「タキ、東京行くわよ」
ボストンバッグを二つ抱えて、授業中の教室に突入するなり、多貴悠樹の席の前で魅上明日香はそう言った。周りが「お?彼女か? 逃避行か?」と盛り上がる。
「………明日香さ、俺もそうしたいのは山々だけど、せめて授業終わりまで待てなかったのか? それに休学届けとかなにやら準備が色々………」
「そこら辺は大丈夫よ。もう受理させてもらったから」
「は? もらった?! 自分の分はともかく他校の俺の分まで?! 何をした、むしろ何が起こったんだよ?!」
「率直に言えばコネよ」
「そんなつながりがあったの!? 一体どんな………」
「それは言えないこの場では」
「言えないコネとか怖すぎるんですけど!? なに?ひょっとして交友関係誤った俺ェ⁉️」
「いいからとっとと行くわよ………」
「………純弥が………危ないの………」
それを聞いて緊迫した表情呆れた表情、げっそりした表情を順に浮かべ、頭を右手でかきむしり、自分用のボストンバッグを引ったくり、「おら、さっさと行こうぜ」と言った。それに明日香は不敵な笑みでかえすと、ポカンとした講師と生徒を置いてきぼりに講堂から出ていった。
「なあ、ちょっとした疑問なんだけど………俺のバッグなんか異様に軽くね?」
「当たり前じゃん。あんたのバッグの中、充電器だけだもん」
「着替えはああ?!」
「現地調達。それに普段着持っていこうってんなら、私に引き出しひっくり返されることになるけど、それでよかったの?」
「良くないですけど!でもですね!せめて少しは娯楽はほしかったですはい!」
「そうカリカリしないで。ほら、ガム食べる?」
「食べる❗」
侃々諤々、いや、一方的に多貴が喚きたてながら、二人は一路東京に向かうのだった。
「はあ!はあ!はあ………!」
サラリーマンが一人路地裏を逃げ惑っている。それを追うのは蟻と般若を掛け合わせたような怪物、夜叉。
必死に逃げていたサラリーマンだったが、ついに突き当たりに追い込まれてしまう。
「………にく、に………くう」
うわ言を発しながらサラリーマンに迫る夜叉。
しかしそれを遮るように、突如サラリーマンの姿が消え、周囲の風景も色を失くしてモノクロ映画のようになった。
代わりに、さっきまでサラリーマンのいた地点に、駐車されたバイクと青年が、モノクロにならず立っていた。
それを見た途端、自分達を狩る者達がやってきたと理解する。
それを確認すると、左手で取り出した巻物に印を結んだ右手を当て、封印を解除すると、腰に当ててベルトに変化させる。
最早手慣れた動作を終えたところで、妨害しようと蟻夜叉が突進してきた。
しかし、ベルトの装着で既に身体能力が強化されている純弥は軽々と飛び越え、近くのビルの螺旋階段の踊り場へ着地、「変身………」と呟くと、黒い煙幕につつまれる。今度は酸を吐き飛ばすが、それも躱して地面に着地すると、同時に変身が完了した。
そこからは最早予定調和の如く蟻夜叉の攻撃――というより、亡者がすがり付こうとするよう――を躱し、殻に覆われていない柔らかい各所へカウンターを叩き込む光景が二、三度繰り返され、ダウンした蟻夜叉目掛け、必殺の拳・破魔討<はまうち>を叩き込んで状況終了となった。
「………」
その場にしゃがみこんで、手を合わせる隠牙。通信越しに心配される。
『純弥君、今夜はもう休んだ方が………』
「大丈夫です。ただ、ちょっと休憩に行ってきます」
色々なものを振り切るように、一跳びで隣のビルの屋上へ跳躍する。
所変わり、迅徒のオペレーションルーム。
「………やっぱ聞いてくれないか」
お手上げというように伸びをすると、ついでに首も伸びるろくろ首の青年。陸。
「我が東の管轄期待のニューホープはブラックボックス(穴)だらけってところかしら?」
狐の変化と思われる女性・藻奈が話に加わる。
「ええ。スペックにしても、跳躍力だけなら目を見張るものがありますが、他の数値は"割と優秀な化忍"の範疇を出ていません。さらに装甲の発色。他の真醒者が漆を塗ったような光沢を帯びた漆黒であるのに対し、彼は通常の化忍のままです。ちゃんと金の装甲は発現していますが。そして、他にも不可解な点の数々――」
「他の真醒者と違い、瀕死の重傷を負った経歴が見られない、全くの健康体であること」
「彼の忍術は正確には二つの意味で成功していない。青龍の加護を引き出し、青系統の色を術理現象に帯びさせることが東の管轄・青龍組での成功術。でも彼は、通常の自然現象に則ったオレンジがかった炎のまま………」
「ついでにあれ"爆炎の術"としてすら成り立ってないのよねー。漫画の失敗した実験みたいにボンッ‼️って暴発したやつを器用にかき集めて、方向を定めてドカンしてるっていうねー。でもそれであの威力よ?なんか――」
「「すごいのかすごくないのかわかりずらいですね」」
「ところで、どうなりました?彼の精霊従の話」
「ああ、旡良に決まったそうよ」
「………………………ぱーどぅん?」
「現実から逃げては駄目よ陸。どんな非情なものであろうと私達は立ち向かわなければ――」
「それは知ってますよ嫌という程‼️そいつに彼女NTRれた僕は何よりも知ってます‼️‼️ 問題は❗ 今のメンタルボロボロの彼に追い討ちを掛けるようなその人選の正気を疑っているんです‼️」
「しょうがないじゃない。彼の膨大かつ無茶な術運用に付いていけるようなP霊子の持ち主なんて他にいないもの」
「うぅー………なんて幸薄いんだ。純弥君………くわばらくわばら………」
「だ、か、ら、こ、そ。今回の計画のわけよ」
「まあ、彼のメンタル面を考えたら悪くない計画ですが………」
「――内通者。早く炙り出さないとね」
やがて夜が明け、純弥は本部に戻ると、ロビーで御影に出くわした。
「やあ、お疲れ様です。純弥君。」
「はい」
「………どうです?お腹空いてるでしょう? 食堂で何か――」
「いえ、食欲、無いんで………すいません」
「そう、ですか………ではせめて、このスニッカーズを。迅徒内のみで販売されている限定品なんですよ」
「へえ、スゴいですね。じゃあ、自分はこれで」
去っていくのを引き留められない御影。
「お前ねぇ、そんなんだから娘ちゃんにも嫌われるんやで?」
「………自分、不器よ――」
「ギャグに逃げるな。今はシリアスの時間だ」
「………とにかく、種は撒きました。あとはどう結果が出てくれるか………」
純弥は自室に戻ると、パソコンを立ち上げ、スニッカーズを食べながら目当ての記事を目に焼き付けるように読んでいき、それが終わるとようやくベッドに倒れ込んで眠った。
「な、なあ、明日香ってば………」
「なに」
「そのマップさぁ、何のアプリ? さっきからズンズカズンズカ迷いなく歩いてるし、目標地点が常に動き回ってるし、なにより………
何でその点々『ターゲット:天野純弥』って書いてあるんだよおおおおおおお!? え、待って、良く見たら俺の名前も………!?」
「当然、追跡アプリよ」
「嗚呼あああああああーーーやっぱ交友関係ミスったんだ俺はあああ‼️ 消される❗デリートされちゃうううう」
「別に無闇やたらと吹聴しなければ大丈夫よ」
「………ってパニックのあまり流してたけど、明日香は何でそんなに詳しいんだ? ひょっとして………」
「さあ、どうする?ここが分水嶺よ。無傷で何も知らない一般人として過ごせる最後の、ね」
息を飲むタキ。
「と、その前に………」
明日香が散歩に出ていた純弥を発見する。
「行くわよ、タキ!」
「お、おう!」
「ちょっと純弥!」
「?!」
聞こえるはずのない幼馴染みの声を聞いて、半ばパニックになって純弥は振り向いた。
「な、え………あ、明日香………⁉️」
「そうよ、私よ!心優しき幼馴染みとお供が心配して来てやったわよ!」「俺お供かよ………」
「な、何で来たんだよ⁉️ 危ないから来るな絶交だってLINEしただろ⁉️」
「侮られたもんねぇ。それで引っ込みが付く奴らと思われてたとは。というかそんなLINE送られたら………プッツンして何がなんでも文句言いに行くに決まってるでしょうがああ‼️このアンポンタン‼️」
「そ、そうだそうだー。アンポンタン」明日香に言いたいこと全部言われ、怒気に気圧されて弱々しく復唱するしかないタキ。
「………‼️ くっ、とにかく頼むよ! 今回のことは洒落にならないくらい危険なんだ!」
「なに? 例えば化物と忍者の血で血を洗う闘争に身を置いてるとか?」
「そんな感じの………え?」
タキと純弥が、困惑の目を向ける。
「明日香………? バケモノって………」
「何で………知ってる? ………明日香………お前一体?」
その時、超高速で黒い影――即ち敵忍が割り込み、タキを浚っていった。
「って、俺のほうかよおおおおおおお!?」
ドップラー効果を残して遠ざかって行くタキ。
「タキぃい⁉️」
「昼日中から仕掛けて来るのは計算ミスだったわ。構成員に普通の人間もいるんだから考えておくべきだった………」
「くそ、とにかく今は、―――」
「待って純弥」
「何だよ⁉️」
「これ、持ってって」
そう言ってスマホを差し出す明日香。映っているのは、もうスピードでこちらから遠ざかっていく多貴悠樹という点と、天野純弥という点。
画面の異様さに気付いた純弥は、明日香に尋ねようとするが、
「その事も含めて、後で全部話すし、あんたにも話してもらう。分かった?」
頷くしかない純弥は、バイクでタキのもとに向かうのだった。
タキが連れてこられたのは、廃ビルのオフィスルームだった。
「………まさか、悪の忍者集団が実在したとはねぇー」
「黙っていろ」
「悪いけど無理。何せ――ダチの門出を邪魔してくれやがっただけでなく、親父さんを殺した奴の一味が目の前にいるんだからなあ⁉️」
「はあ………調子に乗りやがって………名乗るのが遅くなったが、我々は忍びだ。拷問の方法なら両手で足りないほど知っているんだが?」
「やってみろよはっとりくん。ダチにえげつないほど痛い目に会わされたいならな」
「………お前、頭悪いだろ? お前がこうして間抜けにも捕まっているせいで、天野純弥はこちらに手を出せないという簡単な状況把握も出来ないのか?」
そのぐらい話した時、ドアを蹴り破って純弥が突入してきた。
「………?! タキ!!」
「わりぃ、純弥、ポカやっちまって。でも大丈夫だ。ちゃんと無傷――」
「これからの貴様次第だがな」
タキが左腕を捻られながら立ち上がらされる。
「無駄口をきく趣味は無い。こちらの要求に従ってもらう」
「よせ純弥!!俺に構う――ぎ、いいい!」
捻った腕にさらに力を込める敵忍者。
躊躇いなく巻物を投げ捨てようとする純弥。
が、その時、
「――その必要はないわ」
「「「!?」」」
明日香の声が周囲に響き、全員が驚愕で硬直する。
その一瞬の間に、敵忍者の側頭部に手裏剣が突き刺さり、さらにそれが爆発して敵忍者が吹っ飛ばされ、積まれていたデスクの山の中へ突っ込んだ。それから間髪いれず、窓ガラスを突き破って迅徒側の忍者が四人ほど突入し、素早くタキを回収する。同時に開け放たれていたドアからは――
「「明日香!?」」
平静として室内に入ってくる。それどころか、まるで付き人のように忍び二名を伴っている。
「なんでお前が………」
「アタシも聞きたい。なんであんたが、って。でも今は――」
「ぬええええいいい!よくもやってくれたな貴様ら❗」
デスクの残骸を吹き飛ばしながら、蟷螂の夜叉に変化した敵忍が立ち上がってくる。
「………変身して、純弥」
「分かってる………! 変身‼️」
「へんしん⁉️」ひとり驚いているタキ。
変身を終えると、迅徒忍者達がすかさず周囲をモノクロの世界、隔離世<かくりよ>に変質させる。
夜叉が両手の鎌で、隠牙がクナイで切り結ぶ。
「………っ、」
その様子を、苦々しげに見つめる明日香。
そうしている間に、徐々に形勢が不利になっていく隠牙。やがてバランスを崩し、クナイも弾き飛ばされてしまう。
「じゅ、純弥あ⁉️」
タキが叫んだその時、
窓ガラスを再び破って飛び込んできた影が、巨大な刀で夜叉を斬り付けようとする。
「⁉️」
夜叉は両手の鎌で受け止めようとするが、それさえも諸ともに叩き斬り、夜叉を真っ二つにするのだった。
「怪我は無いですか、純弥君」
「御影さん⁉️」
助っ人の登場に驚きつつも安堵する純弥だったが、
「遅れてくるのは筋金かお家芸ってとこかしら?」
明日香が御影に何故か詰め寄る。
「いや、そんな言い方………というか、明日香、御影さんの知り合いなのか?」
「知り合いも何も………私、この人の娘だから」
「「⁉️」」
九四