現代ダンジョン発生初日。世界がパニックになる中、俺だけが攻略wikiの知識で最強ビルドを試している~将来のSSS級探索者? ああ、全員俺の弟子です~   作:パラレル・ゲーマー

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第92話 五億円のおやつと百億円の買収話、あるいは農家のおじさんの悲鳴

 朝の光が、港区ミッドタウン・タワーの最上階にあるマスターオフィスへと差し込んでいた。

 俺、八代匠は、デスクに置かれた皿の上のクロワッサンと、添えられたカットフルーツをフォークでつつきながら、小さくため息をついた。

 都内の最高級ホテルから毎朝取り寄せているはずのメロンやイチゴが、今日に限っては、どうにも水っぽく、味の抜けた紙切れのように感じられてならない。

 

「……人間の舌ってのは、本当に贅沢にできてるな」

 

 コーヒーを一口啜り、苦味で口の中をリセットする。

 原因は明白だった。昨日、郊外の農園ダンジョンで防衛戦の果てにもぎ取った、あのSSS級果実【神樹の蜜果(ネクター・アップル)】だ。

 摂取した瞬間に付与された「全ステータス+50%」という無法なバフは、きっちり三十分で効果を失い、今の俺の肉体は普段通りの数値へと戻っている。だが、脳髄を直接揺さぶるようなあの圧倒的な甘美さと芳醇な香りの記憶だけは、バフが切れた後も鮮烈に残っていた。一度でも神々の領域の味を知ってしまえば、地上のどんな高級果物であっても色褪せてしまうのは当然の帰結と言える。

 

 そんな贅沢な悩みを抱えながら朝の時間を過ごしていると、控えめなノックの音と共に、秘書兼魔法使いの乃愛(ウィズ)がタブレット端末を抱えて入ってきた。

 

「おはようございます、マスター。……少しよろしいでしょうか。昨日の果樹園の件なのですが、いささか面倒なことになっています」

 

「面倒なこと? あのダンジョン、防衛戦の反動でスタンピードの兆候でも出たか?」

 

「いえ、ダンジョンの魔素濃度は極めて安定しています。問題はダンジョンそのものではなく、人間の側……ネット上の騒ぎです」

 

 乃愛が眼鏡のブリッジを押し上げながら、手元のタブレットの画面を俺の方へと向けた。

 そこに表示されていたのは、SNSアプリ『X』のトレンド欄と、拡散され続けている無数の投稿だった。

 添付されているのは、昨日俺たちが農園ダンジョンのプレハブ受付を訪れた際、周囲にいた一般探索者たちが遠巻きに撮影したと思われる写真や動画だ。

 

『おい待て、今の見たか!? アルカディアの八代匠が、例のフルーツダンジョンに来てたんだけど!』

『後ろにいるの、神速のリンと氷の女王・雫だよな? しかも鉄壁の田中と秘書のウィズまでいるぞ。トップチームのフルメンバーじゃねーか!』

『世界を救った連中が全員集合で果物狩りってwww ピクニックかよwww』

『一個百万円の果物を食うために、世界最強パーティがガチ攻略しに来たらしいぞ』

『……いや、ちょっと待てよ。普通のランカーが頑張って百万円のフルーツになるんだろ? あの化け物どもが本気で100分間戦ったら、一体どんなレアリティの果物が実るんだ?』

 

 俺は画面をスクロールしながら、思わず苦笑いを漏らした。

 もともと富裕層や上位探索者の間で話題沸騰中だったダンジョンだ。そこに俺たちが顔を揃えれば、目撃情報がネットに上がるくらいは想定の範囲内だった。

 だが、ネットの考察班というのは相変わらず鼻が利く。彼らは単なる「有名人の目撃談」で終わらせず、俺たちの戦力がダンジョンの仕様に与える影響――すなわち「未知の最高品質が生まれたのではないか」という核心に、すでに辿り着き始めていたのだ。

 

 その時、オフィスの重厚な扉が、ノックもなしに勢いよく開け放たれた。

 

「マスター! おはようございます! 昨日のあのフルーツ、今日も食べに行きましょうよ!」

 

 部屋に飛び込んできたのは、普段のラフなパーカー姿のリンだった。彼女はデスクの前まで駆け寄ると、目をキラキラと輝かせて身を乗り出してきた。

 

「……お前な。昨日あれだけ腹いっぱい食っておいて、もう次を要求するのか?」

 

「だって、しょうがないじゃないですか! 今朝、自分の部屋で普通のリンゴを食べたら、味がしなくてびっくりしたんですよ! あんな悪魔的に美味しいものを知っちゃったら、もう普通の果物には戻れませんって! 私、今日から毎日あそこの常連になります!」

 

 力説するリンの横から、乃愛が氷のように冷ややかな声で割り込んだ。

 

「常連になる前に、少しは現実の数字というものを直視してください、リンさん。……マスターもです。こちらをご覧ください。昨日の収穫品に関する、財務部としての推定市場価値の試算表です」

 

 乃愛がタブレットの画面を切り替えると、そこには無機質な表計算シートが表示されていた。

 

【対象アイテム:神樹の蜜果(ネクター・アップル)×5個】

 ・最低推定単価:1億円以上(特殊バフ効果および希少性からの算出)

 ・合計推定価値:5億円以上

 ・ギルドへの実収益:0円

 ・喪失理由:トップメンバー5名による現地での即時完食(おやつとしての消費)

 

「……ふむ。見事なまでに収益ゼロだな」

 

 俺が他人事のように頷くと、乃愛のこめかみがピクリと動いた。

 

「感心している場合ではありません! 私の試算では一つ一億円以上の戦略級の消費アイテムを、五個まとめて、その場で何の躊躇いもなくお腹に収めたんですよ!? 五億円のおやつタイムなんて、世界中を探しても我がギルドくらいです!」

 

「そうカリカリするなよ、乃愛。金なんてものは、俺たちがその気になれば、またいつでも稼げる。だが、100分間の死闘を終えた直後に、芝生の上で仲間と一緒に齧り付いたあの最高の一口の感動は、あの瞬間にしか味わえなかっただろ?」

 

 俺が肩をすくめて言うと、リンが我が意を得たりとばかりに何度も頷いた。

 

「そうですよ、乃愛ちゃん! あんな美味しいものを他人に売るなんて、人生の半分を損してるようなもんです! 食べて幸せになるために稼いでるんじゃないですか!」

 

「ぐっ……そ、それはそうですが……。あなたたちは、本当に世界最大級のギルドの幹部なんですか……?」

 

 乃愛が頭を抱えて深いため息をついた、まさにそのタイミングだった。

 デスクの上に置いてあった俺の私用スマートフォンが、けたたましい着信音を鳴り響かせた。

 画面に表示された発信者の名前を見る。それは昨日、果樹園ダンジョンの入り口で「入場料はいらねえだ」と人の良さそうな笑顔を見せていた、あの農家のオーナーのおじさんだった。

 

 ◇

 

 俺が通話ボタンをタップし、スピーカーフォンに切り替えると、スマートフォンの向こう側から、昨日の穏やかな調子とは似ても似つかない、掠れた悲鳴のような声が飛び出してきた。

 

『や、八代さんですか!? た、助けてくだせえ! おら、もうどうしたらいいか分からねえだ!』

 

 ただ事ではない切迫感。

 俺は即座に表情を引き締め、背筋を伸ばした。

 

「落ち着いてください、オーナー。何があったんです? ダンジョンから魔物が溢れ出したんですか?」

 

『ち、違うだ! 魔物なんかより、もっとおっかねえ連中が来てるだよ! 今日の夜明け前から、家の電話も携帯も鳴りっぱなしで……! 外を見たら、黒塗りの高級車が何十台も畑の前の農道を塞いでて、見たこともねえスーツを着た連中やら、外国人の代理人だっていう連中が何十人も押し寄せてきてるんだ!』

 

 電話の向こうから、インターホンを連打する音や、英語や中国語が入り混じった怒号のような話し声が微かに聞こえてくる。

 

『みんな口を揃えて、「この畑とダンジョンを売ってくれ」「独占契約を結ばせてくれ」って札束や契約書を突きつけてくるだよ! 断っても全然帰ってくれねえし、おら、怖くて家から一歩も出られねえ……!』

 

 俺と乃愛は顔を見合わせた。

 なるほど、そういうことか。昨夜からSNSで拡散された「アルカディアの主力メンバーが果樹園ダンジョンを本気で攻略した」という情報。それにいち早く反応したのは、ネットの野次馬だけではなかったというわけだ。

 世界中の情報網を張り巡らせている大企業や投資ファンド、そして大富豪のエージェントたちが、「あそこにはまだ見ぬ莫大な利権が眠っている」と嗅ぎつけ、ハイエナのように群がり始めたのだ。

 

「……ちなみに、連中はいくらくらいで買い取りたいと言っているんですか?」

 

『き、昨日までは、探索者の人たちから貰う入場料をいくらにするかで悩んでたくらいなのに……今朝来た外国の投資会社とかいう連中は、この土地と権利を丸ごと「百億円」で買うって言うんだ! 大手のホテルの会社は、ここを会員制の高級リゾートにするから共同経営しろって言うし……おら、頭がパンクしそうだべ!』

 

 百億円。

 個人の農家に対して提示される金額としては、まさに天文学的な数字だ。普通の人間なら、その場で目が眩んで判子を押してしまってもおかしくない。

 だが、俺はその数字を聞いて、冷ややかに鼻を鳴らした。

 

「百億円、ですか。……売りたくもない土地を手放す値段としては、随分と安く見られましたね」

 

『や、安い!? ひゃ、百億円がですか!?』

 

 電話の向こうで、おじさんが素っ頓狂な声を上げてむせ返っている。

 無理もない。おじさんは、自分の所有するダンジョンがどれほどのポテンシャルを秘めているのか、まだその真実に気づいていないのだ。

 

「ええ、買い叩きもいいところです。オーナー、実は昨日、俺たち五人があなたのダンジョンで収穫した果実ですが……あれは市場に出回っている百万円の品とは次元が違う、『SSS級』の完熟品でした」

 

『え、えすえすえす……?』

 

「現在確認されている中では、最高到達点の品質です。味もさることながら、食べた人間に付与される特殊効果が凄まじい。あれをもし公式のオークションに流せば、安く見積もっても一個あたり『一億円以上』の値がつきます」

 

 スピーカーから、おじさんが息を呑む音がはっきりと聞こえた。

 数秒間の重い沈黙の後、震える声が返ってくる。

 

『……ひ、一個で、一億円……?』

 

「はい、最低でもそのくらいにはなりますね」

 

『い、いくつ採れたんですかい……?』

 

「五個です」

 

『ご、五億円!? おらの畑から、たった一日で五億円の果物が採れたってことですか!?』

 

 おじさんはゴクリと唾を飲み込むと、まるで腫れ物にでも触れるかのように、恐る恐るといった調子で尋ねてきた。

 

『あ、あの……八代さん。その五億円の果物は、今どこに保管してあるんで? やっぱり、その……厳重な金庫か何かに?』

 

「いえ。昨日、収穫した直後に、うちのメンバー五人で全部食べましたよ」

 

『……た、食べた!? ご、五億円を、その場で全部ですか!?』

 

「ええ、種と芯以外は残さず綺麗に平らげました。いやあ、ほっぺたが落ちるかと思うくらい、めちゃくちゃ美味しかったですよ」

 

 俺が平然と答えると、電話の向こうのおじさんは完全に言葉を失ってしまった。

 横で聞いていたリンが「ほんっとうに美味しかったですよねー!」と無邪気に相槌を打ち、乃愛がまたしても遠い目をしてこめかみを押さえている。

 

 やがて、ショックから立ち直ったのか、おじさんが絞り出すような声で本音を漏らし始めた。

 

『……八代さん。おら、そんな何億だの何百億だのって大金、いらねえんです。ここで爺さんの代から受け継いできた畑を耕して、婆さんと二人で静かに暮らしていけりゃ、それで十分なんだ。ダンジョンだって、潜りに来た若い衆が「ここの果物は美味えな」って笑顔になってくれるのが嬉しくて開けてただけで……こんな風に、世界中の金持ちから追い回されるような暮らしは、おらには無理だべ……』

 

 その言葉には、嘘偽りのない切実な響きがあった。

 金が嫌いな人間などいない。だが、自分の器を超えた巨大な富と利権は、時にこれまでの平穏な日常や人間関係を容赦なく破壊する暴力となる。

 かつて一介のサラリーマンとして、社会の歯車の中ですり減っていた頃の記憶が、俺の脳裏をわずかに掠めた。自分の居場所が勝手に書き換えられていく恐怖は、理解できないでもない。

 

「分かりました。オーナー、今から俺が直接そちらへ伺います。俺が着くまで、玄関の鍵は絶対に開けないでください。どれだけ素晴らしい条件を提示されても、脅されても、紙切れ一枚たりともサインしちゃ駄目ですよ」

 

『ほ、本当ですか!? 八代さんが来てくれるんですかい!?』

 

「ええ、すぐに向かいます。……何せ、あの素晴らしい果樹園が変な連中の手に渡って、俺たちが気軽に利用できなくなると、俺自身が非常に困るんでね」

 

『ありがとうございますだ! お待ちしてますだ!』

 

 少しだけ明るさを取り戻したおじさんの声を聞き届け、俺は通話を終了した。

 

 ◇

 

 スマートフォンをデスクに置いた俺は、出発の準備をしながら乃愛とリンに現状を確認した。別室から呼んだ田中と雫も、すでに身支度を整えている。

 

「先に言っておくが、あの果実は万能薬じゃないぞ。強力なバフがあっても三十分で切れるし、無敵になるわけじゃない。エリクサーのように病気や欠損部位を治せるものでもないんだ」

 

「でも、私の『知性の倍加』と組み合わせれば、瞬間的な魔法火力は相当なものになりますね」

 

 雫が興味深そうに言うと、田中も頷いた。

 

「防御に回す使い道もありそうっすね。……それにしても、ほんとに美味かったなあ」

 

「お前までそっちに戻るのかよ」

 

 俺は苦笑してから、話を続けた。

 

「それより重要なのは、収穫量が読めないことだ。昨日は五個採れたが、毎回五個実る保証はない。半年後には上級職が解禁されて探索者の戦力も変わる。今の希少価値がずっと続くとも限らない」

 

 資源の価値は、採り出す技術と市場の需要で変わる。土地の値段だけを見て百億円を投じれば、それだけで儲けられると考えるのは危険だ。売りたくないおじさんにとっては安すぎる申し出でも、買う側には大損の可能性が残っている。

 

「となれば、あの人に今まで通り営業してもらうのが一番だな。下手に企業の独占物にされると、俺たちも気軽に遊びに行けなくなる」

 

 俺が結論を下すと、乃愛が少しだけ口元を緩め、意地悪な視線を向けてきた。

 

「世界の探索者たちに、公平にチャンスを残してあげるためですか?」

 

「まさか。俺たちがいつでも好きな時に、あのおやつを食べに行けるようにするためだよ」

 

「……ですよね。そうだと思いました」

 

「最高です、マスター! 早く行きましょう、おじさんが待ってますよ!」

 

 リンの元気な掛け声に押され、俺たちはオフィスを後にした。

 

 ◇

 

 黒塗りの大型魔導バンを走らせ、東京郊外の果樹園ダンジョンへと向かう道中。

 車内のモニターを見ながら情報収集を続けていた乃愛から、予想通りの報告が上がった。

 

「マスター。ネット上の憶測がさらに過熱しています。アルカディアが収穫した果実について、『食べるだけでレベルが10上がる』『不老不死になる』といったデマが拡散され始めています。中には、ただの高級リンゴを魔力で光らせて『アルカディアが収穫したのと同等の神の果実』と偽り、オークションで数千万円で売りつけようとする詐欺業者まで現れる始末です」

 

「やれやれ、ハイエナどもの行動力だけは毎回感心するよ。……このまま噂だけが独り歩きして、市場が変なパニックを起こすのは好ましくないな」

 

 やがて車が農園の近くに差し掛かると、窓の外には異様な光景が広がっていた。

 普段はトラクターくらいしか通らないであろう細い農道に、海外の高級車やメディアの中継車がずらりと路駐し、おじさんの家の敷地を取り囲むように数十人のスーツ姿の男女がひしめき合っていたのだ。

 

「うわぁ……本当に包囲されてますね。あれじゃあ、おじさんが怯えるのも無理ないですよ」

 

 田中が運転席から眉をひそめる。

 俺たちが車を降り、アルカディアの紋章が入ったコートを翻して歩み出ると、騒いでいた連中が一斉に息を呑み、モーセの十戒のように左右へと道を空けた。

 世界を救ったギルドのトップメンバーが揃って姿を現したのだ。いくら強欲な企業の代理人といえど、俺たちに正面から喧嘩を売るほどの度胸はないらしい。

 

 俺たちは無言で彼らを威圧しながら敷地内へと入り、固く閉ざされた母屋の玄関をノックした。

 中から恐る恐る顔を出したおじさんは、俺の姿を見るなり、涙目で扉を開け放った。

 

「八代さん……! 本当に来てくれただか……!」

 

「約束しましたからね。とりあえず、中で話をしましょう」

 

 居間に通された俺たちは、仏壇の前で小さく縮こまっていたおばあさんにも挨拶をし、冷たい麦茶をいただきながら現状の整理を行った。

 俺はまず、道中で乃愛から報告のあったネット上のデマや詐欺の横行について、おじさんに噛み砕いて説明した。

 

「――という状況です、オーナー。今のまま俺たちが収穫したものの正体を隠していても、世界中の連中が勝手に都合のいい妄想を膨らませて、あなたへの圧力を強めるだけです。ですから、俺のアカウントから正式に『昨日採れた果実の正確な性能』を全世界に公表したいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「せ、性能を公表したら、もっと人が押し寄せてくるんじゃねえですか……?」

 

「正直、一時的には今より騒がしくなるでしょう。ただ、分からないことだらけのまま、勝手な噂を信じた連中に脅されるのはもっと危険です。昨日の収穫が、樹の近くで魔物を倒して魔素を吸わせる戦い方の結果だと明らかにします。土地を買えば誰でも同じものを作れる、という誤解をなくすためです」

 

 俺が理路整然とメリットとデメリットを提示すると、おじさんはしばらく考え込んだ後、覚悟を決めたように深く頷いた。

 

「……分かりました。ほんとのことを伝えた方がいいなら、お願いしますだ」

 

 所有者の正式な了承を得た俺は、スマートフォンを取り出し、数百万人のフォロワーを抱える自身の『X』アカウントを開いた。

 そして、一切の誇張を排した、冷徹な事実のみを打ち込んでいく。

 

『@Takumi_Yashiro

【果樹園ダンジョンに関する情報共有】

 昨日、アルカディアの主力メンバー五名で、話題の私有果樹園ダンジョンを攻略した。

 その結果、現在確認されている中では最高品質となるSSS級(完熟)の果実がドロップしたため、誤情報の拡散と詐欺防止の観点から、鑑定結果を公開する。

 

【名称:神樹の蜜果(ネクター・アップル)】

 主な効果:

 ・肉体的疲労および精神的ストレスの完全浄化

 ・摂取後30分間、全ステータス+50%のバフ付与

 ・極めて優れた味と香り

 

 参考までに、取引実績はないが俺の暫定評価は一個1億円以上だ。

 

 ただし、最高品質は防衛戦をクリアするだけでは得られない。樹の近くで魔物を倒して魔素を吸収させる戦術と、それを実行できる戦力が必要になる。土地だけ買っても最高品質を量産できるわけじゃない。

 

 なお、昨日の収穫分は全部で五個。

 その場で俺たち五人で全て食べたので、在庫は一切ない。

 購入希望の連絡をアルカディアや農園オーナーに送っても無駄だぞ。』

 

 送信ボタンをタップする。

 横から画面を覗き込んでいた乃愛が、呆れたようにため息をついた。

 

「マスター……。最後の三行、本当に必要だったんですか? わざわざ煽っているようにしか見えませんが」

 

「必要に決まってるだろ。『まだ在庫があるんじゃないか』と勘繰られて、世界中から『一億出すから売れ』『十億出す』ってDMが殺到したら、お前の業務がパンクするぞ」

 

「それはそうですが……」

 

「私は大賛成ですよ!」

 リンが胸を張って言う。

「あんな美味しいもの、誰にも渡しませんって宣言しとかないと! 食べずに売るなんて、探索者としてどうかしてます!」

 

「そうだな。あれは食うためにある」

 

 俺とリンが頷き合うのを見て、乃愛は「……恐らく、世界中の人間はそうは考えないと思いますよ」と冷ややかに呟いた。

 そして数分後、乃愛のその予言は、寸分の狂いもなく的中することになる。




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