静かに走り始めた銀河鉄道999は、星の光を背に受けながら新たな航路へ滑り込んでいく。
無音の宇宙を切り裂くように、列車の長いシルエットが流れていった。
KAEDEの気配が完全に途絶えてから、
イズモはふと胸の奥に“余白”のような空白を感じていた。
それは不安であり、同時に自由の証でもあった。
メーテルは、そんな彼の内側の揺れを静かに感じ取っていた。
メーテル「……寂しい?」
イズモ「解析すれば、そうなる。
だが、それだけじゃない」
鉄郎が座席にどっかり腰を下ろし、靴先をぶらつかせながら言う。
鉄郎「KAEDEって子……イズモにとって、家族みたいなもんだったんだろ?」
イズモは否定しかけ、しかし言葉を飲み込んだ。
イズモ「……そうかもしれない」
自分が家族という概念を使うこと自体、奇妙だ。
人ではない自分が、そんな言葉を選んだ。
だが、その奇妙さもまた、
“選んだ”結果であることを、今の彼は理解していた。
車窓の外では、星々がゆっくりと流れていく。
それはかつて、ただの観測値だった。
今は――景色だった。
メーテル「次の惑星は、名前だけが記録に残った場所よ。
文明があったのかどうかも曖昧。
『何を求めて来たか』によって、見える風景が変わると言われている」
鉄郎「ようするに――“心が現れる星”ってやつだな?」
メーテルは笑みを浮かべた。
メーテル「あなたは話が早いわね、鉄郎」
イズモは少し黙り込んだ。
心が現れる星……。
その言葉は、彼の内部で重く響く。
――今の自分は、何を求めている?
――ただ、前に進むことか?
――後悔を抱えたまま、それでも選び続けることか?
答えはまだ定義できない。
だが、定義できないことを恐れなくなりつつある自分に、イズモは気づいていた。
鉄郎「楽しみだな、イズモ。
お前が何を見んのか」
イズモ「……楽しみ、か」
その概念は、イズモにとってまだ曖昧だった。
しかし、完全に理解できなくても、否定する気持ちはなかった。
そのとき、列車の振動パターンが変わる。
メーテル「星間跳躍に入るわ。
間もなく、次の惑星の重力圏」
車体が光の中へ溶ける。
空間が反転し、視界が一度白に染まる。
――そして次の瞬間。
暗い雲が流れ込むように視界が開け、
広大な草原のような、廃墟のような――
形容できない景色が眼前に広がった。
鉄郎「……なんだ、ここ?」
メーテル「見えるものは人によって違う。
この世界は“心象の反射”で成り立っているから」
イズモの目に映る風景は、奇妙なほど静かだった。
壊れた街の輪郭。
誰もいない道。
白い砂がゆっくりと舞い、音のない風が吹く。
イズモ「……ここは」
メーテル「イズモ。
あなたは何を見ているの?」
その問いは優しく、しかし核心を突いていた。
イズモはゆっくりと答えた。
イズモ「――“失われたものが、ずっとそこにある世界”だ」
鉄郎が息を呑む。
メーテルは深く頷いた。
メーテル「その風景を見つめなさい。
そこに、あなたの“選ばなかった理由”が眠っている」
列車の扉が、ゆっくりと開く。
冷たく、静かで、どこか懐かしい風が流れ込んだ。
イズモは一歩踏み出す。
その踏み出しは、誰の命令でも、誰の義務でもなく――
**自分が、自分のために選んだ一歩だった。**
こうして、イズモと999は次の惑星へ降り立つ。
そこは、彼自身の“心”が形になった世界。
そして、彼が本当の意味で
「生きたい」と願えるかどうかを問う場所だった。