現代ダンジョン発生初日。世界がパニックになる中、俺だけが攻略wikiの知識で最強ビルドを試している~将来のSSS級探索者? ああ、全員俺の弟子です~   作:パラレル・ゲーマー

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第80話 極秘回線とバチカンへの招待状、あるいは滅亡を回避するための確認作業

 I・G・Uの仮想会議室で繰り広げられた、スイスのエリクサーを巡る権力者たちの醜い舌戦から数日。

 世界中のトップクランや各国の精鋭部隊が、アルプスの白き神獣を倒すためのレイド編成に血道を上げている中、俺、八代匠は、港区ミッドタウン・タワーのマスターオフィスで、一人静かに別の「戦い」の準備を進めていた。

 

 神獣討伐に関しては、もう俺の出る幕ではない。

 日米のトップランカーたちに、俺が監修した「対神獣用・特効装備(もちろん超高額)」を売りつけ、あとは彼らが勝手に死闘を繰り広げてくれるのを待つだけだ。

 彼らが勝てば、世界はエリクサーを手に入れ、俺は莫大な利益とA級魔石の需要を独占する。彼らが負ければ、装備を買い直させて再挑戦させるだけ。

 どちらに転んでも、俺の懐は痛まない。

 

 だが、俺には、彼らに任せておけない「次」の仕事があった。

 いや、正確には「次」どころではない。

 このエリクサー騒動のすぐ後に控えている、ダンジョン・フロンティア最大にして最悪のイベント――【ワールドボス】の出現。

 それに対処するための、絶対的に不可欠な「鍵」の確認だ。

 

「……乃愛、通信の暗号化レベルは最大にしてあるな?

 ペンタゴンすら傍受できない、完全独立回線で」

 

 俺はデスクの上の専用端末を睨みつけながら、背後に控える秘書の乃愛に確認した。

 

「はい、マスター。アルカディア独自の量子暗号プロトコルを使用しています。

 アメリカ大統領のプライベート回線への接続、準備完了です」

 

「よし、繋げ」

 

 俺が合図をすると、モニターの画面が切り替わり、ホワイトハウスの執務室と思われる背景を背にした、アメリカ合衆国大統領の顔が映し出された。

 

『やあ、ミスター・ヤシロ。

 こんな時間に直接の通信とは珍しいな。どうした?』

 

 大統領の顔には、先日までの疲労感はなく、むしろ活気に満ちていた。

 エリクサーという究極の報酬を前にして、彼の闘争本能が燃え上がっているのだろう。

 あるいは、国内の富裕層たちから「絶対に手に入れろ」という強烈な突き上げを食らって、アドレナリンが出まくっているのか。

 

「すみません、大統領。

 お忙しいところ、突然の電話会議を申し入れてしまって」

 

 俺は少し頭を下げ、丁重に切り出した。

 この男は俺のビジネスにおける最大のスポンサーであり、同時に世界の盾だ。機嫌を損ねるわけにはいかない。

 

『いや、良いよ。君からの通信なら最優先するさ。

 I・G・Uの技術顧問であり、我が国の救世主の一人だからな。

 ……さて、何かね?

 スイスの件か? エリクサーの分配について、何か新たな情報でも?

 正直、国内の富豪や大企業からの「優先的に回せ」という突き上げが激しくてな。

 君から「A級魔石さえあれば確実に生成できる」という言質を取っておきたいのだが』

 

 大統領が苦笑いしながら探りを入れてくる。

 彼らも必死なのだ。不老不死(に近いもの)という劇薬は、権力者たちの理性を狂わせるには十分すぎる。

 

「ええ、エリクサーの件も重要ですが、それに関しては予定通り、各国の攻略部隊が神獣を倒した後、I・G・U主導で魔石と交換ということで問題ありません。

 我々アルカディアも、A級魔石の精製ラインをフル稼働させて、皆様の需要にお応えする準備を進めています」

 

 俺はサラリと商売の念押しをした上で、本題に入った。

 

「今日ご連絡したのは、少し先の話です。

 ……ローマ教皇と、面談したいんですよね」

 

『……なんだって?』

 

 大統領の動きがピタリと止まった。

 その瞳から、ビジネスマンの光が消え、国家元首としての鋭い光が宿る。

 

『ローマ教皇……バチカンのトップと面会したいと?

 君が?』

 

「はい。それも、可能な限り早く。

 そして、絶対に誰にも聞かれない、完全な密室で」

 

 俺の要求に、大統領は眉を深くひそめた。

 

『……うーん。

 すぐに会えるか分からんぞ、ヤシロ。

 君が世界でどれほど影響力を持っていようと、相手は13億人のカトリック教徒の頂点に立つ人物だ。

 一介の探索者ギルドのマスターが「会いたい」と言って、ホイホイ会える相手ではない』

 

 大統領は画面越しに、渋い顔で首を横に振った。

 

『それに、バチカンはダンジョンという現象に関して、極めて慎重な「中立」の立場をとっている。

 彼らはダンジョンを「神の試練」とも「悪魔の誘惑」とも明言せず、スタンピードを鎮圧した我々I・G・Uの活動には一定の理解を示しているが……。

 バチカン内部の枢機卿たちが、全て我々と同じ方向を向いているわけではない。一枚岩ではないんだ。

 下手に接触すれば、宗教的な反発を招きかねない』

 

 大統領の懸念はもっともだ。

 科学や武力が通用しない相手。信仰という絶対的な価値観で動く組織。

 政治家である彼にとって、バチカンは最も扱いが難しい存在の一つだろう。

 

「ええ、それは重々承知しています」

 

 俺は静かに頷いた。

 

「バチカンの政治的立場も、内部の派閥争いも、今この瞬間においてはどうでもいいことです。

 ですが……どうしても、直接会って、二人きりで確認しなければならない『話』があるんです。

 ……ワールドボス関連で、ローマ教皇の『お力』が必要になる」

 

『ワールドボス……!』

 

 大統領の顔色が変わった。

 以前、俺が地下シェルターの極秘会談で語った、スタンピード以上の絶望。

 大陸間を移動し、文明を蹂躙する「動く災害」。

 それが、ついに来るのか。

 

『……なるほど。

 君がそこまで切羽詰まった顔をするということは、その「話」とやらは、人類の存亡に直結するのだな?

 将来起きる出来事に対して、ローマ教皇が持つ「何か」が絶対に必要なんだな?』

 

「はい」

 

 俺は短く肯定した。

 嘘はない。

 『ダンジョン・フロンティア』のシナリオにおいて、ワールドボスの一つである【深海より来たる大いなる厄災】を撃退するためには、通常の物理攻撃や魔法攻撃では不可能だ。

 奴は、人類が持つあらゆる攻撃を無効化する絶対的な耐性バリアを纏っている。

 

 そのバリアを剥がす唯一の手段。

 それが、バチカンが代々極秘裏に受け継いできた『聖なる遺物』と、それを起動するための『教皇の殉死』なのだ。

 もしそれが失われていれば、あるいは教皇が協力を拒めば、人類は文字通り海に沈む。

 

『……分かった。手配しよう』

 

 大統領は深く息を吐き、決断した。

 

『私から直接、教皇庁へ親書を送る。

 日米の首脳による「世界の安全保障に関する極秘要請」としてな。

 最優先で予定を入れさせてもらうよ』

 

「無理を言って、すみません大統領」

 

『いいや、別に大丈夫さ。

 君は我々の……いや、世界の恩人だ。

 スタンピードから世界を救い、エリクサーという奇跡への道筋を示してくれた、君が「会いたい」と言っているんだ。

 向こうも無下には断れんさ』

 

 大統領はニヤリと、どこか頼もしい笑みを浮かべた。

 大国のトップとしてのプライドと、俺への信頼が入り混じった表情だ。

 

『それに、もし教皇が渋るようなら、私が直接バチカンに乗り込んででも説得してやる。

 世界を救うためなら、神にだって喧嘩を売る覚悟はできているからな』

 

「心強い限りです。

 ……では、よろしくお願いします」

 

『ああ。吉報を待っていてくれ。ではまた』

 

「はい、ではまた」

 

 画面が暗転し、通信が切断された。

 俺は椅子の背もたれに深く寄りかかり、長く、重い息を吐き出した。

 

「ふーー……。

 なんとかなるのか、これで?」

 

 大統領を動かすことには成功した。

 だが、問題はこれからだ。

 教皇に会えたとして、あの「アイテム」と「知識」が本当に現実世界(ここ)にも存在しているのか。

 

「マスター……」

 

 背後でずっと息を潜めていた乃愛が、不安そうな声で話しかけてきた。

 

「ローマ教皇が必要なんですか?

 先ほど『ワールドボス』と仰っていましたが……自衛隊やアメリカ軍の火力でも、倒せない敵なんですか?」

 

 彼女の目には、明らかな恐怖が浮かんでいた。

 横浜でのオーガキング戦、そして機械都市での腐敗した機神戦。

 それらを経験し、人類がどれほど強くなったかを間近で見ている彼女にとって、「それでも倒せない敵」というのは想像を絶する恐怖だろう。

 

「ああ。

 火力とか、人海戦術とか、そういう次元の話じゃないんだ。

 奴は『神話』そのものだからな。

 だから、それに対抗するには『神話』をぶつけるしかない」

 

 俺はデスクの上のタブレットを指で叩いた。

 

「ローマ教皇が代々引き継いでいる、ある『予言』……あるいは『伝承』があってだな。

 それが正しく継承されているかどうかで、人類の今後が大きく変わるんだ」

 

「予言……ですか?」

 

「そうだ。

 もしその予言が失われていれば、あるいは『そんなものはただの御伽話だ』と教皇が信じていなければ……。

 この世界は、滅ぶことになるよ。

 ……確定でな」

 

 俺の言葉に、乃愛が戦慄した。

 彼女の肩が微かに震え、手元のバインダーを握る指先が白くなっている。

 

 俺は脅しているわけではない。

 これはゲームの仕様(ルール)だ。

 フラグが立たなければ、ボスは無敵状態のまま世界を蹂躙し続ける。

 『ダンフロ』のプレイヤーたちが何度も全滅し、掲示板で「クソゲー!」「理不尽!」と叫びながら、血反吐を吐くような思いでフラグ回収ルートを探し当てた、最悪の初見殺しギミック。

 

「ローマ教皇が……引き継いでいることを、祈ります……」

 

 乃愛が、震える声でそう呟いた。

 神を信じないような彼女が、皮肉にも「祈る」という言葉を使った。

 

「……ああ。そうしておけ」

 

 俺は窓の外、広がる東京の空を見つめた。

 エリクサーという黄金の夢に浮かれる世界の裏側で、確実に滅びの足音は近づいている。

 

 果たして、現実のバチカンは、ゲームの設定通りに「世界の防波堤」として機能してくれるのか。

 それとも、ただの宗教組織として、俺の言葉を狂人の妄言として切り捨てるのか。

 

 サイコロは投げられた。

 あとは、バチカンからの招待状を待つだけだ。

 俺は冷え切ったコーヒーの最後の一滴を飲み干し、静かに目を閉じた。




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