現代ダンジョン発生初日。世界がパニックになる中、俺だけが攻略wikiの知識で最強ビルドを試している~将来のSSS級探索者? ああ、全員俺の弟子です~   作:パラレル・ゲーマー

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第83話 十重の呪いと極彩色の暴走、あるいはシステムを嘲笑うバフの暴力

 マリアナ海溝。

 世界を終わらせるために浮上した災厄の具現、SSS級ワールドボス『リヴァイアサン』に対し、人類史上最大にして最悪の「数」の暴力が襲いかかっていた。

 

 黄金の光――ローマ教皇の命を代償とした『不滅のレギオン』の加護を纏った数百万の探索者たちは、死の恐怖から解き放たれ、ただひたすらに攻撃を繰り返す殺戮機械と化していた。

 だが、相手は神話の怪物だ。

 いくら死なないといっても、こちらの攻撃が豆鉄砲であれば、HPを削り切る前に人類側の精神が摩耗するか、あるいは別の「時間切れ(タイムオーバー)」ギミックが発動して終わる。

 

 必要なのは「死なないこと」ではない。

 「殺し切る火力(DPS)」だ。

 

 暴風雨と雷鳴が轟く戦場の中央で、俺、八代匠は戦況を冷徹に分析していた。

 

「硬いな。さすがはSSS級、素の防御ステータスが異常だ」

 

 数百万人がスキルを放っているにもかかわらず、リヴァイアサンのHPバーの減りは遅い。

 漆黒の鱗は魔法を弾き、物理攻撃を減衰させる。

 このままではジリ貧だ。

 

「……そろそろ入れるか。

 『デバフ(弱体化)』のスペシャリストを」

 

 俺はインカムのスイッチを切り替え、特定のチャンネルに呼びかけた。

 

「おい、カース班。準備はいいか?

 あのでくの坊を、丸裸にしてやれ」

 

『――了解シマシタ、マスター』

 

 ノイズ混じりの、感情の希薄な声が返ってきた。

 それはアルカディアに所属する、ある特殊なユニークスキルを持つ男――通称『呪いの王(カース・ロード)』の声だった。

 

          ◇

 

 戦場の一角、リヴァイアサンの巨体を見上げる位置に、黒いローブを纏った集団が展開していた。

 彼らは攻撃魔法を撃つわけでも、剣を振るうわけでもない。

 ただ、禍々しい紫色のオーラを練り上げ、空に向けて指を突き立てていた。

 

 ここで、この世界の「呪い(カース)」の仕様について解説しておこう。

 

 『ダンジョン・フロンティア』のシステムにおいて、敵に対して付与できる「呪い」の数には、厳格な制限が存在する。

 基本値は「1」。

 どれだけ強力な呪術師が揃っていようが、どれだけ大勢で呪いをかけようが、敵1体につき適用される呪いは常に1つだけだ。新しい呪いをかければ、古い呪いは上書きされて消える。

 これが鉄則だ。

 

 もちろん、装備やパッシブスキルによって上限を増やすことはできる。

 『呪い上限+1』の指輪や、『追加の呪いを適用可能』という鎧。

 それらを極限まで積み重ねても、通常は「3つ」、あるいは「4つ」が限界だ。

 それ以上はシステムが許さない。

 

 だが。

 この世界には、システムに愛された(あるいは嫌われた)例外が存在する。

 

「……対象、リヴァイアサン。固定完了」

 

 黒ローブの男が、虚空に魔法陣を描く。

 彼が持つユニークスキル【百鬼夜行の呪詛】。

 その効果は、「自身が付与する呪いの数に制限を設けない」という、ルールの根底を覆すバグじみたものだ。

 

「展開開始。

 ――【エレメンタル・ウィークネス(全属性耐性低下)】」

 

 リヴァイアサンの頭上に、属性防御が砕け散るアイコンが浮かぶ。

 通常なら、これで枠は埋まる。

 だが、男の詠唱は止まらない。

 

「――【コンダクティビティ(雷撃脆弱化)】」

「――【フラマビリティ(可燃性付与)】」

「――【フロストバイト(凍傷化)】」

 

 さらに3つ。

 炎、氷、雷。すべての属性に対する耐性が、強制的にマイナス域まで引き下げられる。

 リヴァイアサンの鱗が、防御力を失って脆く変質していく。

 

「まだだ。動きを止める。

 ――【テンポラル・チェーン(時間鎖の呪い)】」

 

 怪物の動作が、泥沼に浸かったように鈍くなる。

 攻撃速度、移動速度、詠唱速度。すべてが半減する。

 

「――【エンフィーブル(衰弱)】」

「――【パニッシュメント(処罰)】」

「――【アサシン・マーク(暗殺者の印)】」

「――【スナイパー・マーク(狙撃手の印)】」

「――【ヴァルネラビリティ(物理脆弱化)】」

 

 計10個。

 実に10個もの最上級の呪いが、同時に、一匹の怪物に叩き込まれたのだ。

 

 ドォォォォォンッ!!

 

 物理的な重みすら伴って、呪いの重圧がリヴァイアサンを押し潰す。

 空に浮かんでいた怪物の巨体が、ガクンと高度を下げた。

 

『グガァァァァァッ!?』

 

 リヴァイアサンが悲鳴を上げる。

 今まで蚊ほどにも感じていなかった探索者たちの攻撃が、急に「痛く」なったからだ。

 耐性が下がり、皮膚が柔らかくなり、動きが鈍り、クリティカルを受けやすくなった。

 絶対強者だった怪物が、一瞬にして「殴られ放題のサンドバッグ」へと転落した瞬間だった。

 

 周囲の探索者たちが、その異変に気づく。

 

「おい見ろ! あいつの頭上のアイコン!」

「1、2……10個!? 10個もデバフが入ってるぞ!」

「ありえねえ! どんな装備してんだよ!」

「アルカディアのカース班だ! あいつらがやったんだ!」

 

 歓声が上がる。

 最強のデバッファーが味方にいる心強さ。

 リヴァイアサンを縛り付ける鎖は、物理的な鎖ではなく、この理不尽なシステム介入だったのだ。

 

          ◇

 

「よし、敵は柔らかくなった。

 次はこっち(味方)を硬く、強くする番だ」

 

 俺は次なる切り札に指示を出した。

 

「バッファー班、起動しろ。

 『チャージ共有』、全開だ!」

 

 戦場の中央、最も探索者が密集しているエリアに、一人の少女が立っていた。

 彼女は巨大な旗――戦旗のようなアーティファクトを掲げている。

 彼女の周囲には、赤、緑、青の3色の光球が、衛星のようにくるくると回っていた。

 

 【チャージ(Charge)】。

 それは戦闘中に特定の行動をとることで蓄積される、一時的な強化スタックのことだ。

 『耐久力チャージ(Endurance Charge)』。

 『狂乱チャージ(Frenzy Charge)』。

 『パワーチャージ(Power Charge)』。

 

 通常、これらは個人が自分で稼ぎ、自分で消費するものだ。

 他人に譲渡することはできない。

 だが、ここにもアルカディア独自の「例外」が存在する。

 

 少女が持つユニークスキル【共有する魂(ソウル・リンク)】と、特殊装備【導きの戦旗】のシナジー効果。

 これにより、彼女が獲得したチャージは、周囲の味方――この場合、戦場にいる「レギオン」の加護を受けた全探索者に、リアルタイムで共有(コピー)されるのだ。

 

「行きます!

 チャージ・ジェネレーション、最大出力!」

 

 少女が旗を振るう。

 彼女の装備している特殊なアクセサリーが唸りを上げ、秒間数十個というペースでチャージを生成していく。

 そして、その限界突破したチャージが、光の波となって全軍に波及した。

 

 シュウウウウウウッ……!

 

 戦場にいる数百万人の探索者の体の周りに、3色の光球が出現する。

 1個、2個、3個……。

 数は止まらない。

 通常の限界である3個を超え、5個、7個……そして10個へ。

 

「うおおおおおっ!? なんだこれ!?」

「チャージが……10個ずつ溜まってる!?」

「体が……燃えるように熱い!」

 

 探索者たちが自分の体を見下ろして驚愕する。

 彼らのステータス画面には、信じられない数値補正が表示されていた。

 

 【耐久力チャージ × 10】

 ・物理ダメージ軽減:+40%(1個につき4%)

 ・全属性耐性:+40%(1個につき4%)

 

 「カチカチだ……!

 これならリヴァイアサンの攻撃を受けても即死しないぞ!」

 

 タンク役の男が、自分の皮膚が鋼鉄のように硬化しているのを感じて叫ぶ。

 属性耐性+40%は、実質的なダメージ半減に近い。

 教皇の加護で死なないとはいえ、痛みが減り、吹き飛ばされにくくなるのは巨大なメリットだ。

 

 【狂乱チャージ × 10】

 ・攻撃速度:+40%

 ・詠唱速度:+40%

 ・ダメージ増幅(More Damage):+40%

 

 「は、速い!

 剣が止まらねえ! 魔法が機関銃みたいに出る!」

 

 アタッカーたちが狂喜する。

 単純な加算(Increased)ではなく、最終ダメージに乗算される「増幅(More)」が40%。

 さらに速度が1.4倍になれば、総火力(DPS)は2倍近くに跳ね上がる。

 戦場全体の攻撃密度が、目に見えて分厚くなった。

 

 そして極めつきは――。

 

 【パワーチャージ × 10】

 ・クリティカル発生率:+500%(1個につき50%)

 

 「500%ォォォッ!?」

 「全部クリティカルじゃねーか!」

 「目の前がクリティカルエフェクトで見えねえ!」

 

 これこそが最大の火力源だ。

 基礎クリティカル率が5%の武器でも、+500%されれば30%になる。

 元々クリティカル特化しているビルドなら、確率は100%でカンストし、余剰分はクリティカル倍率へと変換される。

 

 10個の呪いで豆腐のように柔らかくなったリヴァイアサンに、

 10個のチャージでドーピングされた数百万の探索者が、

 確定クリティカルの雨を降らせる。

 

 それは戦闘ではない。

 一方的なリンチであり、数値による暴力的な蹂躙だった。

 

「アルカディア……半端ねえ!」

「こんなバフ、見たことねえぞ!」

「神か! 八代は神なのか!」

 

 世界中から感謝と畏怖の声が上がる。

 さらに、そこへ畳み掛けるように、乃愛たち魔法部隊が展開した「オーラ」が重なる。

 

 攻撃力を上げる【憎悪(ヘイトレッド)】。

 防御力を上げる【決意(ディターミネーション)】。

 移動速度を上げる【迅速(ヘイスト)】。

 全種類のオーラが、虹色の幕となって戦場を覆い尽くす。

 

 最強の矛と、最強の盾。

 そして最強の支援。

 すべてが揃った人類軍は、今や神話の怪物すら凌駕する「災害」となっていた。

 

          ◇

 

『グオォォォォォォォッ……!!』

 

 リヴァイアサンが苦悶の声を上げる。

 七つの首のうち、すでに三つがへし折れ、再生が追いついていない。

 自慢の絶対防御も、時空魔法も、この理不尽な暴力の前では無力だった。

 

 だが、腐ってもワールドボス。

 追い詰められた怪物は、最後の足掻きを見せる。

 

 ズズズズズッ……!

 

 リヴァイアサンの周囲の海面が黒く沸騰し、そこから無数の異形が這い出してきた。

 【深きものども(ディープ・ワンズ)】。

 ボスの眷属であり、1体1体がA級モンスターに匹敵する戦闘力を持つ親衛隊だ。

 その数、数千。

 

「雑魚召喚か!

 探索者を散らして、各個撃破するつもりだな!」

 

 俺は即座に状況を把握した。

 ボス本体への攻撃の手を緩めさせ、乱戦に持ち込んで時間を稼ぐ。

 典型的な遅延行為だ。

 

 俺はマイクを掴み、全軍に指示を飛ばした。

 

「狼狽えるな!

 未来(パターン)は見えている!

 雑魚の湧き位置は座標C-3からE-5!

 魔法部隊、範囲魔法(AoE)の準備だ!

 10秒後に召喚される!

 出てきた瞬間に蒸発させろ!」

 

 俺の【鑑定】は、未来の事象すら「確定した情報」として読み取る。

 敵がどこに現れ、どう動くか。

 すべては台本通りだ。

 

『10秒後! 魔法部隊、詠唱開始!』

『座標固定! タイミングを合わせろ!』

 

 乃愛の指揮の下、数万の魔法使いたちが杖を掲げる。

 10、9、8……。

 

 海面が盛り上がり、怪物の頭が見えた瞬間。

 

「今だッ! 放てぇぇぇッ!!」

 

 ドガアアアアアアアアンッ!!!

 

 何万発ものファイアボール、サンダーボルト、アイススピアが、一点に集中して着弾した。

 出現したばかりの深きものどもは、産声を上げることもできずに消し飛んだ。

 出落ち。

 完全なる出落ちだ。

 

『グッ……!?』

 

 リヴァイアサンが驚愕に目を見開く。

 自分の切り札が一瞬で潰されたのだ。

 

「次が来るぞ!

 全体攻撃(ワイプ技)だ!

 10秒後、右舷から左舷へ向けて、薙ぎ払いのブレスが来る!」

 

 俺は間髪容れずに次の指示を出す。

 リヴァイアサンの喉元が赤く輝き始めている。

 即死級の熱線だ。

 これをまともに食らえば、ブロック率や回避率に関係なく、HPごと身体が消滅する。

 

「ブロック持ちとタンク以外は即死する!

 だが避けるな! 避ける時間が惜しい!

 食らって死ね!

 そして即座に起き上がれ!」

 

 狂気の指示。

 だが、これこそが「不滅のレギオン」の正しい使い方だ。

 回避行動を取れば攻撃の手が止まる。

 DPSが下がる。

 ならば死んで、0.1秒で蘇生して、殴り続けた方が速い。

 

「来るぞ! 衝撃に備えろ!」

 

 ズオォォォォォォォッ!!

 

 極太の熱線が海上を薙ぎ払う。

 数万人の探索者が光に飲まれ、蒸発した。

 HPバーが一斉にゼロになる。

 

 だが次の瞬間。

 キンッ! という音と共に、彼らの体は光の粒子から再構成され、何事もなかったかのようにその場に立っていた。

 

「……あ、死んだわ俺」

「生き返った! HP満タンだ!」

「ポーション飲む手間が省けたぜ! ラッキー!」

「殴れ殴れぇぇぇ!!」

 

 死んでも止まらない軍団。

 ゾンビよりもタチが悪い、無限の命を持つ不死者の群れ。

 リヴァイアサンにとっては、悪夢以外の何物でもないだろう。

 

 追い詰められていく神話の怪物。

 七つの首は全て落ち、残るは巨大な本体のみ。

 HPバーは残り1%。

 

「本来なら……。

 お前のようなSSS級の怪物は、同じくSSS級に至った『英雄』が一対一で戦い、その武勇を示すための試練だったはずだ」

 

 俺は消えゆく怪物を見下ろして呟いた。

 ダンフロ終盤のシナリオではそうだった。

 主人公が極限までレベルを上げ、最強の装備を纏い、孤独な戦いの末に勝利する。

 それが美しい物語だ。

 

「だが、現実は違う。

 まだ人類にはSSS級の個体はいない。

 英雄は不在だ。

 だからこそ……こうして『凡人の群れ』が、知恵と数とシステムを悪用して、泥臭く、しかし確実に神を殺す」

 

「総員、とどめだ!

 ありったけを叩き込めぇぇぇぇッ!!」

 

 世界中の探索者の叫びが重なる。

 魔法、剣技、矢、砲弾。

 人類が持つ全ての殺意が、一点に収束した。

 

 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!

 

 マリアナの海が割れた。

 光の柱が宇宙まで届く。

 その光の中で、リヴァイアサンの巨体は崩壊し、霧散し、そして膨大な量の魔石とアイテムの雨となって降り注いだ。

 

 討伐完了。

 システムログが、静かに勝利を告げる。

 

          ◇

 

 静寂が戻った海の上で、誰かが歓声を上げた。

 それは瞬く間に広がり、地球の裏側まで響き渡る大合唱となった。

 

「勝った……! 勝ったぞおおおおお!!」

「世界を救った! 俺たちが救ったんだ!」

「ざまぁみろ! 人間様を舐めるな!」

 

 抱き合う者、泣き崩れる者、勝利のダンスを踊る者。

 その様子は世界中に中継され、シェルターで震えていた人々も、テレビの前で拳を突き上げた。

 

 俺は大きく息を吐いた。

 

「……ふー。

 なんとかなったな」

 

 全身の力が抜ける。

 緊張の糸が切れ、心地よい疲労感が襲ってくる。

 

「マスター! やりましたね!」

「私たちが、世界を守りきりました!」

 

 リンと乃愛が、涙目で俺に抱きついてくる。

 田中も男泣きしている。

 旭は部下たちと肩を組んで歌っている。

 

「ああ。上出来だ。

 これ以上ない、完璧な勝利だ」

 

 俺は彼女たちの頭を撫でながら、空を見上げた。

 暗雲が消え、太陽の光が差し込んでくる。

 それは新しい時代の夜明けの光だ。

 

 教皇の犠牲は無駄ではなかった。

 彼の命が作った盾が、人類を未来へと繋いだのだ。

 

「……見ていてくれましたか、教皇猊下。

 あなたの守りたかった人間たちは、こんなにも強欲で、逞しいですよ」

 

 俺は心の中で、あの老人に語りかけた。

 少しだけ胸が痛むが、それは感傷というやつだろう。

 

「さて……。

 感傷に浸るのは後だ」

 

 俺はすぐにビジネスモードに切り替えた。

 目の前の海には、リヴァイアサンが落としたSSS級の素材や魔石が山のように浮いている。

 これを回収し、分配し、市場に流す。

 それが終わるまでが、俺の戦争だ。

 

「総員、回収作業に移れ!

 一個たりとも取りこぼすな!

 これは世界を救った報酬だ! 骨の髄までしゃぶり尽くせ!」

 

「「「イエッサー!!!」」」

 

 歓喜の声が、再び響き渡る。

 世界は救われた。

 そして人類は、新たなステージへと足を踏み入れたのだ。

 より強く、より賢く、そしてより強欲に。




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