【人月心話】あのー、剣と魔法の異世界の案件なんですが、元ITコンサルの賢者様なら解決できますか?   作:Kimoto Hiroshi (KH)

33 / 34
第15話 魔眼の剣を打ち破れますか?

魔武闘会の学年交流戦は五日間の中で数日に分けて行われる。

ブーストライダーから、一日空けての二日後に行われるのが剣術の交流戦だ。

さらに、一日空けての二日後に体術の交流戦が続く。

間の日には魔法研究の発表や特別講演などが行われる。

 

シノハの剣術の交流戦、ラミーシャの体術の交流戦の準備はそれぞれ行われている。

シノハの剣術の準備は主に、本家の道場で行われてきたが、今日は、数日後に迫った試合に向けてラミーシャと本番さながらの稽古を行う。

ラミーシャは兄のリスカールと同じく、曲刀を使う流派の使い手である。

 

稽古では礼装ではなくトレーニングウェアだが、下には防刃のアンダーウェアを着用、ゴーグルも着用する。

公式の競技会では通常の木剣ではなく、真剣が用いられる。

ただし、刃の部分には注意深く防刃のテクスチャが巻き付けられる。

先端にはさらに別の防護テクスチャをはめる。

これにより、実際の殺傷力を下げると同時に、打撃時のインパクトを計測できるようになる。

 

判定器も設置する。

有効打で黄色、決定打で赤色に光る。

 

 

シノハは時間計測の砂時計をひっくり返すと言った。

「サワ先生の力も使って全力で来て」

シノハはリスカールは別人格の力も借りてレベルアップしていると確信している。

ラミーシャの全力からヒントが得られないかと考えている。

 

シノハは両手で剣を中段に構えてラミーシャと対峙した。

シノハの剣術が日本刀に似た両手剣なのに対して、曲刀は片手剣である。

ラミーシャは右手に曲刀を持ち、右足を半歩前に出して半身で構える。

この構えは兄のリスカールと同じだ。

 

シノハの髪が赤みを帯びた黒に変わった。

彼女には自身が覚醒モードに変わったことが分かった。

ラミーシャの剣は兄に及ばないとされてきたが、そうとも言い切れないようだ。

――サワ先生が召喚されてミーシャが強くなっている……

 

シノハが覚醒してから、覚醒モードに移行したのは数えるほどしかない。

最初が半年前の剣術対抗戦だ。

こちらはエグジビションの要素の強い魔武闘会とは違い、標準の木剣を使って学園最強の剣士を決める。

このときの決勝のリスカール戦で初めて覚醒し、彼を圧倒したのだった。

 

二度目が拉致事件で多数の銃口を向けられたとき、三度目は透明人間事件のときだ。

四度目は体術でサワ先生と対峙したとき。そして今回だ。

――この二人は、やはり侮れない最強バディだ……

 

 

マリトは向かい合うシノハの髪色が変化するのを見た。

前回の体術のときに見たシノハの覚醒モードだ。

「ミーシャ、シノハの覚醒モードだ。反応速度が速くなる」

ラミーシャはかすかにうなずくと、左足で地面を蹴り、右足も大きく前に踏み込む。

 

チョーカーが短く黄色に光る。

足裏と床の接触面の摩擦係数が最大化され、踏み込みの力が無駄なく身体に伝わる。

曲刀がシノハの左肩に向かって走った。

しかし、シノハの長剣は、その軌道上にすでに置かれていた。

 

金属のぶつかる高い音が響く。

ラミーシャの曲刀は、狙った場所に届く前に、横へ流された。

シノハはほとんど動いていない。

手首と肘のわずかな動きだけで、ラミーシャの一撃を外していた。

 

ラミーシャはすぐに体勢を戻し、二撃目を下から斬り上げる。

シノハは半歩だけ下がり、曲刀の軌道を刀身の腹で滑らせた。

「ミーシャ、やはり予測だ。剣筋を正確に予測している」

ラミーシャはかすかにうなずく。

 

シノハの静の剣に対して、ラミーシャとリスカールは動の剣だ。

彼らの踏み込んでの一閃の速度は神速とも言え、対応することが難しい。

シノハも覚醒するまでは、対応ができなかった。

 

三撃目は、横薙ぎ。

それも、剣の根元の柄に近いところで受け止められる。

ラミーシャが剣を素早く戻すのに合わせてシノハが胴を狙って剣を伸ばす。

 

ラミーシャが大きく後ろに飛ぶことで、ぎりぎりで腹部を通る剣をかわす。

ひやりとする感覚が伝わってくる。

これまでなら確実に決定打だった剣だったが、ラミーシャも予測能力を高めている。

カルベ家の道場で繰り返し練習に付き合った結果、ラミーシャもある程度、感覚をつかめるようになっていた。

 

数回の攻防の後、曲刀を引き、次の踏み込みで、腕を大きく伸ばす。

片手剣の利点を使った、通常よりも遠い間合いからの一撃だ。

シノハには一度も見せたことがない奇襲だ。

 

しかし、シノハはその剣筋すら予想していた。

剣の鍔元で受けると同時に、今度はシノハが予想できない技を繰り出してきた。

――嘘だろ……そんな技を使うのか?

 

ラミーシャが剣を戻すことで、インパクトを抑えるが、右の胴に打撃が入る。

判定器が黄色く光る。

有効打!

 

 

その後もラミーシャと稽古を続けることでシノハはリスカール戦に向けた一定の手応えを得た。

マリトに由来する高度な予測能力があっても、それをかいくぐって有効打を入れることが可能という点だ。

有効打程度の打撃技を避けた先に、決定打を打てる技構成があると、有効打をあえてもらう判断をするようなのだ。

どうして短時間で、そのような判断ができるのかは分からない。

 

これは道場でのマリトの回避能力を調査したときに得られた仮説の確認だ。

また、シノハ自身の覚醒モードとの共通点でもある。

続く攻撃がより強力になる、あるいは攻撃が続かないと予測したときにはあえて打撃をもらうことがある。

 

もう一つは裏技の効果が期待できないことだ。

裏技は本来、強敵を相手に他に方法がないときに意外性を伴って放つ技だ。

カルベ家の当主である父からは、敵の技の弱点を知る目的以外には、極力使用を避けるように厳命されている。

今回、使った裏技はラミーシャの意表は突いたが、それでも対応されてしまった。

――初見の技でも予測できる以上、裏技は封印だ……

 

最後に、剣速が重要な鍵を握ることだ。

軌道の予想ができても対応するための剣速が出せなければ対応できない。

ラミーシャは半年前のリスカールを上回る剣速を見せたが、それに対応できることを確認できたことは大きい。

――しかし、リスカールがさらにその上を行っていないと言い切れるだろうか……

 

 

対抗戦当日。

第一試合は二つの試合場に分かれて行い、それぞれの勝者で決定戦を行う。

シノハと対戦したのは六年生の第二位の生徒だ。

短槍を使う相手だが、短槍はラミーシャの得意領域なので準備は万端である。

 

覚醒モードになることもなく、リーチの差を一気に埋めて決定打を打ち込み、危なげなく勝利した。

試合時間は1分にも満たず、リスカール戦に向けて体力の温存ができた。

 

並行して行われている試合がリスカールと五年生の第二位の生徒だ。

シノハと同じタイプの両手剣を使う。

ラミーシャが偵察に行ってくれた。

 

リスカールも有効打を二本もらったが、

足元、右胴、籠手、左肩、首元、の五本の有効打で勝利したとのことだ。

試合時間は2分に満たない。

 

この結果にシノハは違和感を抱いている。

シノハは当然、五年生の二位の生徒と学年代表の決定戦で戦っている。

その彼の力量で、リスカールから二本の有効打が取れたとは到底信じられない。

 

ラミーシャも同意見で、リスカールがなぜ決定打を取らないのか不思議だったという。

彼女がもう一つ指摘したのは、リスカールの剣撃のスピードが異常に速いということだった。

ラミーシャよりもずっと速いとのことだ。

――悪い予感が的中か……心してかからないといけない……

 

 

【挿絵表示】

 

◇参考挿絵:両手剣と片手剣の剣術がぶつかる

 

カタリ。

試合開始の砂時計が返り、試合が始まった。

シノハは中段の長剣の両手剣を、リスカールは右の曲刀を前にして構える。

シノハの髪色が赤く染まる。

ラミーシャとの稽古のときと同じだ。

 

二人の距離は、曲刀の間合いよりもまだ外にある。

シノハは動かず、リスカールの初手を見極めようとする……

ガシン。

 

気付いたときには、曲刀がシノハの右肩に向かって伸びていた。

上げろという予測感覚に従って、持ち上げたシノハの長剣とぶつかり金属音が響く。

 

一撃目の受けは間に合った。

が、ぎりぎりだ。

受け流して反撃に移ることができない。

 

――何が起きた?

――瞬きの間に剣撃をしたのか?

――あり得ない。

 

二撃目。

今度は胴を狙う低い軌道だった。

シノハは半歩下がり、縦へという予知感覚に従って剣を縦に立てる。

曲刀は刃の腹を滑り、脇へ抜けた。

 

防いだ。

だが、ぎりぎりだ。

反撃に移れない。

だが今度は動きが見えた。

 

普通なら一歩踏み込む動作があり、肩が沈み、腰が回り、腕が遅れて出る。

剣が届くまでには、必ずその前触れがある。

それがない。

 

バネのように急に剣が飛び出してくる。

人間の動きではない。

だが、その動きを織り込む。

 

三撃目は、直線的な動きではなかった。

右肩を狙うように見えた曲刀が、手首の直前で軌道を変え、剣を握る籠手へと向かってくる。

これも予測して跳ね上げると同時に、隙のできた左胴へ素早い一撃をたたき込む。

 

リスカールが下がり、剣は空を切る。

続けざまにシノハは左右に素早い斬撃を繰り出す。

しかし、すべてを受け流された。

――読まれている……

 

そして、右胴への一撃は避けきれなかった。

曲刀の腹が、シノハの右脇に入る。

重い衝撃が肋骨に響き、息が詰まった。

有効打!

 

 

両者は一旦、体勢を立て直して改めて対峙する。

シノハにはいくつか違和感を覚えることがある。

右目の瞳が紫色になっていることだ。

 

もともとは両目ともラミーシャと同じきれいな青だった。

サワ先生が言っていた特殊な能力を持つ『魔眼』というものなのか?

小説などに出てくる架空のものだと言っていたが、実在するのだろうか?

 

もうひとつは、チョーカーの色だ。

剣術の試合では魔法はあまり介在しない。

時々、黄色く光るのは土属性魔法。主に摩擦力のコントロールだ。

 

リスカールのチョーカーには白と青の光が見える。

青は水属性魔法で、体内で何かを行っていることが分かる。

白は光属性だ。これは何かを光らせていると思われるが、それらしいものが見当たらない。

 

今度はシノハから動く。

動く前にシノハはひとつの光属性魔法を発動した。

身体を光らせる魔法だ。

瓦礫に埋まったときなどに居場所を伝えるために使われるものだ。

地震の多発するこの世界では必須の魔法だ。

 

踏み込んでリスカールの曲刀を抑え、そこから右胴を薙ぐ。

リスカールの回避が遅れる。

手応えがあった。

有効打!

 

シノハは確信した。

おそらく、普通の目には見えない光を使って、筋肉の動きを観測することで予測をしている。

紫の瞳にはそれが見えているのだ。

 

まさに未来視の魔眼。

しかし、シノハが身体を光らせることによって、その光を見えにくくしたことで予測力がそがれたのだ。

 

 

三度目の仕切り直し。

今度もシノハから仕掛ける。

バネのような攻撃は初手で受けるのは厄介だ。

 

上中下段に斬撃を繰り返す。

最初は遅れていた対応が間に合うようになってきている。

光の魔法に慣れてきたのか。

一歩引いた位置からシノハの左籠手に曲刀が伸びる。

 

反応したが防ぎ切れない。

左手首が痺れる。

有効打!

 

次の仕切り直しは、リスカールからの剣撃。

もはや光魔法の効果はない。

シノハは繰り返す攻撃を受けていくが、少しずつ遅れる。

そして右首筋チョーカーの位置に曲刀が届いた。

 

衝撃が走り頭が揺れる。

有効打!

――おかしい。なぜ今、決定打を打たなかった?

――タイミングは十分だったはず……

 

あと一本有効打が入れば負ける。

予測の方法はシノハやマリトのような直感的なものとは違う。

視覚によるものだ。

――だとすると……

 

シノハはリスカールの打撃を剣の根元で受けて、曲刀をずらして一歩引くと同時に左手を離した。

同時に身体を回転させる。

背面に剣を持っていくことで、剣筋を最後まで見せない。

回転の勢いを使って、背面から長剣をリスカールに届かせる。

 

片手にすることでリーチが延び、リスカールの首まで届いた。

裏技の片手剣だ。

起死回生の打撃だったが、両手剣の重心は片手で扱うのに最適化されていない。

十分な打撃は与えられなかった。

有効打!

 

 

次の攻撃はリスカールから動き、足元への有効打を取られた。

残り時間はわずかだ。

シノハは再度、片手剣からの回転薙ぎを試みる。

しかし、空を切った。

やはり意外性のなくなった裏技は通用しない。

 

そして、片手剣同士ならリスカールの技量が圧倒的に勝る。

軽く受け流されて、肩口への打撃をもらった。

固唾を呑んで見守っていた観客がどよめいた。

 

これで三本差の有効打によりリスカールの勝利。

見事に半年前の雪辱を果たした……

これで張り詰めた試合の終了だと、その試合を見ていた全員が思ったのだったが――終わらなかった。

 

負けを悟ったシノハが力を抜いたそのとき、リスカールの曲刀がバネ仕掛けのように、左脚に振り下ろされた。

これまでとは違う渾身の力だ。

シノハは防御を試みるが間に合わない。

決定打を示す判定が赤く輝く。

 

次の右胴への防御はさらに遅れる。

脇腹に強力な一撃が入る。

判定器が赤く光り、リスカールの怒りの表情を照らす。

何かを怒鳴っているが、混乱しているシノハには分からない。

 

観客席には「やめて」という声と悲鳴が響き渡る。

審判が制止を試みるが、籠手、そして、左肩を強打された。

そして、首に打ち込まれる寸前でシノハは倒れ、曲刀はそこでゆるりと抜けた。

リスカールはリングに入った審判による昏倒魔法で動かなくなった。

看護班がシノハを担架で運び出した。

 

 

ラミーシャと一緒に試合を観客席から見ていたマリトには、リスカールがシノハに浴びせた言葉を読み取ることができた。

……警告を無視した……おまえが悪い……

……どうしようもないクソ虫が……

……過信しすぎだ……ここはおまえが上がっていい場所じゃない……

……殺す……

そして最後の首への一撃が倒れたシノハの頭上を力なく泳いだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。