「神秘ハンターのひとり【パンクロード】によってデジタルデータは改竄され、物理的に追えば【血塗れの剣客】か【熔火騎士】のどちらかによって阻まれる。当然、カフカ本人はどんなことがあろうとゲヘナには寄り付かないし、精々ヴァルキューレに指名手配を依頼するしか私たちが出来ることは限られていた」

「だが、そんな時アビドス自治区で奴は風紀委員を前に姿を現した。何を企んでいるか知らんがな」

 

尻尾を隠していた相手が自ら、尻尾を晒しだした。

罠かもしれないが、後も先も百も承知の上。このチャンスを逃さない!……はずだったが。

 

「でも、約束しちゃったのよね。アビドス生徒会、小鳥遊ホシノ含めた対策委員会とシャーレの前で風紀委員が許可なく自治区に入ることができなくなったし」

「あ……」

 

ここに来て、対策委員会との制約が問題となった。

アビドスでの出来事。あの時は状況として銃先をアビドスに向けるわけにもいかなかった為、ヒナの謝罪で矛を収めてもらい、報酬を盾にカフカの捕獲を協力してもらえたが……【血塗れの剣客】の増援によって逃げられた。

 

また協力を要請しても、時間が経ってもいないのにあちらからすれば、嫌な顔をするのは確実。

加えて、アビドス自治区でのカイザーPCMの不審な動きに、シャーレの先生がいる。ゲヘナが今更介入するれば、アビドスに渦巻く状況が更に複雑になるのは間違いなかった。

 

「結果論だったとは言え、このやらかしは本当に大きいぞ。これではカフカを追えん、本当にやらかしたな。本 当 に や ら か し た な !

「二回も言わないでください!今回のことはほんとに反省しているのですから!……こほん。それにわざわざ本人を追わなくとも、他の神秘ハンターを捕えればいいのでは?」

「……神秘ハンターをね。いい線ね。盲点なのは他の3人も劣らず、自治区を簡単に滅ぼす怪物ぞろいだけど?」

「いくらヒナでも、その3人分相手するのは無理だな」

「……失言でした、忘れてください」

 

アコはいい線を考えたが、カフカを捕まえる為に他の神秘ハンターに手を出そうとしても、彼女たちの仲間意識が強く、実行すれば待っているのは報復。現実的に考えても無理であった。

 

「どっちにしろ、ヒナの話を聞いた限りどうやら奴はアビドスで何か企んでいるとみた。今回の件は万魔殿が責任を請け負う。奴については秘密裏に対策を練ってやる」

「罰として予算を減らそうと考えたが……変更だ」

「怪我をした風紀委員の治療費はこっちが負担するが、代わりに行政官は責任として反省文3000枚を提出。ヒナに至っては連帯責任としていつもの業務の2倍は専念しろ。ただ条約が控えている為、1週間の休暇は与える。万魔殿議長としての命令は以上だ」

 

そう告げながら、マコトは姿勢を崩す。

普段の彼女なら罰に乗っかって権力を笠に着た嫌がらせをするが、今回のことは重く見たのか鞭だけじゃなく休暇という飴も提示した。

ヒナは平然と受け取り、アコも同じく罰を受け取る。

 

「話は終わりだ。こっちは情報をまとめ、奴の足取りについて詳しく調べる、お前たちは風紀委員の仕事に全うしろ」

「承知したわ。私たちは少し情報部の方に寄り道して、業務に戻るわ。帰りましょうアコ」

「うう……。どうしてこんな目に……」

 

話し合いは終わった。

カフカという共通の敵が現れた以上、手を結ぶが、それ以外はいつもの関係に戻る。ただそれだけだ。

ふたりが外に出たのを確認したマコトは身体を傾け、上の空になる。

 

「……まったく、奴め、とんだタイミングで姿を見せてくれたな」

 

忌まわしい表情を浮かべるマコト。彼女はいま、ある秘密を抱えていた。

 

(連邦生徒会長が対雷帝の策として立案し、今となってトリニティとの融和を目的とした不可侵条約)

(【エデン条約機構】通称ETO。ヒナは乗り気だが、あの陰険共と手を取り合うなどごめんだ)

(だから、条約を壊す。そのために裏で第一回公会議に追放された()()()()。使えそうな存在の手がかりを見つけたというのに。カフカめぇ……)

 

【エデン条約】

それは、積年の仇敵であるゲヘナ学園とトリニティ総合学園

「氷炭相容れぬ」両校の全面戦争を回避するために構想された、絶対的な停戦協定である。

かつて暴威を振るった「雷帝」を抑え込むべく超人が発案し、現在はトリニティの現首長、桐藤ナギサの手によって再構築されていた。

 

だが、万魔殿の議長、羽沼マコトにとって、その条約は自身の野望を阻む忌々しい足枷に過ぎない。彼女は条約を骨抜きにし、あるいは破棄させるべく、闇に紛れて牙を研ぎ続けていた。

 

しかし、計算違いが起きた。「カフカ」という名の不確定要素が横槍を入れたことで、精緻に組み上げたはずの計画が音を立てて狂い始めていたのだ。

 

(……とは言え、雷帝関連の動きを見過ごすわけにもいかんのは事実だ)

 

マコトは苦々しく思考を巡らせる。潜伏していた雷帝の関係者が、あろうことかゲヘナの面前に姿を現した。この事実が桐藤ナギサの耳に入れば、彼女は脅威に対抗すべく、条約の締結をさらに加速させるだろう。マコトにとってこの展開は最悪のシナリオだった。

 

(まずは情報統制だ。カフカの動向をトリニティ側に悟らせてはならん。徹底的に隠蔽し、闇に葬るべきだな)

 

義務と野望。その両方を天秤にかけながら、マコトは独りごちる。

雷帝もトリニティも存在しない、己が覇を唱える理想の世界。

その実現のために、彼女の脳細胞は激しく火花を散らす。

 

(……待てよ。確か以前、興味深い報告が上がっていたはずだ……あった、これだ)

 

ふと思いついた記憶の断片を追い、マコトは机の引き出しを乱暴に漁り始めた。

指先が掴み取ったのは、一通の機密書類。

そこには、不穏な事件名が刻まれていた──【パテル派通り魔事件】と。

 

「キキキッ……コイツは……『使()()()』な……!」

 

書類の内容を確認するにつれ、彼女の口角は醜く吊り上がっていく。

マコトは受話器を手に取り、迷わずダイヤルを回した。通信の先は、仇敵の牙城であるトリニティ。手元の報告書には、惨劇の記録が淡々と記されていた。

 

〇月●日 午後10時36分。パテル派の集団が寮近辺の路上にて通り魔に遭遇。交戦の結果、計19名が戦闘不能。全治1ヶ月の重傷を負い、救護騎士団へ搬送。負傷者の大半に重度の【()()】が認められ、襲撃犯は【()()()()()()】のような姿であったと証言。

 

以上の点から、犯人は指名手配犯【()()()()】と推定。

当該事件以降、正義実現委員会およびティーパーティーの動向に不審な変化あり──

 

受話器を握るマコトの瞳に、昏い悦楽の炎が灯った。

 

 


 

 

とあるオフィスビル。

対策委員会がカイザーPMⅭ理事によって借金が重ねられ、ピンチに陥ったその後。

小鳥遊ホシノがアビドスのみんなの為に覚悟を決め終えた、その裏側で起きた出来事。

 

ヴィヴァルディの蜘蛛カフカはある人物を待っていた。

 

ブラックマーケットが一望できるオフィスビルの最上階。

質素な社長室で黒コートの仲間『刃』を侍らせ、優雅な姿勢で椅子に腰を下ろしていた。

かつてはそこそこ名が知れた企業が所有していたが、カイザーコーポレーションによって買収・取り込まれて今となっては無人の屋城と化していた。

 

「大変お待たせしました。遅れてしまい、本当に申し訳ありません」

 

男性の声がふたりの後ろから耳が届く。

声の主はふたりの逆側、社長室のエグゼクティブチェア(社長椅子)に腰掛ける。

 

その姿は黒いスーツを着込んだ”大人”

しかし、その体は影の様に黒く無機質。右目にあたる箇所には発光部があり、そこから顔全体に亀裂が走り、黒い靄が漂っている。

先生のような普通の人間ではない、かと言ってキヴォトスに住まうロボットや獣人系のものではない。まさに異形の人物がそこにいた。

 

「構わないわ。貴方にも色々都合があったのでしょう。カイザーPMⅭ理事とアビドスを貶め、更に小鳥遊ホシノを手に入れようと暗躍し、挙句はシャーレの先生の監視もしていたとなると大変でしょうに。でも、こんなに待たせるなんて、せめて遅れの連絡ぐらいは欲しかったわ────Mr.黒服?」

「クックック…私の名前を含め、そこまで見透かされているとは。流石、と言ったところでしょうか」

 

自身がやった行動に目的までもさえ、看過された黒服と呼ばれた大人は称賛する。

何せ彼にとって……否、()()()()()()()()にとって目の前にいるふたりの生徒は興味深い存在であったから。

 

「貴方方のことは存じておりますよ、【ヴィヴァルディの蜘蛛】カフカさん【血塗れの剣客】刃さん」

「我々【ゲマトリア】は以前から貴方たち【神秘ハンター】に興味を持っていましてね」

 

──【ゲマトリア】

神秘ハンターと同じキヴォトスに潜む謎の存在。

かつては、神を目指し観察する者たちが集まった組織ではあったが、それも今は昔。

現在は黒服を含む他の大人たちがその名を借りて使っているだけの別の組織。

 

神秘(Mystery)】を探求し、理解を深め、或いは実験を経て【恐怖(Teller)】へと対抗するため。そして異形の大人たちが求める最終目的【崇高(Sublime)】へと至る為に創られた組織。

その危険度は神秘ハンターとは別ベクトル。

崇高に至るためならばキヴォトスに住む人たちに害をなすことも厭わない。そんな組織がなぜ神秘ハンターに興味を持つのか、それには理由があった。

 

「運命の奴隷エリオに従い裏社会で活動する5…失礼、今は4人でしたか。小鳥遊ホシノと同格の力を持ちながら、やっていることは盗人、と周りから嘲られているようですが……」

「莫大な神秘を宿すオーパーツに、自然発生した複製(ミメシス)を主に狙う理由。噂の”脚本”を用いた不可解な行動。…………そして神秘を基に使役する謎のチカラ」

「あまりにも不自然。しかし、我々と似たようなことをする組織。悪く言い換えれば、同族の匂いがしたので」

「いずれ接触する機会を探っていたのですが、まさかそちらから来るとは思いもしませんでしたよ」

 

すべての始まりは、カイザーPMC理事への挨拶を終えた直後のことだった。黒服の端末に届いた、一通の不可解なメッセージ。送り主の名は「ヴィヴァルディの蜘蛛」。

その正体が「神秘ハンター」であると察した黒服は、すぐさま接触を試みた。

相手も二つ返事で応じ、黒服が指定した場所で会う約束を取り付ける。そして今、この邂逅に至る。

 

「私たちがここに来た理由はたったひとつ。貴方と契約しに来たの」

「ほう?それはそれは……」

「神秘ハンターとゲマトリアとの同盟と言い換えてもいい。私たちは私たちの目的の為に、貴方たちは崇高に至るために、ね?」

 

不敵な笑みを湛えるカフカ。神秘ハンターまでもがゲマトリアとの接触を求めるとは。

事態の進展に、黒服は邪悪な好奇心を隠しきれない様子で、面白おかしく彼女の話を聞き始めた。

 

「我々の目的さえ把握しているとは。なら、あなた方の目的とはいったい?我々と同じ崇高を目指す為?或いはキヴォトスを支配するためですか?……いえ、それとも()()()()に対抗するために…?」

「残念だけどすべては言えないわ。エリオとの制約があるもの。強いて言えば、贖罪と抗うためね」

「贖罪?いいえ、これ以上はよしましょう。仮に同盟を結ぶなら、神秘ハンターは見返りとしてゲマトリアに何を提供するのですか?」

 

黒服の問いにカフカは3つ、と三本指を立てながら答えた。

 

「私たちが今まで集めたオーパーツにミメシスのデータ。私たち4人分の神秘のデータを提供するわ。神秘や恐怖だけじゃない、その中には【知性(Logos)】や【激情(Pathos)】についても詳しく記載されたものをね」

「! それはなんと破格なっ……」

 

彼女たちが集めたすべてのデータをこちらに渡す。

崇高を目指すゲマトリアにとってそのデータは魅力的な見返りだった。

 

対価はゲマトリアが研究しているすべてをこちらに提供することよ、全員分をキッチリにね

「なに…?」

 

しかし、その喜びは束の間。カフカが出した対価を聞いた途端、黒服は難色を示し出した。

 

「……全員分、ですか」

「そうよ。集めたすべてを差し出すのだから、そのくらいは欲しいもの」

「……私の研究だけならば、喜んで差し出すのですが、全員分となると厳しいかと。このことは一度議会に持ち込みますので、一旦保留に………」

 

黒服が外へ出ようとすると、突如としてカフカは黒服に銃を向け始めた。

 

「…………なんのまねですか?」

「なぜ、ハンターが今更ゲマトリアに接触したか、分かる?貴方が一番まともな部類だからよ。Mr.マエストロは話せば分かるが、理解者がいないと成り立たない。Mr.ゴルコンダは別人格が存在する。マダム・ベアトリーチェは論外の愚者。その中で冷静で判断を下す貴方だけがこの密談に参加することができた理由よ」

「なるほど。私をそう評価されるとは光栄ですね。……しかし、私だけで決断を下せと?我々は確かに仲間ではありませんが、同じ目的のために手を組む同志なのです。……申し訳ありませんが、話はここまでです。同志を売るような契約はしたくないので」

「勘違いしているようだけど……そうもいかないの」

 

「なに?……グッ!?」

 

黒服がを外そうとした瞬間、身体が浮いたかと思えば勢いよく壁に激突し、首筋に冷たい感触が走った。

 

「交渉して欲しいわけじゃない。()()()()って言っているのよ」

「じゃないと、その首が飛ぶわよ」

 

視線の先にいたのは、剣を手にした刃。常人には見えぬ速度で、瞬く間に黒服を組み伏せていた。完全に自由を奪われた今、わずかな抵抗すらも死に直結する。動けばその首が飛ぶだろう。

 

「クックック…随分と、強引なやり方ですね。小鳥遊ホシノさんとは大違いです」

「その小鳥遊ホシノを契約で言いくるめた貴方にだけ言われたくないわ」

「クックック…そう言われると何も言い返せませんね」

 

ここに来て、自分がやってきたことが帰ってきたのだと悟る黒服。

彼の命は既に神秘ハンターの手によって握られてしまった。

 

「私たちの提案に乗った時点で、貴方に拒否権なんて存在しないわ。さあ、どうするの?」

 

突きつけられた最後の警告に、彼は重い沈黙を返した。

 

提示された条件に首を縦に振りさえすれば、命だけは助かる。

もしここにいるのが、彼ではない「キヴォトスの大人」であったなら、今頃は涙を流して許しを請い、保身のために仲間さえ売っていたことだろう。

 

しかし、その場にいた者の選択は、彼女たちの予想を鮮やかに裏切るものだった。

 

「……答えは変わりませんよ」

 

死を目前にしながらも、その声に揺らぎはなかった。

 

「崇高に至れなかったのは至極残念ですがね。──他者の手でもてあそばれるくらいなら、私は潔く死を選びますよ」

 

自嘲気味に、それでいて確固たる意思を込めて、彼は最期の矜持を口にした。

 

「──そうか」

 

その一言に、彼の覚悟をすべて聞き届けたという確信が宿った刃は迷いなく獲物を振りかぶり、その頸動脈を断たんとした──その時だった。

 

『ストップ、そこまでだよ。ここで彼を殺しちゃったら、脚本(エリオ)のプロットが台無しになっちゃうでしょ?』

 

何もない虚空を電子の火花が駆け抜け、青白い光の粒子が編み上げられていく。

瞬く間に形を成したのは、ホログラムとして現出した「神秘ハンター」の一員

──【パンクロード】のハッカー、銀狼だった。

 

『カフカ、今はどんな状況?』

 

銀狼は手元のコンソールを操作しながら、気怠げに尋ねる。

傍らで見守っていたカフカは、短く、ため息混じりに応じた。

 

「交渉は決裂。契約は失敗よ」

『そ。ならちょうど良かった。ここは私に任せてくれない? 刃やカフカにはない、とっておきのカードを持ってるから』

 

ふてぶてしく、しかし絶対的な自信を覗かせる少女の提案に、カフカは微かに肩をすくめる。

 

「ええ、好きにしなさい。──刃ちゃん、その人を離してあげて」

 

カフカの落ち着いた声が響くと、切っ先から放たれていた刃の殺意が、潮が引くように収まっていく。

死の淵から引き戻された黒服は、荒い呼気を繰り返しながら、生温い空気とともに生の実感を噛み締める。

 

『やっほ。こんにちは、まっくろくろすけさん。絶賛ピンチなところ悪いんだけど、ちょっと私とお話ししない?』

 

軽薄な、しかしどこか底知れない少女の声が響く。

黒服は歪んだ笑みを浮かべ、震える喉を震わせた。

 

「クックック……初めまして、【パンクロード】の銀狼さん。それで……死に損ないの私に、一体どのようなご用件で?」

 

銀狼は空中に浮かぶウィンドウを無造作に閉じると、ホログラム越しに黒服を真っ直ぐに見据えた。

 

『単刀直入に言うよ。──貴方に「エリオ」からの伝言がある』

「……何ですって?」

 

運命の脚本家の名に、黒服の瞳が微かに揺れる。

銀狼の唇が動き、音の届かないはずの空間に、ある「言葉」を紡ぎ出した。

 

『――――────』

 

その内容を聞いた瞬間、黒服の思考が止まる。数秒の沈黙ののち、彼は得心がいったように深く頷いた。

 

「それは……なるほど。確かに、抗いがたい提案だ」

 

黒服は乱れた身なりを整えると、恭しくも、野心に満ちた声で応じた。

 

「いいでしょう。我々ゲマトリアは、その契約、ならびに同盟を受諾いたします」

『話が早くて助かるよ。……あ、ついでに。このことは他のゲマトリアには絶対内密にしてね』

「……それは、ベアトリーチェがいるからですか?」

『半分正解。で、もう半分は「絵画の大人」に対してだね』

「ゴルコンダとデカルコマニーにも、ですか……」

 

訝しげに問い返す黒服に対し、銀狼は警告を込めた眼差しを向ける。

 

『そう。エリオの予測から見ても、あの二人はキヴォトスに致命的な傷を負わせかねない。どうしても協力者が欲しいなら、あの自称芸術家だけにしておきなよ』

「分かりました。……マエストロなら、話は通じるでしょう」

 

密約は成った。キヴォトスの裏側で、脚本の歯車が回り始める。

神秘ハンターとゲマトリア。ふたつの組織は各々の目的のために、躍動する。

 

秘密の会議はここにて、閉幕した。

 

 


 

その後、黒服は去り、会議が終わり、静寂が戻った室内。

ホログラムの青白い光がゆらゆらと揺れ、銀狼の不満げな声が空間に溶け出した。

 

『まったく、カフカも意地悪だね。もし、本当にあの『まっくろくろすけ』を殺しちゃってたら、どうするつもりだったの?』

 

浮遊する光の粒子越しに、彼女はジト目でカフカを射抜く。

それを受けたカフカは、艶やかな笑みを湛え歌うように答えた。

 

「あら、ああでもしなきゃ、あの大人は思い通りに動いてくれないもの。すべては脚本通りに進んだだけよ」

 

ワイングラスの縁をなぞるような優雅な仕草で、彼女は言葉を紡ぐ。

 

「それに……そもそも最初から殺すつもりなんてないわ。ねえ、刃ちゃん?」

 

問いかけに応じるように、傍らに控えていた黒装束の人物…刃が動く。

深く被っていたフードに指をかけ、重厚な黒のコートを肩から滑らせる。

すると、「静謐」という言葉が似う()()の素顔が露わになった。

 

「『殺気を出しながら脅せ、ただし殺すな』……そのような暗示をかけるのは、お前くらいだろう」

 

低く、地を這うような声が響く。

コートを脱ぎ捨てたその姿は、膝裏まで届くほどの長い黒髪が夜の帳のように流れる。

鋭利な刃物を思わせる双眸は赤く燃え、その瞳に見据えられるだけで凡夫ならば息が止まるだろう。

 

首元や腕、肌の露出した箇所には痛々しいほどに包帯が巻かれいる。

暗い色調の華服は彼女が纏う死の気配をより一層際立たせていた。

 

『というか、それ暑くない? そこ、アビドスだよ?』

 

銀狼がホログラム越しに、呆れたような、あるいは純粋な疑問を投げかける。

燃え盛るような日差しが降り注ぐこの地に、その重厚な装いはあまりに場違いに見えたからだ。

 

「無駄な心配だ」

 

刃は視線を向けることすらせず、短く切り捨てた。

外気温の揺らぎなど、その身に刻まれた業の痛みを宿す彼女にとって、些末な問題でしかなかった。

現に彼女のひび割れた天輪と剣がそれを示していた。

 

「カフカ。これでお前の”脚本”は上手くいきそうか?」

 

刃の静かな問いに、カフカは愉悦を含んだ吐息をついた。

 

「ええ。これで私の仕事はひとまず終わり」

 

彼女は宙を見つめ、まだ見ぬ明日をなぞるように言葉を紡ぎ出す。

 

「カイザーPMC理事と黒服の謀略によって、小鳥遊ホシノは囚われの身となり、対策委員会はかつてない窮地に陥る……。けれど、絶望の淵に立たされた彼女たちの前に、あの『先生』が立ち上がるの。便利屋68、ゲヘナ風紀委員会、そしてティーパーティー。本来なら相容れないはずの者たちが一つに重なり、ホシノは救い出され、理事の悪事は無惨に打ち砕かれるわ」

 

そこまで一気に語ると、カフカは預言者のような眼差しを崩し、いたずらっぽく微笑んだ。

 

「私が関われたのは、ほんの少しだけ。エピローグへのスパイスのようなものね。そもそも──」

 

彼女は一度言葉を切り、窓の風に髪を揺らせながら物語の続きを告げる。

 

私が本格的に舞台に上がるのは、“三章”からだもの

 

『……それにしては、ちょっと派手に動きすぎじゃない?』

 

ホログラムの向こうで、銀狼が退屈そうに指を動かしながら口を挟む。

 

『特にゲヘナの風紀委員会のところ。わざわざ刃を同行させてまであんな騒ぎを起こすなんて、カフカの『脚本』にしちゃあ、ちょっと趣味が悪くない?』

「別にいいじゃない、君だって脚本通り動くなんて退屈でしょう?ね、刃ちゃん?」

「俺の脚本はD.U.……SRTの連中に関してだ」

 

その指摘に、それまで沈黙していた刃が重い口を開く。

 

刃は無造作にそう言い捨てた。彼女の「脚本」が幕を開ける場所は、ここではない。

連邦生徒会によってSRT特殊学園の閉鎖が決定し、行き場を失った生徒たちが雨に打たれるその時からだ。

それまでの時間は、単なる「余興」であり、カフカに付き合ったのも手持ち無沙汰ゆえの気まぐれに過ぎない。

 

『ああ、はいはい。要するに『暇』だったわけね』

 

銀狼はつまらなそうに風船ガムを膨らませ、パチンと弾けさせた。

 

『で、このあとどうするの? 次は私の番だし、二人はその辺のチンピラとでも遊んでいく?』

 

銀狼の問いに、カフカは指先で自身の顎をなぞり、思案するように目を細めた。

 

「…………そうね」

 

次の出番が来るまで、まだ時間はたっぷりとある。

カフカは不意に思いついたように、二人へ視線を向けた。

 

「ねえ、二人とも」

「なんだ」『なに?』

 

訝しげに応じる刃と、興味なさげに返す銀狼。

そんな二人を前に、カフカは獲物を見つけた猛禽のように、艶やかに笑う。

 

「──狩りに興味ない? それも、とびきり大きいの、を」

 

カフカの瞳の奥に宿る、抗いがたい支配の輝き。

その言葉に、銀狼は面白そうに口角を上げ、刃はただ黙して愛剣の柄に手をかけた。

 

これからキヴォトス全域を揺るがすであろう、巨大な嵐の予感。

しかし、彼女たちが紡ぐ「脚本」の全貌を知る者は、まだ誰もいない。

 

「それじゃあ、行きましょうか。────()()()と遊びにね」

 

カフカの軽やかな声が砂漠の風に溶け、三人の影は静かに、目的地へと向かう。

物語が真の混迷を極めるのは、もう少し先の話。

アビドスの熱を帯びた風だけが、彼女たちがそこにいた証をかき消すように、虚しく吹き抜けていった。




ゲヘナ学園(マコト・ヒナ)
黒服とカフカ(謎の契約)
以上、アビドス外での出来事でした。

タグの【性転換】と【刃ちゃん】で察っていたと思いますが、女体化刃ちゃんです。
こちらの世界ではCVはミキシンじゃなく林〇めぐみ氏。イメージ図は六作様が遅刻エープリルフールで描いたTS化星核ハンターをイメージしています。

次回は対策委員会編1、2章最終回。
プロットとしては時系列順を採用予定。
「パヴァーヌ1章」→「エデン条約1~3章」→「カルバノグの兎1章」→「パヴァーヌ2章」

もう薄々察していると思いますが、どのエピソードに彼女たちが"脚本"に割り当てられるかお楽しみに。
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