現代ダンジョン発生初日。世界がパニックになる中、俺だけが攻略wikiの知識で最強ビルドを試している~将来のSSS級探索者? ああ、全員俺の弟子です~   作:パラレル・ゲーマー

90 / 149
第53話 パッシブスキルツリー構築論、あるいは凡人が英雄になるための生存戦略

 深夜二時。

 アルカディア本社の最上階にある執務室。

 俺は愛用の高級ゲーミングチェアに深く沈み込みながら、デスク上のトリプルモニターを見上げていた。

 

 中央のモニターに映し出されているのは、俺が運営するアルカディア公式サイト内の特設ページ――『探索者向け技術指南ブログ』だ。

 このブログは、今や国内の探索者にとってバイブルとなりつつある。

 開設当初から俺は口を酸っぱくして「命を大事にしろ」「生存第一だ」と説いてきた。

 おかげで無謀な突撃で死ぬ馬鹿は減り、「生存第一」というスローガンは探索者たちの間で常識として定着しつつある。

 

 だが。

 俺はコメント欄に並ぶ嘆きの数々を見て、眉間を揉んだ。

 

『八代さんの教え通り、防具を優先して更新しました。でもD級のオークの一撃が重すぎて、ガードの上から骨折しました。これ以上どうすれば?』

『生存優先でHPに振ってるつもりですが、ジリ貧になります。ポーションが尽きて撤退ばかりです』

『タンク役です。ガチガチに固めたつもりなのに、魔法攻撃で蒸発しかけました』

 

 ……分かっていない。

 彼らは「生存第一」という言葉を、「ただ臆病になること」や「いい鎧を着ること」だと履き違えている。

 あるいは、ステータス画面の「耐久力(VIT)」にポイントを振れば、それで解決すると思っている。

 

「甘いんだよ。それじゃあ、本当の意味で『死なない体』は作れない」

 

 現実のダンジョンは、数値の削り合いだ。

 そして、その数値を底上げするのは装備だけではない。

 もっと根源的なキャラクターの設計図――『パッシブスキルツリー』こそが重要なのだ。

 

 パッシブスキル。

 広大な星図のような盤面を進み、ステータス強化や特殊効果を得るシステム。

 その複雑さは、多くの探索者を混乱させている。

 装備を加味して調整する必要があるため、正解は人によって異なる。

 だが、「生存しつつ敵を殺す」ための「最適解の方向性」は、間違いなく存在する。

 

「方向性は示唆することができる……。今回は大まかな方針を示してやるか」

 

 俺はエナジードリンクを一口呷ると、キーボードに指を走らせた。

 かつて『ダンジョン・フロンティア』でトッププレイヤーとして君臨し、数多のビルドを試行錯誤した経験と知識。

 それを現代の探索者たちに叩き込む。

 

          ◇

 

【八代匠の技術指南】

タイトル:生存第一は分かった。だが「ビルド」が間違っていれば意味がない――パッシブスキルツリー構築論

 

 よう、八代だ。

 

 最近、「生存第一」を心がけているにもかかわらず、ダンジョンで痛い目を見ている奴が多いようだな。

 装備は整えた。無理な深層アタックも控えている。

 なのになぜ死にかけるのか?

 なぜポーションが足りなくなるのか?

 

 答えはシンプルだ。

 君たちの『パッシブスキルツリー』の構築がお粗末だからだ。

 

 パッシブスキルは単なるステータスの足し算ではない。

 装備とスキル、そして立ち回りを掛け合わせるための「接着剤」であり「増幅器」だ。

 ここを適当に済ませている奴は、いくら高い防具を着ても、その性能の半分も引き出せていない。

 

 パッシブスキルは装備を加味して調整する必要があるため、細かい所は人による!

 だが、方向性は示唆することが出来る!

 今回はランク帯(レベル帯)ごとに、大まかな方針を示したいと思う。

 今すぐ自分のツリー画面を開きながら読め。

 

■F級:レベル2~10(基礎構築期)

【テーマ:装備は紙だと思え。まずは中身で耐えろ】

 

 まず、この段階で小難しいビルド理論について考えてはいけない。

 クリティカル率? 詠唱速度? まだ早い。

 なぜなら、この時期の君たちの装備は、そうだな……せいぜい『ライフ+単体属性耐性装備』と言った所か。

 ハッキリ言って、紙装甲だ。

 

 だからこそ、パッシブスキルでは以下のことを徹底しろ。

 まずは『ライフノード(最大HP増加)』を取ることを覚えることだ。

 これが正解だろう!

 

 まず第一に死なないこと! これが肝心だ。

 HPが低ければ、ポーションを飲む暇もなく即死する。

 だが、ライフと耐性があれば、敵の攻撃に一発は耐えられる。

 耐えるということは、ポーションで回復出来るということだ!

 まずは防御第一だ!

 

 また、特定の属性攻撃をしてくる敵がいるなら、パッシブスキルで『耐性ノード』を取るのもありだ!

 装備がしょぼくても、パッシブスキルである程度補えるわけだ。

 

■E級:レベル10~20(専門化の始まり)

【テーマ:器用貧乏は死ぬ。武器を愛し、武器に愛されろ】

 

 ここらへんから、ドロップ品や購入品の装備の質が上がり、防御に余裕が出来てくる。

 鎧が厚くなれば、HPノードだけに頼らなくても即死はしなくなる。

 さあ、ここからが本番だ。

 『攻撃ノード』を取り始めることだな!

 

 だが待て。

 適当に「物理攻撃力UP」なんてノードを取ろうとしていないか?

 それは罠だ。

 攻撃ノードと言っても色々ある!

 俺がオススメするのは以下の通りだ。

 

1.物理アタッカーの場合

 『自分が持ってる武器のノード』を取ることをオススメする。

 単純な攻撃ノードより、専門的な『両手武器剣専用武器ノード』や『片手剣専用武器ノード』の方が上昇倍率が圧倒的に強い!

 

 良いか、探索者とは武器を1つ選んで、それに特化させる方が強い!

 「剣も槍も使いたい」?

 そんな浮気者は、どっちつかずの火力しか出せずにジリ貧になって死ぬ。

 器用貧乏にならないようにすることだ!

 

2.魔法使いの場合

 物理と同様だ。

 ここらへんで、その属性に合う『属性攻撃ノード』を選ぶことだな!

 炎が得意なら炎を、氷なら氷を伸ばせ。

 

3.タンク(盾役)の場合

 パーティの命綱であるタンク諸君。

 E級からは、まず『ブロックノード』を取ること!

 

 ブロックを知らない読者のために説明すると、この世界には『物理ブロック率』と『魔法ブロック率』というステータスがある。

 これは盾や一部の武器を持つ時に付与されるブロック率に応じて、ダメージを無かったことにするシステムだ。

 最大75%の確率でブロックすることが出来る。

 

 ・物理ブロック率:比較的簡単に手に入る。盾を装備するだけで稼げる。

 ・魔法ブロック率:これが曲者だ。スキルやパッシブスキルで積むしかない!

 

 いいか、タンクはダメージを受けるのが仕事じゃない。

 ヘイトを集めて、攻撃を「無効化」するのが仕事だ。

 良い鉄壁になるんだ。

 パーティーの安定度は、それだけで高まる。

 ヒーラーへの配慮も大事だぞ!

 

4.ヒーラーの場合

 回復役の君たち。

 回復量を増やすのも大事だが、それ以上に重要なことがある。

 『確率でマナ消費なし』などのマナ管理系ノードを取ることをオススメする!

 

 良いか、いざという時「マナがありません」はダメだ。

 それはパーティ全滅の合図だ。

 常にマナの量を気にする。

 ヒールしたら、自分のマナをチェックする!

 枯渇しないためのパッシブ構成。

 それが優秀なヒーラーの条件だ。

 

■D級:レベル20~30(攻防一体のバランス調整)

【テーマ:殴りながら回復しろ。立ち止まるな】

 

 ここらへんから、パッシブスキルに余裕が出てくる!

 主要な攻撃ノードやブロックノードを取り終えた時期だろう。

 だが同時に、敵の攻撃も激化する。

 ソロだったら、ここから敵の攻撃が痛くなる。

 

 さらに攻撃性能を高めるのもいいが、ここでは『リーチ機能(攻撃時ライフ吸収)』を付けたり、『ライフ自動回復系ノード』を取って、バランス調整もするべきだ!

 

 攻撃こそ最大の防御だが、防御(回復)しながら攻撃できれば無敵だ。

 もちろん、基本であるライフノードもしっかり取っていくべきだ!

 HPという器が大きくなければ、いくら回復しても溢れてしまうからな。

 

■C級:レベル30~40(ギミック・ビルドの完成)

【テーマ:システムを悪用しろ。非常識な強さを手に入れろ】

 

 さあ、C級だ。

 ここらへんで初めてビルドが機能し始める!

 

 これまでは「攻撃を上げる」「HPを上げる」という直線的な強化だった。

 だがC級からは『キーストーン(重要スキル)』と呼ばれる特殊なパッシブスキルを組み合わせて、独自の強みを生み出せるようになる。

 

例1:属性耐性変換ギミック

 例えば『炎耐性を75%以上にキャップ(上限突破)して、余った耐性値をライフ自動回復に変換される』なんてノードがある。

 これを取って、装備とパッシブで炎耐性を極限まで高める。

 するとどうなるか?

 炎耐性を高める=ライフ自動回復が高まる=生存能力が高まる!

 炎の中で棒立ちしていても死なない、不死身の戦士の出来上がりだ。

 なんてギミックも出来るのが、ここらへんからだ!

 

例2:マナタンクギミック

 または『ダメージの40%をマナで受ける』なんてキーストーンを取ってみる。

 通常ダメージはHPで受けるものだ。

 だがこれを取れば、マナがHPの代わりになる。

 この場合、マナ最大値とマナ回復速度を極限まで高めることで「魔法使いなのに物理職より硬いタンク」って芸当も出来るようになる!

 

 いいか、ここらへんからビルドの形がしっかり出来てないとダメだ!

 ただステータスが高いだけのキャラは、C級の凶悪なギミックボスには通用しない。

 自分だけの「強み」を確立しろ。

 

俺(八代)の例

 参考までに、俺のビルドの一端を明かそう。

 俺は二刀流だ。

 通常、二刀流は盾を持てないため、ブロック率は0%になるのが普通だ。

 だが俺は、パッシブスキルの組み合わせで「二刀流でブロック率を高める」特殊なルートを通っている。

 

 さらに『最大ブロック率が65%に下がる代わりに、余った物理ブロック率を魔法ブロック率に変換される』というキーストーンを取得している。

 これにより、二刀流でありながら物理・魔法ブロック率65%を達成している。

 65%の確率で、あらゆるダメージを無効化する二刀流剣士。

 これが俺の「ギミック」だ。

 

 良いか、ここらへんからギミックが何か1つはあるべきだ。

 ソロ・パーティー関係ない、自分だけの強みが何かないとダメだ!

 

 ・高いリーチ性能!

 ・高いライフ自動回復!

 ・高いブロック率!

 

 他にあるが、もう一回言うぞ。

 ギミックを作れ!

 

■B級以降:終わらない探求

 B級以降は同じだ。

 ギミックを増やして、強みを作る!

 これに尽きる!

 

 ……長くなったな。

 今回の講義は、ここまでだ。

 

 死にたくなければ頭を使え。

 ダンジョンは筋肉だけで攻略する場所じゃない。

 賢い奴が生き残り、生き残った奴が強くなる。

 それが真理だ。

 

 では、良きダンジョンライフを。

 

(記事終わり)

 

          ◇

 

 書き終えた俺は、エンターキーを強めに叩いて記事を投稿した。

 ふう、と息を吐き、椅子にもたれかかる。

 

「これで少しは、マシな探索者が増えればいいが……」

 

 俺は画面の中で、投稿されたばかりの記事に早くも「いいね」が付き始めるのを見て、ニヤリと笑った。

 知識は力だ。

 そして、その知識を与える者は「支配者」となる。

 俺の言葉一つで、日本の探索者たちのトレンドが変わる。装備の相場が変わる。

 

「さて、次はどんな情報を小出しにしてやろうか」

 

 俺は空になったエナジードリンクの缶をゴミ箱に投げ入れると、再びモニターに向かい合った。

 夜はまだ長い。

 そして俺の野望もまた、尽きることはないのだ。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。