現代ダンジョン発生初日。世界がパニックになる中、俺だけが攻略wikiの知識で最強ビルドを試している~将来のSSS級探索者? ああ、全員俺の弟子です~   作:パラレル・ゲーマー

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第11話 隠された宝物庫と、貧乏籤の押し付け先

 港区のオフィス「アルカディア」の物流倉庫エリア。

 そこは数日前まで、天井まで積み上げられた段ボール箱の山で、迷路のようになっていた。

 

 だが今、その風景は様変わりしている。

 

「リーダー、在庫状況……レッドゾーンです」

 

 事務員の女性がタブレットを抱えて、悲痛な声を上げた。

 俺はコーヒーカップを片手に、ガランとしたスチールラックを見上げた。

 

 あれだけあった『ポータルの巻物』の山が、見る影もなく消え失せている。

 

「残りどれくらいだ?」

 

「あと五〇〇本を切りました。今のペースで放出を続けると、明日のお昼には完売します」

 

 たった数日で、一万本近くあった在庫が蒸発した。

 それだけ市場の渇望が凄まじかったということだ。

 

 俺たちが一本六〇〇〇円という破壊的な価格で放出したことで、多くの探索者が救われた。

 SNSでは「アルカディア様々だ」「神対応」と、称賛の嵐が吹き荒れている。

 

 だが、敵もさるものだ。

 

 俺はデスクに戻り、複数のモニターに表示された市場データを睨みつけた。

 大手掲示板やオークションサイトの相場グラフ。

 

 俺たちが放出を始めた瞬間、一時的に価格は下落した。

 しかし、すぐにまた、じわじわと上がり始めている。

 

 現在の市中価格は、一本三万円前後で膠着していた。

 

「……しぶといな」

 

 転売屋(テンバイヤー)や、買い占めを行っている企業連中だ。

 彼らは俺たちの在庫が「有限」であることを見抜いている。

 

 俺たちの在庫が尽きるその瞬間――「Xデー」を待って、再び暴利を貪るために、俺たちが安く放出した巻物さえも裏で買い集め、倉庫に死蔵しているのだ。

 

「リーダー、どうしますか?

 ギルメンに招集をかけて、緊急でドロップ回収に走らせますか?」

 

 リンが心配そうに覗き込んでくる。

 彼女の装備している『清純の光輪』が、オフィスの照明を受けてキラリと光る。

 

「いや、無駄だ」

 

 俺は首を横に振った。

 ポータルの巻物のドロップ率は決して高くない。

 

 雑魚モンスターから稀に落ちる程度だ。

 ウチの精鋭たちが一日中ダンジョンを走り回ってかき集めても、せいぜい数百本が関の山だろう。

 

 一万本という需要(モンスター)の前では、焼け石に水だ。

 

 それに、そんな単純作業(ファーミング)に、リンや田中のようなトッププレイヤーの時間を費やすのは、経営判断として下策もいいところだ。

 彼らはもっと高難易度のダンジョンで、レアアイテムや高レベルの魔石を掘るべき人材だ。

 

「じゃあ、どうするんですか?

 このまま在庫切れで撤退したら、転売屋の思う壺ですよ。

 『アルカディアも口だけだったな』なんて笑われます」

 

 リンが悔しそうに拳を握る。

 正義感が強い彼女のことだ。

 

 目の前で困っている探索者たちを見捨てて、悪党が勝つ結末は許せないだろう。

 

「安心しろ、リン。俺には『奥の手』がある」

 

 俺はニヤリと笑い、PCのキーボードを叩いた。

 画面に表示されたのは、都内にある「D級ダンジョン」のマップデータだ。

 

「在庫が尽きるなら、湧き出させればいい。

 それも、湯水のようにな」

 

「え? 湧き出させるって……ドロップ率を操作でもする気ですか?」

 

「まさか。俺は運営(GM)じゃない。

 だが、この世界(ゲーム)の『裏技』に近い仕様なら知っている」

 

 俺はホワイトボードの方へ歩き出し、簡易的なマップを描き始めた。

 一見すると行き止まりに思える通路。

 

 そこの壁の奥にある、隠された空洞。

 

「練馬のD級ダンジョン、第三層。

 この座標にある『隠し部屋』。

 ここにある特殊なモンスターが出現する」

 

「特殊なモンスター?」

 

 リンが首を傾げる。

 

「名前は『デリバリー・ゴースト(運搬幽霊)』。

 大きな麻袋を背負った半透明の幽霊だ。

 こいつは戦闘力は大したことない。逃げ足が速いだけだ。

 だが、こいつを倒した時のドロップが異常なんだ」

 

 俺はボードに大きく『100』と書いた。

 

「100?」

 

「ああ。こいつは倒すと確定で『ポータルの巻物』を100本ドロップする」

 

「はああああ!? ひゃ、100本!?」

 

 リンが素っ頓狂な声を上げて立ち上がった。

 事務員も口をあんぐりと開けている。

 

 無理もない。

 通常、アイテムドロップというのは一個か二個だ。

 一度に100個もアイテムを落とすモンスターなど、常識では考えられない。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、リーダー。

 なんでそんなこと知ってるんですか?

 まだ誰も発見してないんですよね?」

 

 リンが疑いの眼差しを向けてくる。

 当然の疑問だ。

 

 俺は自分の右目を指差した。

 

「『鑑定』だよ」

 

「鑑定? モンスターを鑑定したってことですか?」

 

「それだけじゃない。

 以前、政府の連中にも言ったが、俺のSSS級鑑定スキルは『万象』を見通す。

 ダンジョンの構造、マナの流れるライン、そして空間の歪み。

 それらを解析すれば、『どこに何が潜んでいるか』、

 『そこから何が産出されるか』というドロップテーブル(法則)まで読み取れるんだ」

 

 俺は平然と嘘(ハッタリ)を吐いた。

 もちろん実際には「ゲーム知識」だが、この世界において俺の鑑定スキルは絶対的な信頼を得ている。

 

「八代の鑑定ならあり得る」と思わせるだけの実績を積み上げてきたからこそ、通じる理屈だ。

 

「マナの歪みからドロップ数まで……やっぱりリーダーのスキル、チートすぎますって」

 

 リンは呆れたように、しかし納得した顔で溜息をついた。

 

「100本確定なんて、まさに『運搬中に襲われて荷物をばら撒いた』って感じですね。

 それなら私たちがそこに行って狩りまくれば、転売屋なんて一瞬で……!」

 

 リンが目を輝かせて装備を確認し始めた。

 今すぐ練馬へ飛んでいきそうな勢いだ。

 

 一匹倒せば100本。

 十匹で1000本。

 リポップ(再出現)時間を考慮してローテーションを組めば、一日で数万本の供給が可能になる。

 

「待て待て。だから言ったろ。ウチのギルドではやらない」

 

 俺は彼女を制止した。

 

「えっ、なんでですか? ボロ儲けじゃないですか」

 

「物理的な問題だ。100本の巻物だぞ? 紙の束だ。重さはどれくらいになる?

 アイテムボックスを持っている俺ならともかく、お前たちのリュックじゃ一度に持ち帰れる量に限界がある」

 

 俺はリンの細い肩を指差した。

 

「それに三時間おきのリポップ待ちだ。

 薄暗いダンジョンの隅っこで、幽霊が出るのをひたすら待つ。

 そんな非生産的で退屈な作業(ルーチンワーク)を、ウチの主力であるお前たちにさせるわけにはいかない。

 お前らの時間は、もっと高いんだ。

 レア装備や高純度魔石を掘るために使うべきだ」

 

 それに、と俺は付け加えた。

 

「俺たちが市場に大量放出すれば、確かに転売屋は死ぬ。

 だが、その後の管理が面倒だ。

 『アルカディアが独占してる』と逆恨みされるのも癪だし、継続的な供給義務を負わされるのも御免だ。

 こういう『泥臭いインフラ整備』は、公権力にやらせるのが一番なんだよ」

 

 俺はスマホを取り出し、電話帳を開いた。

 登録名は『内閣官房・佐伯』。

 

「貧乏籤(びんぼうくじ)は、引くべき奴に引いてもらう。

 それが大人の解決策だ」

 

 数回のコールの後、重々しい声が聞こえた。

 

『……はい、佐伯だ。八代くんか?』

 

 背景には会議中のようなざわめきがある。

 おそらく彼らも今の「ポータル枯渇問題」で頭を抱えている最中だろう。

 

「お忙しいところ恐縮です、佐伯さん。今、少しよろしいですか?

 例の巻物不足の件で、私の『鑑定』が良い解決策(ソリューション)を見つけましてね」

 

 電話の向こうの空気がピリッと張り詰めたのが分かった。

 

『……場所を変える。少し待ってくれ』

 

 足音が響き、ドアが閉まる音。

 静寂。

 

『待たせたな。解決策とはなんだ?

 君のギルドが在庫を放出しているのは知っているが、それも限界だろう?』

 

 さすが情報が早い。

 

「ええ、その通りです。ウチの在庫も明日には尽きます。

 そこで私のスキルで都内のダンジョンをスキャンしてみたんですがね……見つけたんですよ。

 枯渇した油田の代わりになる『源泉』を」

 

『源泉……?』

 

「練馬区の光が丘D級ダンジョン。

 そこに『ポータルの巻物』を大量にドロップするモンスターがいます。

 一匹倒せば100本、確定です」

 

『ひゃ、100本!?』

 

 電話の向こうで、あの冷静沈着な佐伯が声を裏返したのが聞こえた。

 

「ええ。私の【鑑定】が、そのモンスターの存在とドロップテーブルを完全に看破しました。

 名前は『デリバリー・ゴースト』。

 詳しい座標と出現条件、隠し扉の開け方……すべて教えますよ」

 

『……信じられん。だが君の情報だ。嘘ではないのだろうな』

 

「嘘をついて何の得があります?

 私はただ、この混乱を収めたいだけです。

 ただし私のギルドでは手が足りません。

 それに、特定の民間組織がこの供給源を独占するのは、市場の健全性から見てもよろしくない」

 

 俺は言葉巧みに誘導する。

 

「自衛隊の方々なら、組織的なローテーションも、大量の物資輸送も得意でしょう?

 トラックを横付けして、人海戦術で回収し、政府の正規ルートで安価に市場に流す。

 そうすれば価格は安定し、国民は政府に感謝する。

 ウィン・ウィンじゃないですか」

 

 佐伯が沈黙した。

 高速で計算している音が、聞こえるようだ。

 

 自衛隊を動員するコスト。

 それによって得られる政治的得点。

 そして何より、八代匠という男に、また一つ「借り」を作ってしまうことへの懸念。

 

 だが彼に選択肢はない。

 

『……分かった。その情報、買おう。いや、正式な協力要請として受領する。

 すぐに関連部隊を練馬へ急行させる。詳細なデータを送ってくれ』

 

「ありがとうございます。データは今、メールで送信しました。

 ああ、それと」

 

 俺は付け加えた。

 

「この情報は『アルカディアの八代が鑑定で発見し、無償で国に提供した』と発表してくださいね。

 それだけで十分な報酬ですから」

 

『……君という男は。金よりも高いものを欲しがるな』

 

「名誉はプライスレスですから」

 

 通話を切る。

 俺はソファに深く沈み込み、天井に向かってVサインをした。

 

「交渉成立だ」

 

「……リーダー、本当に性格悪いですね(褒め言葉)」

 

 リンが呆れたように、しかし尊敬の眼差しで見ていた。

 これで面倒な作業は、すべて自衛隊がやってくれる。

 俺たちは高みの見物だ。

 

 翌日。

 事態は劇的に動いた。

 

 早朝のニュース番組が、ヘリコプターからの映像を映し出している。

 練馬区光が丘公園。

 

 その周辺に、陸上自衛隊のトラックが何十台と集結していた。

 迷彩服を着た隊員たちが、整然とした隊列でダンジョンゲートへと突入していく。

 

 テロップには『政府、ポータル巻物の緊急確保作戦を開始』の文字。

 

 自衛隊は優秀だ。

 俺が送った完璧な攻略マニュアルに従い、最短ルートで第三層へ到達。

 隠し部屋を発見し、『デリバリー・ゴースト』をタコ殴りにしていることだろう。

 

 そして昼過ぎ、政府から公式発表があった。

 

『本日午後より、各ダンジョンの政府出張所にて、ポータルの巻物の無制限販売を開始します。

 価格は一本二〇〇〇円とします』

 

 一本二〇〇〇円。

 俺たちが売っていた六〇〇〇円よりも、さらに安い破壊的な価格設定だ。

 

 利益度外視の政府にしかできない荒技だ。

 この発表が流れた瞬間、市場は死んだ。

 

 俺はモニターのチャートを見た。

 三万円で張り付いていた『ポータルの巻物』の相場が、崖から飛び降りるように垂直落下した。

 一瞬にしてゴミ同然の価格になる。

 

 裏掲示板は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。

 

『ふざけんな! 政府が介入とか聞いてないぞ!』

『在庫1000本抱えてるんだが……これ全部、紙切れか?』

『八代が鑑定で見つけたらしいぞ! あいつマジで許さん!』

 

 転売屋たちの悲鳴が、心地よいBGMだ。

 彼らは高値で掴んだ在庫を、二度と売れないまま倉庫の肥やしにすることになる。

 大損害だ。

 

「やったー! 見てください、リーダー!

 掲示板、転売屋の爆死報告だらけです!」

 

 リンがスマホを見せびらかしてくる。

 

「よかったな。これで一般の探索者も、安心してダンジョンに潜れる」

 

「はい!

 それにニュースで『ギルド・アルカディアの八代氏の鑑定により発見され』って連呼されてますよ。

 ウチの知名度、また爆上がりですね!」

 

 そう。

 政府は約束通り、情報提供元として俺たちの名前を出した。

 

 これで「アルカディア=正義のギルド」

「頼りになる鑑定士」というブランドイメージは、不動のものとなった。

 

 面倒な周回作業は自衛隊に押し付け、

 転売屋を壊滅させ、

 探索者からの感謝と名声を独り占めにする。

 

 これ以上ない「完全勝利」だ。

 

「さて、と」

 

 俺は立ち上がった。

 騒動は収束した。

 

 だが、これで終わりではない。

 この「ポータル暴落」によって、探索者たちの行動範囲は確実に広がる。

 

 帰還コストを気にせず、より深く、より危険な階層へと挑むようになるだろう。

 それはつまり、より多くの「死」と、より多くの「レアアイテム」が生まれることを意味する。

 

「次のビジネスチャンスが来るぞ。みんな、準備はいいか?」

 

「もちろんですよ、ギルマス!」

「いつでも行けます!」

 

 メンバーたちの士気は最高潮だ。

 

 俺は窓の外、自衛隊のトラックが走り回る東京の街を見下ろし、静かに笑った。

 貧乏籤を引いてくれた政府の皆様、ご苦労さん。

 

 おかげで俺たちは、次のステージへ万全の状態で進めるよ。




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