現代ダンジョン発生初日。世界がパニックになる中、俺だけが攻略wikiの知識で最強ビルドを試している~将来のSSS級探索者? ああ、全員俺の弟子です~ 作:パラレル・ゲーマー
三種類のミニゲームを終え、いよいよ魔導ガチャを回す時が来た。俺の号令で、全員がホール最奥の巨大なガチャマシンの前へと集まった。
獲得したメダルは2枚で1回分。つまり、俺は3回、乃愛と田中と雫は2回ずつ、そしてリンはなけなしの1回だけ回すことができる計算だ。端数の1枚は、今回はガチャに使えない。
「マスター! 最初は誰から回すんですか!?」
1回しか引けないにもかかわらず、誰よりもワクワクした顔でカプセルの詰まったドームを見上げているリンが尋ねる。
「決まってるだろ、俺からだ! 全ゲームパーフェクトを達成した俺が、最初に最高レアのユニーク景品をぶち抜いて、お前らにガチャの醍醐味ってやつを見せてやるよ」
「即答ですね……。世界最大級のギルドマスターが、まるで駄菓子屋の前で小銭を握りしめている小学生みたいです」
乃愛の冷ややかなツッコミも、今の俺には心地よいBGMにしか聞こえない。
俺はガチャマシンの前に進み出ると、ステータス画面から【遊技メダル:2枚消費】を選択し、両手でその巨大な金属製のハンドルを握りしめた。
「いくぞ……! 一発目から茶色のユニークカプセル、来いッ!」
気合を込めて、ハンドルを右へと力いっぱい回し切る。
ガチャン! ゴロゴロゴロ……カコンッ!
重厚な機械音と共にドームの中のカプセルがかき混ぜられ、取り出し口へと一つのカプセルが落ちてきた。
その色は──何の変哲もない『白(ノーマル)』だった。
「……チッ、白かよ。まあいい、まだ一回目だ」
俺は取り出した白いカプセルをパカッと開けた。中からコロンと手のひらに転がり出てきたのは、赤い塗料で色が塗られた、ごく普通の【素朴な木のコマ】だった。
念のため【鑑定】を通してみる。
【アイテム名:素朴な木のコマ】
【レアリティ:ノーマル】
【効果:なし。芯がしっかりしており、よく回る】
「…………」
「ぶっ……! あはははは! マスター、それ、表の店先で百円で売ってる普通のコマじゃないですか! 効果『なし』って!」
横から覗き込んだリンが、お腹を抱えて笑い出した。
「うるさい! ソシャゲのガチャだって、単発一発目で最高レアが出る方が珍しいんだ! こっから確率が収束するんだよ!」
俺はコマをポケットにねじ込み、すぐさま二回目のメダルを消費してハンドルを回した。
ゴロゴロゴロ……カコンッ!
落ちてきたのは、またしても『白』のカプセル。
中から出てきたのは、折りたたまれた【紙風船】だった。もちろん効果は「なし」である。
「あはははは! 紙風船! マスター、さっきから駄菓子屋の景品棚の下の段にあるやつしか出てませんよ!」
「黙れリン! これは乱数を調整するための儀式だ! 二連続で最低ランクを引いたってことは、三回目で揺り戻しが来るってことだろうが!」
俺の額にうっすらと汗が滲む。
残るメダルは2枚。今日回せるのは、これが最後の一回だ。
俺は両手を合わせて拝むようなポーズを取った後、祈るような気持ちでハンドルに手をかけた。
「頼む……! ユニークとは言わない、せめてマジックかレアの面白い玩具くらい出てくれ……! 俺の運を見せてみろォッ!」
ガラガラガラガラ……カコンッ!
取り出し口を覗き込む。
そこに転がっていたのは、見事なまでに純白の輝きを放つ、三つ目のノーマルカプセルだった。
震える指で蓋を開けると、中から『こばと屋』の鳩のマークが描かれた【ブリキの缶バッジ】が出てきた。
ホールに、絶妙な沈黙が落ちた。
レトロなピコピコというBGMだけが、やけに虚しく響き渡る。
「……マスター。三回とも、見事なまでにノーマル(白)ですね」
「……見れば分かるよ、乃愛」
「排出確率の偏りとしては、統計学上、十分にあり得る結果かと」
「そんな冷静な分析はいらねえんだよ!」
俺が頭を抱えてうずくまると、リンはもう呼吸ができなくなるほど笑い転げていた。
「ひーっ、お、お腹痛いです! 世界を救った最強のギルドマスターが、ミニゲームで全部満点取ったのに、ガチャで三連爆死してるー! コマと紙風船と缶バッジて!」
「……くっそおおお! 何でだ! 俺が一番メダルを稼いだのに、結果は三連続で白! 攻略の腕が良くても抽選だけは別ってことかよ!」
俺は膝をついて本気で悔しがった。
1000億ドル(約10兆円)で落札されたエリクサーを動かしてきた男が、たかが駄菓子屋のガチャでハズレを引いて絶叫している。傍から見れば滑稽極まりない光景だろうが、自分の思い通りにならない確率の壁にぶち当たったことで、俺の中のゲーマーとしての闘争心は逆にメラメラと燃え上がっていた。
「……くそっ、だが楽しいな、これ! 思い通りに出ないからこそ、ガチャは脳汁が出るんだよ!」
「負けてるのに楽しそうですね、マスター……」
呆れる乃愛をよそに、今度はメンバーたちが順番にガチャを回し始めた。
そして、こういう時に限って「物欲センサー」というやつは残酷なほど正確に仕事をする。
「あ、なんか青いカプセルが出ましたよ!」
なけなしの1回を回したリンが引き当てたのは、マジック級(青)の【戻ってくるスーパーボール】だった。壁や床にどれだけ強く投げつけても、必ず投げた本人の手元へと正確に跳ね返ってくるという、ちょっとだけ魔法のかかった玩具だ。
続いて回した田中は、中に入れた煎餅やクッキーが絶対に湿気らない【乾燥維持の菓子缶(マジック)】を当て、雫は握っていると手のひらがひんやりして気持ちいい【微冷気のガラス玉(マジック)】を引き当てた。
そして極めつけは、最後に回した乃愛だった。
彼女が二回目に出した黄色いカプセル(レア)の中から現れたのは、小さな木製の【几帳面な文具箱】だった。
【アイテム名:几帳面な文具箱】
【レアリティ:レア】
【効果:中に入れたペン、クリップ、付箋などの小型文房具を、種類と長さごとに自動で美しく分類・整列させる】
「……あら。これは素晴らしいですね。デスク周りの細かい事務用品を整理するのに、非常に重宝しそうです」
乃愛が自分の引き当てた景品を眺めて、満足そうに微笑む。
俺はその後ろで、手の中の紙風船を握りしめながら抗議の声を上げた。
「おい! なんでお前ら全員、ちょっと便利で面白いマジック以上の景品を引いてるんだよ! 一番メダルを稼いだ俺だけがオールノーマルっておかしいだろ!」
「日頃の行いの差、ではないでしょうか?」
「俺はついこないだ世界を救ったばっかりだろうが! これ以上の善行がどこにある!」
俺の魂の叫びに、ホール中がドッと笑いに包まれた。
◇
ひとしきり笑われた後、俺はゴホンと咳払いをして立ち上がり、ポケットに三つのハズレ景品をしまうと、不敵な笑みを浮かべてみせた。
「……まあ、いいさ。通常のガチャテーブルで俺が爆死したのは認めよう。だがな、お前ら。この『トイ・アーケード』には、まだ続きがあるんだ」
「えっ? 続きって、もうマスターのメダルはゼロじゃないですか」
不思議そうに首を傾げるリンたちの前で、俺は巨大ガチャマシンの正面から回り込み、機械の右側面──ちょうど壁の陰になって見えにくい位置にある、古びた真鍮のプレートへと歩み寄った。
プレートの下には、鍵穴のない小さな引き出しのようなものが取り付けられている。初見の人間なら、メンテナンス用のハッチか単なる装飾だと思って100%見落とす場所だ。
だが、俺の脳内にある『ダンフロ』の攻略Wikiには、このダンジョンが実装されてから一ヶ月後に有志の検証勢によって発見された「隠し仕様」がはっきりと記録されている。
「このダンジョンにある三種類のミニゲーム。その全てで、一日のうちに同時に『パーフェクト(満点)』を達成したプレイヤーにだけ、生涯に一度きりの特別な実績ボーナスが解放されるんだ」
俺がそう言いながら真鍮のプレートに手をかざすと、俺のステータス画面に記録されていた本日の遊技履歴が機械と共鳴し、プレートの表面に金色の文字が浮かび上がった。
【隠し実績達成を確認】
【からくり射的:満点 / ふしぎな輪投げ:満点 / 魔導スマートボール:満点】
【初回完全制覇ボーナスとして、特別抽選権『金色の福引券』×1を付与します】
ピロリンッ! という一段と豪華なシステム音と共に、ガチャマシンの側面がガコンと音を立ててスライドし、中から黄金の装飾が施された小型の『特別ガチャユニット』がせり出してきたのだ。
そして俺の手元には、光の粒子が集まって形成された一枚の黄金のチケットが握られていた。
「えええええーっ!? な、何ですかそれ!? 隠しガチャですか!?」
リンが目を剥いて駆け寄ってくる。田中も乃愛も、まさかそんなギミックが隠されていたとは思いもよらなかったのか、驚きの声を上げていた。
「ふふふ……これがあるから、俺はミニゲームで手を抜かずに全部満点を取ったんだよ。この特別ガチャは、毎日リセットされる通常ガチャとは違って、一人につき一生に一度しか回せない。その代わり、中に入っているのは高ランクの生活系・娯楽系アイテムだけだ」
ただし、この特別ガチャの中にも「当たり」と「微妙なハズレ」の差はある。
俺は黄金の福引券をスリットに差し込み、小型のハンドルに手をかけた。
さっきの三連爆死の汚名を返上できるかどうかの、文字通り泣いても笑っても最後の一回だ。
「……頼むぞ。俺のゲーマーとしての矜持にかけて、ここだけは最高レアを引かせてくれ……!」
俺がゴクリと唾を飲み込み、メンバー全員が固唾を飲んで見守る中、ゆっくりとハンドルを回した。
カチ、カチ、カチ……ガコンッ!
長い演出音の後、取り出し口に落ちてきたのは──眩いばかりの輝きを放つ『茶色(ユニーク)』のカプセルだった。
「……ッ! よしっ! 茶色だ! ユニーク引いたぞおおお!」
俺は大の大人の威厳も忘れてガッツポーズを決めた。
急いでカプセルを開けると、中から現れたのは、手のひらに収まるサイズの精巧な『木箱』だった。箱の表面には、提灯や暖簾といった昔ながらの縁日の屋台を思わせる細工が彫り込まれている。
俺は即座に【鑑定】を発動し、その詳細を読み上げた。
【アイテム名:小さな縁日箱(ミニチュア・フェスティバル)】
【種別:設置型魔導玩具】
【レアリティ:ユニーク】
【効果:
・一日一回、任意の平らな場所に設置して起動することで、小型の『縁日遊技場』を幻影として展開する。
・展開される射的、輪投げ、スマートボールは実際に触れて遊ぶことが可能。
・持続時間は15分間。危険性は皆無であり、またこの幻影のゲームからメダルや経験値、景品を得ることはできない】
【フレーバーテキスト:
勝者にも敗者にも、楽しかった記憶だけは等しく残る。
大切なのは手にした景品の価値ではない。明日もまた遊びたいと思える、その一瞬の輝きなのだ】
俺は鑑定ウィンドウに表示されたそのテキストを読み終えると、しばらくの間、無言で手の中の小さな木箱を見つめた。
そして──。
「……最高じゃねえか!! 大当たりだ、これ!!」
俺が満面の笑みで歓喜の声を上げると、横で説明を聞いていた乃愛が、理解が追いつかないといった顔で瞬きをした。
「え、ええと……マスター? ユニーク級というのは凄いですし、精巧な魔導具だとは思いますが……今の効果説明を聞く限り、ステータスが上がるわけでも、アイテムが生産できるわけでもない、ただ『どこでもミニゲームが遊べるだけの玩具』ですよね?」
「ただの玩具だと!? 何を言ってるんだ乃愛! これがあれば、わざわざここまで足を運ばなくても、好きな場所で一日十五分、この射的やスマートボールが遊べるんだぞ!? 娯楽アイテムとしてはこれ以上ない神アイテムじゃねえか!」
俺の熱弁に、リンがパッと顔を輝かせて乗っかってきた。
「えっ、どこでも遊べるってことは……アルカディアのオフィスの休憩室でも展開できるってことですか!?」
「ああ! 昼休みにギルドメンバーを集めて、オフィス対抗の射的大会だって開けるぞ!」
「やったぁー! 次は絶対負けませんからね、マスター!」
盛り上がる俺とリンを見て、乃愛は今日一番の深いため息をつき、額に手を当てた。
「……マスター。お願いですから、会社のオフィスをゲームセンターに改造しないでくださいね。せめて勤務時間外にしてください」
「分かってるって。福利厚生の一環として、定時後にみんなで遊ぶようにするさ」
1000億ドル(約10兆円)で落札されたエリクサーよりも、今の俺にとっては、自分の実力と運で引き当てたこの「何の実利もないユニーク玩具」の方が、よほど価値のある戦利品に思えたのだった。
◇
一通りの調査(と遊技)を終えた俺たちは、ゲートの階段を上がって地上の『こばと屋』の店舗へと戻ってきた。
店番をしていたおばあちゃんが、奥から出てきた俺たちを見て「おや、お帰り。どうだったい? 何かおっかない化け物でも出る機械だったかい?」と尋ねてくる。
「いえ、ご安心ください。あそこは通常のダンジョンとは全く違う、非常に安全で珍しい『遊ぶための施設』でした」
俺はおばあちゃんに対して、地下の機械が射的や輪投げのゲーム台であること、そして一切の危険性がないことを丁寧に説明した。
ただし、安全だからといって今日からすぐ近所の小学生たちを地下へ自由に入れていいわけではない。法的なルールとして、ダンジョン内に入るには「学生探索者ライセンス」が必要になること、そして大人が利用する場合でも、狭い店舗が混乱しないよう、出入り口の鍵の管理や人数制限をしっかり行う必要があることをアドバイスした。
「なるほどねえ……。安全なのは良かったけど、やっぱりダンジョンってことになると、店の子供たちを気軽に遊ばせてやるってわけにはいかないんだねえ」
おばあちゃんが、少しだけ寂しそうに店先の駄菓子棚を見つめた。
俺はふと気になって、おばあちゃんに尋ねてみた。
「おばあちゃん。さっき地下の機械の話をしていた時、店の奥を見て少し懐かしそうにしてましたよね?」
「ああ……図星かい。実はね、今から三十年くらい前までは、この店の奥にも小さな十円ゲーム機を二台ほど置いてたんだよ。新幹線ゲームとか、スマートボールみたいなやつをね」
おばあちゃんは遠い昔を思い出すように、優しい目で微笑んだ。
「その頃は、学校が終わると毎日子供たちが店に入り浸って、十円玉を握りしめてギャーギャー騒ぎながら順番待ちをしてたもんさ。でも、機械が古くなって壊れちまって、修理する部品もなくて処分してからは、店もすっかり静かになっちまってね……。地下に似たような機械が生えた時は、もし安全なら、また昔みたいに子供たちの笑い声が聞けるんじゃないかって、ちょっと思っちまったんだよ」
消えゆく昭和の風景と、駄菓子屋の店主のささやかな願い。
俺はポケットの中に入れていた、先ほど引き当てたばかりの【小さな縁日箱】に指を触れた。
「……おばあちゃん。店の奥のその空いてるスペース、ちょっと借りてもいいですか?」
「え? ああ、構わないよ」
俺は店の奥の畳敷きのスペースに小さな木箱を置き、魔力を込めて起動スイッチを入れた。
すると、木箱からポンッと温かい光の煙が吹き出し、畳の上に、子供たちの背丈にちょうどいいミニチュアサイズの『射的』『輪投げ』『スマートボール』の屋台が、立体的な幻影として出現したのだ。
ちょうどその時、店に買い物に入ってきていた近所の小学生たちが、その光景を見て目を丸くした。
「うわあっ!? 何これ、お祭りのゲームが急に出てきた!」
「すげー! おばあちゃん、これ触って遊んでいいの!?」
「これはダンジョンの外に展開された、ただの安全な『魔導玩具』の幻影ですから、ライセンスのないお子さんでも全く問題なく遊べますよ。ほら、コルク銃を持って撃ってみな」
俺が促すと、子供たちは歓声を上げて屋台に群がり、夢中になってコルク銃を構えたり輪を投げたりし始めた。
幻影とはいえ物理的な判定はしっかりと再現されており、的が倒れるたびにピコピコと楽しい音が店内に響き渡る。
「まあ……! なんて不思議で、なんて賑やかなんだろうねえ……!」
子供たちの弾けるような笑顔と歓声を眺めながら、おばあちゃんが本当に嬉しそうに目尻を拭った。
「この箱、しばらくこのお店に貸し出しておきますよ」
俺がそう言うと、おばあちゃんだけでなく、後ろにいたリンや乃愛まで驚いた顔をした。
「いいのかい、お兄さん? それ、さっき地下で当てたばっかりの大事な景品なんだろう?」
「ええ。まあ、一日に十五分間しか起動できませんけど、学校帰りの子供たちが交代で遊ぶくらいなら十分でしょう。それに、完全に手放すわけじゃありません。俺たちもまた地下のガチャを回しに通うつもりなんで、そのついでに、ここでこれを遊ばせてもらいますから」
俺は肩をすくめ、少しだけ照れ隠しのように笑った。
「こういう古き良き遊び場ってのは、どれだけ大金を積んでも新しく作れるもんじゃないですからね。少しでも長く、この商店街に残っててもらわないと困るんですよ」
「……あんた、本当に優しい、良いお兄さんだねえ」
おばあちゃんがしみじみと頷き、乃愛も後ろで、どこか誇らしげな柔らかい微笑みを浮かべて俺を見つめていた。
俺はその空気を振り払うように、わざとらしく咳払いをした。
「あー、そういうわけですから、おばあちゃん。この箱を置いておくレンタル料代わりに、次に俺がお店に来た時は、子供たちより先に俺に一番手で遊ばせてくださいね」
俺がニヤリと笑って要求すると、おばあちゃんは一瞬たりとも迷わずに、ピシャリと言い放った。
「駄目だよ。うちの店では、総理大臣だろうがなんだろうが、来た順番に並ぶのが昔からの決まりさね。ちゃんと子供の後ろに並びな」
「……えっ、俺が貸したおもちゃなのに?」
「ぷっ……あはははは! マスター、ここでもやっぱり行列に並ぶんですね! おばあちゃん、最高です!」
リンが再び大爆笑し、田中と雫もクスクスと肩を揺らしている。
まったく、これだから現実は面白い。
◇
夕暮れ時。
『こばと屋』の軒先から漏れ出す子供たちの賑やかな笑い声を背に受けながら、俺たちは商店街の道を車へと向かって歩いていた。
ポケットの中には、自分が引いた木のコマと紙風船、そして缶バッジが入っている。戦闘には一ミリも役に立たないガラクタだが、不思議と悪い気分ではなかった。
最初は、人類を淘汰するための理不尽な災害として現れたダンジョン。
だが一年半という時を経て、世界がそれを管理し、適応し始めたことで、こうして誰も傷つかずにただ笑顔を生むだけの不思議な空間も顔を出すようになった。
数千億ドルが飛び交う不老不死のオークションも、十円玉を握りしめた子供たちが集う駄菓子屋の縁日も、すべて同じこの世界の上に成り立っているのだ。
「……まあ、こういう平和な寄り道も、悪くないよな」
俺が茜色の空を見上げて呟いた、その時だった。
隣を歩いていた乃愛のタブレットが、軽快な着信音を鳴らした。
「マスター。窓口の方に、また別のプライベートダンジョンの所有者から、少し興味深い緊急相談が届いています」
「……ほう? 今度はどこのおもちゃ屋だ?」
「いえ、おもちゃ屋ではありません。大田区にある小さな町工場の社長さんからです。地下の資材置き場に現れたダンジョンの中に、奇妙な『巨大な魔導炉』が設置されているそうで……」
乃愛が画面を読み上げながら、眼鏡の奥の瞳をわずかに細めた。
「試しに、ダンジョンで拾った使い道のないボロボロのノーマル装備をその炉に放り込んでみたところ、装備が溶けて消える代わりに、見たこともないような純度の高い『金属インゴット』や『魔力の結晶片』に還元されて出てきたそうです」
その報告を聞いた瞬間、俺の足がピタリと止まった。
不要な装備を溶かして、クラフト用の特殊素材へと変換する炉。
それってまさか、『ダンフロ』の中盤以降、装備の厳選(クラフト)において最も重要な役割を果たした【魔導分解炉(サルベージ・ファーネス)】じゃないのか!?
「……おい、乃愛。その町工場の住所と連絡先を今すぐ出せ」
「え? あ、はい。ここですが……」
「面白え! ゴミ装備が特殊素材に化けるとなれば、俺の【万象の創造】で作れる装備の幅がまた一段階跳ね上がるぞ! よし、明日の朝イチでその町工場へ乗り込むから、準備しておけ!」
「……やれやれ。マスターの『夏休み』は、まだまだ終わりそうにありませんね」
呆れつつも楽しそうに笑う仲間たちを引き連れ、俺は新しい「おもちゃ箱」の出現に胸を躍らせながら、夕暮れの街へと歩みを進めた。
ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!
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