現代ダンジョン発生初日。世界がパニックになる中、俺だけが攻略wikiの知識で最強ビルドを試している~将来のSSS級探索者? ああ、全員俺の弟子です~ 作:パラレル・ゲーマー
マリアナ海溝。
世界を終わらせるために浮上した災厄の具現、SSS級ワールドボス『リヴァイアサン』に対し、人類史上最大にして最悪の「数」の暴力が襲いかかっていた。
黄金の光――ローマ教皇の命を代償とした『不滅のレギオン』の加護を纏った数百万の探索者たちは、死の恐怖から解き放たれ、ただひたすらに攻撃を繰り返す殺戮機械と化していた。
だが、相手は神話の怪物だ。
いくら死なないといっても、こちらの攻撃が豆鉄砲であれば、HPを削り切る前に人類側の精神が摩耗するか、あるいは別の「時間切れ(タイムオーバー)」ギミックが発動して終わる。
必要なのは「死なないこと」ではない。
「殺し切る火力(DPS)」だ。
暴風雨と雷鳴が轟く戦場の中央で、俺、八代匠は戦況を冷徹に分析していた。
「硬いな。さすがはSSS級、素の防御ステータスが異常だ」
数百万人がスキルを放っているにもかかわらず、リヴァイアサンのHPバーの減りは遅い。
漆黒の鱗は魔法を弾き、物理攻撃を減衰させる。
このままではジリ貧だ。
「……そろそろ入れるか。
『デバフ(弱体化)』のスペシャリストを」
俺はインカムのスイッチを切り替え、特定のチャンネルに呼びかけた。
「おい、カース班。準備はいいか?
あのでくの坊を、丸裸にしてやれ」
『――了解シマシタ、マスター』
ノイズ混じりの、感情の希薄な声が返ってきた。
それはアルカディアに所属する、ある特殊なユニークスキルを持つ男――通称『呪いの王(カース・ロード)』の声だった。
◇
戦場の一角、リヴァイアサンの巨体を見上げる位置に、黒いローブを纏った集団が展開していた。
彼らは攻撃魔法を撃つわけでも、剣を振るうわけでもない。
ただ、禍々しい紫色のオーラを練り上げ、空に向けて指を突き立てていた。
ここで、この世界の「呪い(カース)」の仕様について解説しておこう。
『ダンジョン・フロンティア』のシステムにおいて、敵に対して付与できる「呪い」の数には、厳格な制限が存在する。
基本値は「1」。
どれだけ強力な呪術師が揃っていようが、どれだけ大勢で呪いをかけようが、敵1体につき適用される呪いは常に1つだけだ。新しい呪いをかければ、古い呪いは上書きされて消える。
これが鉄則だ。
もちろん、装備やパッシブスキルによって上限を増やすことはできる。
『呪い上限+1』の指輪や、『追加の呪いを適用可能』という鎧。
それらを極限まで積み重ねても、通常は「3つ」、あるいは「4つ」が限界だ。
それ以上はシステムが許さない。
だが。
この世界には、システムに愛された(あるいは嫌われた)例外が存在する。
「……対象、リヴァイアサン。固定完了」
黒ローブの男が、虚空に魔法陣を描く。
彼が持つユニークスキル【百鬼夜行の呪詛】。
その効果は、「自身が付与する呪いの数に制限を設けない」という、ルールの根底を覆すバグじみたものだ。
「展開開始。
――【エレメンタル・ウィークネス(全属性耐性低下)】」
リヴァイアサンの頭上に、属性防御が砕け散るアイコンが浮かぶ。
通常なら、これで枠は埋まる。
だが、男の詠唱は止まらない。
「――【コンダクティビティ(雷撃脆弱化)】」
「――【フラマビリティ(可燃性付与)】」
「――【フロストバイト(凍傷化)】」
さらに3つ。
炎、氷、雷。すべての属性に対する耐性が、強制的にマイナス域まで引き下げられる。
リヴァイアサンの鱗が、防御力を失って脆く変質していく。
「まだだ。動きを止める。
――【テンポラル・チェーン(時間鎖の呪い)】」
怪物の動作が、泥沼に浸かったように鈍くなる。
攻撃速度、移動速度、詠唱速度。すべてが半減する。
「――【エンフィーブル(衰弱)】」
「――【パニッシュメント(処罰)】」
「――【アサシン・マーク(暗殺者の印)】」
「――【スナイパー・マーク(狙撃手の印)】」
「――【ヴァルネラビリティ(物理脆弱化)】」
計10個。
実に10個もの最上級の呪いが、同時に、一匹の怪物に叩き込まれたのだ。
ドォォォォォンッ!!
物理的な重みすら伴って、呪いの重圧がリヴァイアサンを押し潰す。
空に浮かんでいた怪物の巨体が、ガクンと高度を下げた。
『グガァァァァァッ!?』
リヴァイアサンが悲鳴を上げる。
今まで蚊ほどにも感じていなかった探索者たちの攻撃が、急に「痛く」なったからだ。
耐性が下がり、皮膚が柔らかくなり、動きが鈍り、クリティカルを受けやすくなった。
絶対強者だった怪物が、一瞬にして「殴られ放題のサンドバッグ」へと転落した瞬間だった。
周囲の探索者たちが、その異変に気づく。
「おい見ろ! あいつの頭上のアイコン!」
「1、2……10個!? 10個もデバフが入ってるぞ!」
「ありえねえ! どんな装備してんだよ!」
「アルカディアのカース班だ! あいつらがやったんだ!」
歓声が上がる。
最強のデバッファーが味方にいる心強さ。
リヴァイアサンを縛り付ける鎖は、物理的な鎖ではなく、この理不尽なシステム介入だったのだ。
◇
「よし、敵は柔らかくなった。
次はこっち(味方)を硬く、強くする番だ」
俺は次なる切り札に指示を出した。
「バッファー班、起動しろ。
『チャージ共有』、全開だ!」
戦場の中央、最も探索者が密集しているエリアに、一人の少女が立っていた。
彼女は巨大な旗――戦旗のようなアーティファクトを掲げている。
彼女の周囲には、赤、緑、青の3色の光球が、衛星のようにくるくると回っていた。
【チャージ(Charge)】。
それは戦闘中に特定の行動をとることで蓄積される、一時的な強化スタックのことだ。
『耐久力チャージ(Endurance Charge)』。
『狂乱チャージ(Frenzy Charge)』。
『パワーチャージ(Power Charge)』。
通常、これらは個人が自分で稼ぎ、自分で消費するものだ。
他人に譲渡することはできない。
だが、ここにもアルカディア独自の「例外」が存在する。
少女が持つユニークスキル【共有する魂(ソウル・リンク)】と、特殊装備【導きの戦旗】のシナジー効果。
これにより、彼女が獲得したチャージは、周囲の味方――この場合、戦場にいる「レギオン」の加護を受けた全探索者に、リアルタイムで共有(コピー)されるのだ。
「行きます!
チャージ・ジェネレーション、最大出力!」
少女が旗を振るう。
彼女の装備している特殊なアクセサリーが唸りを上げ、秒間数十個というペースでチャージを生成していく。
そして、その限界突破したチャージが、光の波となって全軍に波及した。
シュウウウウウウッ……!
戦場にいる数百万人の探索者の体の周りに、3色の光球が出現する。
1個、2個、3個……。
数は止まらない。
通常の限界である3個を超え、5個、7個……そして10個へ。
「うおおおおおっ!? なんだこれ!?」
「チャージが……10個ずつ溜まってる!?」
「体が……燃えるように熱い!」
探索者たちが自分の体を見下ろして驚愕する。
彼らのステータス画面には、信じられない数値補正が表示されていた。
【耐久力チャージ × 10】
・物理ダメージ軽減:+40%(1個につき4%)
・全属性耐性:+40%(1個につき4%)
「カチカチだ……!
これならリヴァイアサンの攻撃を受けても即死しないぞ!」
タンク役の男が、自分の皮膚が鋼鉄のように硬化しているのを感じて叫ぶ。
属性耐性+40%は、実質的なダメージ半減に近い。
教皇の加護で死なないとはいえ、痛みが減り、吹き飛ばされにくくなるのは巨大なメリットだ。
【狂乱チャージ × 10】
・攻撃速度:+40%
・詠唱速度:+40%
・ダメージ増幅(More Damage):+40%
「は、速い!
剣が止まらねえ! 魔法が機関銃みたいに出る!」
アタッカーたちが狂喜する。
単純な加算(Increased)ではなく、最終ダメージに乗算される「増幅(More)」が40%。
さらに速度が1.4倍になれば、総火力(DPS)は2倍近くに跳ね上がる。
戦場全体の攻撃密度が、目に見えて分厚くなった。
そして極めつきは――。
【パワーチャージ × 10】
・クリティカル発生率:+500%(1個につき50%)
「500%ォォォッ!?」
「全部クリティカルじゃねーか!」
「目の前がクリティカルエフェクトで見えねえ!」
これこそが最大の火力源だ。
基礎クリティカル率が5%の武器でも、+500%されれば30%になる。
元々クリティカル特化しているビルドなら、確率は100%でカンストし、余剰分はクリティカル倍率へと変換される。
10個の呪いで豆腐のように柔らかくなったリヴァイアサンに、
10個のチャージでドーピングされた数百万の探索者が、
確定クリティカルの雨を降らせる。
それは戦闘ではない。
一方的なリンチであり、数値による暴力的な蹂躙だった。
「アルカディア……半端ねえ!」
「こんなバフ、見たことねえぞ!」
「神か! 八代は神なのか!」
世界中から感謝と畏怖の声が上がる。
さらに、そこへ畳み掛けるように、乃愛たち魔法部隊が展開した「オーラ」が重なる。
攻撃力を上げる【憎悪(ヘイトレッド)】。
防御力を上げる【決意(ディターミネーション)】。
移動速度を上げる【迅速(ヘイスト)】。
全種類のオーラが、虹色の幕となって戦場を覆い尽くす。
最強の矛と、最強の盾。
そして最強の支援。
すべてが揃った人類軍は、今や神話の怪物すら凌駕する「災害」となっていた。
◇
『グオォォォォォォォッ……!!』
リヴァイアサンが苦悶の声を上げる。
七つの首のうち、すでに三つがへし折れ、再生が追いついていない。
自慢の絶対防御も、時空魔法も、この理不尽な暴力の前では無力だった。
だが、腐ってもワールドボス。
追い詰められた怪物は、最後の足掻きを見せる。
ズズズズズッ……!
リヴァイアサンの周囲の海面が黒く沸騰し、そこから無数の異形が這い出してきた。
【深きものども(ディープ・ワンズ)】。
ボスの眷属であり、1体1体がA級モンスターに匹敵する戦闘力を持つ親衛隊だ。
その数、数千。
「雑魚召喚か!
探索者を散らして、各個撃破するつもりだな!」
俺は即座に状況を把握した。
ボス本体への攻撃の手を緩めさせ、乱戦に持ち込んで時間を稼ぐ。
典型的な遅延行為だ。
俺はマイクを掴み、全軍に指示を飛ばした。
「狼狽えるな!
未来(パターン)は見えている!
雑魚の湧き位置は座標C-3からE-5!
魔法部隊、範囲魔法(AoE)の準備だ!
10秒後に召喚される!
出てきた瞬間に蒸発させろ!」
俺の【鑑定】は、未来の事象すら「確定した情報」として読み取る。
敵がどこに現れ、どう動くか。
すべては台本通りだ。
『10秒後! 魔法部隊、詠唱開始!』
『座標固定! タイミングを合わせろ!』
乃愛の指揮の下、数万の魔法使いたちが杖を掲げる。
10、9、8……。
海面が盛り上がり、怪物の頭が見えた瞬間。
「今だッ! 放てぇぇぇッ!!」
ドガアアアアアアアアンッ!!!
何万発ものファイアボール、サンダーボルト、アイススピアが、一点に集中して着弾した。
出現したばかりの深きものどもは、産声を上げることもできずに消し飛んだ。
出落ち。
完全なる出落ちだ。
『グッ……!?』
リヴァイアサンが驚愕に目を見開く。
自分の切り札が一瞬で潰されたのだ。
「次が来るぞ!
全体攻撃(ワイプ技)だ!
10秒後、右舷から左舷へ向けて、薙ぎ払いのブレスが来る!」
俺は間髪容れずに次の指示を出す。
リヴァイアサンの喉元が赤く輝き始めている。
即死級の熱線だ。
これをまともに食らえば、ブロック率や回避率に関係なく、HPごと身体が消滅する。
「ブロック持ちとタンク以外は即死する!
だが避けるな! 避ける時間が惜しい!
食らって死ね!
そして即座に起き上がれ!」
狂気の指示。
だが、これこそが「不滅のレギオン」の正しい使い方だ。
回避行動を取れば攻撃の手が止まる。
DPSが下がる。
ならば死んで、0.1秒で蘇生して、殴り続けた方が速い。
「来るぞ! 衝撃に備えろ!」
ズオォォォォォォォッ!!
極太の熱線が海上を薙ぎ払う。
数万人の探索者が光に飲まれ、蒸発した。
HPバーが一斉にゼロになる。
だが次の瞬間。
キンッ! という音と共に、彼らの体は光の粒子から再構成され、何事もなかったかのようにその場に立っていた。
「……あ、死んだわ俺」
「生き返った! HP満タンだ!」
「ポーション飲む手間が省けたぜ! ラッキー!」
「殴れ殴れぇぇぇ!!」
死んでも止まらない軍団。
ゾンビよりもタチが悪い、無限の命を持つ不死者の群れ。
リヴァイアサンにとっては、悪夢以外の何物でもないだろう。
追い詰められていく神話の怪物。
七つの首は全て落ち、残るは巨大な本体のみ。
HPバーは残り1%。
「本来なら……。
お前のようなSSS級の怪物は、同じくSSS級に至った『英雄』が一対一で戦い、その武勇を示すための試練だったはずだ」
俺は消えゆく怪物を見下ろして呟いた。
ダンフロ終盤のシナリオではそうだった。
主人公が極限までレベルを上げ、最強の装備を纏い、孤独な戦いの末に勝利する。
それが美しい物語だ。
「だが、現実は違う。
まだ人類にはSSS級の個体はいない。
英雄は不在だ。
だからこそ……こうして『凡人の群れ』が、知恵と数とシステムを悪用して、泥臭く、しかし確実に神を殺す」
「総員、とどめだ!
ありったけを叩き込めぇぇぇぇッ!!」
世界中の探索者の叫びが重なる。
魔法、剣技、矢、砲弾。
人類が持つ全ての殺意が、一点に収束した。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!
マリアナの海が割れた。
光の柱が宇宙まで届く。
その光の中で、リヴァイアサンの巨体は崩壊し、霧散し、そして膨大な量の魔石とアイテムの雨となって降り注いだ。
討伐完了。
システムログが、静かに勝利を告げる。
◇
静寂が戻った海の上で、誰かが歓声を上げた。
それは瞬く間に広がり、地球の裏側まで響き渡る大合唱となった。
「勝った……! 勝ったぞおおおおお!!」
「世界を救った! 俺たちが救ったんだ!」
「ざまぁみろ! 人間様を舐めるな!」
抱き合う者、泣き崩れる者、勝利のダンスを踊る者。
その様子は世界中に中継され、シェルターで震えていた人々も、テレビの前で拳を突き上げた。
俺は大きく息を吐いた。
「……ふー。
なんとかなったな」
全身の力が抜ける。
緊張の糸が切れ、心地よい疲労感が襲ってくる。
「マスター! やりましたね!」
「私たちが、世界を守りきりました!」
リンと乃愛が、涙目で俺に抱きついてくる。
田中も男泣きしている。
旭は部下たちと肩を組んで歌っている。
「ああ。上出来だ。
これ以上ない、完璧な勝利だ」
俺は彼女たちの頭を撫でながら、空を見上げた。
暗雲が消え、太陽の光が差し込んでくる。
それは新しい時代の夜明けの光だ。
教皇の犠牲は無駄ではなかった。
彼の命が作った盾が、人類を未来へと繋いだのだ。
「……見ていてくれましたか、教皇猊下。
あなたの守りたかった人間たちは、こんなにも強欲で、逞しいですよ」
俺は心の中で、あの老人に語りかけた。
少しだけ胸が痛むが、それは感傷というやつだろう。
「さて……。
感傷に浸るのは後だ」
俺はすぐにビジネスモードに切り替えた。
目の前の海には、リヴァイアサンが落としたSSS級の素材や魔石が山のように浮いている。
これを回収し、分配し、市場に流す。
それが終わるまでが、俺の戦争だ。
「総員、回収作業に移れ!
一個たりとも取りこぼすな!
これは世界を救った報酬だ! 骨の髄までしゃぶり尽くせ!」
「「「イエッサー!!!」」」
歓喜の声が、再び響き渡る。
世界は救われた。
そして人類は、新たなステージへと足を踏み入れたのだ。
より強く、より賢く、そしてより強欲に。
ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!