現代ダンジョン発生初日。世界がパニックになる中、俺だけが攻略wikiの知識で最強ビルドを試している~将来のSSS級探索者? ああ、全員俺の弟子です~ 作:パラレル・ゲーマー
港区ミッドタウン・タワー最上階、アルカディア本部。
朝の執務室には、挽きたてのコーヒーの香ばしい匂いと、キーボードを叩く軽快なタイピング音だけが響いていた。
郊外の果樹園ダンジョンを巡る一連の買収騒動も、事前予約システムの導入とJ・ガードによる警備体制の構築によってようやく落ち着きを見せ、俺、八代匠は久々に平穏な午前中を満喫していた。
もっとも、俺が優雅にカップを傾けているすぐ隣のデスクでは、秘書の乃愛(ウィズ)がいつも以上に険しい顔で複数のモニターを睨みつけているのだが。
「マスター。今朝までに、全国のプライベートダンジョン所有者から寄せられた新規の調査・相談件数が、先週の三倍を超えました」
「また増えたのか。果樹園のおじさんの件がニュースになったからな。『アルカディアに相談すれば、土地を奪われずに上手く活用する方法を教えてくれる』って思われたんだろう。……で、今度はどんな相談だ? 裏庭から金塊でも湧いたか?」
「いえ、それが……どれもこれも、既存のダンジョンの常識からは外れた、奇妙な報告ばかりなんです」
乃愛がため息混じりにタブレット端末を操作し、俺の手元のモニターへと画面を共有した。
そこには、以前から政府と共同で運営している『ダンジョン実態調査・特別相談窓口』に寄せられた、多数の画像データとテキストが並んでいた。
『自宅の地下室にゲートができましたが、中に入ると巨大な箱型の機械が並んでいるだけで、モンスターが一匹もいません』
『古い倉庫の奥のゲートをくぐったら、見渡す限りの砂浜と海が広がっていました。魚は釣れますが、魔石は落ちません』
『文字の読めない本が無限に並んでいる図書館のような部屋に出ました。奥から変な人形が歩いてきて、本を片付けています』
俺はコーヒーを一口啜りながら、それらの写真を次々とスワイプしていった。
今の現実世界において、ダンジョンとはすなわち「魔物を殺して魔石や装備を奪い取る狩場」として認識されている。だが、俺が前世で何万時間もやり込んだ『ダンジョン・フロンティア(ダンフロ)』というゲームの本質は、単なる戦闘シミュレーターではない。
サービス開始から年月が経ち、プレイヤーたちのレベルが頭打ちになるにつれて、運営は膨大な数の「寄り道コンテンツ(サブシステム)」を実装していったのだ。ハウジング、釣り、農園、カジノ、ミニゲーム、そして意味もなく作り込まれたコレクション要素。終盤の廃人プレイヤーたちは、日課のボス周回を終えると、そうした非戦闘エリアに入り浸って時間を溶かしていたものだ。
(……なるほどな。ダンジョン発生から一年半が経過して、地球上の魔素が定着した結果、戦闘用じゃない特殊フィールドのテーブルが解放され始めたってわけか)
俺が懐かしい記憶を辿りながら画面を送っていた、その時だった。
とある一枚の不鮮明な写真の上で、俺の指がピタリと止まった。
薄暗い空間の中央に鎮座する、見上げるほど巨大な「赤と白の機械」。
上部の透明なドーム型の球体の中には、白、青、黄色、そして茶色のカプセルがぎっしりと詰まっており、下部には人間が両手で抱えるほど大きな回転ハンドルが取り付けられている。
「……おい、乃愛!」
「はい? どうかしましたか?」
「この写真! この巨大なガチャガチャみたいな機械が写ってるダンジョン、詳細なデータは来てるか!?」
俺が椅子から身を乗り出して尋ねると、乃愛は眼鏡の位置を直しながら該当のファイルを呼び出した。
「ええと、東京都葛飾区にある個人所有物件ですね。昔ながらの商店街にある駄菓子屋さんの地下室に出現したそうです。所有者は七十代の女性店主で、管理資格は取得済みですが、中にある用途不明の装置が不気味なので一度見てほしいと……」
「それだ!! おいおい、とんでもなく面白そうなものが見つかったぞ!」
俺は思わず机を叩いて立ち上がった。
間違いない。あれは『ダンフロ』の3周年アップデートあたりで実装された、完全娯楽特化の特殊フィールドにある『魔導ガチャマシン』だ。戦闘力にはほとんど寄与しないくせに、妙にコレクター心をくすぐる限定アイテムがラインナップされており、当時の俺を含む多くのランカーたちが血眼になって毎日通い詰めた伝説の沼コンテンツである。
「乃愛! 今日の午後からのスケジュール、全部後ろにずらせるか!?」
「……マスター。今のお顔、果樹園にリンゴを食べに行くと言い出した時と全く同じ、子供のようないい笑顔をされていますよ」
「人聞きの悪いことを言うな! 未調査の特殊ダンジョンの現地解析は、I・G・Uの最高技術顧問として極めて重要な公務だろうが!」
「はいはい、公務ですね。……本当に『調査だけ』で済ませるおつもりなら、止めはしませんが」
ジト目で釘を刺してくる乃愛に、俺はニヤリと笑って見せた。
「さて、それは実際に行ってみてのお楽しみだな。おい、リンと田中と雫にも声をかけろ! 今から下町へ遠足に行くぞ!」
◇
都心から車を走らせること一時間弱。
葛飾区の駅から少し離れた場所にあるその商店街は、昭和の空気をそのまま冷凍保存したかのような、どこか寂れた情緒を漂わせていた。
近隣の大型ショッピングモールに客足を奪われたのか、シャッターを下ろしたままの精肉店や青果店が目立つ中、一軒の古い木造店舗だけが、色褪せたオレンジ色の日除けテントを広げて営業していた。
看板には、手書きのような丸文字で『こばと屋』と書かれている。
店先には百円玉を入れて回す小さなプラスチック製のカプセルトイが並び、ガラスケースの中にはきな粉棒や酢イカ、色とりどりのラムネ菓子が所狭しと詰め込まれていた。ちょうど小学校の下校時間と重なったのか、黄色い帽子を被った子供たちが数人、十円玉を握りしめてお菓子を選んでいる。
「……すげえな。こういう昔ながらの駄菓子屋、まだ都内に残ってたんだな」
俺が感心して軒先を見上げていると、隣にいたリンが早くも目を輝かせて店内の棚へと吸い寄せられていった。
「マスター、見てくださいこれ! すっごい懐かしいです! 私、小学生の頃、遠足のおやつは絶対こういう駄菓子屋で買うって決めてたんですよ!」
「お前、一応は未確認ダンジョンの調査に来たんだって自覚はあるのか?」
「ちゃんと調査してますよ! ほら、このヨーグルトみたいな駄菓子、私が子供の頃は一個二十円だったのに、今は三十円に値上がりしてます! インフレの波がこんなところにまで!」
「それは市場調査じゃなくて、ただの食いしん坊の感想だろ」
俺が呆れて突っ込みを入れていると、店の奥の暖簾をくぐって、小柄な老婆が姿を現した。
白髪を後ろで小さくまとめ、年季の入ったエプロンを着けた、いかにも下町の看板娘(元)といった風情の女性だ。彼女は店先に立つ俺たち五人──特に、長身の田中や、明らかに高級そうなスーツとコートを着込んだ俺たちの異様な集団を見ても、全く怯む様子を見せなかった。
「いらっしゃい。……おや、あんたたちが電話で言ってた『あるかでぃあ』の人たちかい?」
「ええ、代表の八代匠です。本日はダンジョンの調査依頼の件で伺いました」
俺が丁寧に頭を下げると、おばあちゃんは目を細めて俺の顔をまじまじと見つめ、それから豪快に笑った。
「へえ、本当に本人が来てくれたんだねえ。ニュースじゃ世界の救世主だの大富豪だのって大層な言われようだったから、どんなおっかない大男が来るかと思ってたけど、見たところごく普通のお兄さんじゃないか」
「これでも、もう三十代後半なんですけどね。元サラリーマンですよ」
「あはは、三十代なんてまだまだ鼻垂れ小僧さね。あたしから見りゃ、ここにいる小学生もあんたたちも、みんな同じ子供みたいなもんさ」
おばあちゃんは気さくに笑いながら、買い物を終えた小学生たちに「ほら、車に気をつけて帰るんだよ」と声をかけて見送った。
果樹園のおじさんのように俺たちの名前に恐縮するわけでもなく、かといって大企業の重役のように損得勘定ですり寄ってくるわけでもない。世界の頂点に立った今の俺に対して、ここまでフラットに「普通のお兄さん」として接してくる人間は、ある意味で新鮮だった。
「それで、問題のダンジョンというのは、お店の地下にあるんでしたね?」
「ああ、そうなんだよ。半年くらい前にね、在庫をしまっておく地下の物置に、急にキラキラした穴が開いてね。お役所の言いつけ通りに管理資格ってやつは取ったんだけど、まだ誰にも使わせてないんだ」
「何か危険な兆候でもあったんですか?」
「いや、化け物が出てきたりすることはないんだけどね……中に、見たこともないようなデカい機械がいくつも並んでて、勝手にチカチカ光ってるんだよ。何をする機械なのかさっぱり分からないし、もし店の子供たちが間違って入り込んで、機械が爆発でもしたら大変だろ? だから、あんたたち専門家に一度見てもらおうと思ってね」
話している途中、おばあちゃんは店の奥にある何も置かれていない一角をちらりと見て、少しだけ懐かしそうな表情を浮かべた。だが、すぐに心配そうな顔に戻る。
至極真っ当な判断だ。未成年者のダンジョン立ち入りに関しては、俺が以前提言した「学生探索者ライセンス制度」によって管理されているとはいえ、好奇心旺盛な小学生が店の奥に忍び込まないとも限らない。
「分かりました。では、早速中を確認させていただきます」
俺たちはおばあちゃんに案内され、店の奥にある住居スペースの廊下へと進んだ。
台所の脇にある古い床下収納の扉を開けると、そこには階段があり、地下室の入り口そのものが青白い穏やかな光を放つゲートへと変貌していた。
俺たちは念のため武器に手をかけられる状態を保ちつつ、一人ずつその光の膜をくぐり抜けた。
◇
浮遊感と共に視界が切り替わった瞬間、俺たちの耳に飛び込んできたのは、どこか間の抜けた明るくレトロな電子音のメロディだった。
ピコピコ、ポロン、シャンシャンシャン……。
まるで数十年前のデパートの屋上遊園地や、温泉街の古いゲームコーナーに迷い込んだかのような、ノスタルジックなBGM。
足を踏み入れた空間は、地上の狭い駄菓子屋の敷地からは想像もつかないほど広大なホールになっていた。天井は高く、プラネタリウムのように人工の星々が瞬き、壁面にはカラフルなネオン管のような魔導ランプが規則正しく明滅している。
「うっわ……! 何だよこの場所、完全にゲームセンターじゃねえか!」
俺は周囲を見渡し、思わず声を弾ませた。目の前の光景は、前世で遊び倒したあのマップと驚くほどよく似ている。もちろん、それを仲間に話すつもりはない。
ホールの床には赤い絨毯が敷かれ、そこには一定の間隔を空けて、木と真鍮で作られたようなレトロかつ精巧な『遊技台』が並んでいた。
コルク銃が置かれた射的のレーン。
光るポールが左右に揺れている輪投げのブース。
ガラス張りの盤面の中でピンが輝くスマートボールの台。
そして、ホールの最奥部には、先ほど写真で見たあの全高三メートルを超える超巨大な『魔導ガチャマシン』が、圧倒的な存在感を放って鎮座していたのだ。
「な、何ですかここー!? ダンジョンなのに、めちゃくちゃ楽しそうじゃないですか!」
リンが警戒心も忘れてホールの中央へと駆け出し、目をキラキラさせて遊技台の周りを飛び回る。
一方、乃愛と雫は冷静に周囲の魔素の流れを観察していた。
「……確かに、敵性モンスターの反応は皆無ですね。空間を構成している魔素の波長も、攻撃的なものではなく、極めて安定したシステム維持に使われています」
「ええ。ここで戦闘行為を行うこと自体が、空間のルールによって制限されているように感じます」
二人の分析を聞きながら、俺は自身のSSS級ユニークスキル【鑑定】を発動し、空間全体の定義情報を読み取った。
【特殊ダンジョン:玩具の遊戯場(トイ・アーケード)】
【種別:非戦闘型 / 遊技報酬式フィールド】
【目的:設置された3種のミニゲームに挑戦して『遊技メダル』を獲得し、最奥の報酬装置(ガチャ)を回す】
【備考:攻撃スキルおよび破壊行為は無効化され、不正な干渉を試みた参加者は失格となる。攻略成績は戦闘レベルだけでは決まらない】
「……ビンゴだ。間違いなく『トイ・アーケード』だよ」
俺はガチャマシンの前まで歩み寄り、その透明なドームを見上げた。中には、様々な色のカプセルがふわふわと無重力のように浮かんでいる。
「マスター、これって要するにガチャガチャですよね? そこにお金とか魔石を入れれば回せるんですか?」
隣にやってきたリンが、コイン投入口を探しながら尋ねてきた。
俺は首を横に振り、投入口の上に彫られた小さな紋章を指差した。
「いや、現金も魔石も使えない。こいつを回すには、そこにある三つのミニゲーム──『射的』『輪投げ』『スマートボール』をクリアして手に入る専用の【遊技メダル】が必要なんだ」
「へえ、ゲームで勝たないとガチャが回せない仕組みなんですね。……で、そのメダルはどうやって稼ぐんですか?」
「ルールはシンプルだ。一つのミニゲームにつき、クリアすればメダルが一枚、満点(パーフェクト)を出せばボーナス込みで二枚貰える。ただし、メダルが貰える本気モードの挑戦は『一人につき、各ゲーム一日一回まで』だ。二回目以降も練習として遊ぶことはできるが、メダルは出ない」
俺が指を立てて説明すると、乃愛が素早く頭の中で計算を始めた。
「三種類のゲームで、それぞれ最大二枚……。つまり、どんなに優秀な成績を収めても、一人が一日に獲得できるメダルは最大で『六枚』ということですか?」
「その通り。そして、この魔導ガチャを一回回すのに必要なメダルは『二枚』だ。つまり、一日最大三回までしかガチャは引けない」
「ええーっ!? たったの三回ですか!?」
リンが不満そうに頬を膨らませた。
「私、マスターのお金で百連ガチャくらい回せるのかと思ってましたのに!」
「そこがこのダンジョンのミソなんだよ、リン。獲得したメダルは実体のあるコインじゃなくて、個人のステータス画面に一時的に記録されるポイントみたいなもんだから、他人への譲渡も売買もできないし、外へ持ち出すこともできない。金持ちが札束で他人からメダルを買い占めて、無限にガチャを回すような真似はシステム的に不可能なんだ」
俺が説明すると、田中が感心したように唸った。
「なるほど……。つまり、大富豪だろうが世界最強の探索者だろうが、ここでは小学生と同じく『一日最大三回』のルールで遊ばなきゃいけないってことっすね。ある意味、めちゃくちゃ平等なダンジョンだ」
「そういうことだ。ちなみに、ゲーム中に使っていいのは備え付けの道具だけだ。攻撃スキルや破壊行為はダンジョン側で無効化されるし、不正を試みた時点で失格になる。もしリンが短剣を投げて射的の的を狙ったり、雫が氷魔法で輪投げのポールを凍らせようとしたりすれば、メダルはゼロだからな」
「ちょっ、何で私がインチキする前提で話すんですか!」
リンが抗議の声を上げる中、乃愛がふと疑問に思ったように俺の顔を見た。
「あの、マスター。素朴な疑問なのですが……マスターの持つSSS級ユニークスキル【万象の創造】を使えば、このガチャから出てくるカプセルの中身を、自分の望む最高レアリティのアイテムに確定させることができるのではありませんか?」
乃愛の問いかけに、リンや田中も「確かに!」という顔で俺に注目した。
俺が普段、ノーマル装備にオーブを使って望み通りのMOD(追加効果)を100%付与しているのを知っている彼らからすれば、当然の疑問だろう。
だが、俺は苦笑して首を横に振った。
「残念ながら、それは無理だ。俺の【万象の創造】は、すでにある素材やアイテムを加工・合成するための能力だ。だが、これはダンジョン自体が行う未確定の抽選だからな。【鑑定】で景品の種類や排出率は読めても、次に出てくるカプセルを指定することはできない。出た景品を後から加工するのとは別の話だ」
俺の説明を聞いて、乃愛が目を丸くした。
「ということは……マスターであっても、普通にハズレを引く可能性があるということですか?」
「ああ、そういうことだ。最高ランクのユニーク景品が出る確率は、確か0.5%以下だったはずだ。三回引いて全部ノーマルの粗品なんてこともザラにある」
俺は巨大なガチャマシンのハンドルに手を触れながら、心の底から湧き上がってくる高揚感を抑えきれずに、ニヤリと笑った。
「……だが、そこがいいんじゃないか! 今の俺は、欲しい武器や防具があれば、素材を集めて自分で100%作れてしまう。それは効率的で最強だが、ハクスラ本来の『何が出るか分からないドキドキ感』からは遠ざかっていたからな。自分の力じゃどうにもならない純粋な運試しなんて、久しぶりだ!」
俺が少年のように目を輝かせて熱弁を振るうと、乃愛は深々とため息をつき、肩を落とした。
「……理解しました。要するに、本日の現地調査という名の公務は、これにて完全に終了ということですね」
「何を言うか。実際にミニゲームをプレイしてガチャを回し、排出されるサンプルの安全性を確認するまでが重要な調査だ! さあ、お前ら、まずはメダル稼ぎからだぞ! 全力で遊び尽くせ!」
◇
俺たちが最初に向かったのは、ホールの左側に設置された【からくり射的】のブースだった。
木製のカウンターの上には、昔ながらのコルク銃が五丁並べられており、数メートル先の棚には、ブリキの兵隊や木彫りの熊、小さな宝箱などを模した大小様々な『的』が配置されている。
ただし、通常の縁日の射的と違うのは、それらの的がレールの上を不規則な速度で左右にスライドしており、しかも時折フェイントをかけるようにピタリと止まったり、急に加速したりすることだ。
「ルールは簡単だ。持ち弾は五発。五発すべてを的に当てて倒せばパーフェクトでメダル二枚。三発以上でクリアの一枚、二発以下なら失敗でゼロだ」
俺の説明を聞くやいなや、リンが「はい! 私が一番に行きます!」と手を挙げてカウンターの前に立った。
彼女は備え付けのコルク銃を手に取ると、軽く重さを確かめるように構えた。
「ふふっ、スキルは使えなくても、私の動体視力と反射神経はトップクラスですからね! こんな遅い的、目をつぶってても百発百中ですよ!」
自信満々に宣言したリンは、中央のレーンを横切るブリキの兵隊に銃口を向け、躊躇なく引き金を引いた。
ポンッ!
間の抜けた音と共に飛び出したコルク弾は、一直線にブリキの兵隊へと向かった──が、着弾するほんの一瞬前、的の台座に刻まれた魔導回路がピカッと光り、兵隊がまるで意思を持っているかのようにグンッと加速して弾を避けたのだ。
コルク弾は虚しく背後のカーテンを揺らし、床へと転がり落ちた。
「……えっ?」
リンが目を点にして固まる。
「い、今の、たまたまですよね!? もう一発!」
焦ったリンがすぐさまコルクを詰め直し、今度は止まっている木彫りの熊を狙って発射する。
ポンッ!
だが、今度も引き金を引いた瞬間に熊がスッと横へスライドし、弾は空気を切り裂いた。
「な、何でですかー!? 避けてます! この的、絶対に私を見て避けてますよ!」
顔を真っ赤にして銃を振り回すリンを見て、俺は堪えきれずに吹き出した。
「あははは! リン、お前、的の『今の位置』をそのまま狙って撃ってるだろ」
「え? 普通、射的ってそういうものじゃないんですか!?」
「よく見ろ。あの的の台座には、コルク銃の引き金と連動した簡易的な魔力センサーが組み込まれてるんだ。弾が発射された瞬間に、あらかじめ決められた『回避パターン』で動く仕様になってる。つまり、反射神経だけで現在の位置を狙っても絶対に当たらない」
結局、その後もムキになって撃ち続けたリンは、五発中二発しか当てることができず、【失敗:メダル0枚】という無惨な結果に終わった。
カウンターに突っ伏して「くやしいです……」と呻くリンを横に押しやり、俺は自分の分のコルク銃を手に取った。
「いいか、手本を見せてやる。このゲームで重要なのは反射神経じゃなくて『リズムと予測』だ。的が一度フェイントを入れてから、次に減速するポイントがある。そこへ弾の遅い軌道を合わせるように、ワンテンポ早く撃つんだよ」
俺は銃を構え、スピードを競うのではなく、まるでメトロノームの拍子を数えるようにゆっくりと呼吸を整えた。
一、二、三……ここだ。
ポンッ! パタン!
俺が撃ち出したコルク弾は、自ら加速して飛び込んできた的のど真ん中を綺麗に撃ち抜き、小気味よい音を立てて倒した。
そのまま同じリズムで五発連続発射。すべての的が面白いようにパタパタと倒れ伏していく。
ファンファーレのような電子音が鳴り響き、俺の視界の端に【からくり射的:パーフェクト達成! 遊技メダル+2】というシステムログが浮かび上がった。
「……マスター! ずるいです! 今の動き、絶対に最初から攻略パターンを知ってた人の撃ち方じゃないですか!」
「あの台座の光るタイミングを見れば、回避する方向は予測できる。知識こそが最強の武器って、いつも教えてるだろうが」
俺が得意げに鼻を鳴らす横で、雫が冷静にコルク銃を手に取り、「なるほど、回避のアルゴリズムさえ分かれば簡単ですね」と呟きながら、これまた正確な予測射撃で四発命中させ、堅実にメダルを一枚獲得していた。
続いて俺たちが移動したのは、真ん中のブースにある【ふしぎな輪投げ】だった。
こちらは、前後左右にゆっくりと傾きながら回転している複数の魔導ポールに向かって、麻縄で作られた輪を五本投げ入れるゲームだ。
射的のような初見殺しの回避ギミックはないものの、輪そのものが非常に軽く作られており、少しでも力加減や手首のスナップが狂うと、空調の風やポールの発する微弱な魔力反発に煽られて弾かれてしまう。
「うーん、これは力任せに投げると駄目なやつですね。私、こういう細かい力加減はちょっと苦手かも……」
さっきの失敗で懲りたのか、リンが慎重に投げるものの、輪はポールの先端に当たって惜しくも外れてしまう。結局リンは五本中三本成功で、なんとかクリアのメダル一枚をもぎ取った。
このゲームで意外な才能を発揮したのは、大男の田中だった。
「……よし。いきます」
田中は巨大な体躯を低く沈め、まるで最前線でボスの大技を盾で受け流す時のような、一切のブレがない完璧な重心バランスで輪を構えた。
そして、巨体に似合わないほど繊細で滑らかな手首の返しで、ふわりと輪を放つ。
美しい放物線を描いた輪は、回転するポールの動きに吸い込まれるように、すぽんと根元まで収まった。
一本、二本、三本、四本……。
田中の投擲は機械のように正確だった。最後の一本が最も動きの激しい中央の金のポールに見事収まると、再び華やかなファンファーレが鳴り響いた。
【ふしぎな輪投げ:パーフェクト達成! 遊技メダル+2】
「……よっしゃあ! 満点っす!」
田中が思わず小さくガッツポーズを作る。リンが目を丸くして拍手を送った。
「田中さん、めちゃくちゃ上手いじゃないですか! なんでそんなにピタッと入るんですか!?」
「いやあ、タンクとして盾で敵の攻撃をブロックする時も、自分の力だけで弾くんじゃなくて、相手の動きのベクトルと間合いを読んで力を逃がすのが大事なんすよ。なんか、その感覚と似てましたね」
「へえ、タンクの技能が輪投げに活きるとはな。見事だぞ、田中」
俺も素直に感心しながら拍手を送り、その後に挑戦した自分自身の番でも、記憶していた通りの投擲角度を再現してきっちりパーフェクトの二枚を確保した。
そして最後の三つ目のゲームは、【魔導スマートボール】だ。
斜めに傾いたガラス張りの盤面の上から白い金属球を弾き出し、無数に打ち込まれた真鍮の釘の間を縫って、下部に並ぶ得点穴へと落としていくゲームである。
ただし、盤面の中央には風車のような魔導ギミックがいくつも配置されており、数秒おきに回転方向が逆転して球の軌道を大きく狂わせる仕組みになっていた。
ここでは、知性派の乃愛が圧倒的な輝きを見せた。
「……ふむ。この風車の回転方向の切り替わりと、盤面の傾斜角、そして釘の反発係数……。完全に一定の周期性(サイクル)に基づいていますね」
乃愛は球を撃ち出すバネ式のレバーに指をかけたまま、数十秒間、じっと盤面の動きを観察していた。彼女の眼鏡の奥の瞳が、まるでスーパーコンピュータのように物理演算を行っているのが見て取れる。
「初速はこのくらい、発射タイミングは第3風車が右回転に切り替わる0.5秒前……ここです」
パチン、と乃愛がレバーを放す。
飛び出した金属球は、真鍮の釘をカラン、コロンと軽快に鳴らしながら跳ね回り、ちょうど回転が切り替わった風車の羽根に乗って軌道を変え、盤面の一番奥にある『最高得点穴』へと吸い込まれるように落ちていった。
そのまま乃愛は、一球のミスもなく全ての球を高得点穴へと叩き込み、涼しい顔でパーフェクトを達成してみせた。
「……計算通りです。メダル二枚、獲得しました」
「乃愛ちゃん……今の、どうやって狙ったの!? 球が勝手に穴へ曲がっていったように見えたんだけど!」
呆然とするリンに、乃愛は少しだけ得意げに胸を張った。
「簡単ではありませんよ、リンさん。盤面の変化を観察し、適切な初速を計算しただけです。普段から魔法の軌道を制御しているので、こういう予測には慣れていますから」
「くうぅ、頭脳派ばっかりズルいです! 私なんてメダル二枚しか稼げなかったのに!」
結局、三つのミニゲームを終えた時点での各メンバーの獲得メダル数は以下のようになった。
俺:6枚(全ゲームパーフェクト)。
乃愛:5枚。
田中:5枚。
雫:4枚。
リン:2枚。
世界最強の戦闘力を誇るパーティーでありながら、ミニゲームの結果は見事なまでにバラバラ。高い身体能力や観察力が役立つ場面はあっても、レベルの高さだけでは勝てない。この絶妙なゲームバランスに、俺は改めて『ダンフロ』開発陣の遊び心を感じて笑みがこぼれた。
◇
「よーし! それじゃあお待ちかね、運命の魔導ガチャタイムといこうか!」
ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!
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