あのー、剣と魔法の異世界の案件なんですが、元ITコンサルの賢者様なら解決できますか?   作:Ningets

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【あらすじ】
ITの存在しない剣と魔法の世界に、賢者として召喚されてしまったIT企業のコンサルタントが、転生先の少女ともに世界を危機から救い、元の世への帰還を目指す物語――
異世界の少女ラミーシャの第二人格として転生した主人公のマリトは、着替えを済ませた彼女の姿、そして、見舞いに来た学園の友人たちの姿から、本当に異世界なのかと疑うマリトに、元の世界とは異なる現実が突きつけられます。


Ⅰ-05 共に戦う友人たちと絆を深めてくれますか?

ラミーシャは軽くうなずいた後、下を向くと、片足ずつショーツに足を通し始めた。

すらりとした長い脚がマリトの視界に入る。

続けて、胸当てを手に取ると、背中側から回して、両乳房を支えるようにして、前の位置で留めた。

 

マリトが意識しないようにしてはいても、着替えの様子は目に入ってきている。

ラミーシャは最初のうちは別の方向を見ながら着替えていたが、途中から気にするのを止めたらしい。

太ももも、乳房も、しっかり見えている。

彼には自分が聖人君子ではないという自覚はあったのだが、――何も感じない。

 

――何も湧き上がってこない……女性の脳だからか?

信頼には応えられていると思いつつも、マリトには、それが必ずしも健全な状態だとは思えなかった。

自分の男性としてのアイデンティティは失われてしまったのか……

 

彼が悩んでいる間も着替えは進んでいく。

ラミーシャは、続けてグレイのスカートを履き、白い上着をかぶり首を通し、袖に腕を通す。

最後に胸元の明るいブルーのリボンを整えると、大きな姿見の前まで歩いていき、鏡に向き合った。

 

「もうこっちを見ても良いですよ」

言われるまでもなく、彼は鏡に映る姿をすでに認識していた。

そして……絶句していた。

――ウソだろ……!?

そこには、ひとりの金髪碧眼のJK、セーラー服姿の日本の女子高生が映っていたのだった。

 

 

【挿絵表示】

 

◇参考挿絵:制服姿を姿見に映す

 

「どうです?これがブリヤ魔法学園の制服です。すごく可愛くないですか?」

そう言ってマリトの反応を伺うが、様子がおかしいことに気付いた。

「どうかされましたか?」

 

「これセーラー服だよね」

「はい」

「日本のJKの制服じゃないの?」

「ニホンは賢者様のいらっしゃった世界のことですよね」

「そこのジェーケーというところでも似た制服を使ってるんですか?」

 

――落ち着け。この一致には説明がつくはずだ。

理事長のところに召喚されていた賢者も日本から来たのなら、制服も日本語についても説明できるとマリトは思った。

しかし、時間軸の違いに説明が付かない。

 

「この制服はいつから使われているの?」

「はい。理事長が学園を設立された300年前からの伝統的な制服です!」

300年前は日本は江戸時代であり、その時代にJKの制服はもちろん存在していない。

 

――元の世界とこの世界で時間の流れが違うのか?

――あるいは数百年後の未来の日本なのか?

――魔法の存在や笑う月と星のない夜空はどう説明できる?

――ゲームのような作り物の世界の中なのか?

――わからない……

 

マリトはもっと情報が集まるまで、理解を先送りすることにした。

そして、改めて鏡に映る制服に目を凝らす。

 

セーラー襟風の白いブラウスは、伸縮性のある動きやすい素材で、ゆったりして空気が通りやすく快適そうだ。

スカートは膝丈よりやや短い長さのグレイのチェック柄のプリーツスカートで、軽くて涼しそうな生地だ。

胸元に紺色の刺繍のエンブレムが入っている。

 

「可愛い制服だね。とても似合ってる」

鏡に映るラミーシャの顔がパッと明るくなり、「ほんとですか?」と言った。

 

――いろいろと疑問は残るが、この世界を知るのが先だ。

「じゃあ昼食を食べに行こう」

「はい」

 

 

見慣れない形をしたドアを抜けて廊下に出る。

壁は白く塗られているが、室内と同様、木造とわかるレトロな印象だ。

 

廊下を進んでいき、突き当たりで左に目をやると、テーブル席に三人の男女が座って話をしているのが見えた。

ラミーシャに気付くと、三人が立ち上がって話しかけてきた。

「大丈夫だった?」「心配したよぉ」

 

全員、ラミーシャが着ているのと同じ制服を着ている。

それぞれ少しずつ違っているが、トップスは白でボトムスはグレイ。

全体に夏の装いだ。

日本の高校生の男女が、夏休みに入院中の友達のお見舞いに来たような絵面だ。

 

「シノハ、アラン、ケイ、来てくれてありがとう!」

そう言いながら、心の中でマリトに説明してくれる。

「背の高い黒髪の子がシノハで、私のルームメイトです」

 

「三人とも生徒会の役員なんですよ」

「シノハなんか生徒会長をやってます」

 

「みんな文武両道で武術も勉強もどっちも学年上位なんです」

「私は『武』だけなんですが……」

――うん。そうかもしれないと思ってた……

「それがですよ……、『文』をお父さんが担当するから、二人なら無敵になれるかもって思ってるんです!」

 

「説明はありがたいけど、余計なことをするとぼろが出るから、友達との会話に集中して」

しかし、彼女のこの言葉は、近い将来『ボルディアの無双バディ』と称されることになる二人の姿を予言するものとなった。

 

 

【挿絵表示】

 

◇参考挿絵:友人たちと一緒に過ごすランチ

 

シノハと呼ばれている女子学生は、長身で、腰まで伸びるまっすぐな黒髪をしている。

目は黒く切れ長で、どことなく落ち着いた和の雰囲気がある。

 

真ん中の男子学生は、190cmを超える長身で、しっかりした体格をしている。

ヨーロッパ系で、髪色はラミーシャよりも薄いブロンドだ。

彼の制服は女子のセーラーブラウスとは異なり、ポロシャツ風のデザイン。ボトムスは膝下までのハーフパンツだ。

 

彼の右にいる女子学生は東洋系で、やや色黒の肌で、身長はラミーシャと同じくらいで華奢な印象だ。

左足に包帯を巻き、松葉杖をついて、その足を宙に浮かせている。

 

 

学生達はそれぞれの昼食の載ったトレイをテーブルの上に置いて食事を始めた。

「今回の原因は結局、何だったの?」とケイが聞く。

全員、興味津々の様子だ。

 

「先生はリフレクションの結果、魔法アレルギーじゃないかと言ってた」

「魔法アレルギー?それ何?」

「さあ。私にもよくわからないんだ」

 

「その足、どうしたの?」とラミーシャがケイに尋ねた。

「この前の馬術で、馬に踏まれてしまって、ひずめで左足の親指が潰れてしまって」

「そのままだと治りが遅いということで、親指の付け根のところで切ってもらうことにしたんだ」

「三ヶ月もすれば元どおりに生えそろうらしいんだけど、次の試合に間に合うかどうか」

 

――いま、生えてくるって言ったか?

質問したい気持ちがが膨らむが、割り込むのをぐっとこらえる。

 

「これじゃあ、寮まで帰るのは大変だね」

「アランに付き添ってもらって馬車で帰るつもり」

「遅い馬車だと月が笑うまでに寮に着けないので、次の馬車に乗ろうと思ってる」

「今日の月は『満面の笑み』だね」

 

――満面の笑みか……

マリトは未明に見た異様な月の姿を思い出し、目の前に広がる、まるで日本に戻ったような平和な光景とのギャップに違和感を覚えるのだった。

 

 

話をしながら食事を口に運ぶ。

手には箸を持ち、器用に使っている。

このあたりも、日本とよく似ている。

エビ料理の食感も味も、ほぼ想像どおりだった。

 

――ここは本当に異世界なのか?

時代がやや古い印象を受けるものの、やはり日本ではないのかと思い始めた彼は、次の瞬間、その認識を改めることになる。

 

ラミーシャのトレイにはもう一つ、一回り大きなエビの蒸し物のような料理も載っていた。

見た目はシャコに似ている。

それには頭が付いていた。

赤い色であるが、あまりエビの頭には見えない……。

 

――あれ?この形はどこかで……

――まさか、虫の頭!?

気付いたときには、悲鳴を上げたい衝動をかろうじて抑えた。

「ちょ、ちょ、ちょ、これ、虫じゃないか?」

マリトはラミーシャに頭の中で問いただす。

 

「さっき食べたのもそうなのか?エビじゃなかったの?」

「先ほどの炒めたやつですか?エビですよ」

「エビは虫じゃないですか」当たり前のように答える。

 

「いや、エビは魚介の一種で、海の生き物だよね」

「違いますよ。森の木の上にいる生き物ですよ」

――なんだと!?

 

「ボルディアでは海の生き物を食べる習慣はありません」

「津波が来るので、海に近づくのは禁止されているんです」

マリトは驚愕で言葉も出ない。

 

「エビは頭の中まで食べられて美味しいんですよ」

「この大っきいやつとか、すごく美味しいと思います」

そう言いながら左手で頭をつかんで、箸で引っ張って身を切り離す。

ひっくり返し、箸で頭の中をつつき回し始めた。

 

巨大な虫への嫌悪感が湧き上がってくるのを感じる。

触覚が動いたような気がした瞬間、背筋がぞわりとする。

「いま、動いた?」

「はい、大きなヤツは、つつくと調理後も少し動いたりするんですよ」

そう言いながら、箸で取り出した身を口に近づけてくる。

 

「ミーシャ、待って、待って、待って、待って」

「お願いです」

「覚悟ができるまで、時間をください!!」

その様子に、ラミーシャはクスリと笑って、エビの頭をトレイの方に戻した。

 

その様子をケイは見逃さなかった。

「ミーシャ、なぁに?思い出し笑い?」

「お父さんがね、エビがダメなんだって。」

その答えを聞いてアランとケイが顔を見合わせて、ラミーシャに向かって聞いた。

「ミーシャ、お父さんって、いたっけ?」

 

ラミーシャは答えに窮して固まった。

焦りが伝わってくるが、マリトにも打開方法は思いつかない。

――ここはしらばっくれるか?

 

ラミーシャは「えーと、その」と言って、シノハの目を見た。

視線に気付いたシノハは、軽くうなずいて口を開く。

「あ、私の父のことよね」

「前に私の家に遊びに来たときに、父が、エビが苦手だという話をしてたのを思い出したのね」

 

――この娘は頭の回転が速い……

ラミーシャは、首をぶんぶん振ってうなずいた。

 

 

ふと気付くと、先ほど着替えを持ってきてくれたナースが近くに来ていた。

近づいてきて声をかけてきた。

「ラミーシャさん……」

 

その言葉の途中で、耳の後ろあたりが強く締め付けられる感覚があった。

ラミーシャとケイは素早く目配せした。

「来るね。結構大きい」とラミーシャ。

「レベル4くらい?」ケイが答える。

 

ケイがナースに伝える。

「空隙震です。看護師さんも手すりにつかまってください」

そう言いながら、そっと食事のトレイを持ち上げた。

周りの学生も座ったまま、全員、同じようにしている。

 

外から鐘の音が聞こえてきた。

「カンカンカンカン、カンカンカンカン、カンカンカンカン、……」

 

そして揺れが始まった。

――これは、大きい!

病院全体が船のように揺れる。揺れ続ける。

――いつまで続くんだ?

マリトの頭を理事長の『世界の終わり』という言葉がよぎった。




【次回予告】
異世界の様子について理解を深める一方で、秘密を守るのに不向きなラミーシャの性格も明らかになり、前途多難を予想するマリトでした。次回、その予感が的中し、謎の敵対勢力が接近を始めます。
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