【人月心話】あのー、剣と魔法の異世界の案件なんですが、元ITコンサルの賢者様なら解決できますか? 作:Kimoto Hiroshi (KH)
召喚初日、病院に見舞いに来てくれた友達と昼食をとるため、見慣れない形をしたドアを抜けて廊下に出る。
マリトにとって異世界に来てからはじめての病室外だ。
壁は白く塗られているが、室内と同様、木造とわかるレトロな印象だ。
廊下を進んでいき、突き当たりで左に目をやると、テーブル席に三人の男女が座って話をしているのが見えた。
ラミーシャに気付くと、三人が立ち上がって話しかけてきた。
「大丈夫だった?」「心配したよぉ」
全員、ラミーシャが着ているのと同じ制服を着ている。
それぞれ少しずつ違っているが、トップスは白でボトムスはグレイ。
全体に夏の装いだ。
日本の高校生の男女が、夏休みに入院中の友達のお見舞いに来たような絵面だ。
「シノハ、アラン、ケイ、来てくれてありがとう!」
そう言いながら、心の中でマリトに説明してくれる。
「背の高い黒髪の子がシノハで、私のルームメイトです」
「三人とも生徒会の役員なんですよ」
「シノハなんか生徒会長をやってます」
「みんな文武両道で武術も勉強もどっちも学年上位なんです」
「私は『武』だけなんですが……」
――うん。そうかもしれないと思ってた……
「それがですよ……、『文』をお父さんが担当するから、二人なら無敵になれるかもって思ってるんです!」
「説明はありがたいけど、余計なことをするとぼろが出るから、友達との会話に集中して」
◇参考挿絵:友人たちと一緒に過ごすランチ
シノハと呼ばれている女子学生は、長身で、腰まで伸びるまっすぐな黒髪をしている。
目は黒く切れ長で、どことなく落ち着いた和の雰囲気がある。
真ん中の男子学生は、190cmを超える長身で、しっかりした体格をしている。
ヨーロッパ系で、髪色はラミーシャよりも薄いブロンドだ。
彼の制服は女子のセーラーブラウスとは異なり、ポロシャツ風のデザイン。ボトムスは膝下までのハーフパンツだ。
彼の右にいる女子学生は東洋系で、やや色黒の肌で、身長はラミーシャと同じくらいで華奢な印象だ。
左足に包帯を巻き、松葉杖をついて、その足を宙に浮かせている。
◇
学生達はそれぞれの昼食の載ったトレイをテーブルの上に置いて食事を始めた。
「今回の原因は結局、何だったの?」とケイが聞く。
全員、興味津々の様子だ。
「先生はリフレクションの結果、魔法アレルギーじゃないかと言ってた」
「魔法アレルギー?それ何?」
「さあ。私にもよくわからないんだ」
「その足、どうしたの?」とラミーシャがケイに尋ねた。
「この前の馬術で、馬に踏まれてしまって、ひずめで左足の親指が潰れてしまって」
「そのままだと治りが遅いということで、親指の付け根のところで切ってもらうことにしたんだ」
「三ヶ月もすれば元どおりに生えそろうらしいんだけど、次の試合に間に合うかどうか」
――いま、生えてくるって言ったか?
質問したい気持ちがが膨らむが、割り込むのをぐっとこらえる。
「これじゃあ、寮まで帰るのは大変だね」
「アランに付き添ってもらって馬車で帰るつもり」
「遅い馬車だと月が笑うまでに寮に着けないので、次の馬車に乗ろうと思ってる」
「今日の月は『満面の笑み』だね」
――満面の笑みか……
マリトは未明に見た異様な月の姿を思い出し、目の前に広がる、まるで日本に戻ったような平和な光景とのギャップに違和感を覚えるのだった。
◇
話をしながら食事を口に運ぶ。
手には箸を持ち、器用に使っている。
このあたりも、日本とよく似ている。
エビ料理の食感も味も、ほぼ想像どおりだった。
――ここは本当に異世界なのか?
時代がやや古い印象を受けるものの、やはり日本ではないのかと思い始めた彼は、次の瞬間、その認識を改めることになる。
ラミーシャのトレイにはもう一つ、一回り大きなエビの蒸し物のような料理も載っていた。
見た目はシャコに似ている。
それには頭が付いていた。
赤い色であるが、あまりエビの頭には見えない……。
――あれ?この形はどこかで……
――まさか、虫の頭!?
気付いたときには、悲鳴を上げたい衝動をかろうじて抑えた。
「ちょ、ちょ、ちょ、これ、虫じゃないか?」
マリトはラミーシャに頭の中で問いただす。
「さっき食べたのもそうなのか?エビじゃなかったの?」
「先ほどの炒めたやつですか?エビですよ」
「エビは虫じゃないですか」当たり前のように答える。
「いや、エビは魚介の一種で、海の生き物だよね」
「違いますよ。森の木の上にいる生き物ですよ」
――なんだと!?
「ボルディアでは海の生き物を食べる習慣はありません」
「津波が来るので、海に近づくのは禁止されているんです」
マリトは驚愕で言葉も出ない。
「エビは頭の中まで食べられて美味しいんですよ」
「この大っきいやつとか、すごく美味しいと思います」
そう言いながら左手で頭をつかんで、箸で引っ張って身を切り離す。
ひっくり返し、箸で頭の中をつつき回し始めた。
巨大な虫への嫌悪感が湧き上がってくるのを感じる。
触覚が動いたような気がした瞬間、背筋がぞわりとする。
「いま、動いた?」
「はい、大きなヤツは、つつくと調理後も少し動いたりするんですよ」
そう言いながら、箸で取り出した身を口に近づけてくる。
「ミーシャ、待って、待って、待って、待って」
「お願いです」
「覚悟ができるまで、時間をください!!」
その様子に、ラミーシャはクスリと笑って、エビの頭をトレイの方に戻した。
その様子をケイは見逃さなかった。
「ミーシャ、なぁに?思い出し笑い?」
「お父さんがね、エビがダメなんだって。」
その答えを聞いてアランとケイが顔を見合わせて、ラミーシャに向かって聞いた。
「ミーシャ、お父さんって、いたっけ?」
ラミーシャは答えに窮して固まった。
焦りが伝わってくるが、マリトにも打開方法は思いつかない。
――ここはしらばっくれるか?
ラミーシャは「えーと、その」と言って、シノハの目を見た。
視線に気付いたシノハは、軽くうなずいて口を開く。
「あ、私の父のことよね」
「前に私の家に遊びに来たときに、父が、エビが苦手だという話をしてたのを思い出したのね」
――この娘は頭の回転が速い……
ラミーシャは、首をぶんぶん振ってうなずいた。
――で、この娘は秘密を守るのには絶望的に向いていない……