現代ダンジョン発生初日。世界がパニックになる中、俺だけが攻略wikiの知識で最強ビルドを試している~将来のSSS級探索者? ああ、全員俺の弟子です~   作:パラレル・ゲーマー

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第12話 混沌のアメ横と、血塗られた指輪

 上野アメ横。

 かつては食品や衣料品、雑貨が所狭しと並び、年末には正月用品を求める客でごった返していたこの商店街は、今、異様な熱気と頽廃に包まれていた。

 

 ダンジョン発生から一ヶ月。

 世界が急速に変質していく中で、この街もまた、その歪みを最も色濃く反映する場所へと変貌を遂げていた。

 

「へい、らっしゃい! ダンジョン産の特級ポーションだよ! これさえあれば死にかけても、一発で全快だ!」

「そこの兄ちゃん、いい魔石あるよ! 公式じゃ買えない逸品だ!」

「武器防具、見てってくれ! 政府の横流し品もあるぜ!」

 

 ダミ声が飛び交い、怪しげな露店が軒を連ねる。

 路地裏からは、何かが焼ける匂いと、鉄錆の臭いが混じった独特の空気(アトモスフィア)が漂ってくる。

 

 俺はニット帽を目深に被り、雑踏の中を歩いていた。

 視線は常に周囲を警戒しつつ、同時に獲物を探すハンターのように鋭く光っている。

 

「……相変わらず、酷い有様だな」

 

 目の前で繰り広げられているのは、まさに「詐欺の博覧会」だ。

 特に目立つのが、色とりどりの液体が入った小瓶を並べる露店だ。

 

「さあさあ、これが最新の『ハイ・ポーション』だ! 赤色が濃いだろう? 効き目が違う証拠さ!

 一本五千円! 命の値段と思えば安いもんだ!」

 

 店主の口上に、初心者の探索者らしき若者が財布を開いている。

 俺は心の中で溜息をついた。

 

(……馬鹿が。あれは、ただの食紅入りの水だ)

 

『ダンジョン・フロンティア』におけるポーションの仕様。

 これは多くの初心者が勘違いしている、落とし穴の一つだ。

 

 この世界のポーションは、いわゆる「使い捨ての消費アイテム」ではない。

 

 ポーション瓶(フラスコ)というアイテムそのものが、空気中の魔素(マナ)を吸収し、自動的に中身の液体を生成する機能を持っている。

 つまり、一度飲み干しても、空になった瓶を腰に下げておけば、ダンジョン内で時間をかけて徐々に中身が溜まっていくのだ。

 

 あるいは、ダンジョンの出入り口であるポータルを通過した瞬間に、魔素の奔流によって一瞬で満タンになる。

 

 要するにポーションとは「装備品」の一種であり、

 中身の液体だけを売り買いするという概念自体が、システム上存在しないのだ。

 

 瓶さえ持っていれば、中身は無限に湧いてくる。

 

 だが、その仕様を知らない人々は「ポーション=消耗品」という従来のRPGの常識に囚われている。

 そこにつけ込んだのが、この「ポーション詐欺」だ。

 

 中身のない、ただのガラス瓶に色水を詰め、「ポーション」と称して売りつける。

 買った人間がいざという時に飲んでも、傷は治らず、ただ甘い水の味を感じながら死んでいくことになる。

 

「……公式のアナウンスが遅すぎるんだよな」

 

 政府もようやくこの仕様に気づき始めた頃だが、まだ周知徹底されていない。

 結果、アメ横のようなブラックマーケットでは、こうした粗悪品や偽物が堂々と流通している。

 

 ポーションだけではない。

「これはドロップ品の短剣だ」と言って、ただの百円ショップのナイフを売りつける詐欺。

「レアな巻物だ」と言って、古新聞を加工した紙束を売りつける詐欺。

 

 もう何でもありだ。

 

「おいおい、兄ちゃん。さっきからシケた面して見てるじゃねえか」

 

 不意に声をかけられた。

 露店の裏に座り込んでいた、目つきの鋭い男だ。

 腕には紋様のような刺青が覗いている。

 

「何か探してんのか? ウチは本物しか置かねえよ」

 

 男が足元の木箱を蹴る。

 中には泥にまみれた剣やボロボロの防具が、無造作に放り込まれていた。

 

 俺は足を止め、視線を落とした。

【鑑定】発動。

 

【錆びた鉄の剣(ノーマル)】

【穴の空いた革鎧(ノーマル)】

【ゴブリンの棍棒(ジャンク)】

 

(……ふむ。こっちは『本物』か)

 

 アメ横がただの詐欺師の巣窟なら、俺もわざわざ足を踏み入れたりはしない。

 だが、ここには確実に「本物」のドロップ品が混じっている。

 その理由は単純だ。

 

「出所(でどころ)が言えない連中」がいるからだ。

 

 現在、政府公認の買取所やオークションに出品するには、身分証の提示と厳格な審査が必要になる。

 つまり、ヤクザや半グレ、あるいは犯罪歴のある人間がダンジョンに潜ってアイテムを手に入れても、表のルートでは換金できないのだ。

 

 彼らは「換金拒否」されたドロップ品を、こうした闇市に持ち込み、二束三文で売り払う。

 それをバイヤーが買い取り、こうして並べているわけだ。

 

 だからこそアメ横は、今、日本最大の「闇市(ブラックマーケット)」として機能している。

 ゴミの中に宝石が混ざり、詐欺師の隣で本物の悪党が商売をしている混沌の坩堝。

 

「……悪くないな。これとこれ、あとその奥の盾。まとめていくらだ?」

 

 俺は指差した。

 どれもノーマル品だが、俺の『万象の創造』で加工すれば、マジックアイテムに化ける「素材」としては十分だ。

 特に奥の盾は『タワーシールド』のベースアイテムだ。

 基礎防御力が高く、加工すれば高値で売れる。

 

「おっ、お目が高いねえ。兄さん、同業者かい?

 まとめて……そうだな、五万円でどうだ?」

 

「高いな。二万だ。

 それ以上なら、他を当たる」

 

 俺は即答した。

 男の眉がピクリと動く。

 

「おいおい、二万はねえだろ。命がけで拾ってきたんだぜ?」

 

「命がけで拾ったのは、あんたじゃなくてどこぞのチンピラだろう?

 あんたはそれを千円とかで買い叩いたはずだ。

 二万でも十分な利益が出る」

 

 俺は男の目を真っ直ぐに見据えた。

 

 この界隈のバイヤーたちは、元々目利きのプロだった人間が多い。

 古美術商、質屋、あるいは盗品故買屋。

 

 彼らの中には、ダンジョン発生に伴い後天的に【鑑定】スキルや【目利き】スキルに目覚めた者も少なくない。

 だからこそ彼らは、俺が「ただの客」ではないことを敏感に察知する。

 

「……チッ。しゃあねえな。持ってけ、ドロボウ」

 

 男は舌打ちをしながら、商品を古新聞で包み始めた。

 俺はポケットから二万円を取り出し、放る。

 

 そして商品を受け取ると、人目につかないように素早く自身のインベントリ(アイテムボックス)へと収納した。

 

「まいど。……また、いいのが入ったら寄んな」

 

 男の捨て台詞を背に、俺は雑踏へと戻った。

 

 ここに来た目的は、こうした「安価なノーマル品」の仕入れだ。

 オークションで競り落とすのもいいが、やはり現物を見て交渉して買い叩く方が利益率は高い。

 それに、表には出てこない「掘り出し物」に出会える可能性もある。

 

 俺はさらに奥へと進んだ。

 ガード下の薄暗いエリア。

 

 表通りの観光客向けの店とは違い、ここではもっとピリピリとした殺気が漂っている。

 

 すれ違う男たちの目が違う。

 探索者崩れ、あるいは本職のヤクザ。

 腰元が不自然に膨らんでいるのは、ドロップ品の短剣か、あるいはチャカ(拳銃)か。

 

「……おい、そこの兄ちゃん」

 

 低いドスの利いた声。

 路地の暗がりから、一人の男がぬっと現れた。

 

 上質なスーツを着ているが、その着こなしと雰囲気はカタギではない。

 背後にはガタイのいい若い衆が二人、無言で控えている。

 

「俺か?」

 

「ああ、そうだ。

 さっき向こうの店で、いい買いっぷりをしてたのを見ててな。

 随分と目が利くようじゃねえか」

 

 見られていたか。

 俺は警戒レベルを引き上げた。

 

 インベントリの『ポータルの巻物』を、いつでも使えるように意識しつつ、努めて冷静に応じる。

 

「ただの買い物客ですよ。安く仕入れて、少し加工して売る。小遣い稼ぎです」

 

「ハッ。小遣い稼ぎで、アメ横の古狸相手に値切り倒す奴がいるかよ。

 ……まあいい。

 兄ちゃん、目利きができるなら、ちょっとウチの商品も見ていかねえか?」

 

 男はニヤリと笑った。

 その笑みには、拒否権のない圧力が含まれていた。

 

「ウチのは、そんじょそこらのガラクタとはわけが違う。

 とびっきりの『極上品』だ」

 

「……極上品?」

 

「ああ。公式のオークションなんかに出せば身元が割れちまうからな。

 こういう場所で、兄ちゃんみてえな『分かってる』客にだけ見せてるんだ」

 

 男が懐から取り出したのは、小さな黒いビロードの小箱だった。

 パカッと蓋が開かれる。

 

 その瞬間、薄暗い路地裏が、どす黒く、しかし妖艶な赤紫色の光に照らされた。

 

「……ッ!?」

 

 俺の息が止まった。

 その輝き、その波動。

 間違いなく、ただのアイテムではない。

 

「ヒヒヒ……どうだい? ユニークが出たんだよ。出したのはウチの若いのが命がけでな。

 見ていくかい?」

 

 男は楽しげに、箱を俺の目の前に差し出した。

 

 中には歪にねじれた金属で作られた指輪が収まっていた。

 まるで血管が脈打っているかのような、不気味で美しい装飾。

 

 俺は無意識に【鑑定】を発動していた。

 いや、するまでもない。

 

 その指輪が放つ圧倒的な「格」が、周囲の空気を歪ませている。

 

【鑑定結果】

 

 アイテム名: 混沌の血脈(ケイオス・ブラッドライン) (Chaos Bloodline)

 

 種別: 指輪

 

 レアリティ: ユニーク

 

 装備レベル: 5

 

 効果:

 ・攻撃に15~30の混沌ダメージを追加する。

 ・毎秒15のHPが自動で回復する。

 

 フレーバーテキスト:

 傷は意味をなさない。

 我が血流に宿る古の混沌が、その全てを癒やし、そして喰らう。

 

 この身に刻まれる全ての痛みは、

 次なる破壊へのただの糧となるのだから。

 

「……ああ、こいつか」

 

 俺は内心の驚きを隠し、平静を装って呟いた。

 知識としては知っていた。

 低レベル帯における「大当たり」枠の一つ。

 

 だが実物を見るのは、この世界に来て初めてだ。

 

(……悪くない。いや、今の時期なら最高クラスか)

 

 俺は脳内で高速で計算する。

 

 まず「攻撃に混沌ダメージを追加」という効果。

 混沌(カオス)属性は、この世界において特殊な属性だ。

 

 物理耐性も元素耐性(火氷雷)も無視して、相手のエナジーシールドを貫通してダメージを与える。

 序盤の敵でカオス耐性を持っている奴はまずいない。

 つまり実質的な「固定ダメージ追加」として機能する。

 

 手数が多い短剣や、二刀流ビルドとの相性が抜群だ。

 

 だが真に評価すべきは二つ目の効果だ。

「毎秒15のHPが自動で回復する」。

 

 これがどれほど異常か、一般人には分からないだろう。

 通常HPの自然回復というのは「最大HPの〇〇%を毎秒回復」という形が多い。

 

 レベル5程度の探索者のHPは、装備込みでもせいぜい150~200だ。

 1%回復だとしても、毎秒1.5~2しか回復しない。

 

 それがこの指輪は固定値で「15」回復する。

 つまり10秒で150回復。

 瀕死の重傷を負っても、十秒間逃げ回れば全快する。

 ポーションいらずのゾンビ性能だ。

 

 この「秒間15回復(リジェネ)」という数値は、本来ならアイテムレベル19以上のレア装備でようやく出現する高位の効果(Mod)だ。

 それが装備レベル5の指輪についている。

 

 まさにユニークならではのバランスブレイカー。

 

(10年後のインフレした時間軸なら、まあ10万円程度の入門用ユニークってところだが……今のこの黎明期に表に出れば、1000万円は下らないな)

 

 俺が作った『清純の光輪』が守りの要なら、これは生存と攻撃を両立させる万能アクセサリだ。

 もしこれをリンあたりに装備させれば、彼女は文字通り「死なない殺戮マシーン」と化すだろう。

 

「……どうだ、兄ちゃん。この輝き、タダモンじゃねえのは分かるだろ?」

 

 ヤクザが、ねっとりとした声で尋ねてくる。

 

「ああ、確かにいい品だ。ユニークアイテムだな」

 

「へへ、やっぱり分かるか。

 で、いくら出す?」

 

 試されている。

 彼らはこの指輪の正確な価値を知らない。

 だが「凄いもの」であることは直感で理解している。

 

 安く買い叩こうとすれば、「舐められた」と判断してキレるかもしれない。

 かといって言い値で買うほど、俺も甘くはない。

 

「……500万だ」

 

 俺は指を五本立てた。

 

「500……万?」

 

 男の目が丸くなった。

 後ろの若い衆もざわめく。

 彼らの予想を超えた高値だったのだろう。

 アメ横の相場では、いいとこ数十万が関の山だ。

 

「ああ。今の市場価格を考えれば、それくらいが妥当なラインだ。

 表のオークションに出せば、もう少し跳ねるかもしれないが、あんたたちは出せないだろ?

 足がつくし、税金も取られる」

 

 俺は冷静に畳み掛ける。

 

「俺ならキャッシュ……いや、カードですぐに払える。

 リスクなしで500万。悪くない話だと思うが?」

 

「500万……500万か……」

 

 男は指輪を見つめ、ゴクリと喉を鳴らした。

 

 彼らにとってダンジョン探索は、シノギの一つに過ぎない。

 それが一発で500万になるなら、僥倖もいいところだ。

 

 もちろん俺からすれば、1000万以上の価値があるものを半値で買うわけだから大勝利だ。

 それに俺の『万象の創造』があれば、似たような効果のアイテムを作ることは可能だ。

 

 だが素材を集めて合成して……という手間を考えれば、完成品を500万で買えるのは安い。

 タイム・イズ・マネーだ。

 

「……分かった。500万で手を打とう」

 

 男は決断した。

 箱をパチンと閉じる。

 

「支払いは?」

 

「カードで。この端末で切れるか?」

 

 俺は懐からブラックカードを取り出した。

 以前、転売利益で作った法人カードだ。

 

「……チッ。カタギにしちゃ、度胸がありすぎるな。いいだろう」

 

 男は携帯決済端末を取り出し、操作した。

 カードを通す。

 

 電子音が鳴り、決済完了のレシートが吐き出される。

 

「はいよ。商談成立だ」

 

 男は箱を俺に投げ渡した。

 俺はそれを受け取り、中身を確認してからインベントリへ放り込む。

 

「まいど。……いい取引だったぜ、兄ちゃん」

 

「ああ、こちらもな」

 

 俺は背を向け、足早にその場を離れた。

 背中に男たちの視線を感じるが、追ってくる気配はない。

 

 彼らもプロだ。

 一度成立した商談を反故にするような真似はしない。

 

 それに俺が500万を即決できる「太客」であると認識した以上、今後もいいカモとして付き合いたいと思うはずだ。

 

 路地を抜け、表通りの喧騒に戻る。

 上野の空には、どんよりとした曇り空が広がっていた。

 

「……『混沌の血脈』か」

 

 俺はポケットの中で、冷たい指輪の感触を確かめた。

 血塗られた金で買った、血塗られた指輪。

 だが、その力は本物だ。

 

「アメ横、侮れないな」

 

 詐欺と暴力と欲望が渦巻く街。

 だがそこには公式にはない「熱」と「実利」がある。

 

 公式ギルドの綺麗なシステムだけでは拾いきれない、世界の澱(おり)のような場所。

 だが俺のような「清濁併せ呑む」タイプの人間にとっては、ここもまた一つの魅力的なダンジョンだ。

 

「さて、帰ってリンにでもやるか。

 それとも田中に持たせて、ゾンビタンクにするか……」

 

 使い道を考えながら、俺は駅へと向かった。

 混沌ダメージ15~30追加。

 毎秒HP15回復。

 

 この指輪一つで、ウチのギルドの戦力はまた一段階、上のステージへと引き上げられる。

 

 500万?

 安い買い物だったよ。

 

 俺は雑踏の中で、誰にも気づかれないようにニヤリと笑った。




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