仮面ライダー隠牙   作:モタボチ

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実年齢68歳

ヴーー!ヴーー!ヴーー!

耳障りな携帯からのバイブ音が、青年の眠りを妨げる。

「・・・・・・・・あ゛あ゛あ゛ー。着拒出来ないのホント・・・・・・・・・」

端正な顔立ちを台無しにする汚い呻きを上げて、ベッドから這い出して青年は無視し続けた携帯を取って着信履歴を開く。

「・・・・・・・・・」

───その数、凡そ50件。

件名は全部〝招集命令〟。

「・・・・・・・・・うーん、きーちゃんおはよぉ。あ、携帯ついに出たんだ。ずっと鳴りっぱなしだったもんねぇ、それ」

ベッドの上から、青年と〝くんずほぐれつ〟していた女性が毛布から這い出して言った。

「・・・・・・・・・ごめん。いよいよシカトしてられなくなったから行くよ」

「えー、いいじゃんそんなのー。ね、〝続き〟しよーよー」

「ごめんね。これ以上無視すると罰金だってさ」

「はー? なにそれブラックってもんじゃないじゃーん。労基行こう労基」

「そうも言ってられないんだー。ね?埋め合わせはするからさ?」

そう言って青年は女性の頬にキスを落とす。

「・・・・・・・・・うーん、分かった。約束だよ?」

むくれつつもようやく引いた女性に〝外面〟は微笑み、じゃ、と素っ気なく青年は部屋を後にした。

そしてチェックアウト後、ホテルの壁に背中を預けると、

「はああああ。あの子とはもう〝ナシ〟だな」

とかなり最低な台詞と共に、連絡先を削除、ついでに彼女と出会ったマチアプも消す。

「さあてと、今をときめく〝真醒者〟サマはどんなボウヤかなっと」

と首をコキコキと鳴らしつつ、青年は一瞬で〝青い龍〟に姿を変えると、あっという間に空へ舞昇っていった。ホテルの真ん前には似つかわしくない、神秘的な光景であった。

「ほんっとうに、申し訳ありませんでした!」

時は夕方に差し掛かろうとする午後三時。

その日の純弥、明日香、タキ三人の迅徒での活動は、まずろくろ首の陸による渾身の土下座から始まった。

「いえ、別に気にしてないですから。頭、いや首? とにかく上げて下さい」

純弥としても、父のバイクで戦場を駆けるというのも感慨深く、むしろ感謝していることだったが、そうは問屋が卸せないのが陸をはじめとした疾徒関東支部、ひいては人事部の面々である。

「いや!バイクだけの話じゃないんです!

本来化忍の戦い方は、化忍が攻撃を担当・専念する代わり、精霊従が分身の術・変わり身の術といった補助忍術を担当するというツーマンセルで行われるものなんです。

だから今までの純弥君一人で戦ってきた状況というのは、本来イレギュラーというか、もっというとあってはならない状況だったんです。

ここまでご苦労お掛けして、本当に申し訳ありませんでした。」

なるほど。今まで目の前の戦いに必死だったから気にした事が無かったが、たしかに忍者というわりにはそういう〝それっぽい〟忍術は習得しなくていいのかと思っていたが、そういう戦闘システムだったのか。

合点はいったが、それよりも気になるのは──

「・・・・・・・・・遅いっすね?」

タキが全員が思っていたことを切り出した。

純弥が精霊従との顔合わせがあると連絡を受け、しかもかなりの問題児であるという情報もあって心配した明日香、タキも伴ってロビーに集合した訳だが、一向に姿を表さない。

陸の土下座首は続く。

「そこもすみません! 時間にルーズな奴でして! 招集指示は出し続けてるんですけど・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・ケ、どうせどっかでまた女と夜の運動会してたんだろ・・・・・・・・・爆発しろ、いやちょうど純弥君が爆炎使いなんだから誤射されればいいんだ・・・・・・・・・

なお、陸はボソボソと呟いていたので前述の台詞は三人には聞こえなかった。

その時だった。

「ダメじゃないか陸く〜ん?陰口なんてー。男らしくないなー。だから彼女にフラれるんだゾ?」

四人以外誰も居ない筈のロビーに、何処からともなく、いや、陸の後ろの柱から声が響いた。

「「「⁉️」」」

純弥達三人はもちろん驚いたが、陸だけは振り返って恨めしげに柱を睨みつけて言った。

「そこら辺にいるのは分かってたよ。だから陰口じゃない」

陸がそう言うと、柱の表面がぐにゃりと曲がり、蛇のような曲線を描いた輪郭が表れる。

輪郭は言葉を続ける。

「おっと、屁理屈ですかー? 情けなくならないのかい?」

「ふん、青龍族の面汚し殿には敵わないさ」

そういった言葉の応酬に飽きたのか、やがて輪郭の主はヤレヤレのポーズと共に姿を現した。

その姿は龍。我が国日本に語り継がれる伝説の存在そのものであった。

角がやや短く、顔の掘りも浅く、体長も1mほどなので幼い印象を与えているが。

「うおおお⁉️ スゲエ❗ドラゴン? 本物の──」

ドラゴンじゃん!とタキが言い掛けた瞬間、その龍はタキを睨み付けた。

「どらこんだぁ? あんな火ぃ吐くしか能のないトカゲ共と一緒にしないでくれるかな?」

「⁉️」

幼いとはいえ伝説の存在によるひと睨みは一般人には刺激が強すぎたらしく、タキは尻餅を付いてしまった。

「! タキ⁉️ お前! 仮にも一般人に何して──」

純弥が掴み掛かった瞬間、ドロン、という時代劇で聞くような音と煙と共に龍の姿が消え、瞬時に明日香の手を握りながら現れた。

「始めまして! 僕の名は旡良«キラ»。よろしくね? 君は御影の娘の明日香ちゃんだよね? スゴく良い名前だ・・・・・・・・・ッ。どうだい?まずはゆっくりお茶でも・・・・・・・・・」

良い名前だの部分を所謂イケボで発音しつつ、堂々と明日香をナンパする龍、否、旡良。

「⁉️ お前!いい加減に──」

明日香にまでちょっかいを出され、いよいよ本気で怒り始めた純弥だった。

が、その出番は訪れなかった。

「うん、分かった。オススメの店まで、しっかり、エスコートしてね♪」

「うん、そうしたい、所なんだけど、まずは手を離し・・・・・・・・・」

「だってしっかり握ってないとはぐれちゃうで、しょッ⁉️」

「あぎゃあああああああああああ」

手を取られる瞬間、アレな気配を感じた明日香は、気付かれないうちに親指締めの体勢へ以降していたのだった。

「じゃ、そのまま自己紹介できるかな? 出来るよね? 答えは聞かないけど」

「出来ます出来ます‼️ 青龍族の旡良と申します! 本日付けで天野純弥・隠牙の精霊従として着任しました。宜しくお願いしますぎゃああああああああ」

悲鳴を上げる旡良を見て、男三人(特に陸)は大変満足した様子で明日香にサムズアップを送るのだった。

 

「・・・・・・・・・改めまして、君の精霊従に着任〝させられた〟旡良です、よろしくー」

すっかり不貞腐れた様子で、純弥へ自己紹介する旡良。

「はあ・・・・・・・・・こちらこそどーも。天野純弥だ。よろしく」

〝また厄介なのが来た〟という溜息と共に、純弥も自己紹介を返す。

「んでもって俺が・・・・・・・・・」

「一般人の癖に迅徒(ここ)に引っ張り込まれた多貴悠樹でしょ?知ってる。しかもそこの天野純弥のケア目的なんでしょ? なんというか、ウチの組織の無能さの象徴だよね。まあ、御苦労さん」

迅徒という組織への呆れ半分、〝一般人が出しゃばって来ているのが気に食わない〟という気持ちが半分といった様子で、タキと目を合わせもしない。

流石にこうもコケにされては青筋が立つタキだったが、

「てんめぇ、さっきから下手出てれば好き放題言いやがって・・・・・・・・・

・・・・・・・・・純弥、何か言ってやってくれよ」

先程の睨みの怖さが抜けず、純弥に代弁を頼むという、大分情けないことになった。

「そうだな・・・・・・・・・」

何か言う気になったのか、姿勢を正す純弥に向け、「お! いいぞ言ったれ言ったれ!」と友人の威を借りる気満々のタキが声援を送る。

「俺も一般人を巻き込む迅徒のやり方は嫌いだし、迷惑している。ようやく気が合ったな、キラさん」

「思ってたのと違う!」

悲鳴を上げるタキを他所に、微笑み合う純弥とキラ。

「そっか、君も不本意だったんだね。そこは勘違いしてた。謝るよ」

「いいさ。別にそう思われても仕方ないというか、俺の心の弱さが原因なのは事実だからな。間違ったことを言われたとは思ってない。ただ──」

そこで純弥は言葉を切ると、比較的友好的だった雰囲気を断つように、キラを睨み付けた。

「……さっきみたいにタキや明日香にちょっかい掛けるのは止めてくれよな? バカにするなら俺だけにしろ。いいな?」

キラは「ひゅう、」と口笛を吹き、純弥への認識を〝多少〟、情報修正した。タキは「純弥あ・・・・・・・・・」と感動の涙をボロボロ落としながら純弥にハグしようとしてはたかれていた。

その時だった。

 

ヴィーー!ヴィーー!

『ポイントCB-9にて夜叉の反応を確認! 付近の化忍は急行して下さい!』

サイレンと共に夜叉出現の一報が館内に轟く。

「はあ・・・・・・・・・さっきシャワー浴びたばかりなのに、しょうがないなー。

・・・・・・・・・では、行ってきますか」

「そうだな。明日香、ナビ頼む」

「オッケー! 任せといて」

それぞれがそれぞれの持ち場に向かう中、ぽつねんと取り残されるタキ。

「・・・・・・・・・やっばい。俺完全にいらない子じゃん」

語調そのものは呑気だが、確かな焦りが胸を走るタキ。

「・・・・・・・・・落ち着け。今は迅徒«ここ»から逃げずに、純弥の傍に居てやるのが先決だ。

〝為すべきこと〟はそのうち見つかる……いや、見付けるんだ」

その為にまずは──自分の身を自分で守れるようになること。

「さて、トレーニングトレーニング、と」

そう自分に活を入れ、護身忍術を練習すべくトレーニングルームへと向かうのだった。

 

「っておい、なにちゃっかり後ろに乗ってんだ」

駐車スペースに駆けつけてバイクに乗り込む純弥だったが、キラの方は当然のようにタンデムシートにとぐろを巻いて着席(?)している。

そもそも、精霊従というのはバイクに変化して化忍を乗せてくれるものではなかったのか。いや、しかし。そうか。今までのコイツのパターンからして・・・・・・・・・。

「そうだね。ホントは僕は君のアシにならなきゃならない。でもやっぱりペーペーの化忍を乗せるには僕のプライドが許さなくてね。だから見極めさせてもらうよ? 君が僕の乗り手に相応しいかどうか」

ほら、これだ。

予想通りの答えが返ってきたことである意味冷静になった純弥は、「そうかよ」とだけ答えると、バイクを発車させるのだった。

 

「……なにコイツ? 速いってレベルじゃない」

オペレートに就いた明日香の目に最初に飛び込んで来たのは、湾岸線を、生物からは考えられない猛スピードで移動する夜叉のマーカーだった。

いくら俊敏性に優れた動物の力を持ったとしても、時速300kmで走り続けられるとは思えない。だとすると──

「気を付けて純弥。ヤツも乗り物に乗ってる可能性が高い。それも計測されてる大きさからしてヤツもバイクかも。初めての騎乗戦になるから、とにかく気を付けて」

「分かってる! だが、クソ! 距離が縮められない!」

敵ごと隔離世に引き込む為には、最低でも五十mまで近づかなければならないが、

しかし、ヤツのライディングテクニックは見事なもので、初めから敷いてあるコースの上を走るように、他の自動車の間を最適な車線選択ですり抜けていく。

それに対しこちらは自動車にぶつからないようにするのがやっとで、スロットルを開けるどころではない。

このままでは逃げられるか、こちらが事故を起こしてしまうかのどちらかだ。

状況を打開すべく、後ろで寛いでいると思われるキラに声を掛ける。

「頼むキラ、先回りしてヤツを隔離世に押し込んでくれ!」

『もうやってる』

「⁉️」

スピーカーから返ってきた返答に、危険なので一瞬振り向いて背後を確認すると、タンデムシートで寛いでいたはずのキラの姿が消えていた。

 

「ひゃっはははははァ‼️ 最っ高だぜこの疾さあ‼️」

迅徒目下の敵である〝源忍〟とは無関係な〝野良〟の夜叉であるハクビシンの夜叉は、走り屋だった壮年の男の身体を乗っ取ると、傍に置いてあったバイクに興味を示した。

もちろん普通の車体では自分で走った方が速いのは分かりきっていたので、特別なある〝チューン〟を施した。

結果は大成功。時速300kmを叩き出すモンスターマシンとなり、今夜こうして初乗りを楽しんでいたのだった。しかもそこへ自分を討伐にやって来た化忍をブッチぎることにも成功し、彼の機嫌はうなぎ登りであった。

しかし、〝お楽しみ〟というのは何時だって誰だって横槍を入れられるものだ。

突然、煌びやかなハイウェイから光が消え、周囲がモノクロの世界となり、色を持つのは自分と愛車のヘッドライトのみとなった。

それを見て、自分が敵地に閉じ込められたことを悟り、大いにシラケながら愛車を停車させる。

「・・・・・・・・・ち、ったく。無粋な奴らだぜ。男なら走りで勝負しようとはおもわねーのかね?」

「君が女の夜叉だったら考えたかもしれないけど、 オスの害獣相手じゃあね?」

先回りして隔離世を展開していたキラが答える。

ま、そりゃそうだろうな。俺がお前の立場だったら同じことしてる。と、頭を掻きながらハクビシン夜叉は答える。

そこまで話した所で、ようやく隠牙も到着する。

「おっそ。ようやくご到着かよ? そんなポンコツで俺のライディングテクに勝てるのかねえ?」

分かりやすい挑発だが、〝父〟の愛車を侮辱された隠牙は易くそれに〝乗ってしまった〟。

「・・・・・・・・・これは父さんのバイクだ。バカにするな‼️」

激昂してアクセル全開で突っ込んで行く隠牙と、優雅にも見えるほど余裕を持って発車させるハクビシン夜叉。それを見てキラは「ああ、こりゃ負けたな」と呑気に呟くだけだった。

 

「……くっ⁉️」

「オラどうしたあ⁉️ お前さんの怒りはそんなもんかよお!」

キラが予見したとおり、ハクビシン夜叉の優れたライディングテクニックに翻弄されてしまう隠牙。

頭に登った血はさっき、「分かり易い挑発に乗ってんじゃないの‼️ 落ち着いて!」という明日香からの喝で大分引いたものの、やはりスタートダッシュで出遅れた感は否めず、操縦の技術も上回られている状況では、ペースを取り返すのが困難になってしまった。

敵の方の車種はオンロードバイクとこちらと変わらないにも関わらず、ウィリー、ジャックナイフ、フローティングターンと、まるでオフロードバイクに乗っているかのように軽やかなタイヤ裁きで迫って来て、追突を繰り返された作晃のバイクは既にボロボロだ。

このままでは車上の自分にもクリーンヒットして転落、轢き殺されてゲームオーバーだ。焦るばかりで打開策を見出せない隠牙だったが、その時、視界の端のレーダーにさらに〝マズイものが〟映りこんだ。

「あーあ、こりゃ赤点かなあ。ま、しょうがない。ホントのホントに危なくなったら助けてやるとしますか」

呑気に離れた場所から隠牙の戦いを採点していたキラがボヤく。

どうやらやはり純弥クンは正義ごっこのしたいお子ちゃまに過ぎなかったらしい。自分の乗り手となるには何もかも足りな過ぎる。集中力も、信念も、死力も。〝かれ〟には遠く及ばない。

そう結論付け、救出作業に入る為に巻いていたとぐろを解こうとした時だった。

『何ボサッとしてんの⁉️ アンタの後ろ! 避けて早く⁉️』

自分に向けた明日香の切羽詰まった通信を受け、流石に身構えたキラだったが、遅かった。

「ぐっ⁉️」

首を捕まれ、とぐろを巻いていたせいで束になっていた身体を踏み付けられ、身動きが取れなくなってしまう。

「ふん、他愛無い。新人の真醒者モドキとマヌケな精霊従か。〝我々とっては〟中々良い組み合わせだな」

正体は突如出現した〝源忍〟側の夜叉だった。

「な、何故⁉️ 既に展開された隔離世«ここ»に入って来れた⁉️」

「内通者の存在を忘れていたのか? やはりとんだマヌケだな」

そう、隔離世とは本来展開されたが最後、化忍と精霊従以外は脱出不能となる夜叉にとっての牢獄だが、救援のため、途中から結界内に侵入できるようになるパスコードが存在する。勿論迅徒内で厳重に管理されているものだが──内通者が居れば話は別となる。

「ということだ。では疾く死ね」

凶刃が迫ってくるが、思いの外キラは平静を保てていた。

──ま、最期はこういうもんだろうとは思ってたしね。ふぅ、やっとダッルい現世からおさらばだ。良かった良か──

そこまで考えたところで。

「ぐヴッ⁉️」

「⁉️」

背後の夜叉が押し潰されたような、いや実際に巨大な鉄塊に押し潰されて吹っ飛んだ。

続けざまにその鉄塊──作晃のバイクにクナイが撃ち込まれ、そのまま起爆。下敷きにしている夜叉ごと大爆発を起こした。

 

何が起きたかといえば説明は簡単なもので、キラのピンチに気付いた隠牙が、その化忍としての膂力全開で乗っていたバイクを新手の夜叉にブン投げた。それだけだった。クナイや手裏剣では敵の行動を阻止できない。その上での判断だったが、バイクを無くした隠牙は今や機動力を喪失した。そこを見逃してくれるハクビシン夜叉ではないし、それどころか。

「てめええええ⁉️ バイクを〝棄て〟やがったなああああ⁉️ 許さねえぞ‼️ おらああああああ‼️」

バイクを不本意とはいえ、粗末に扱ったことで逆鱗に触れてしまったらしく、ハクビシン夜叉のバイクが突っ込んで来た。そして──

『ッ⁉️ 純弥あああああ‼️』

為す術なくバイクの突進を受け、尚スピードを落とさず、隠牙はカウルに貼り付けられたまま、コンクリートの塀と車体に挟まれるように叩き付けられたのだった。

そこまで見て、ようやく意識が再起動したキラは、手榴弾型の煙玉を取り出してハクビシン夜叉の気を引き、その隙にぐったりとして動かない隠牙を抱え、隔離世から撤退するのだった。

 

純弥は当然集中治療室へ──入るはずだったが、〝思ったよりは〟傷の程度は軽く、全治一ヶ月程の怪我で済み、だが絶対安静には違いないので、現在は通常の病室で面会謝絶の中眠っている。

兎に角、恐れていたほどの重症ではないということで、明日香とタキは胸を撫で下ろしていた。

が、そこへ「・・・・・・・・・ぷ、ハハハハハハハハ! 」と二人の神経を逆撫でするようにキラの哄笑が響いた。

一頻り笑うとキラは続ける。

「・・・・・・・・・ったく、カッコつけちゃってさあー。身を呈して僕を庇えば胸キュンするとでも思ったのかねー? お生憎サマ、むしろ減点だね。

戦場でそーいうヒーローゴッコ本気でやっちゃうヤツから死んでくって、誰もあの子に教えてやらなかったのかねー? まあ? こっちはこれで晴れて精霊従から降ろされるから願ったり叶ったりだったりす──」

そこまで喋った所でパシンッ! と響く明日香の平手打ちで話は打ち切られた。

意外な事に、キラはそれに対して特に反応を示さず、むしろ前髪が目元に掛かって表情が伺えなくなる。

「・・・・・・・・・なんで打たれたかは、分かるよね?」

「・・・・・・・・・もちろん」

「それと、純弥のこと。何処まで知ってる?」

「粗方は。ザッと読んだだけだけど、まあ・・・・・・・・・気の毒だよね」

「は⁉️ 知っててあんなこと言ったのかよ⁉️ やっぱお前サイテ──」

「いや、タキ」

これまた意外なことに、激昂したタキを宥めるように明日香が制した。

「キラ«アンタ»は純弥のこと一応知ってる。でも私達はコイツのこと何も知らない」

「⁉️ ……ち、そうだな」

「だから、話して。昔アンタに何があったか。さっきのビンタと、内容によるけど、その話で慰謝料ってことにしてあげる。どう?」

「・・・・・・・・・ふん。近頃の若いモンにしては冷静で頭良いね。

・・・・・・・・・分かった。めっちゃツマラナイ話というか拘りさ。それで良ければ話してあげるよ」

 

「・・・・・・・・・いッ⁉️ つつっ・・・・・・・・・」

その頃、純弥も病室で目を覚ました。

「やあ、お目覚めかい、ボウヤ?」

目を開けると、そこには面会謝絶にも関わらず見舞い客がいた。

「貴方は──確か御影さんの……」

「そ、〝アイツ〟みたいな問題児じゃない、清く正しい精霊従の影角《えいかく》だ。よろしく」

それにしてもどういう用件だろう。一瞬考えた純弥だったが、すぐに答えは出た。

「いや、それにしても、今回のこと──だけじゃないな。御影共々お目付け役なのにてんで役に立てなくて、誠にすまない」

「いえ、想定外だらけでそっちも大変でしょうから。

それより、話に来てくれたんでしょ? キラ«アイツ»のこと」

「おおう。やっぱり分かるか」

やはり。予感は的中した。面会謝絶の中コッソリ病室に侵入、つまり他に聞く者のいない状況化で話すこと。つまりキラの来歴を教えに来てくれたのだろうと思っていた。自分のことが多くの人に知られるのを嫌う奴であろうから。

「話が早くて助かるぜ。・・・・・・・・・まあ、アイツも色々大変な身の上でな。誰だってそうだ!ってなるだろうが・・・・・・・・・」

そうして奇しくも、三人組はほぼ同時にキラの過去を知ることとなった。

 

五年前、今よりも真面目だったキラは、特に問題も起こさず、とある化忍の精霊従としての任務に従事していた。

その相棒とは上手くやれていたが、油断した自分を庇って帰らぬ人となった。

その葬儀で、彼の一族は万歳三唱を始めたのだという。

戦闘組織特有の死の礼賛。それを目にしてキラは心底おぞましく思い、彼の死を美化されたことも許すことができなかった。

そしてやる気を無くして、組織に唾を吐く行動を続けるようになったのだった。

「そしてそんな戦場に?今度は一般人がノコノコ乗り込んできたことも腹が立って? 嫌がらせを行ったってワケ。どうだい?笑える話だろ?」

そう結んで、キラは口を噤んだ。

「──確かに酷い話だと思う。けど──」

「お前のイジケの結果、その相棒さんのように、純弥もお前を庇って危ないことになった。それは分かるよな?」

「・・・・・・・・・ッ」

「それにアイツ・・・・・・お前を庇う為に、親父さんの形見のバイクを──」

分かっている。有り体な話だが、いつまでも過去に拘っていては何も変わらない。

それどころかもっと最悪なことに、同じ過ちを繰り返す羽目になる所だった。

〝このままではいけない〟ということは十二分に証明されてしまった。だが──

 

「この話を聞いたからって、文字通り毒にも薬にもならないし、それこそアイツの失態«その怪我»が消える訳じゃないが──」

大切な者の死を美化される«捻じ曲げられる»。その悔しさは、父と友の偽装葬式を経験した純弥には痛いほどよく分かった。ならば自分のすべき事はひとつ。

姿勢を正して影角が頭を下げた。

「身勝手な頼みなのは承知だ。だが頼む。アイツ«旡良»のことを──」

 

明日香とタキが同時に頭を下げる。

「お願い。あいつ«純弥»のことを──」

 

暫し沈黙したあと、純弥は深呼吸して答えた。

「・・・・・・・・・確約は、難しいですけど。でも、頑張ってみます」

相変わらずの自信の無さが滲み出た答えに、しかし影角は満足して笑顔を見せた。

 

一方のキラは──返事を返す事が出来なかった。

戦場という不条理の権化は、易く約束を破らせる。それを知り過ぎていた故に。

 

そして答えを出そうが出すまいが、敵は待ってくれない。

再びハクビシン夜叉出現の報せが入る。

「・・・・・・・・・やれやれ、夜遊び好きなワルい子は困ったもんだ。じゃ、奴は俺と御影で始末すっから、ゆっくり休んで──っておいッ!」

お約束の如く、純弥がベッドから這い出そうとしていた。

「案の定だよ、ったくよー!」

「休むのも仕事のうちって分かんないのこのバカ⁉️」

こうなることを当たり前のように予見していたタキと明日香が両脇から、傷に障らない程度の力で押さえ付けようとするが、それではやはり純弥は止まらない。

その様子をキラはシラケた──だけとは言えない複雑な表情で眺めている。

「・・・・・・・・・君さ、〝なに〟にそんな必死な訳? やっぱり正義かい? それともまさか、真醒者っていうエラバレシ者としての使命感じゃないだろうね?」

キラは純弥に問うているようでいて、その実、明日香らの前では出せなかった答えを見出そうとしていた。何故ならこのガキは──。

「・・・・・・決まってるだろ。俺は復讐がしたい。夜叉の人喰いも含めて、奴らの目論みを余さずぶっ潰したい。それだけだ」

──ほらこれだ。医大に合格出来る程度には頭が良くなった、しかしそのせいで余計なことをゴチャゴチャ考えるようになってしまった、ただの馬鹿丸出しだ。

ということは、ベッドに縛り付けようと無駄。付ける薬は無いということ。

ならばこんな時の対処方は。

「……はあ。ほれ」

キラは尻尾を純弥に巻き付け、持ち上げると背中に乗せてやった。

「え⁉️ ちょっとキラ⁉️」

「君達が望んだことだよ? こいつを頼むって」

突然意外な行動を見せられ、慌てた明日香だったが、そう言われてしまうと「そ、そりゃ、そうだけど・・・・・・・・・」と口を噤むしかなくなる。

それを見て、キラはフ、とニヒルに笑うと、続けて明日香に〝だけ〟優しく微笑み、頭を撫で──ようとして素早くはたき落とされる。

残念そうにしながらもキラは続けた。

「君達は〝願った〟。その時に僕には既に〝叶える〟義務が発生してる。・・・・・・・・・まあ、こんなでも、カミサマの子孫だからね。一応は」

そう結んだキラを見て、明日香は〝しょうがないのが増えた〝とは思いつつも、故に納得のいった表情で言う。

「そ。じゃ、さっさとやっつけて来なさいよ。バカ〝二人〟」

おい、バカ二人って俺もかよ⁉️ と純弥が騒ごうとする隙を与えず、キラはどこからともなく二枚の札を取り出した。

その瞬間、ドロン!といういつもの和風な破裂音とカシャカシャンという機械的なものが混じった独特な音が響くと、キラの姿が一変した。

そう、純弥が一度目にしたことがある、化忍へ配備され、真の愛機となるあの──。

『改めまして、天野純弥クン。これが君に配備された、僕のバイクとしての姿──〝騎馬青龍・旡良〟さ。光栄に思いたまえ』

幾分機械的なノイズの混じった声で、キラは今度こそカッコつけではない、〝迅徒に属する戦士〟として、誇りを持って己のが銘を告げた。

「・・・・・・・・・ふ、悪くないじゃん。これからよろしく、〝旡良〟さん」

「なんだい、急に気持ち悪い。キラでいいよ。〝相坊や〟」

「おい、そっちこそ今──」

「はい、では発車いたしまーす!」

おいいいいい⁉️という純弥の悲鳴が一瞬で遠ざかって行ったのを見送ると、明日香とタキも自身の持ち場へ急ぐのだった。

──はーい!緊急車両通りマース!空けてくださーい、というキラの声と続いてあちこちで上がる怒声のせいで若干不安を覚えながら。

言うまでもないが、

病院内では走らない。騒がない。

 

「さーて? 今夜も繰り出していくかねー。なあ、相棒?」

その夜、憑依元となった青年の家のガレージ内で、ハクビシン夜叉は愛車をポンポンと叩く。それに応えるように、まだキーを回していない筈のバイクが、ドルンドルン、と車体を震わせた。

そう、このバイクもただの機械ではない。夜叉が取り憑いているのだ。ハクビシン夜叉と共に地球にやって来たそれは、ハクビシン夜叉の頼みで動植物ではなくバイクに憑依、自身をエンジンとすることでバイクに常軌を逸した性能を与えているのだ。それがこのバイクに施された〝チューン〟の正体である。しかし、夜叉である以上、走る為には〝ガソリン〟が必要である。それは勿論──人間の血液に他ならない。

「わーってる、って。たらふく〝飲ませてやる〟から待ってろって」

そう言ってハクビシン夜叉は文字通りの相棒に乗り込み、〝給油〟に向かおうと発車──させようとした時だった。

『おっとお。そういう訳にはいかないんだなあ』

昨夜と同じように、自分達以外の色彩が消え、目の前に昨夜の敵が、新しいバイクに跨って待ち構えていた。

「・・・・・・・・・家の前で待ち伏せとか、ストーカーかよ? 言っとくが俺そういう趣味無いんだが?」

『被憑依者の住居をそのまま使ってるのが悪い。自分の情報は自分で守る時代だよ? ま、数百歳のオジイチャンはその辺疎いだろうけど?』

さっきから話しているのは、口調と独特のノイズからして、目の前のバイクらしい。おそらく、昨夜マヌケを晒した青い龍が変化した姿なのだろう。

こいつは口だけは上手いらしいので埒が明かない。

夜叉は標的を、乗り手である化忍・隠牙に切り替えた。

「よう、アンちゃん。怪我の様子はどうだい? バイクを粗末にしたらどうなるか身に染みたろ?」

「勿論。それにあれはただのバイクじゃない。父さんの形見だ。

それをオシャカにしたことのお灸を据えてくれてむしろ感謝してるよ」

おや、こちらも割と口撃には強いらしい。ならば、お喋りはここまでにしとこう。

「そうかい。んじゃ、後は〝走り〟で語ろうや。ではいざ、

Shall we 〝Chace〟? なんてな」

『受けては立つけどセンスが古い』

キラが言い終えるかどうかのタイミングで、二台、否、〝四人〟は走り出すのだった。

 

「へえ、今回は中々に良い走りするじゃねえか! ──と、褒めてやりたかったのに。なんだい、坊やはバイクに文字通りおんぶ抱っこかい⁉️」

勿論のこと、現在全治一ヶ月の怪我人である隠牙に、バイクの操縦など無理な話なので、実は隠牙自身はハンドルに掴まっているだけだ(正確には、「〝あの人〟はこのくらいの怪我でも走り続けた!」と何故かごねていた純弥を無理やり黙らせて操縦権を握っている)。よってその走りはキラ自身によるものだが、確かに見事なものだった。

やがて住宅街を抜け、辿り着いた先は──

「採石場? なんだあ? 爆薬でも仕組んだトラップゾーンに誘き寄せた、ってことか? そうだとしたら──今度こそ、分かってんだろうな?」

夜叉にとって、〝走り〟を侮辱する行為は万死に値する。眼前の敵の認識が、好敵手からクズに切り替わり掛けたが・・・・・・・・・。

『まっさかー。それ目的だったら黙ってとっくにやってるし、こんな入口で停まってくっちゃべってるわけないじゃーん』

キラは相変わらず神経を逆撫でする物言いだが、確かにその通りだ。では何を目論んでいるのか? 薄気味の悪さに警戒を最高レベルに高める夜叉だったが、次の瞬間、疑問ではなく目の前の暗闇が唐突に〝晴れた〟。

キラが自らのヘッドライトのハイビームを照らしたのだ。それによって浮かび上がるのは、砂利の山々と、その真ん中にポッカリと口を空けた、キラの特別性ライトですら呑み込む闇だった。洞窟?いや違う。あれは崖だ。断崖絶壁だ。そして〝バイク+途中で途絶えた道〟、という簡単な式から導き出される答に、夜叉は血の滾りを抑えることが出来なかった。

「ククククククククク・・・・・・! 粋だねえ! 確かにテクニックだなんだより分かりやすいし、怪我人の坊やでもいい勝負が出来るって訳だこれなら!」

そうこれから行われるのは──チキンレース。断崖絶壁に向けて全力疾走する、ただそれだけ。勝敗も分かりやすく、勝った者は帰り、負ければ落ちるだけ。そして夜叉側としても魅力的なのが、この方法ならテクニックで劣り、オマケに怪我人である隠牙とも互角の勝負の上で決着を付けることが出来ることだ。男として、やはり尋常な勝負の上で勝ちをもぎ取りたいのだ。

ここまで言えば、最早言葉は不要。

両者共に数刻の沈黙の後──

合図も無しに同時に走り出した。

その事実に、血の滾りのギアをまたひとつ上げる夜叉。

これだ。この感覚だ。この疾走の間にだけ味わえる、ある種友情にも似た奇妙な、しかし確実に存在する一体感。こういうのを好敵手というのだろうか。

夜叉の恍惚感は、しかし絶頂に至る前に中断された。

──馬鹿め! そんな速度ではブレーキが間に合わないだろうが

一気に落胆へと舵を切った夜叉の思考の通り、夜叉は魔法のように速度を殺してキキッ、と僅かなブレーキ音のみの見事な停車をしてみせ、隠牙の方はその速度のままに崖の向こうへ飛び出し、やがて放物線を描いてあっさりと堕ちていった。

「・・・・・・・・・度胸は買うがな。だがやはり──」

「坊やにはまだ早かったな、て?」

「はあ⁉️」

聞こえる筈のないキラの声が響いた次の瞬間、夜叉は愛機共々、ワイヤーと思われるモノで雁字搦めにされた。

「バ、バカな⁉️ テメエは確かにさっき──!」

「ああ、あれ空っぽ、外装だけ。僕はというと走り出した瞬間に抜け出してたから、君は〝誰も乗ってない〟ハリボテと真剣勝負してたってわけ。アハハ、チョーウケる」

さっきのあの高揚感すらコケにされ、夜叉は頭に血が──昇りかけたが、キラが言い放った〝誰も乗ってない〟というワードで一気に血の気が引いた。

「ま、待て。じゃああのガキンチョは⁉️」

「はい、よく気付けましたー! というわけで、後はよろしくー」

「ああ!ちきしょー! ごめんなさああああい‼️」

隠牙は夜叉の背後から絶叫と謝罪と共に、だが容赦なく、敵の愛機ごと必殺のパンチで討ち貫くのだった。

ようするに、夜叉が見ていた隠牙は最初から〝分身の術〟による幻。本物は今の瞬間までこの採石場跡地で待機していた、ということだった。

「・・・・・・・・・て、てめえら・・・・・・・・・こんなマネして、卑怯だと思わねえ、のか?」

ハクビシン夜叉の最期の言葉に、しかしキラはこう答えるのだった。

「いや、だって僕らこれでも忍者なんで。卑怯千万御用達な訳よ」

そんな心無い決め台詞であの世に送られるのは不憫と感じてしまい、初めて隠牙は憑依された人だけではなく、ハクビシン夜叉自身に対しても手を合わせた。

そんな微妙に締まらない空気で、隠牙と旡良、正式な化忍と精霊従のコンビとしての戦いは初勝利を飾るのだった。

 

「・・・・・・・・・嫌な、戦いだったね」

明日香とタキは何時もと違った疲れを滲ませた純弥を迎えてくれた。

「なにさなにさー? 君達が〝望んだ〟通り、この子が限りなく安全で無傷で済む作戦だったでしょー?」

「いや、そうだしちゃんと感謝もしてるんだけど・・・・・・・・・なんか違うんだよ」

三人のゲンナリ感を理解出来ないキラは、だがさして気にした様子もなく、伸びをするだけだ。そして。

「んーーー、いやあすっかり忘れてたけど、ひと仕事するって良いもんだね。じゃ、気分良いついでに、親睦を深める意味で僕の〝真の姿〟お見せしようかな?」

「「「⁉️」」」

次の瞬間、一、二mあった旡良の体躯が縮み始め、やがてスラッとした手足が左右二対、即ち人間の姿を形成した。

「ふう、どう? これが僕の人間としての姿。改めて、よろしく」

そう言って、純弥に握手のために右手を差し出した。純弥はそれを素直に受け、手を差し出して握り──

「そおおおおおいッ‼️」

「⁉️」

叫びながら背負い投げを繰り出した。訓練を受けたキラでなければ危険な程の勢いと音が響いた。

「何すんのいきなり⁉️」

「テメエこそなんだあ? その姿はあ⁉️」

至極当然の戸惑いの声を上げるキラに純弥は怒声で返す。

そして胸倉を掴んで立ち上がらせると、次のように言った。

「俺はなあ‼️ お前のことを今まで〝扱いが難しい年頃の弟分〟が出来たつもりで接してたんだよ‼️ じゃなかったら一発ブチ込んでたわとっくの昔に‼️」

「それをなんだテメエ⁉️ 俺より背え高ぇじゃねえか⁉️ 幾つだ⁉️身長と年齢幾つだごるぁ⁉️」

「180・・・・・・・・・」

「歳も答えろと言っとろうがあ⁉️」

年齢については本人も相当気にしているのか、暫し沈黙を守ったが、やがて根負けして絞り出すようにして答えた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・68」

「神秘性の欠片もない生々しい数字⁉️ なんですか⁉️ 俺は還暦のおっちゃんのお世話をさせられていたということですか⁉️ あああああ‼️

初めて嫌になったよ、この組織が⁉️」

喚き続ける純弥を見て、明日香とタキはこんな感想を漏らしたという。

「雨降って地固まって──」

「干上がって罅割れたな」

お後は勿論良くなく、キラの態度が軟化した代わり、純弥の眉間の皺はその後暫く取れなかったという。

 

第伍話 実年齢68歳

 

九一

 

 

 

 

 

 

 

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