現代ダンジョン発生初日。世界がパニックになる中、俺だけが攻略wikiの知識で最強ビルドを試している~将来のSSS級探索者? ああ、全員俺の弟子です~ 作:パラレル・ゲーマー
俺が発信した【神樹の蜜果】の鑑定結果は、ものの数分で地球の裏側まで駆け巡った。I・G・Uの最高技術顧問が明かした、最高品質の果実の性能と価格。世界中がその意味を計算し始めていた。
スマートフォンの通知欄が赤い数字で埋め尽くされ、タイムラインは瞬く間に【神樹の蜜果】の話題一色に染め上げられた。
まず反応したのは、国内の探索者コミュニティだった。
彼らにとって「全ステータス+50%」という文字列は、既存のゲームバランスを根底から破壊する衝撃として受け止められたのだ。
『全ステータス+50%!? ちょっと待て、そんな無法な消費アイテムが存在するのかよ!』
『30分限定って書いてあるけど、ボスの部屋に入る直前に食えば30分なんて十分すぎるだろ! 実質、どんな格上のボスでも殴り倒せるチート薬じゃねーか!』
『おい、それより最後の行を読めよ……「五個収穫して、その場で五人で全部食べた」って書いてあるぞ……』
『は? 一個一億はくだらない戦略物資を、五個まとめておやつ感覚で完食しただと!?』
『世界最強ギルド、五億円のおやつタイムwww』
『もう金銭感覚と価値観が俺たちと違いすぎて草も生えない。あいつらにとって一億のバフアイテムは、ただのデザートなのかよ!』
一方、各国のビルド研究者やトップクランの参謀たちは、もっと真剣な議論を交わし始めていた。
単一の能力(筋力や知力など)だけを上げるポーションなら、これまでも存在した。だが、すべての能力値が伸びるとなれば、純粋な攻撃職だけでなく、タンクや支援職にも利用価値がある。どのタイミングで食べれば最大の効果を引き出せるか、リスクのあるボス戦で三十分をどう配分するか。各国の掲示板には、さっそくビルド別の検証案が並び始めていた。
そして、海外の投資家や金融街の反応は、さらに生々しいものだった。
ウォール街やロンドンの金融フォーラムでは、あの小さな農園が「世界最高の投資物件」として議題に上がっていた。
『一個百万円の高級フルーツが、一億円以上の戦略物資に化けるだと? 利益率がバグっている!』
『その計算には攻略費用が入ってないぞ。アルカディアの精鋭を100分間雇うとしたら、いくらかかるんだ?』
『そもそも雇えるのか? あいつら金なら腐るほど持ってるだろ』
『土地より、攻略できる連中の予定表の方が価値ありそうだな……』
だが、俺が見ていて最も面白いと感じたのは、ダンジョンの攻略などには一切興味のない、世界の超富裕層──いわゆる「美食家(グルメ)」たちの反応だった。
彼らにとって、ステータス上昇などという効果はどうでもよかった。彼らが注目したのは、俺やリンたちが「五億円の価値を捨ててでも、その場で食べずにはいられなかった」という事実そのものだったのだ。
ヨーロッパの著名な大富豪が投稿したポストが、爆発的に拡散されていた。
『全ステータス+50%? そんな野蛮な効果には興味がない。私が知りたいのは、世界で最も裕福で、あらゆる美食を味わい尽くしたはずのミスター・ヤシロが、売れば数百万ドルになる果実を「おやつ」としてむさぼり食ったという事実だ。それほどまでに抗いがたい至高の味がこの世に存在するのなら、私は死ぬ前に一度でいいからそれを口にしたい。価格は問わない。誰か私のためにそれを手に入れろ』
「……気持ちは分かるな」
画面を見ながら俺がしみじみと呟くと、乃愛がジト目で俺を見た。
「マスターまでそっち側の感性に染まらないでください……」
「いや、お前だって昨日食った時、昇天しそうな顔をしてただろ。あれは一億でも安い。人間の味覚の限界を突破してるんだからな」
そして、そんな世界中の狂乱を象徴するかのように、『X』の世界トレンドの第一位に躍り出たハッシュタグは──。
『#五億円のおやつ』
俺はそのあまりにも的確で、どこか間の抜けたトレンドワードを見て、思わず吹き出してしまった。
だが、隣にいる乃愛は笑っていない。彼女の持つタブレットが、ひっきりなしにアラートを鳴らし始めていたからだ。
「マスター、笑っている場合ではありません。性能と希少性が確定したことで、外にいる連中だけでなく、世界中の企業から農園への問い合わせがさらに激増しています!」
「……だろうな。さて、ここからが俺の本業だ」
俺は笑みを消し、冷徹な交渉人の顔へと切り替えた。
◇
俺はおじさんに頼んで、家の玄関先に積み上げられていた分厚い封筒の束──今朝から外の連中がポストにねじ込んでいった買収提案書や契約書の数々──を居間のテーブルに持ってきてもらった。
茶封筒から最高級の羊皮紙を使った封筒まで、ざっと三十通以上はある。
俺は乃愛と手分けしてそれらの封を切り、中身を高速でチェックしていった。
「……なるほど。どいつもこいつも、よくまあこれだけ都合のいい条件を並べ立てたもんだ」
そこには、世界中の資本家たちのむき出しの欲望が記されていた。
ある海外の巨大投資ファンドは、土地とダンジョンの管理権の一括買収として「百億円」のキャッシュを提示していた。
国内の大手食品メーカーは、今後このダンジョンで収穫される全ての果実の「長期独占販売契約」を求めていた。
中東の富豪の代理人は、自分たちが雇った探索者チームだけがダンジョンに入れる「専用攻略枠の買い取り」を申し出ており、大手ホテルグループは、農園一帯を高い壁で囲い、年会費数千万円の「超高級会員制リゾート施設」として再開発する計画書を添付していた。
要するに、全員が「この果樹園を自分たちだけのものにし、他者を排除して利益を独占したい」と考えているのだ。
書類を覗き込んでいたリンが、百億円という数字のゼロの数を指で数えながら、感嘆の声を漏らした。
「ひゃ、百億円ってやっぱり凄いですね……! 私だったら、こんなに見せられたら目が回って売っちゃうかもしれません!」
「リン。目先の数字だけで判断するな」
俺は書類の束をテーブルにトントンと打ち付けながら、きっぱりと首を横に振った。
「百億円は、売りたくない人間にとって土地を手放すには安すぎる。その一方で、買った企業が元を取れるかは別問題だ。連中はそれぞれ勝算があると思っているんだろうが、俺なら収穫量も定まらない事業にいきなり百億は突っ込まないな」
俺の分析を聞いていたおじさんが、膝の上で固く拳を握りしめ、震える声で口を開いた。
「八代さん……。電話でも言ったけんど、おら、この土地を売るつもりはねえです。ただ、今朝から何度断っても帰ってくれねえんで……。あの連中、これからも押しかけてくるんでしょうか。婆さんに何かあったらと思うと、怖くて……」
不安そうに俯くおじさんと、その背中をさするおばあさん。
俺はそんな二人を見て、なんてことのない調子で即答した。
「だったら、売らなきゃいいじゃないですか」
「……え?」
おじさんが、拍子抜けしたように顔を上げる。
「この土地は、間違いなくあなたのものです。そして、私有地に発生したダンジョンの所有権が土地の持ち主に帰属することも、政府が定めた正式な制度の下で認められている。向こうが百億円積もうが、千億円積もうが、あなたに売る気がなければ、手放す義務なんてこれっぽっちもありませんよ」
俺の言葉に、おじさんの目が大きく見開かれた。
以前、俺が霞が関の官僚たちに提案し、制度化にこぎつけた「私有ダンジョン制度」。
もし以前の「ダンジョンは国の資源だから没収する」という方針のままだったら、この果樹園は今頃、政府か、あるいは政府と癒着した大企業によって強引に接収されていただろう。
だが今は違う。原付免許程度の簡単な管理資格を取り、安全基準さえ守っていれば、個人のオーナーが堂々とダンジョンを所有し、運営し続けることができる。
俺がかつて自分のビジネスのために敷いたレールが、巡り巡って、この善良な老夫婦の生活を守る強固な防壁として機能していたのだ。
「それにね、オーナー。このダンジョンの本当の価値は、土地そのものだけにあるんじゃありません。攻略に挑む探索者たちと、彼らを温かく迎え入れるあなた自身の運営があってこそ、あの果樹園は輝くんです」
「お、おらがですか……? おらは何もしてねえ、ただ受付に座ってるだけだべ……」
「それが大切なんですよ。昨日だって、突然来た俺たちを笑顔で迎えてくれたでしょう。ああいう場所だから、みんな喜んで通うんです。これからもそうであってほしい」
俺が静かに語りかけると、おじさんは感極まったように目頭を押さえ、「あ、ありがてえ……そんなふうに言ってもらえるなんて……」と声を詰まらせた。
田中も横で感動したように鼻をすすっている。
俺はそこで一拍置き、ニヤリと口角を上げて付け加えた。
「──まあ、一番の理由は、ここが会員制の高級リゾートなんかになって、俺たちが気軽に五億円のおやつを食べに来られなくなると、非常に困るからですけどね」
その一言で、室内のしんみりとした空気が一瞬にして吹き飛んだ。
乃愛が深々とため息をつき、氷のような視線を俺に突き刺す。
「……結局、そっちが本音なんですね、マスター」
「当たり前だ。俺の行動原理はいつだって、俺自身の利益と快楽だよ」
◇
方針が決まれば、そこからの俺たちの動きは早かった。
俺は新しい法律や特例を作るのではなく、既存の「私有ダンジョン制度」の枠組みを最大限に活用し、おじさんが一切のストレスなく運営を続けられるような経営改善プランをその場で構築した。
「まず第一に、土地とダンジョンの所有権は一切動かしません。今まで通り、百パーセントあなたのものです。ウチ(アルカディア)が買い取ることもなければ、I・G・Uや日本政府に譲渡する必要もありません。ただ、今後また変な契約書を持ち込まれた時のために、アルカディアの法務部から優秀な弁護士を顧問として派遣します。書類の確認は全部そいつらに丸投げしてください」
「べ、弁護士さんまで……! でも、そんな高いお金、おらには……」
「費用は、これから整える『新しい予約システム』の収益から少しだけ手数料として頂きますから、今の持ち出しはゼロで結構です」
俺はタブレットを開き、運営の改善案を提示した。
「第二に、受付の完全事前予約制への移行です。今日みたいに予約なしで何十人も押しかけられたら、近所迷惑だしあなたの体も持たない。ウチのシステム部門に簡単な予約サイトを作らせます。高額な収穫を狙うトップギルドの利用枠と、純粋に美味しい果物を食べたい一般探索者の利用枠を分けて、一日あたりの入場者数を制限しましょう」
「もちろん、誰を優先するか、入場料をいくらにするかの最終決定権はオーナーであるあなたにあります。俺たちはただ、その仕組み(システム)を提供するだけです」
「なるほどなぁ……。それなら、今まで来てくれてた若い衆にも迷惑かけずに済むだ」
「そして第三に、セキュリティの強化です。一個一億円の果実が生まれる場所だと知れ渡った以上、不審者や強盗、あるいは外にいるような強引なブローカーが敷地内に侵入してくるリスクがあります。ウチが提携している大手警備会社『J・ガード』の武装警備員と、適切な管理資格を持った探索者を、常時ここに配置させます」
俺はその場でスマートフォンを手に取り、内閣官房の佐伯へと直通の電話をかけた。
数回のコールの後、いつも通り疲れ果てた佐伯の声が応答する。
『……八代くんか。今度は一体、何をやらかしたんだね?』
「ご挨拶ですね、佐伯さん。俺は何もやらかしちゃいませんよ。ただ、昨日みんなで美味しいフルーツを食べただけです」
『君が「ただフルーツを食べただけ」で、今朝から外務省と経産省に海外の投資ファンドや大使館から問い合わせが殺到しているという報告が上がってきているのだがね……! 五億円のおやつとは、随分と景気のいい話じゃないか』
「ははっ、トレンドをご覧になりましたか。佐伯さんも一度あの味を知れば分かりますよ。……で、本題ですが、以前俺が提案した『私有ダンジョン制度』、ちゃんと機能していますよね?」
『む? ああ、もちろんだ。それがどうした』
「今、その制度で運営している果樹園ダンジョンにいるんですが、オーナーが海外のブローカーどもに自宅を取り囲まれて困っているんです。不法駐車で農道は塞がれ、断っても敷地の周りに居座っている。警察に相談できるよう手配をお願いできますか。I・G・Uからも、正規の私有ダンジョンであることを確認する案内を出してもらいたいんです」
『……つまり、君のお気に入りの餌場を荒らす連中を、国家権力で追い払えと言っているのだな?』
「人聞きの悪い。善良な一市民の財産権と、日本の貴重なダンジョン資源を外国資本から守るための、正当な行政手続きだと言ってください」
電話の向こうで、佐伯が盛大なため息をつくのが聞こえた。
『……分かったよ。通報と現地の状況を確認して、警察庁とも連絡を取ろう。違法な妨害があるなら、看過できん』
「ありがとうございます、佐伯さん。頼りにしてますよ」
通話を切った俺は、最後におじさんに向かって、最も重要な収益構造の話をまとめた。
「警備と警察への相談は進めます。最後に収益についてですが、収穫された果実の所有権は、これまで通り『入場して防衛戦をクリアした探索者が持ち帰る』というルールを維持します。その方が探索者のモチベーションが上がりますからね。オーナーの利益は、引き上げた入場料と、新設する設備利用料から確実に得られるようにします。もし将来的に、収穫物の売却益を分配するような特別契約を結びたい大口顧客がいれば、その都度、弁護士を通して合意の上で進めましょう」
土地を手放さず、これまでの客も大切にしながら、騒動が収まった後も無理なく商売を続けていく。そのための仕組みだ。
俺の説明を最後まで聞いたおじさんは、呆気にとられたように口を開けていたが、やがて深い皺の刻まれた顔にくしゃくしゃの笑顔を浮かべた。
「八代さんって人は……ただ強いだけじゃねえ、本当に頭がいい人なんだなぁ……。おら、どうやってお礼を言ったらいいか……」
「礼には及びませんよ。これでもダンジョンができる前は、IT企業の課長として毎日システムの構築やトラブル処理をしてましたからね。こういう仕組みを考えるのは本職みたいなもんです」
俺は営業スマイルを浮かべ、そして少しだけ声を潜めて「小さなお願い」を付け加えた。
「それで、まあ……予約制になっても、うちのメンバーが食べに来られる枠を時々相談させてください。ちゃんと空いている時間で構いませんから」
「も、もちろんだ! 八代さんたちなら、いつでも大歓迎だべ! 毎日でも来てくだせえ!」
「ありがとうございます。あ、入場料は今まで通り、きっちり規定の額を払わせてもらいますからね。そこはビジネスとして筋を通しましょう」
◇
おじさんとの相談を終え、乃愛と予約システムの準備や警備契約について確認してから母屋を出ると、警察官が農道の違法駐車に対応しているところだった。J・ガードからも警備員が到着し、敷地の出入り口で案内を始めている。朝から居座っていたブローカーたちは、ようやく車に引き上げ始めていた。
代わりに、果樹園ダンジョンのプレハブ受付の前には、昨日とは比較にならないほどの探索者たちの長蛇の列が形成されていた。
俺のSNS投稿を見た者たちが、一攫千金と「五億円の味」を求めて殺到してきているのだ。
列に並んでいる顔ぶれを見れば、これまでのような週末レジャー気分の探索者だけでなく、全身を数千万円クラスのマジックアイテムで固めた有名ギルドの攻略組や、外国語を話す海外のトップランカーたちの姿も混じっている。誰もが皆、自分たちこそがSSS級の果実をもぎ取ってやるのだと、並々ならぬ闘志をみなぎらせていた。
(……まあ、せいぜい頑張ることだな)
俺は腕を組み、その熱気あふれる行列を眺めながら内心で呟いた。
俺の投稿で攻略のヒントは広まった。明日にも誰かがSSS級に届くかもしれないし、何百回挑戦しても届かないかもしれない。
だが、それでいい。俺の知っている最適解を、誰かがもっと面白い方法で塗り替えたら、ぜひ見てみたい。
そんな少しだけ哲学的な思考に耽っていると、隣にいたリンが、俺のコートの袖をグイグイと引っ張ってきた。
「マスター! 難しい話はもう全部終わったんですよね!? だったら、今日もやりますよね!?」
「……お前、まだ諦めてなかったのか。今からまた100分間、休みなしで魔物を狩り続けるんだぞ?」
「当たり前じゃないですか! 昨日のあの味を思い出しながらここまで来たんですから、食べずに帰るなんて拷問ですよ! もう一回食べたいです!」
駄々をこねる子供のように言い張るリンの横で、乃愛がスッと手を挙げた。
「マスター。私も、本日の防衛戦への参加に賛成いたします。今後の予約システムの構築にあたり、ダンジョン内の魔素の流動データを再度採取しておく必要がありますし、何より……あの果実の摂取は、午後からの事務作業の業務効率向上という観点からも、極めて高い投資対効果が見込めます」
「……お前、今、自分が食べたいだけなのを『仕事のため』ってもっともらしい言い訳で包んだだろ」
「さあ、何のことでしょうか。私は常に合理的な判断を下しているだけです」
すっとぼける乃愛の後ろでは、雫が無言のまま、すでに愛用の杖『凍てつく思考』を握りしめ、期待に満ちた潤んだ瞳でじっと俺を見つめている。
さらに、巨体の田中までが、申し訳なさそうに頭を掻きながら前に出てきた。
「あの……マスター。俺も、できれば今日もう一回食べたいっす。昨日の夜、嫁さんに『そんなに美味しい果物なら、なんで持って帰ってこなかったの』ってめちゃくちゃ怒られちまいまして……。今日は自分の分を我慢してでも、お土産に持って帰りたいんすよ」
世界を救った最強ギルドの幹部たちが、揃いも揃って、ただの果物欲しさに目を輝かせて俺を取り囲んでいる。
俺は天を仰ぎ、今日何度目になるか分からないため息を吐き出した。
「……分かったよ、お前ら。そんなに食いたいなら、今日もやってやる。ただし、横入りはなしだ。ちゃんとあの行列の最後尾に並んで、順番を待つぞ。ここのルールは、オーナーであるおじさんが決めるんだからな」
「はーい! 並びます並びます!」
俺たちが列の最後尾に並ぶと、前にいた探索者たちが驚いて振り返り、「えっ、アルカディアが普通に並んでるぞ!?」「どうぞ前へ!」と慌てて道を譲ろうとしたが、俺はそれを軽く手を挙げて制した。
そして小一時間ほど雑談しながら順番を待ち、ようやくプレハブの受付小屋の前へと辿り着いた。
窓口に座っていたおじさんは、俺たちの顔を見るなり、先ほどまでの怯えが嘘のような、太陽みたいに明るい笑顔で迎えてくれた。
「おお、八代さん! わざわざ並んでくれたんですかい! ……今日も、あの凄え果物、採っていくんですかい?」
「ええ。なんだかんだ言って、俺もこいつらも、昨日のあの味がどうしても忘れられなくてね。規定の入場料、五人分です」
俺がカウンターに現金を置くと、おじさんは嬉しそうに目尻の皺を深くした。
「へへへ、そりゃ嬉しいだ。おらが丹精込めて育てたわけじゃねえ、ダンジョンが勝手に生やしたもんですけどね……それでも、自分の畑で採れた果物を、八代さんみたいな凄い人たちに『美味しい』って言ってもらえるのは、百姓として本当に嬉しいもんだなぁ」
「最高の果樹園ですよ、ここは。……それじゃオーナー、今日も100分間、快適に遊ばせてもらいますよ」
俺がニヤリと笑ってゲートへと向き直ると、リンが双剣を抜き、乃愛と雫が杖を掲げ、田中が大盾を構えた。
百億円の買収劇も、世界中の富豪たちによる泥沼の争奪戦も、新たな戦略物資の市場形成も、今の俺たちにとってはゲートの外にある些細なノイズに過ぎない。
目の前にあるのは、最高に歯ごたえのあるタワーディフェンスと、その先に待つ極上の甘味だけだ。
世界を救い、国家を動かし、数千億ドルが飛び交う市場を作り上げた俺が、今はたった一個のリンゴを食うためにこれほど本気になっている。
……まあ、悪くない人生じゃないか。
何せ俺は、元から面白いゲームのためなら、何万時間でも平気で費やす男なのだから。
今日も100分間、全力で遊び尽くしてやるさ。
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