銀河の闇を切り裂くように、一本の光の線路が伸びていた。
蒸気と星屑をまとい、銀河鉄道999は定刻通りに走っているはずだった。
だが、その進路の先に、本来存在してはならない影が現れる。
空間が歪み、星の配置が一瞬だけ狂ったように揺らぐ。
次の瞬間、巨大な艦影が、まるで線路を塞ぐ壁のように顕現した。
列車は急減速する。
汽笛は鳴らない。
ブレーキ音だけが、無音の宇宙に異様に響いた。
それは攻撃でも迎撃でもなかった。
だが、完全な列車妨害だった。
銀河鉄道の本線上に、実体を保ったまま係留された未知の艦。
艦名表示は自律的に点灯している。
ポータル艦エルニウス。
銀河鉄道の管制網には存在しない。
どの星系記録にも該当しない。
それでも、その質量と存在感は確かにそこにあった。
999の車内に、ざわめきが走る。
乗客たちは不安げに窓の外を見つめ、列車が止まった理由を測りかねている。
鉄郎は息を呑んだ。
「なに……あれ……」
メーテルは立ち上がらない。
ただ静かに、その艦影を見つめていた。
彼女は直感的に理解していた。
これは敵ではない。
だが、味方とも呼べない。
もっと根源的な存在。
秩序そのものが、道を誤って現れたような感覚。
一方、エルニウス艦内。
照明は最低限に抑えられ、ブリッジは静寂に包まれている。
イズモは艦外映像を見つめ、短く息を吐いた。
銀河に走る線路。
蒸気を上げる列車。
その姿は、彼の知る宇宙鉄道網と驚くほど重なっていた。
イズモ「……宇宙鉄道。しかも、構造思想が似すぎている」
隣で端末を操作していたKAEDEが、眉をひそめる。
KAEDE「冗談じゃないよ。座標照合、完全に失敗してる。世界線が……違う」
イズモは即座に理解した。
これは単なる航行ミスではない。
ポータル転移事故による、世界線そのものの横滑り。
イズモ「エルニウスは実体を保ったまま、ここに係留されている。……よりにもよって、本線上か」
KAEDE「完全に列車の進路妨害じゃん。向こうから見たら、どう考えても未確認艦だよ」
イズモは否定しなかった。
むしろ、それが事実だった。
ピースギアの宇宙鉄道網では、こうした事態は即座に隔離される。
だが、この銀河には、そのルールが存在しない。
イズモの胸に、わずかな重みが生まれる。
観測者であるはずの自分が、既に干渉の中心に立っている。
イズモ「……最小限で済ませる。まずは接触だ」
エルニウスから、連絡用通路が展開される。
銀河鉄道999と直接接続する非常通路。
その扉が開いた瞬間、車内の空気が変わった。
メーテルは、静かにその人物を迎え入れる。
現れたのは、一見すれば青年だった。
だが、その目には時間がなかった。
生身でありながら、生命の揺らぎが極端に薄い。
彼は、列車を見回し、状況を一瞬で把握する。
イズモ「ピースギア所属。名はイズモ。事故により、あなた方の銀河に転移した」
鉄郎は思わず一歩引いた。
その声には感情がある。
だが、感情に支配されていない。
鉄郎「……事故、なの?」
イズモは鉄郎を見て、わずかに視線を和らげる。
イズモ「そうだ。意図的な侵入ではない」
メーテルは、彼の言葉よりも存在そのものを見ていた。
この者は、永遠を手に入れた者ではない。
永遠を引き受けた者だ。
メーテル「あなたは……旅をするつもり?」
その間に、無数の規定と判断が交差する。
KAEDEが通信越しに苦笑する。
KAEDE「つまり、しばらく同乗ってことだね」
列車は、再び動き出す。
エルニウスという異物を、本線上に抱えたまま。
銀河鉄道999は走り続ける。
永遠を求める者と、永遠を選ばなかった観測者を乗せて。