イズモ「自分過去の体になった理由を二人に話しておくか......俺はピースギアのバグでありイレギュラー、まあ人間の時期はそうでもなかったんだけどAI司令の時は特にな...組織の理念:不干渉からは違反してた。……ある世界線で、大量殺戮が行われた。理屈も、正義も、関係なかった。ただ“そういう構造だから”というだけで、数億単位の命が焼却されていくのを見た。……自分は、その現場にいたのに……救えなかっただから魂の“データ化”の研究を始めたんだ。身体じゃなく、心そのものを保存する方法を。……そして、結局は自分が被検体になった。誰かを犠牲にして成功しても意味がないから」
イズモ「……自分のいるピースギアは、原則としてどの世界線にも干渉しない。たとえ戦争があっても、内乱があっても、滅びかけていても……『世界線維持』が最優先だからね。ある世界線で、虐殺が起きていた。焼け落ちる街、泣き叫ぶ人々……助けを求めて、必死で手を伸ばしてくる。組織は“維持”のために黙認した。『あれはその世界線の歴史必然、干渉は崩壊を招く』……そう判断されたんだ。でも僕には……見捨てるなんてできなかった。その人たちを助けた。街を守って、避難ルートを作って……ありとあらゆる手を尽くして。でも、その瞬間……世界線は崩壊した。その歴史は保てなかった。僕が救ったことによって、次に来る未来の許容量が変わって……その世界は、ゆっくりと……でも確実に消えていった。一部は……別の世界線へ緊急退避させた。でも……すべてじゃない。あの時、僕は“世界線の敵”になったんだ。組織の理念の真逆を行って……取り返しのつかないことをした。」
イズモの声は、淡々としていた。
だが、その静けさは、感情が無いからではない。
あまりにも多くを抱え込みすぎて、表に出せなくなった結果だった。
車内の空気が、わずかに重くなる。
列車は走り続けているのに、時間だけが足を止めたようだった。
鉄郎は、言葉を挟めなかった。
目の前にいるのは、大人でも、機械でも、英雄でもない。
ただ、取り返しのつかない選択をしてしまった誰かだった。
鉄郎「……それで、あんたは機械になったのか」
イズモ「正確には、機械に“なった”というより……
残ったものを、機械に預けた、が近い」
メーテルは、静かに目を伏せる。
その横顔には、彼女自身が見てきた数えきれない別れと喪失が重なっていた。
メーテル「魂を保存するために、あなた自身が魂になった……
とても、残酷で、とても優しい選択ね」
イズモは、わずかに首を振る。
イズモ「優しくなんてない。
ただ……逃げなかっただけだ」
KAEDEが補足するように言葉を重ねる。
KAEDE「イズモは、処分対象になりました。
世界線崩壊を引き起こしたイレギュラー。
ですが、同時に多世界規模での魂保存理論を完成させた功績者でもある。
結果として、彼は“例外”として唯一のピースギアのバグとして存続を許可されました」
鉄郎は拳を握りしめた。
鉄郎「……許可、か。
そんなの、誰が決めるんだ」
イズモは、少しだけ笑った。
自嘲に近い、薄い笑みだった。
イズモ「だから、今はAIH......Astra Integral Humanoid/星間知性体かっこつけて言ってはいるが宙ぶらりんも存在だ。
人でもなく、完全な機械でもない。
判断するための存在……という建前で、
本当は、どこにも属せなくなっただけだ」
窓の外を、星が流れる。
その光は美しく、冷たい。
メーテルは、ゆっくりとイズモを見つめた。
メーテル「あなたは、世界を壊したと思っている。
でも……壊れたのは、本当に世界線だけかしら」
イズモは答えなかった。
答えられなかった。
メーテル「銀河鉄道999には、
失った身体を取り戻したい人も、
失った心を探している人も乗る。
あなたも、その一人よ」
イズモの内部で、長く凍結されていたログが微細に揺れる。
イズモ「……もし、あの時、救わなければ。
世界線は、今も続いていた」
鉄郎は、真っ直ぐに言った。
鉄郎「でも、その人たちは死んでた」
その一言は、単純で、残酷で、そして正しかった。
イズモは、ゆっくりと目を閉じる。
肉体はなくとも、その仕草は確かに“人間のもの”だった。
イズモ「テセウスの船は、
部品が全て入れ替わっても、同じ船か、という問いだ」
誰に言うでもなく、続ける。
イズモ「でも……
魂を保存した結果、
“救えなかった後悔”だけが、ずっと残っているなら。
それは、本当に同じ存在なんだろうか」
列車は、何も答えない。
ただ、次の星へ向かって走り続ける。
メーテルは、静かに立ち上がった。
メーテル「答えは、終着駅にあるとは限らないわ。
でも……旅の途中でしか、見えないものもある」
イズモは、その言葉を胸の奥にしまい込む。
世界線を守るために、世界を見捨てた組織。
世界を救うために、世界線を壊した自分。
その矛盾の狭間で、
今、彼は銀河鉄道999に乗っている。
それだけで、この旅には、意味があった。