次の停車予定まで、まだ時間があった。
列車は安定した速度で宇宙を滑り、星々は一定の間隔で窓の外を流れていく。
だが、イズモの意識は休まらなかった。
この銀河の物理法則は、エルニウスにとって不完全な居場所だ。
係留は成立している。
しかし、それは一時的な均衡にすぎない。
イズモは小型端末を起動し、エルニウスの状態を確認する。
艦は999の進行位相に合わせ、存在確率を微調整し続けていた。
まるで、列車に振り落とされまいと必死にしがみついているかのようだ。
イズモ「……無理をさせているな」
KAEDE「仕方ないよ。
この世界、そもそも理屈で走ってない」
イズモは小さくうなずく。
999は合理性の外側にある。
だからこそ、人々はこの列車に答えを求める。
鉄郎は二人のやり取りを聞きながら、落ち着かない様子で立ち上がった。
鉄郎「なあ。
この列車ってさ……
あんたたちの世界でも、同じ意味なのか?」
イズモは鉄郎を見る。
問いの奥にある不安を、正確に捉える。
イズモ「違う。
我々の鉄道は、秩序を運ぶ。
この列車は……問いを運ぶ」
鉄郎「問い?」
イズモ「生きる理由。
選ばなかった未来。
そして、終わりをどう受け入れるか」
鉄郎は言葉を失う。
それは、彼が旅の中で、何度も胸を突かれてきた感情だった。
メーテルは静かに席を立ち、窓辺に立つ。
遠くに見える次の星。
そこにもまた、誰かの永遠が待っている。
メーテル「あなたは、終わりをどう考えているの?」
イズモは、すぐには答えなかった。
彼にとって終わりとは、常に管理対象だった。
想定し、遅らせ、均すもの。
イズモ「終わりは……必要だ。
だが、誰にとって、いつ訪れるかは、管理できない」
メーテルは振り返る。
その言葉に、わずかな安堵が滲む。
メーテル「それなら、あなたはこの列車に乗る資格があるわ」
鉄郎「資格?」
メーテル「ええ。
この列車は、永遠を与えるために走っているんじゃない。
永遠を選ばなかった人間のために、走っているの」
その言葉は、イズモの内部で静かに反響した。
永遠を選ばなかった。
だが、引き受けた。
自分は、そのどちらなのか。
その時、車内放送が静かに響く。
次の停車駅が近いことを告げる、いつもの無機質な声。
KAEDEが端末を確認し、眉をひそめる。
KAEDE「イズモ。
次の星……エルニウスとの干渉率が、急激に上がってる」
イズモは即座に立ち上がる。
イズモ「原因は?」
KAEDE「この星、機械化が進みすぎてる。
魂の定義が、かなり曖昧だ」
イズモは理解した。
この世界の“永遠”と、エルニウスの存在が共鳴し始めている。
鉄郎「なにが起きるんだ?」
イズモ「選択が、拡張される。
そして……間違えやすくなる」
メーテルは、二人を見つめる。
その目に宿るのは、覚悟だった。
メーテル「この星は、多くの人が機械の身体を選ぶわ。
でも、誰もが救われるわけじゃない」
イズモ「だからこそ、観測が必要だ」
鉄郎「助けないのか?」
イズモは鉄郎を見る。
その問いは、何度も浴びてきたものだ。
イズモ「助けることと、奪わないことは、同義ではない」
鉄郎は歯を食いしばる。
納得はできない。
だが、拒絶もできない。
列車は減速を始める。
次の星が、近づいてくる。
エルニウスは、その背後でわずかに存在を震わせた。
この星が、試金石になる。
この世界に留まれるか。
それとも、弾き出されるか。
イズモは静かに目を閉じる。
観測者としてではなく、
一人の存在として、この旅に向き合うために。
銀河鉄道999は停車する。
永遠を選ぶ星へ。
そして、選ばなかった者の覚悟を、静かに試すために。