仮面ライダー隠牙   作:モタボチ

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闘わない覚悟

 

昔から、ヒーローってヤツが嫌いだった。

いつも浮かべているヘラヘラとした笑顔。その裏で早くに両親を亡くしたとか取ってつけたような悲劇的設定も、全く共感に値しない。実体験者から言わせてもらう。そんな体験をしたらあんな風に笑える筈がない。

そして、肝心な時に間に合わないくせに、何も知らないその他大勢の人からの喝采は掻っ攫っていくそのズルさ。反吐が出る。

そんな風に思っていたら、ヒーロー大好きなアイツ。誰あろう、天野純弥と出逢った。

そして知ることになる。

現実のヒーローが背負うことになるその重圧。悲劇。そしてそれらを凌駕する──

 

 

「御影さんが、お前の父親?」

「そうよ。正真正銘、私の父親。只今絶縁の危機に瀕してるけど」

「・・・・・・・・・ええ、情けないことに」

変身を解除した御影を、明日香が睨みつけている。

一触即発の空気に耐え切れず、完全無欠の一般人であるタキは、それでも不屈の意思で空気を変えようと挑んでいった。

「・・・・・・・・・あのー、ボク、全然状況が飲み込めてないんだけど・・・・・・・・・まずみんなで自己紹介とか・・・・・・・・・」

「「タキ、ちょっと黙ってろ(て)」」

「・・・・・・・・・俺、一応被害者なんだけどな・・・・・・・・・ああ、捻られてた左腕が痛えや・・・・・・・・・ぐすん」

試合は一瞬で終了した。

「ああ、気付けなくてすみません。誰か手当てを」

状況を見守っていた駐忍のひとりがタキに手当てを施す。

そこから暫し沈黙が降り、やがて純弥から口を開く。

「・・・・・・・・・だったら分かってるはずだ。父さん達が、本当はどうやって殺されたのかも。

あんな綺麗な遺体なんかじゃない──形も残らない、ドロドロの、人間だったかも分からない酷い殺され方をしたってことも……!」

それこそその事実を初めて知ったタキが、「そんな・・・・・・・・・」と絶句する。

一方明日香は、純弥の言う通り知っていたらしく、弱々しく頷いた。

「なら分かるだろ?俺がそれを許せないってことも・・・・・・・・・奴らを放っておけないってことも!」

「分かってる!分かってるよ!でも・・・・・・・・・」

「でも何だよ?」

「・・・・・・・・・せっかく暴力から足を洗って、高校でも部活にも入らずに、青春も全部捧げて勉強頑張って! やっと掴んだ夢への一歩だよ⁉️ なのに、どうしてそれを簡単に手放せちゃうの? それもよりによって化忍っていう一番命の危険と暴力に溢れてる方に行っちゃうの⁉️どうして・・・・・・・・・」

言葉に詰まる明日香。今彼女を苛んでいるのは他でもない、〝納得〟のいかなさだろう。同じくそういう性分からしてこの道を選んだ純弥にとってその懊悩はよく分かる。

だが──

「・・・・・・・・・どっちにしろ、もう後戻りは出来ないんだよ。もう──五人殺してる」

「ッ⁉️」

「とっくにこの手は血まみれだ。ケジメの為にも、奪った命の為にも、もう止まるわけにはいかないんだ」

「・・・・・・・・・っ、でも!!」

「後はお願いします」

縋るように続けようとする明日香に背を向けて、話は終わりだと純弥は言外に告げて歩き去って行った。

それを見て、明日香が次に標的としたのは、父である御影だった。

「・・・・・・・・・お父さんもお父さんだよ……! 私止めてって言ったのに! なんで結局こんなことになってるの⁉️」

「おい、御影さんは関係ないだろ」

「あ、戻ってきた」

タキの言う通り、去っていった筈の純弥が一瞬で御影を庇いに来た。

「御影さんはちゃんと俺を止めようとしてくれてたよ! でも──」

「でも結局アンタは戦いに出てる! 何?やっぱり〝覚悟を決めた者を阻んで相手の誇りに泥を塗るわけにはいかない〟とかの戦士理念に従ったわけ⁉️」

「・・・・・・・・・その通りだね」

御影は観念するように言う。

そんな冷たい関係の親子を見て、純弥は口を挟むことを止めることが出来なかった。

「なあ、明日香。どうしてそんなに御影さんに冷たく当たる⁉️ たった二人の親子だろ?」

「・・・・・・・・・あんたには関係ない」

「分かってるさ。そんなこと! でも頼む! 仲良くしてくれ!」

衝動に任せて言っているせいで、語彙の足りない幼稚な言い方しか出来ていない。

その様子に、明日香も幾らか冷静さを取り戻す。

「ど、どうしたのよ? あんたそんなに日本語下手だった?」

「・・・・・・・・・ああ、自分でもおかしいし勝手なこと言ってるのは分かってる・・・・・・・・・でも‼️俺と父さんを見てきたなら分かるだろ⁉️」

「別れは時と場所を選んでくれない! ごめんもありがとうも、いつ何時、二度と言えなくなるかもしれないんだ! だから・・・・・・・・・頼むから、今生きてくれている家族を大事にしてくれ……!」

「・・・・・・っ!」

そう、既に純弥は奪われている。家族を。ひどくあっさりと。

だから自分が家族を憎むことを、そのまま永劫の別れになることを恐れている。

そんなことは分かっている。分かっているが・・・・・・・・・

「・・・・・・・・・そうだね。あんたの言う通り。それなのにイヤなところ見せちゃってごめん。だけどさ・・・・・・・・・」

「私の〝戦わないで〟ってお願いは無視するつもりでしょ?結論から言うと」

今度は純弥が息を飲む番だ。自分はどれほど勝手で──

「・・・・・・・・・やっぱり。だから狡いなって思っちゃう。だから、今はまだ聞けない、それ」

そして今度こそ本当に明日香は去っていった。

「・・・・・・・・・俺は賛成するぜ。お前の戦い」

完全に空気と化していた、せざるを得なかったタキが再起動して言う。

「・・・・・・・・・そりゃどうも。最後だから言うが、今までありがとうな」

「え? ちょい待て。なんだよ最後って」

「お前は迅徒の血縁関係者でもなんでもない。正真正銘一般人だ。だから記憶は消されて元の生活に──」

「ああ、それについてはご安心を」

「え?」

また勝手に友達と決別を果たそうとしていた純弥に、御影が待ったを掛けた。

「どういうことですか? 御影さん」

「数々のトラブルで説明が遅れましたが、実は明日香も含めて、純弥君。あなたと特に仲の良い友人二人を迅徒に招く計画があるんですよ」

「「はあ⁉️」」

突然のサプライズ情報に二人とも間抜けな声を上げる。

「純弥君。君の日々の戦いによるメンタルダメージが酷いのを受けて、カウンセリングの一環としてこの計画が持ち上がりましてね。大丈夫。安全性については一人につき五名の駐忍の護衛を付けることと、特殊GPSを仕込ませてもらいました。タキ君」

「え?は、はい⁉️」

「ここに来るまでに明日香からガムを貰いましたよね? あれが口内粘膜に浸透・設置される特殊GPSだったわけです」

「ええ⁉️ あれが⁉️」

「そして純弥君。君にはスニッカーズ渡しましたよね?」

「え⁉️ 俺にも⁉️」

「そうそう。そういう訳で、今回も間一髪が出来たって訳です」

タキは迅徒の抜け目の無さに閉口するしか無かった。が、そうもいかないのが純弥だ。

「・・・・・・・・・確かに、そのGPSのお陰で大事にならずに済みました。

でも一般人まで引き込むのはやり過ぎです! 俺は十分一人で戦えます! カウンセリングなんて必要ないです‼️」

だがそんな純弥の強がりなど慣れっこな御影は無視して、はい、それではと手拍子で話題を変えた。

「というわけで、タキ君には一般協力者として講座を受けて頂きます。では、影角(エイカク)、お連れして」

「あいよー」

「「⁉️」」

突然タキの背後に出現した壮年の男。御影の精霊従、影角(エイカク)は、ひょいと滝を担ぐと、窓の外から跳躍して行った。

「って、またこの運ばれ方かよおおおおお⁉️」

再び悲鳴を響かせてタキは遠ざかって行った。

「〜~~~~~っ! 御影さん⁉️」

それを苦々しげに見送ると、純弥は御影に噛みつく。

しかし、御影は顔を引き締めて諭す。

「強がるのは良しなさい。末長くフクシュウしたいならね。復讐者の鉄則その一。頭に血を登らせても駄目ですが、無理を押したら貧血を起こしてその隙にゲームオーバーです」

復讐を持ち出されて言われると何も言えなくなる。ちなみに御影がコソッと「今考えましたが」と呟いたのは聞こえなかった。

代わりに、さっきまでの明日香との対立を思い出し、御影に対して申し訳ない気持ちが湧いてきた。

「すみません。俺の我儘のせいで明日香と・・・・・・・・・」

「いえ。前も話ましたが、敵の方があなたをけしかけてるんだから、どの道避けられない道でしたよ」

だが純弥の顔は晴れない。それほどまで、〝親子を対立させる〟という自身の行動が招いた出来事は、彼の心を苛んでいた。

一方御影は意外と自然体で純弥に言葉を掛ける。

「大丈夫。喧嘩は初めてじゃないですから。それに私自身としても、愛しい我が娘に嫌われ続けるのは勘弁ですからね。〝きっと仲直り出来る〟。なんて希望的観測じゃなく、仲直りして〝みせます〟とも」

それから二時間ほど間を置き──

 

まず、タキは迅徒東京市部内視聴覚室に連行・・・・・・・・・いや、招待され、迅徒への協力者としての講習を受け、室外へ出て来たところだったが、その顔は真っ青だった。

最初から中盤までの内容は普通に注意事項説明、簡素な筆記試験、そして迅徒の成り立ちと言った簡単な歴史講座など、一般人がうけるようなセミナーと言える内容で、タキは眠気を堪えるのに必死だった。

しかし、最後の夜叉に関する講座に以降し、とあるビデオ記録を見せられるとその態度は一変した。

とある一般人が、拘束衣を着せられ、とある実験を受ける映像だった。

その実験とは即ち──夜叉分離実験。その名の通り、夜叉に憑依された一般人から、夜叉を取り除こうとするものだった。

結論から言えば、実験は失敗した。その一言で片付けられるが、その経過は凄惨を極めるものだった。

まず被験者は、普通の食料はおろか、点滴、サプリ、あらゆる〝人間的な〟栄養摂取すら受け付けなくなり、されど日々増していく飢餓感に苦しめられていった。緊急処置として〝牛一頭〟を与えられもしたが、それすら焼け石に水でしかなかった。

そしてとうとう、その時が来た。

研究員の僅かな隙をつき、被験者は、その研究員の右手を噛み千切った。

そして人間の血肉を取り込んだ被験者──否、夜叉は、変化を果たし、痛みにもがいている研究員に襲い──掛かろうとしたところを、待機していた化忍に速やかに駆逐されるのだった。

以上で実験は終了。夜叉から被害者を分離するには、まずサンプルを確保するのが困難であること。あまりにも実験に危険を伴うこと。実験のタイムリミットが短過ぎること、等々の問題点から、計画は凍結。改めて夜叉は〝駆逐〟意外の道はないと結論付けられた──というところでタキの体調を鑑み、講習は一時休憩となった。

「大丈夫か? 疲れたか?」

タキを連れて来た御影の精霊従、影角が声を掛ける。

「・・・・・・・・・まあ、大分、キツいっす」

押し潰したような声色でタキは返す。

「・・・・・・・・・純弥も、アレ見たんすか?」

「ああ、そうだ。迅徒に在籍する者は皆見る。夜叉の危険性と、何より──速やかに息の根を止めてやることが、憑依された人々の為にもなると叩き込むためにな」

まったくだとタキは思った。だが、きっと純弥のヤツは──

「それでもアイツ、気にしてるでしょ? 夜叉にされた人々を殺すこと」

はあ、と溜息を付き、後ろ髪を掻きながら影角は返答する。

「やっぱ友達には分かるか。そうなんだ。奪った命の重さ、いちいち真っ正直に受け止めて参ってやがる……だからお前らを引き込む作戦に出たって訳だ。俺達じゃ、アイツの目線に立ちきってやれないし、ここのカウンセラーも効果が薄いと鑑みてな。

悪いな。俺達の力不足で」

「・・・・・・・・・いや。むしろ感謝っすよ。ダチとして、アイツの重荷。ほんのちっとでも一緒に背負ってやれるんですから。ああ、それと。これまで俺達の生活守ってくれて、ありがとうございました」

顔の青さはそのままだが、さっきよりも目線のしっかりしているタキの姿を見て、くすくすと笑いを漏らす影角。

「さっすがはヤツのダチってだけはあるな。じゃ、このまま一気に講習最終段と参りますか」

「え・・・・・・・・・まだあったんすか?」

「まあ、すぐ終わるさ。というか、実際に攫われたから分かるだろ? ──敵は夜叉だけじゃない。もっと厄介なのがいやがる」

そうだ。映像のインパクトが強くて忘れかけていた。自分はさっきまで夜叉の力を〝行使〟する一味に捕まっていたのだ。

「正式名、真流源忍党(しんりゅうげんにんとう)。通称源忍。それが奴らの名だ」

さっきまでお前を人質にした奴らであり──天野作晃の仇の名だ。

それを聞いた途端。今度は頭に血が登り、タキの顔色は忙しいことになった。

「始まりは伊賀忍者とか、真田とかみたく、歴史に名を残すことの無く、戦国時代が終わって失職したマイナーな忍びの集まりだったという。で、現在、これまたヤバいヤクザやらテロ組織とかにお仕事頂いてる貧乏所帯だ。そんな奴らが何故俺らに目を付けられてるかと言うと──」

「──使ってるんすね? 夜叉を戦力に」

よく出来ました。と影角は指を鳴らした。

「これでも俺らちゃんと仕事してて、本来は夜叉の発生率はそんなに高くないんだが、戦力、ひいては兵器の欲しいヤツらにとっては、適当に人攫ってムシャムシャさせるだけで銃も戦車も効かない無敵の私兵が手に入るし、金も要求して来ないからコスパ最強なんだわ」

「・・・・・・・・・そうまでして、ヤツらのやりたいことって何なんすか……⁉️」

御家再興。ひどくあっさりと影角は告げた。

「はあ?!」

「ついでに言うと、さっきの歴史の授業でやったんだが、俺らもまあ、普通の忍者とは言い難いマイナー所。そんな俺らが政府の公認を受けて元気に運営中、いまや忍界隈で一番の花形だ。そこも気に食わないんだと」

「くっだらねえええ‼️」

タキは座り込んでいた状態からダン、と立ち上がり、その怒りを示した。

そんなことで化け物と結託するのか。人の命を踏み躙るのか。

「影角さん! 俺も戦います! ヤツらをブッ潰す手伝いさせて下さい!」

もはや純弥が危険から遠ざけようとしてくれていたことも忘れ、タキは叫んだ。

「あ、ごめん。それ無理。お前化忍の適正Eクラス。ハッキリ言えば0点なんだわ」

ひどくあっさりと告げられて一瞬でシュンとなるタキ。

「まあ、護身の為の忍術訓練は受けて貰うけどな。んで、それ以外。というかほぼ事務仕事やってもらうから、そのつもりで」

オフィスワークかあ……と消沈するタキだったが、それを見越していた影角はタキの耳元でコソッと告げる。

「・・・・・・・・・ちなみに基本給は──」

「──! やります‼️」

「よろしい。ちなみにまずはシュレッダー作業だが、出来?」

「ます‼️‼️」

「素晴らしい。では改めて、ようこそ迅徒へ歓迎するぞ多貴悠樹くん」

ルンルン気分で仕事場へ案内されたタキであった。

なお数分後、お約束のようにシュレッダーを詰まらせる新人あるあるを起こし、こっぴどく叱られるタキであった。

「──やっぱりここに居たんだね」

御影はとある病院の屋上で、ベンチに座っている明日香に声を掛けた。

「そっちこそ、やっぱり分かるんだ。それだけショックだった? あの時のこと」

「そりゃあね。あの時ほど打ちのめされた。いや、もはやリンチ食らった気分になったことはないよ」

そう言って明日香の隣に座る御影。ちなみに、拒絶されなかったことに内心でひどくホッとしていた。見た目はいつもの飄々とした風を装っているが、実は相当ビビっていた。

「・・・・・・・・・すまない。結局彼を遠ざけることは出来なかった。改めて、謝る」

「いいよ。本当は心の奥でこうなるんじゃないかって予感してたし、そもそもお父さんに期待してなかったし」

「ぐっ⁉️」

とうとう耐えきれず、呻きが漏れる御影。

それを見て、明日香はちょっと溜飲を下げた。

しかし、やはり親子というもので、お互い同時に、自分達がこういう間柄になった理由を思い出していた。

 

──今から十三年前。当時、御影晶景二十五歳。〝御影〟明日香、五歳。

御影は当時、ある目的の為に昼夜問わず駆けずり回っていた。

その目的とは──復讐。

親友であったとある化忍仲間を殺した夜叉をこの手で葬らんと、家にも帰らず探して廻っていた。そしてとある雨の日──とうとう辿り着いた。

捜索期間を裏切るように、その決着は一瞬。そもそも親友を殺せたのも不意討ちによるものであったから、真正面からの戦い、そして恨みに煮え滾った実力者である御影──土遁系化忍・影理(エイリ)に叶うはずもなく、あっさりと討ち滅ぼされたのだった。

愛刀・石影《せきえい》に付着した敵の血を雨が洗い流していく中、しかし影理は達成感に浸ることは出来なかった。親友を喪ってポッカリと空いた穴は、虫ケラ一匹潰したところで塞がる訳がなかった。

そして、そこへ追い討ちを掛ける一報が入った。

506号室 御影呉葉 様と書かれた清潔な真白の部屋。即ち病室に飛び込んだ御影の目にした、いや、布を被せられて顔の見えない妻の姿。呉葉の家族・即ち魅上家一同。そして・・・・・・・・・無表情で涙を流す明日香の姿。

魅上家からは睨まれ、娘はこちらに見向きもしない。

そんな状況でも、戦士として鍛えられた精神力で踏み止まるが、それだけで。

遺族に謝罪することも、娘を抱き締めることもできず、ただ立っているしか出来なかった。

──これが御影晶景の復讐の顛末。

得た物は何もなく、失ったものが増えただけだった。

そこまで壊れた親子関係が曲がりなりにも修復出来たわけ。

そこに関わるのが天野純弥なのだが、それはまた別の話。

 

そんなことを思い出しながら、ここ、妻を──母を亡くした病院の屋上で、親子は話を続けた。

「・・・・・・・・・まったく、因果な話だよね──あ、純弥が変身するのも〝インガ〟なんだっけ?──私達を家族に戻してくれたヤツが化忍になって、それもよりによって復讐始めるなんて」

ま、アイツのことだから、復讐と言いつつ誰かを護る為なんだろうけど。

と、憂いと呆れを込めて、明日香は呟く。頭に登った血は降りたのか、幾らか冷静に御影と接することが出来ていた。

それに内心幾らかホッとして、御影は話を続ける。

「繰り返すがすまない。しかし、悔しいことだが事は想定以上に混迷している。純弥君は真醒者となり、敵は純弥君を戦いに駆り立てている。その為に勿論一般人の犠牲を省みることはない。迅徒に属するものとして、純弥くんを手放すわけには・・・・・・・・・」

「分かってる。そのことも、何よりアイツ自身が退くことを許さないってことも。問題は・・・・・・・・・」

言葉を切り、スカートの裾を握り締める明日香。

「分からないの。アイツの役に、どう立てば良いか。正直、私も戦いたい!アイツの背中を私の手で守ってあげたい!」

明日香がそう叫んだように、実は明日香の化忍としての適性ランクは純弥よりも高い。今すぐでも変身出来るほどに。だが。

「でも分かってる! 適性と実戦はまるで違うって! 〝おじさん達〟みたいに、ベテランでもいつ死ぬか分からない世界なんだって! だから安易に踏み込んじゃいけないんだって!」

〝おじさん達〟とは、天野作晃のことと、かつて夜叉に殺害された、御影が復讐を遂げた親友のことだ。彼は明日香とも交流があった。

「でも、純弥を放っておいて安穏としてることだって出来ない‼️ 私どうしたら良いの⁉️」

それが、明日香を苛む最大の懊悩だった。

力になりたい。だがその為の〝力〟を持つことは許されないし、何より怖い。

そんな自分の、色んな意味での弱さが嫌だった。

そんな明日香の頭に、御影はその大きな手をぽん、と置いた。

「・・・・・・・・・だったら、見ていてあげればいい。そして信じれば良い。彼は決して負けはしないと。そして、いざと言う時は、その声を届けるんだ。あらん限りに」

気付けば時刻は十七時。迅徒(彼ら)の時間が始まろうとしていた。

 

「二ャアうヴヴ‼️」

「……ち、速い‼️」

今宵の純弥の相手は珍しく夜叉ではなく、野良猫が憑依された夜獣であった。

その体躯はもはや虎猫ならぬ完全な虎と呼べる程膨れ上がっているにも関わらず、やはり元が猫だけあって敏捷性が尋常でなく、戦場となった工事現場の鉄骨と建機、地面を縦横無尽に跳び回り、隠牙を翻弄していた。

が、隠牙の装備は飾りでもなければ伊達や酔狂でもない。

触覚状のアンテナ、《龍髭》(りゅうし)と、複眼状のアイセンサー《鱗眼》(りんがん)から送られた情報を、担当オペレーター・陸が解析し、猫夜獣の動きの規則性を探っていた。

そしてついに、その隙無き動きの中の〝隙〟を捉えた。

『純弥君そこです! 』

「ぜああ!」

襲い掛かってきた瞬間に見事にカウンターが決まり、吹っ飛んでいく猫夜獣。続けざまにトドメを刺そうと、今度は隠牙の方から飛び掛る。その時──

『 ⁉️ 不味い‼️ 純弥君退いて‼️』

陸の警告が響いた瞬間、猫夜獣の体表がボコボコと盛り上がり同時に、元の猫らしい、激しい身震いを起こした。

飛び掛っていた隠牙は、無防備に敵の体表から〝発射された〟モノの直撃を受けてしまい、失速して地面に叩き付けられてしまう。

「く⁉️ こ、これは⁉️」

隠牙は着弾した何かを引っ剥がして確認すると、途端、生理的嫌悪感に襲われた。

発射された〝何か〟。それは夜獣の元になった野良猫に付着し、共に夜獣化した結果であろう、体長三十cmほどに巨大化した〝ダニ〟だった。

それが五、六匹取り付いており、吸血を開始していた。

「うぐ⁉️」

流石の隠牙も怖気を抑える事が出来ず、慌てて引っ剥がしに掛かるが、その隙に復帰した猫夜獣に跳び掛かられ、伸し掛かられてしまう。

喉笛を食い千切らんと迫る猫夜獣を必死で抑え込む隠牙だが、残ったダニ夜獣が吸血と共に送り込む麻痺毒によって、力が入らなくなっていく。

万事休すかと思われたその時だった。

『なにやってんのよバカ⁉️ アンタおじさん達の復讐果たすんでしょ⁉️ そんな畜生如きに手古摺ってる暇あんの⁉️ 根性出せヒーローヲタク‼️』

「⁉️?」

イヤホンになんと明日香の声が木霊した。

 

あの後、御影にオペレーションルームに連れてこられた明日香は、カメラを通して純弥の戦いを改めて目にした。

我武者羅で危なっかしい、本当に入団テストをパスしたのかと思うくらい。それでいて間違いなく天野純弥であると分かる戦い方。

そうヤツは昔からそうだった。とてもスマートとは言えないが、間違いなく全力で目の前のことに、一生懸命に立ち向かっていた。

それと比べて自分はどうだ?あれも嫌だ納得いかないと駄々を捏ねるばかりで、今まで何か変わったことがあったか?

ヒロイン面は、もう辞めるのではなかったのか?

そこまで考えたところで、同時にピンチに陥る純弥の姿が映し出され、考える間もなく陸の席からマイクを引ったくっていた──。

 

「はあ⁉️ なんでお前が⁉️」

「〝答え〟を出した‼️ それだけのことよ‼️ で?アンタは⁉️ そのまま畜生の餌になるの?そうじゃないの?どっち⁉️」

「っる、さ、い、な、あああ!」

色々と我慢の限界に達した隠牙はもうヤケクソ。猫夜獣のお望み通り、食らわせてやることにした、左の上腕二頭筋を──そこに取り付いているダニ夜獣ごと。

「⁉️ ニャがホ⁉️ェエエ⁉️」

ダニ夜獣が吸った血液と、それ以上に大量の麻痺毒を飲んでしまい、嘔吐き出す猫夜獣。

その隙があればあとは十分だった。

背中から隠牙のパンチを叩き込まれ、不幸な黒猫は天に召され、状況は終了するのだった。

 

「と、いうわけで。本日より! この魅上明日香、化忍・隠牙/天野純弥殿専属オペレーターとして着任致しました! 宜しくお願い致します!」

「~~~~~~~~ッ・・・・・・・・・」

唸りながらギシギシと歯軋りを響かせる純弥。原因は言うまでもない。目の前でシタリ顔で敬礼する明日香だ。そして悔しいことに反論の余地も持ち得ない。

自分も〝元〟迅徒構成員であった父・作晃の息子というコネで在籍させて貰っている身だ。むしろ〝現〟構成員である御影との血縁者である明日香の方が正当性が上だ。それは分かっているが。

──その顔ムカつくからヤメろ

胸中はそれ一色だ。

一方明日香は、表向き〝そういう顔〟をしているが、一つの決意を胸に刻んでいた。

──アンタの戦いを、この目で見届ける。そして、アンタが守り抜いた平和を噛み締めて、その上でのほほんと謳歌してやる。アンタの戦いは無駄じゃないって、証明し続ける。そう、それがアタシの──!

 

 

第肆話 戦わない覚悟

 

九四

 

 

 

 

 

 

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