列車の速度が安定し、窓の外を流れる星々が再び一定のリズムを取り戻す。
先ほどまで張り詰めていた車内の空気も、ゆっくりと緩んでいった。
それでも、異物が混じった事実は消えない。
エルニウスは今も、999の背後で同調航行を続けている。
見えない影のように、だが確実に存在しながら。
イズモはメーテルに導かれ、客車の一角に腰を下ろした。
椅子は古く、無数の旅人の体温を吸い込んできた素材だ。
彼の身体はそれを正確に感知し、わずかに調整を入れる。
鉄郎は落ち着かない様子で向かいに座る。
未知の存在への警戒と、冒険への期待が、同時に胸を占めていた。
鉄郎「ねえ。
あんたたちの船、あれ……戦艦じゃないよな?」
イズモ「違う。
ポータル艦だ。
世界と世界を接続するための艦」
鉄郎は言葉を噛みしめるように黙り込む。
世界と世界をつなぐ。
それは彼の旅の目的と、どこかで重なっているように聞こえた。
鉄郎「じゃあさ。
機械の身体をもらいに行く旅とか……そういうのも、知ってるの?」
イズモは一瞬、視線を伏せる。
999の旅が運ぶ問いを、彼は既に理解していた。
イズモ「知っている。
だが、答えは持っていない」
鉄郎「え?」
イズモ「不死は解だが、正解ではない。
この列車がそれを証明している」
鉄郎は言葉を探す。
いつもなら感情で飛び込むところだが、目の前の存在は、軽々しく反論できる相手ではなかった。
その時、車内の扉が静かに開く。
KAEDEが現れた。
簡易的な投影ではなく、実体を伴った姿だ。
KAEDEは周囲を見回し、肩をすくめる。
KAEDE「いやあ……本当に列車だ。
蒸気式なのに、宇宙を走ってる。
理屈が綺麗に無視されてるね」
鉄郎「え、増えた!?」
メーテルは小さく微笑む。
メーテル「彼女も、あなたたちの仲間?」
KAEDE「一応ね。
技術担当で、事故の共犯者」
イズモ「被害者だ」
KAEDE「はいはい」
その軽いやり取りに、鉄郎の緊張が少しだけ解ける。
人間らしいやり取り。
それは、この二人が単なる管理装置ではない証だった。
メーテルは、二人を交互に見つめる。
彼女の視線は、KAEDEの活発さと、イズモの静けさの差異を正確に捉えていた。
メーテル「あなたたちは、永遠をどう扱ってきたの?」
KAEDEは即答しない。
代わりにイズモを見る。
その問いに答える資格があるのは、彼だと理解しているからだ。
イズモ「管理してきた。
壊れないように。
増えすぎないように」
メーテル「望んだ人は?」
イズモ「止めなかった。
選択は、常に個人のものだ」
メーテルは静かに目を閉じる。
その答えに、嘘はない。
だが、救いもまた含まれていない。
メーテル「……あなたは、選んだのね」
イズモ「そうだ」
メーテル「後悔は?」
イズモは、ほんのわずかに間を置いた。
列車の振動。
遠ざかる星。
無数の世界線が、脳裏をよぎる。
イズモ「後悔があるから、続けている」
その言葉に、車内が静まり返る。
鉄郎は、胸の奥がきしむような感覚を覚えた。
鉄郎「じゃあ……
あんたは、機械の身体になって幸せなのか?」
イズモは鉄郎を見る。
真っ直ぐな目。
有限だからこそ燃える問い。
イズモ「幸福を目的にした選択ではない。
だが……無意味ではなかった」
鉄郎は唇を噛む。
自分がこれから選ぼうとしている未来を、既に通り過ぎた存在が、そこにいた。
KAEDEは、そっと窓の外を見る。
並走するエルニウスの影が、時折星明かりに浮かぶ。
KAEDE「イズモ。
エルニウス、安定してる。
でも完全にこの銀河の物理に馴染んでない」
イズモ「理解している。
ここは、永遠を許容する世界だ。
我々の秩序とは、相性が悪い」
メーテルは微笑む。
それは、哀しみを知る者の微笑みだった。
メーテル「だからこそ、この列車は走るのよ」
汽笛が、再び鳴る。
今度は、どこか優しい音だった。
銀河鉄道999は進む。
選択を問い続ける旅路を。
その後ろに、異なる秩序を背負った艦を従えながら。