仮面ライダー隠牙   作:モタボチ

14 / 19
終わりに見えたもの〈下〉前編

異変が起こり始めたのは、中学に上がって半年が経つ頃だった。

「ちょっと! 純弥ストップストップ! そこまですることないでしょ⁉️」

「え?」

本当に突然、明日香が慌て始めたように感じた。

何をそんなに?答えは足元に転がっていた。

「ひいい⁉️ ごめんなさい! もうしません! だから許してえええ⁉️」

そこには、うずくまって顔を覆い、明らかに過剰な恐怖と動揺を見せている、同じクラスの男子、吉田の姿があった。彼の制服は土埃で汚れており、肩は小刻みに震えている。

「吉田? お前、何して……」

純弥は混乱して口を開きかけたが、すぐに言葉に詰まった。

「純弥! だからストップだって言ったでしょ! 彼の顔、見てよ!」

明日香の声は鋭く、責めるような響きを含んでいた。その声に促され、純弥は吉田の顔を見た。彼は泣いている。しかし、純弥の記憶の中にある、ただ転んだり、少しからかわれたりして泣くそれとは違った。

吉田の頬には、赤く腫れた跡があり、わずかだが血が滲んでいた。

「え……?」

純弥は、自分が何をしていたのか理解できず、一瞬で頭の中が真っ白になった。

吉田がいつもの気の弱い男子生徒に対して行うイジメを注意した。そうして逆ギレした吉田にムカッと来たことまでは覚えている。

そして気付いたら、吉田がこうなっていた。

「ちょ、待って、俺、こんなこと……」

純弥は自分の両手を見つめた。まるで、その手が自分のものではないかのように。手のひらには微かな痛みと熱が残っている。その感覚が、今目の前で起こっている現実と、自分の記憶の断片を結びつけようとしてくる。

(俺は、吉田の顔を、殴ったのか?)

殴った? 押さえつけて、少し脅しただけ、ではなかったのか? いつもはそれで終わっていた。純弥の運動能力が高く、周りから一目置かれていたため、強く睨むだけで吉田はすぐに謝ってきたはずだ。

「純弥、アンタ、最近……ちょっと行きすぎだよ。前はこんなじゃなかったじゃん······」

この頃には〝正義の味方コンビ〟として自分と共に有名になっていた明日香も、非難の声を上げる。

「ごめんなさい……ごめんなさい、もう二度としませんから……ッ」

吉田が再び絞り出すように謝罪を繰り返す声が、純弥の心臓を鷲掴みにした。

自分が原因で、誰かをこんなにも恐れさせている。 しかも、自分自身に、その暴行の記憶がほとんどない。

(なぜだ? なぜ、俺は……)

中学に入ってからの半年で、自分の内側に何かが、「異変」が起こっている。それが、今、純弥の意識の外で、制御不能な暴力となって現れたのだ。

純弥の背筋に冷たいものが走った。自分が、周囲から見たら「過剰な暴力を振るう人間」になっている。その事実が、彼を深く、そして静かに怯えさせた。

吉田の怪我は軽傷だったが、事態は重く受け止められ、その日の放課後、純弥と父の作晃が学校に呼び出された。

「まことに申し訳ありませんでした」

作晃は深く頭を下げた。低く、重い声だった。純弥は、頭を下げた父の後頭部しか見ることができない。

「純弥君の行為は、行き過ぎです。もちろん、吉田君にも挑発的な態度はありましたが、一方的な暴行に近い形で……」

と、生活指導の教師が厳しい口調で説明する。

「全てこちらの監督不行き届きです。吉田君とお宅には、改めて謝罪させていただきます」

作晃に続いて、。純弥は、ただ小さく「ごめんなさい」と呟くことしかできなかった。心の中では、「なぜこんなことをしたのか、自分でもわからない」という叫びが渦巻いていたが、それを口にすることはできなかった。この場で何を言っても、言い訳にしかならないと理解していたからだ。

謝罪を終え、生徒指導室を出た二人は、重い沈黙の中で校舎を後にした。夕日が校庭に長く影を落としている。

駐車場に着き、作晃が車のロックを解除したとき、純弥は意を決して声を上げた。

「父さん」

「ん?」

作晃は、純弥を振り返らず、車のドアを開けながら短く応じた。

「俺、今日、吉田を殴った時……自分でも、何をしてるのかよく分からなかったんだ」

純弥は絞り出すように言った。これは、誰にも言っていない、自分だけの恐怖だ。この「異変」を共有し、解決の糸口を見つけられるのは、冷静で強い父だけだと思った。

「なんだ、今更。カッとなって手が出た、ってことだろ。よくあることだ」

作晃は運転席に乗り込み、シートベルトを締め始めた。その手つきは、いつものように力強く、純弥の不安を真正面から受け止める気配はなかった。

「違うんだ!カッとなったのは最初だけだ。そこから先は……なんていうか、視界の端で自分が動いているのを見てるような感じで……力が、止まらなかったんだ。あれは、俺の意志じゃなかったんだ」

純弥は必死だった。自分の身に起きている現象は、「よくあること」では済まされない異常事態なのだ。

作晃はエンジンをかけ、一瞬だけルームミラー越しに純弥を見た。だがすぐにからりと明るい声で笑い飛ばした。

「ハッハッハ! おいおい、なんだそりゃ。純弥、お前、中二病か?漫画の読みすぎだぞ」

作晃は、心底バカげた話を聞いたというように、陽気にハンドルを握った。

「中学生男子なんてのは、そういうものだ。成長痛みたいなもんだろ。急に力が強くなって、自分でもコントロールできなくなる。俺も昔はそうだったさ」

「でも……」

「大丈夫だって! ちゃんと謝ったし、今後は気をつけろ。な? それに、明日香ちゃんが止めてくれたんだろ? いい友達を持ったな。次は、ああなる前に自分でブレーキを踏めばいいだけだ」

作晃は、まるで純弥の深刻な告白を、反抗期特有の詩的な表現か何かと捉えているようだった。

車は発進し、街灯の下を滑っていく。純弥は窓の外の景色が、まるで別の世界の出来事のように遠く感じた。

「成長痛」。「中二病」。「ブレーキを踏めばいいだけ」。

父の言葉は、純弥が抱える根源的な不安を、全てありふれた日常の枠に押し込めてしまった。

(違う。俺は、自分で止められなかったんだ……)

最も信頼し、理解してくれるはずの父にすら、この異変は伝わらなかった。純弥は、自分の身体の中で起きている正体不明の力の暴走を、完全に一人で抱え込むことになった。

 

そして、〝それ〟は留まることはなかった。

(なんで······)

ちょっと注意しただけのつもりだったのに。

(なんで!)

父が頭を毎日のように下げ続ける。

(なんでだよ!)

そして友達も純弥を遠ざけ始め、純弥の傍には明日香しか居なくなっていった。

「もう、一旦やめとこ、純弥? 大丈夫! アイツらには私が言っとくから!」

「·········ごめん、明日香」

その後、明日香は本当によくやってくれて、純弥は自分自身を封じ込めるように机に突っ伏す時間が増えていった。

だが、ある日のことだった。

(なあ、天野と魅上ってさー)

(ああ、絶対出来てるよなー?)

ここまでは良くある冷やかしだろうと純弥も思えたが、

(っていうか、魅上が色目使って天野を引っ張ってるんだろ? あいつ、ああ見えて男を手玉に取るの得意そうじゃん?)

(わかる、『私、天野くんに必要とされてます』みたいな顔してさ。昼間は純愛ごっこで、夜はねっとり重たい関係なんだろ。ちょっと見たらわかる)

その瞬間、純弥はカッとなって机をバンと叩き、〝声が聞こえた方に〟怒鳴りつけた。

「うるせえ! 明日香をそんな風に言うな!」

「え? なに? 純弥」

「え?」

〝そこには〟誰も立っていなかった。

今教室にいるのは、明日香と仲の良い女子、モンハンに四人プレイで夢中になっていた男子達だけで、今聞いたような陰湿は発言をするような二人組はいなかった。

「ちょっとどうしたの?純弥?」

明日香からも、嫌な噂をされて、それでも気丈に振る舞っているような様子もなく、ただ純弥に対する困惑だけがある。それを見て純弥は、一つの結論を出さざるをえなかった。

――幻、聴······?

その可能性に行き着いた瞬間、血の気が引いた。

そして逃げるように教室から飛び出した。

近所、三駅ほど跨いだところ、とにかく脳神経外科、内科問わず、あらゆる脳に関する治療を行う所を彷徨った。

殆どが予約制で弾かれたが、純弥の尋常でない様子に、ひとつだけ優先して通してくれた所があったが、結果は――異常なし。

途方に暮れ、帰るしかなかった。

 

「遅かったじゃないか! 急に学校飛び出したって聞いて心配したんだぞ⁉️」

一応、探し回ってくれたのか、帰り道の途中で作晃に出会った。

それを見て、縋り付くように作晃に駆け寄る純弥。

「父さん! 俺もうヤバいよ! とうとう幻聴まで聞こえ出した! なあ、父さんの知り合いに詳しい人いないのか⁉️」

「·········し、思春期にはわりと良くあることさ。」

「なわけないだろ⁉️ 頼む父さん! どうにか――」

「それより冷えるから! 早く帰ろ! 今日は鍋だぞお?」

そうして遮るように、純弥に促す作晃。

 

その作晃の様子に、とうとう、父への疑念、失望が湧き上がりそうになるのを、純弥は歯を食いしばって耐えていた。

 

そしてとうとう、その日が来た。

夕方、明日香との帰り道。言葉もなく歩いていると、やがて一人の女子が不良に絡まれているのが見えた。

「純弥はここにいて! 私が何とかしてくるから!」

そういって純弥に鞄を預け、絡んでいる不良達に向かっていく明日香。

危険な目に明日香だけ放り込む真似に、純弥は悔しげに拳を握る。

短い問答の末、案の定、喧嘩に発展してしまう。

小学校からの純弥と一緒に喧嘩してきた経験と、空手部に入部しているから、明日香だってそれなりに強いのだが、今回は、相手が悪過ぎた。

やがて羽交い締めにされ、自由を奪われる明日香。

そして、一人の不良が下卑た笑みを浮かべ、明日香のスカートに手をかけた所までは覚えている。

「はあ·········、はあ·········、はあ」

突然肺が締め付けられたように感じ、息が切れている。

そして、拳に感じる汗とは違う、粘性を帯びた液体の感触。しかも感触がこれまでになく濃い。

足元を見るのが怖い。心を落ち着かせたい。

そんな我儘極まりない理由から、後ろにいるはずの明日香へ振り返る。

途端、またしても身勝手な後悔に胸中が支配された。

「·········ひ」

明日香は尻餅を付き、ガクガクと震え、不良達に囲まれた時以上の恐怖を浮かべて純弥を見つめている。

「·········あ」

そんな間抜けな音を立てて空気が盛れる。同時に後ずさろうとしたが、足元のそれが引っかかり、尻餅を付いた。それによって、足元の、不良達の姿がとうとう目に入った。

全員、学ランとの境目が分からなくなるほど、顔が赤黒く濡れていた。

「ああああああ」

情けない声を上げて、そのまままっすぐ自宅前まで逃げ帰った。

 

「父さん‼️」

純弥は玄関のドアを乱暴に開け放ち、そのままリビングへと雪崩れ込んだ。

父は、ちょうど夕食の準備をしていたのだろう。エプロン姿でフライパンを手に、驚いた顔でキッチンから出てきた。

「純弥?どうしたんだ、お前。その顔…、それにその制服は…」

父の声は冷静だったが、純弥の異様な姿――血のような、赤黒い液体にまみれた学ラン、恐怖に歪んだ顔、そして震え――を見て、すぐに事態が尋常ではないことを察した。

そして純弥は、泣き笑いの表情でポケットから携帯を取り出した。

「もう······駄目だよ父さん······。俺、とうとう完全におかしくなってる······。早く捕まえて貰わないと······」

そう言って、1、1、と押しかけた瞬間、

「⁉️ 駄目だ⁉️」

作晃はボタンを押し掛けていた純弥の手を止めた。

「なんで······?」

純弥の問いかけに、作晃は唇を真一文字に結んだまま、何も答えない。その顔には、先ほどの焦燥とはまた違った、固く閉ざされた壁のような表情が張り付いている。

純弥は、親指と人差し指で作晃に掴まれた手首を見下ろした。作晃の力は強く、体温がそこから伝わってくる。

「……なんで、って聞いてるんだよ、父さん」

純弥の声は静かだったが、その静けさがかえって重い。

作晃は視線をさまよわせた後、ようやく口を開いた。しかし、その言葉は純弥の知りたいことからはひどく遠い、当たり障りのないものだった。

「……純弥。お前は疲れているんだ。少し落ち着け」

「落ち着け? 俺は今、自分の頭がおかしいから警察に連絡しようとしたんだ! それを止めといて、『落ち着け』で済む話かよ!」

純弥は掴まれた腕を強く振りほどいた。

「いいか? とにかく今は、俺の言うとおりに······」

「なんで······」

純弥は問いを繰り返した。

「なんで······なんで目を見て話してくれないんだよ⁉️ どうしてこの後に及んで隠すんだよ⁉️」

父は明らかに純弥の身に何が起きているか知っている。なのに何も話さない。

そして純弥の脳裏に、今まで気にしたことの無かった、自分達を隔てるある冷たい壁に思い当たった。

「·········やっぱりあれか? 〝本当の親子じゃない〟からか? そうだよ。他人の子がどうなろうが知ったことじゃないもんな⁉️」

「な⁉️ 違う! 俺は‼️」

「触んな‼️」

純弥は作晃が伸ばしてきた手を払い除けた。もはや首をもたげていた不信と失望は、完全に純弥の胸を食い破っていた。

「もういいよ·········まあ······十四年間·········世話になったな‼️」

「な⁉️ 待て、待ってくれ純弥あ‼️」

さっきとは逆に作晃の方が縋るような声を上げたが、一切振り向く事なく、純弥は夕闇に消えて行った。

作晃は勿論すぐに追い掛けようと急いで靴に履き替えたが、その頃には既に、純弥の影も形も見失ってしまった。

その時だった。

「おじさん‼️」

「明日香ちゃん⁉️」

どうしてこんな時間に······と問おうとしたが、明日香が泣いているのに気が付いた。

「どうしようっ、私······助けてもらったのに······お礼言うべきだったのに、酷いことしちゃった! 私のせいで······っ」

彼女は半狂乱で、何度もどうしよう、と私のせいだ、とを繰り返している。

それを見て作晃は、いよいよ自分の〝怠慢〟の〝ツケ〟が回ってきたのだと悟った。

悟って、〝遅すぎる〟覚悟を決めた。

まずは明日香を落ち着かせる。

「明日香ちゃん。君は悪くない。悪いのは全部俺なんだ。」

「······どういうこと?」

「純弥を連れ戻して来たら、必ず話す。だから今は、家に帰ろう?」

そう言って今すぐ純弥を追い掛けたい衝動を抑えながら、明日香を家まで送った。

 

純弥は覚束無い足取りで、しかしはっきりと目的地を定めて街中を歩いていた。

やがてたどり着いたのは――溜まり場。この地域で問題になっている、悪質な不良グループの、さっき明日香を辱めようとした連中の仲間の集会所だった。

「あんだ、おめぇ?」

「げ! 血塗れじゃねえか······待てよ?じゃあさっき芳樹達がやられたのって·····」

「······そ、俺」

投げやり気味に純弥は答える。

「な⁉️ ·········テメェ、どうなるか分かってココに来たんだよなァ?」

思ったより仲間意識が強かったらしく、義憤に燃えている。

――まあ、今は関係ない話だが。

「さあ? どうなんだろうな?」

「分かんねえか? じゃあ今から教えてやるよォ‼️」

 

覚えているのはそこまでで。しかし、今回は意識が無くなった訳ではない。本当にただ覚えるつもりが無かっただけだ。

その代わりに、純弥はそれを克明に覚えている。

不良達を血祭りに上げたことを。

 

「あ、ぁぁ。······ひぐ」

さっきの威勢は何処へやら。間抜けな呻きと共に倒れ伏している一同。

「·········ふふ、」

電池切れの芋虫の玩具のように、モゾモゾと力無く蠢いている様。

「·········ふ、クフフ」

試しに足で踏み付けてみると。

「ぃいい、ぎいい」

出来の悪いパフパフ人形のように、ブサイクな音を鳴らす様。

「·········はあ·········」

それらぜんぶ――可笑しくてしょうがなかった‼️

「アッハハハハハハハハハ・・・・・・・・・ く、クククひひはひひひひ!」

 

「そうかあ‼️ こんなに楽しかったんだあ‼️ そりゃあやめられるわけないよなあ⁉️ こんな面白いことお⁉️」

純弥はもう一度手近にいた不良を、一言毎に合わせて蹴りつけ、やがて思いっきり蹴り飛ばして壁に叩きつけた。

「ナイシュー‼️ くふははは! へひひひ!」

〝蹴り〟、キックを放った途端。何故か脳裏に湧いてきたもの。

――幼き日見た、『仮面ライダークウガ』の、登場人物達のことば。

――「好きになれないからね、あの感触は······」

そうかな?おれは大好きになったよ今。

――「俺を殴って、どんな感じがした? 嫌な感じがしただろ?」

そんなもの感じない。胸がスっとする!

ああそうだ。

「「きみ/お前らが苦しむほど、楽しいから」」

勇敢な登場人物達の言葉を、砂の上に書いた字のようにかき消して、最も残忍で最も卑劣な悪の台詞がしっくりと来たのを感じた途端、ついに純弥の中で決定的なものが壊れ、そして悟った。

「·········なあんだ。向いて無かったんだ、最初から」

――こんな奴らのために!これ以上誰かの涙を見たくない!

自分が〝こんな奴ら〟の仲間入りを果たしたことに笑い泣きしながら、頭をぐちゃぐちゃに掻きむしる。

一頻り嗤うと、ポケットから携帯を取り出して再び1、1、までボタンを押したが、やがて携帯を放り捨てた。即ち警察に自首して裁いて貰うより、覚えたての快感に身を委ねるのを〝選んだ〟証拠だった。

 

こうしてその日、この世からまたひとつ、夢が消えた。

 

「ほら!見なさいよ!これが貴方の本性よ!」

女郎蜘蛛夜叉こと恵美理が、純弥の顔を抑えつけ、目の前の〝記憶〟から目を逸らすことを許さない。

純弥は〝胸に刻み込んだ〟はずの光景を、もう一度見せつけられ、苦悶の表情を浮かべる。

「これで終わりじゃないでしょ⁉️ さあ、続けましょう!」

 

「ゴフッ! ぐぁぁあ、あああ」

ベッドの上の純弥が血を吐き、呼吸器が真っ赤に染まり、より激しく魘され始めた。

同時に心電図モニターから、それまでの不規則な音とは比べ物にならないほど甲高く、連続した警告アラームが鳴り響いた。

奥のナースステーションから、数人の医師と看護師が、一斉にベッドサイドへ殺到する。

「血圧急降下!」

「除細動器、準備!」

「吸引!圧迫止血続行!」

「不味いわね······夜叉の毒によって内臓器官が腐食し始めてる! 坊や! 出番よ!」

「は、はい!」

呼び掛けられたタキが、即座に準備を整えて集中治療室へ入る。

「貴方の〝組織補修術〟で、内臓の腐食を遅らせて! いくら未熟でもそのくらいは出来るでしょ⁉️」

「はい!」

タキはありったけのP霊子を掌に収束させ、純弥の腹に翳した。

「頼むよ······頑張れよ純弥ぁ⁉️」

タキが未熟なりにも純弥を救う一助になれている中、明日香はただ、ガラス戸の向こうから見ていることしか出来なかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。