【人月心話】あのー、剣と魔法の異世界の案件なんですが、元ITコンサルの賢者様なら解決できますか?   作:Kimoto Hiroshi (KH)

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閑話2 サワ・マリトとエーテル・アーム実験

サワ・マリト、23歳男性。東京湾岸大学大学院修士1年。

異世界への召喚された日を遡ること4年前。

彼は今、右腕の義手を前にして、最大限の集中をしているところだ。

 

右腕に電極がクリップで繋がれた、四角くて黒いシート状の素子が貼り付けられている。

『MD粒子波発生素子』と呼ばれているものだ。

指導教官である友田准教授と、タブレットを持った後輩女子のコリーンが横に立ち、様子を見守っている。

 

 

マリトは東京湾岸大学の卒業後、理工学部AIイノベーション学科の大学院に残り、古楠研究室に配属されて半年が経つ。

この研究室では、人間の知覚・判断過程のモデル化とその応用に関する研究を中心に扱っている。

学部長である古楠教授は、ブレイン・マシン・インターフェースによる義手開発の第一人者として知られていた。

 

友田准教授は研究室のナンバー2で、研究室の主テーマであるエーテル・リム・プロジェクトの責任者だ。

精悍な男性教員で、頭脳は明晰だが、天才肌というよりも行動力があり、有能という印象が強い。

マリトの研究にも関心を持ってくれて、様々な助言をくれる頼りになる指導教官だ。

 

コリーンはマリトが学部の3年生の時に知り合ってからの腐れ縁だ。

大学はいわゆる「一流」とまではいかず、外部からは数ランク下の評価を受けている。

しかし、コリーンだけはその場にまったくそぐわない、別格の天才だった。

父親がその大学の理工学部の学部長に赴任したことと関係があるのかもしれないが、詳しいことは誰も知らなかった。

 

彼女は、大学入学当時、まだ17歳だったが、1年生の頃から研究室に入り浸っていた。

そこで、理論面でも実践面でも、ドクターの学生や他の教員が追随できないほどの、圧倒的な実力差を示した。

目鼻立ちの整ったクールビューティだったが、年齢が低いのに能力が高く空気を読まない発言が多いため、同期や先輩からは疎んじられており、もっぱら友田准教授の助手のような役割を果たしていた。

 

エーテル・リム・プロジェクトは、古楠教授が発見したMD粒子を使った遠隔操作可能な義手を開発するものだ。

米国では、彼の研究成果を基に、軍事作戦で負傷した兵士のための高性能な義手・義足を開発する企業の立ち上げに関わっていたが、日本でも非軍事分野での企業立ち上げが計画されていた。

 

機密性と求められる技術力の高さから、マリト自身は開発には関わっていないが実験には協力させられていた。

どうやら他の学生よりもMD粒子を使った操作に適性があるらしく、新しい実験を思いつくたびに呼び出された。

 

MD粒子は『Maxwell's Devil』にちなんで名付けられた素粒子だ。

物質にはあまねく存在し、粒子間での情報伝達、他の素粒子とのエネルギー交換が可能なことから、思念による遠隔操作を実現する手段としての利用が模索されていた。

 

 

マリトは、正直、そろそろ勘弁してほしいと思っている。

最初に行ったのがそろばんのイメージ操作だった。

頭の中に白いそろばんのイメージをつくり、そこで玉を動かしていく。

そして、順に数字を表せるように玉を動かしていき、足し算、掛け算ができるようにする。

 

それが終わると、次がオセロゲームで、マス目を3×3、4×4と順次増やしていった。

さらにその次に、配置した8個の白と黒の石の並びを操作する。

左右にシフトしたり、複数の並びから新しい並びを作り出したりできるまでになった。

 

そして、最終段階で、キーボードのイメージを描き、コマンドの入力をすることで、エーテルアームとの疎通確認を行う。

ここまで到達するのに数か月かかった。

 

{IMG254490}

◇参考挿絵:エーテル・アームの実験に協力する

 

マリトは頭の中に、キーボードのイメージを思い浮かべる。

白く光る線で描かれたキーボード。

それぞれのキーにはアルファベットが刻印されている。

 

P、I、N、G――と順番にキーにポイントしていく。

そして、最後に、Enterキーをポイントした。

コマンドを受け取ると、エーテルアーム上部のプレートに付いているLEDが虹色に光った。

波長の長い赤色から始まり、オレンジ、黄色、緑、青、紫へと瞬間的に変化し、最後に白く、フラッシュのように輝いた。

 

――ふう。やっと終わった。

安心したマリトは、ここで後に後悔することになる余計な指摘をしてしまう。

「この装置ですけど、電源に繋がっていないみたいですが、いいんですか?」

 

コリーンが

「わ、ほんまや」と言った。

 

「友田先生、電源入ってないのに動いているって、どういうことやと思います?」

「え?コンセントに繋がってるし、通電のLEDも点いていますよ」

「いえ、先生、それは隣の機器です」

「これは……ひょっとすると……かなりやばいことだぞ……」

 

その後、研究室は大騒ぎになり、マリトは電源なしに動作できる『エーテル場』や『リフレクター』のさらなる実験に付き合わされることになる。

どうやら秘密研究に関係があるらしく、コリーンは論文の著者になれないということで、マリトは論文執筆まで手伝わされるはめになった。

――本当に勘弁してほしい……

 

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