現代ダンジョン発生初日。世界がパニックになる中、俺だけが攻略wikiの知識で最強ビルドを試している~将来のSSS級探索者? ああ、全員俺の弟子です~   作:パラレル・ゲーマー

20 / 149
第17話 耐性の壁と理論値パズルの悪魔的証明

 C級ダンジョン「迷わずの森」。

 その最深部、大樹の根元に隠されていた「古代の宝物庫」の攻略を終え、俺たち「アルカディア」の一行は、地上のゲート前広場へと帰還した。

 時刻は夕刻。

 茜色の空が、疲労と達成感に満ちたメンバーたちの顔を照らしている。

 

「いやー、凄かったですね、宝物庫! まさか、あんなにあるとは……」

「一生分の魔石を見た気がしますよ」

「リーダーの鑑定がなかったら、あんな隠し扉、絶対に見つけられませんでしたね」

 

 メンバーたちが、興奮冷めやらぬ様子で語り合っている。

 俺たちの周囲には、これからC級に挑もうとする自衛隊の精鋭部隊や、様子見に来た大手企業のスカウトたちが、遠巻きに視線を送っている。

 だが、そんなものは今の俺たちには関係ない。

 

 俺はアイテムボックスを確認し、ニヤリと笑った。

 今回の大収穫。

 それは「C級魔石」の山だ。

 

『F級魔石』が、ただの石ころなら、『C級魔石』は宝石だ。

 純度、魔力含有量、そして輝き。

 すべてが桁違いだ。

 宝物庫には、このC級魔石が、ざっと五〇〇個ほど保管されていた。

 

「……初回限定ボーナスってやつだな」

 

 俺は独りごちた。

 ダンジョンの隠しエリアには、最初に到達したパーティーだけが得られる「初回ドロップ特典」が存在することがある。

 今回はそれが、魔石の山と、一つのユニークアイテムだった。

(ユニークについては解析が必要なので、後でじっくり楽しむとしよう)

 

 だが、この「宝の山」を見て浮かれているメンバーたちに、俺は少し現実(リアル)を教えてやる必要がある。

 

「おい、みんな。浮かれるのはいいが、勘違いするなよ。

 あんなにボロボロ魔石が落ちるのは、今回が最初で最後だ」

 

 俺が釘を刺すと、リンが不思議そうな顔をした。

 

「えっ、そうなんですか?

 C級ダンジョンって、魔石がいっぱい落ちるボーナスステージじゃないんですか?」

 

「逆だ。C級からは『ドロップの谷』に入る」

 

 俺は地面に落ちていた小石を拾い、弾いた。

 

「F級やE級の雑魚モンスターは、倒せば結構な確率で魔石を落とした。

 だから『時給3万円』なんてバブルが起きた。

 だがC級からは違う。

 モンスターが強くなる代わりに、ドロップ率はガクッと下がる。

 普通に狩りをしても、C級魔石が出るのは、一時間に一個あればいい方だ」

 

「い、一時間に一個……!?」

 田中が絶句した。

 

「D級魔石も、似たようなもんだ。

 ここから先は『数を狩って稼ぐ』初心者スタイルは通用しない。

 質で稼ぐプロの領域だ」

 

 探索者としての「初心者卒業」。

 それは稼ぎの効率が悪化するこの壁を、越えられるかどうかを意味する。

 一時間に一個しか出ない。

 だが、その一個には絶大な価値がある。

 

「だからこそ価格は跳ね上がる。

 現在市場に出回っているC級魔石は、ほぼゼロに近いが……俺の見立てでは、初値で一個30万円はつくだろうな」

 

「さ、30万……!」

「時給30万なら、F級より美味いじゃん!」

「でも敵が強いからなぁ……」

 

 メンバーたちがざわめく。

 魔石は単なるエネルギー源ではない。

 高度なアイテムクラフトの素材、強力なポーションの原料、そして将来実装されるであろう「魔導機器」のコアパーツ。

 使用用途が多岐にわたるため、ランクが上がるごとに需要と価格は指数関数的に上昇する。

 

「まあ、俺たち『アルカディア』は、すでに宝物庫の分で数億円分の資産を確保したわけだが……。

 これからの日常的な周回(ファーミング)では、渋いドロップ率と戦うことになる。

 覚悟しておけよ」

 

「はーい!

 でも私たちなら余裕ですよね!」

 リンが軽快に笑う。

「なんたって、もうC級クリアしちゃったし!

 自衛隊さんたちが入り口でマゴマゴしてる間に、私たちは最深部まで行っちゃったわけですし!」

 

 そう。

 進行度で言えば俺たちは世界最速(ワールドファースト)だ。

 自衛隊の精鋭部隊ですら、まだC級の序盤エリアで慎重にマッピングを進めている段階だ。

 それを俺たちは、俺のナビゲートと圧倒的な装備スペックで、わずか数日で踏破してしまった。

 

「この調子なら、次はB級ですね!」

「B級ダンジョン! どんなお宝があるんだろ!」

「またユニーク出ないかなー」

 

 空気が緩む。

 勝利の美酒に酔い、次なるフロンティアへの期待に胸を膨らませている。

 無理もない。

 彼らはここまで、俺の敷いたレールの上を全速力で走ってきた。

 挫折を知らないエリート集団だ。

 

 だが。

 俺は知っている。

 次に待ち受ける「B級」という壁が、どれほど理不尽で、どれほど絶望的な仕様を持っているかを。

 

「……おいおい、気が早いな」

 

 俺は冷や水を浴びせるように、低く声をかけた。

 

「B級を潜ろうと言い出す前に、一つ言っておくことがある」

 

 俺の声のトーンが変わったことに気づき、リンや乃愛(ウィズ)、田中たちが口を閉ざす。

 周囲の一般メンバーも、固唾を飲んで俺に注目する。

 リーダーがこの顔をする時は、ろくなことがない。

 それを彼らは経験則で知っている。

 

「B級ダンジョン。そこは今までとはルールが違う」

 

 俺はゲートの方角を指差した。

 

「お前ら、今の自分の『属性耐性』を言ってみろ」

 

「えっと……『清純の光輪』のおかげで、全属性+40%くらいです」

 リンが答える。

 他のメンバーも似たようなものだ。

 俺が配ったユニーク首輪や耐性付きの防具のおかげで、F級~C級レベルなら十分な耐性を確保している。

 だからこそ、敵の魔法攻撃を食らっても「痛い」程度で済んでいる。

 

「+40%か。悪くない。C級までならそれで十分だ。

 だがな……B級ダンジョンに一度でも足を踏み入れた瞬間、プレイヤーには『ある呪い』がかかる」

 

「呪い……?」

 

「ああ。システム的な強制デバフだ。

 名前は『世界による拒絶』、あるいは『上位次元の負荷』とも呼ばれる。

 効果はシンプルにして凶悪だ」

 

 俺は指を三本立てた。

 

「全属性耐性、マイナス30%」

 

 シンと場が静まり返った。

 意味を理解できていない者と、理解して顔色を変える者がいる。

 

「……え? マイナス? 下がるってことですか?」

 乃愛が震える声で聞く。

 

「そうだ。永続的にな。

 炎、氷、雷。ついでに混沌(カオス)耐性。

 全ての耐性値が強制的に30%引き下げられる。

 つまり今+40%のリンがB級に入ると、実質耐性は+10%になる」

 

「じゅ、10%!?」

 リンが悲鳴を上げた。

「10%って、ほぼ裸じゃないですか!

 C級のボスのブレス食らったら即死ですよ!?」

 

「その通りだ。

 しかもB級の敵の火力はC級の比じゃない。

 耐性10%で挑めば、雑魚のファイアボール一発で消し炭になる。

 いわゆる『ワンパン』ゲーの始まりだ」

 

 阿鼻叫喚が広がった。

 

「無理だー!!!」

「なんだよ、そのクソ仕様!」

「運営! バランス調整どうなってんだ!」

「詰んだ……俺たちの冒険は、ここで終わりだ……」

 

 メンバーたちが頭を抱え、地面に膝をつく。

 無理もない。

 今まで必死に集めた装備で、ようやく確保した安心感が、システムによって根こそぎ剥奪されるのだ。

 これを絶望と呼ばずして、何と呼ぶ。

 

「しかもだ」

 

 俺はさらに追い打ちをかける。

 

「このデバフは『耐性キャップ』の計算にも影響する。

 知っての通り、この世界の耐性上限(キャップ)は75%だ。

 これ以上積んでも、通常は無意味だ。

 だがマイナス30%のデバフがある環境下で、実質75%を維持しようとしたら……どうなる?」

 

 乃愛が青ざめた顔で計算する。

 

「……75足す30で、105。

 装備の合計値で『105%』を確保しないと、キャップに到達しません」

 

「正解だ。

 表示上の耐性が105%あって、初めてB級ダンジョンでの適用耐性が75%になる。

 今までよりも、遥かに高い水準の耐性が要求されるわけだ」

 

「無理ですよ!」

 田中が叫んだ。

「今の装備でもカツカツなのに、さらに30%以上盛るなんて!

 装備枠が足りません!

 指輪も首も鎧も、全部耐性付きにしたって届きませんよ!」

 

 アメ横に流れているような、あるいはオークションで高値で取引されているような「耐性+10%」程度の装備では、全身を固めても到底届かない。

 それが「初心者の壁」だ。

 ここで多くのプレイヤーが脱落し、B級への挑戦を諦める。

 

 だが。

 俺たちは違う。

 

「……嫌(いや)、無理じゃないぞ?」

 

 俺の声が、絶望に沈む空気を切り裂いた。

 

「え?」

 全員が顔を上げる。

 

「装備だけでキャップに到達できる。

 お前らが知らないだけで、C級ダンジョンの深層、レベル40付近からは、装備に付く効果(Mod)のランクが一段階上がるんだ」

 

 俺はホワイトボード……はないので、空中に指で図を描くように説明した。

 

「今までお前らが見てきた耐性付き装備は、せいぜい『+10%』や『+15%』だっただろう?

 あれはティア(等級)が低いんだ。

 だがレベル40以上のアイテムレベルを持つ装備には、ティア2、ティア1といった高位の効果が付く可能性がある。

 具体的に言えば、一箇所につき『単体耐性+30%』以上が付くようになる」

 

「さ、30%……!?」

 

「そうだ。

 考えてみろ。

 指輪2個、首輪1個、頭、手、足、胴体、ベルト。

 アクセサリーと防具で合計8部位ある。

 もし、この全ての部位に『単体耐性+30%』がついたら?」

 

 俺は暗算するふりをして、即答する。

 

「30掛ける8で、240%だ」

 

「に、240%……!」

 

「『全耐性+〇〇%』のユニークや、複合耐性(火と氷が同時に上がるやつ)を組み合わせれば……」

 

 俺はニヤリと笑った。

 

「105%なんて数字は、余裕で超えられる。

 理論値(パズル)さえ完成すれば、お釣りが来るレベルだ」

 

 希望の光が見えた。

 メンバーたちの目に色が戻る。

 

「そ、そうか……! 強い装備があれば!」

「レベルの高いアイテムには、そんな数値が付くんですね!」

「やった! まだ戦える!」

 

 だがすぐに乃愛が、冷静なツッコミを入れた。

 

「でもリーダー。

 それはあくまで『理論値』ですよね?

 そんな都合よく、全部位に耐性30%が付いた装備なんて落ちるんですか?

 ドロップ率は渋いんですよね?」

 

「いい指摘だ、乃愛。

 その通り。

 ドロップで、そんな神装備を全身分揃えようと思ったら、何年かかるか分からん。

 確率の神様に愛された奴だけができる芸当だ」

 

 再び絶望しかける空気。

 俺はそれを楽しむように一呼吸置いてから、自分の胸を叩いた。

 

「だから俺がいるんだろうが」

 

「……あ」

 

「忘れたか?

 俺のユニークスキルは【万象の創造】。

 素材さえあれば、付与される効果(Mod)を操作し、確定で最高値を叩き出せる。

 ドロップ運なんて不確定なものに頼る必要はない。

 俺が作るんだよ。

 お前たちのための『理論値装備』をな」

 

 俺は宣言した。

 

「これから、しばらくの間、B級への突入は禁止だ。

 代わりにC級ダンジョン『迷わずの森』を周回し、素材集め(ファーミング)に徹する。

 狙うのはレベル40以上のベース装備と、大量のC級魔石、そして加工用のオーブだ」

 

 俺はメンバーたちを見渡した。

 

「俺がお前らの装備を全身コーディネートしてやる。

 指輪の裏側まで耐性で埋め尽くして、デバフなんぞ無効化してやる。

 その代わり……」

 

 俺は獰猛な笑みを浮かべた。

 

「素材集めは地獄だぞ?

 何百回、何千回と、あの森を周回してもらう。

 ついて来れるか?」

 

「もちろんです!!!!!」

 

 全員の声が重なった。

 地獄? 上等だ。

「無理だ」と言われて諦める絶望よりも、「やればできる」という確証のある苦労の方が何万倍もマシだ。

 それに彼らは、すでに知っている。

 リーダーが「作る」と言った装備が、どれほど規格外の性能であるかを。

 

「混沌(カオス)耐性についても、最低でも0%、できればプラスまで戻しておく必要がある。

 B級には毒や腐敗を使ってくる、陰湿な敵も多いからな。

 そこらへんの細かい計算(パズル)は俺がやる。

 お前らは脳死でモンスターを狩って、素材を持ってくればいい」

 

「うおおおおお! リーダー、一生ついていきます!」

「狩るぞー! 森を更地にするぞー!」

 

 田中が雄叫びを上げ、リンがダガーを構える。

 さっきまでの絶望感はどこへやら、今は「装備更新」への期待感で目がギラギラしている。

 探索者(ゲーマー)というのは現金な生き物だ。

「強くなれる」という餌さえあれば、どんな単純作業にも耐えられる。

 

「よし、解散!

 今日は休んで、明日からシフト組んで周回だ!」

 

「了解ッ!」

 

 メンバーたちが散っていく。

 その背中は、来た時よりも一回り大きく見えた。

 

 俺はその場に残り、夕暮れのダンジョンゲートを見上げた。

 C級からB級へ。

 その壁は単なるモンスターの強さだけではない。

「耐性」というシステムへの理解と、それを克服するための「資産(装備資産)」が問われる。

 

 75%ない奴は死ぬ。

 これは脅しではない。

 この世界の絶対的なルールだ。

 

「……さて、俺も忙しくなるな」

 

 俺は手元の端末を開き、必要な耐性値のシミュレーションを開始した。

 火が足りない、雷がオーバーしている、カオスがマイナスだ……。

 この複雑怪奇なパズルを解き明かし、全員分の「正解(ビルド)」を導き出す。

 

 これぞ、ギルドマスターの醍醐味だ。

 俺は口元を緩め、まだ見ぬ最強装備のレシピを脳内で組み立て始めた。




ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。