あのー、剣と魔法の異世界の案件なんですが、元ITコンサルの賢者様なら解決できますか?   作:Ningets

11 / 27
【あらすじ】
ITの存在しない剣と魔法の世界に、賢者として召喚されてしまったIT企業のコンサルタントが、転生先の少女ともに世界を危機から救い、元の世への帰還を目指す物語――
異世界の少女ラミーシャの第二人格として転生した主人公のマリトは、意識を失ったラミーシャとともに、飛行船内に運び込まれましたが、目覚めたラミーシャは魔法を駆使して自由を取り戻します。


Ⅰ-11 護身魔法で飛行船の敵を無力化できますか?

ロープで縛り上げられたラミーシャの体は、ゴンドラ内に引き上げられた。

下層部の隅に荷物のように転がされ、他の三人は階段を使って上層部へと移動した。

 

船首の方から声が聞こえる。

「離陸の準備だ」

「ターゲットを無事確保した」

「交戦中の地上部隊を回収でき次第、離陸する」

 

――万策尽きたか……諦めるしかないのか……

そう考え始めたマリトだったが、そのとき、場違いなほどのんきな声が聞こえた。

 

「あのー、お父さん、ここどこですか?」

「病院のベッドじゃないんですけど」

「床が固いし、体じゅうが痛いです」

「なんだかぐるぐる巻かれてるし」

 

マリトは、ラミーシャに要点を説明した。

ナースが別の国の工作員で、自分たちが拉致されてしまったこと。

ここは飛行船の中で、このままだとその国に連れて行かれてしまうこと。

シノハたちが助けに来ているが間に合わないかもしれないこと。

 

それらを伝えると、恐怖や緊迫感ではなく感謝の気持ちが伝わってきた。

「意識のない私のことを、ずっと見守ってくれてたんですね」

「何もしてないけどね……」

 

「そんなことないです」

「お父さんが呼んでくれたからシノハ達が来てくれたんです」

 

「これからどうする?」

「はい。逃げなきゃですね」

焦ったり慌てたりしている感覚は伝わってこない。

 

「落ち着いているね。不安はないの?」

「私も不思議なんですけど、ありません」

「たぶんお父さんがいるからです」

 

「今日の朝、はじめてお会いして、わたしを守るって言ってくれて、そして本当に守ってくれました」

「そのときにわたし、確信したんです――運命の出会いだって」

「これから起きるいろんなことを一緒に乗り越えていくんだって」

「だから二人なら絶対に大丈夫って気がするんです」

「なるほど……」

まったく根拠のない説明だったが、それが腑に落ちてしまうのが、マリトには不思議だった。

 

「で、この状況で逃げる方法に、何か考えはあるの?」

「あります。ロープをほどいて、立ち上がって、出口からダッシュです」

――そりゃあそうだが……この娘、状況わかっているのかな?

 

「そんなことできるの?」

「はい。こんな時のために護身魔法っていうのがあるんです」

「わたし、実技系の科目、成績いいんです」

昼間のおしゃべりの続きのようで、緊迫感はやはりない。

 

「わかった、できるならすぐにロープを解いてくれ」

視界の右上に白く光る魔方陣をイメージして唱える。

「セルローサ・ウト・スブスタンティア、ファイタキス」

チョーカーが黄色く光る。

軽く身体を左右にひねるとロープが何の抵抗もなく、緩んだ。

土属性魔法のノット・ルーズナーで、ロープの摩擦係数を一時的にゼロにしたのだ。

 

「よいしょっと」

ロープを緩めて手と脚を自由にすると、立ち上がった。

「すごい……」

うれしそうな気持ちが広がる。

「すごいですか?実技は得意なんです!」

 

「気付かれないうちに、こっそり出て行っちゃいましょう」

そうラミーシャが言ったとき、足元がぐらついた。

下から押されるような感覚。

――まさか、上昇しているのか?

 

船首のほうから、どなり声が聞こえる。

「誰だ、係留ロープを外したのは?」

「上昇してるぞ。地上部隊の回収がまだじゃないか!」

 

ラミーシャが小さく「あ!」と言った。

「え?」

「範囲指定するの、忘れてました」

照れたように言う。

 

「それで、なんだか、外の大切なロープも緩んじゃったみたいです」

――またなの!?

町中を赤く染め上げてしまった今朝の事件を思い出した。

 

 

上層部から降りてくる足音が聞こえる。

偽ナースと目が合った。

予想外の光景。

縛り上げられ荷物状態だったはずのラミーシャが普通に立っている。

それを見て、一瞬、動きが止まった。

 

驚きと警戒が顔に表れている。

「どうやってロープをほどいた?」

「そこを動くな!」

 

こちらを見据えたまま、カバンの中をまさぐる。

「銃を持っている」

「撃ってくるぞ」

 

ラミーシャは教科書の内容を思い出しながらつぶやく。

「銃を持つ相手には、銃口がこちらを向く前に、火属性魔法…」

視界の右上に白い魔方陣のイメージを浮かべる。

「範囲指定!」注意を促す。

「はい!」

 

偽ナースは銃をとり出し、こちらに銃口を向けようとする。

しかし、ラミーシャの呪文のほうが早い。

「クィンケ・ウト・ラディウス、ファイタキス!」

チョーカーが赤く光る。

 

轟音がとどろき、偽ナースの銃がはじける。

バン、バン、バン。

バッグの中にあった銃弾が四方に飛び散る。

偽ナースの腕と腰と顔面を血まみれにして、階段の下に転がり落ちた。

カバンの内部が四散する。

激痛に顔をゆがめながら、うつ伏せになった状態であえいでいる。

 

爆発は、飛行船のいたるところで同時に起きた。

最も大きな爆発は、ゴンドラの船尾方向の貨物庫で起きた。

無数の銃弾がはじけ、炎が上がり、船体と資材の多くが吹き飛び、飛行船全体を大きく揺らす。

 

ラミーシャが「あ!」と言った。

「範囲指定はしたよね」

「はい、したんですが。指定ミスです……」

「灯りをつける魔法とは単位が違っていて、10メートル単位でした……」

――実技、だめじゃん。

 

船首から声が聞こえる。

「上昇速度が上がっているぞ」

「今の爆発で空気バラストが故障したのかも」

「そうなると制御できない」

 

「早く脱出しないと手遅れになる」マリトはラミーシャに言った。

動き出そうとした瞬間、不意に足首が掴まれる。

驚いてよろめきながら振り向く。

 

床にうつ伏せに倒れていた偽ナースが、苦痛に顔をゆがめながらラミーシャの足首をつかんでいた。

ラミーシャがバランスを崩したちょうどそのタイミングで、飛行船が大きく揺れた。

後ろ向きに、後頭部が床にたたきつけられるように倒れた。

同時に、ラミーシャの意識が消える。

 

マリトの意識は保ったままだ。

――軽い脳震盪だ。すぐに気づく……

偽ナースが、カバンから落ちたものを取ろうと、もう一方の腕を伸ばしているのに気付いた。

――注射器だ!

――また、あれを打たれたら、しばらくラミーシャの意識が戻らなくなる。

 

――腕よ、動いてくれ。

強く念じるが、まったく動かない。

――あのナースよりも先に注射器をつかむんだ。

やはり動かない。

 

前夜の拳銃に手を伸ばせなかったときと重なる。

――もうためらわないと決めたのに。

――今回は前回と違う。伸ばそうとしているのに。

――どうして自分はここぞという時に手が伸ばせないんだ。

悔しさに、涙がにじむ。

 

偽ナースの右手は遂に注射器をつかんだ。

そして、つかんでいるラミーシャの足に突き立てた。

 

――やめろ!

――オレは――オレは――

――この娘を助けたいんだ!

強い願いが絶叫するかのように頭の中ではじけた。

 

次の瞬間、ラミーシャの足に注射器が触れる寸前、偽ナースの右腕がピタリと止まった。

偽ナースの右腕を自分自身の左手が、がっしりと掴んでいたからだ。

驚く偽ナースが動かそうとするが、びくともしない。

 

これまでが嘘のように身体はマリトの思い通りに動いた。

上体を起こし、左腕でナースの腕をつかんだ。

チョーカーが黄色く閃いた。

次の瞬間、ナースの腕がひねり上げられる。

注射器を奪い、その腕に突き立てた。

 

プシュッ。

音と同時に、足首をつかんでいた手の力が抜ける。

 

一連の動作が、あたりまえに、流れるように行われた。

まるで、朝起きたときに目覚まし時計のアラームを止めるのと同じくらいに……

そして、固まった。

そこからは、もうマリトの意志で動かすことができなかった。

彼が借りている身体は、ラミーシャを想う強い願いを達成するためだけに、必要な動きをしたのだった。

 

 

【挿絵表示】

 

◇参考挿絵:敵から注射器を奪い取る

 

注射器の音でラミーシャの意識が戻る。

起き上がろうとして、右手にある注射器に気付いて、倒れている偽ナースを見た。

「いたた」

片手で頭をさすりながら立ち上がった。

「お父さんがこれで、私を守ってくれたんですか?」

「詳しい話は後で。まずは逃げよう」

 

ラミーシャは、急いで、開けっぱなしの出入口のところまで移動する。

出入口に立ち、眼下を見る。

――高さは10メートル、いや、もっとだ。

 

ずっと下に野営地の物資が小さく見える。

――これは!……落ちれば死ぬ高さだ……

 

 

【挿絵表示】

 

◇参考挿絵:飛行船から地表を見る




【次回予告】
目覚めたラミーシャとマリトの連携で自由を取り戻した二人ですが、強力すぎる魔法により飛行船が炎上し、上昇を始めてしまいました。次回、燃える飛行船から決死の脱出を図ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。