あらすじ:涙が止まらなくなる霊基異常が発生
終章序の辺りで書いてたやつなんですが、うpるの忘れてたので今うpります
pixivより転載

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【パーバソ】君の涙が止まらないと考えただけで

 ぽちゃん、と紅茶のカップに水滴が落ちた。

「へ?」

 思わず雨漏りか、と天井を見上げる。しかしストームボーダーの堅牢な天井は水蒸気すら漏らさない。

 なら、2粒目、3粒目の落下を見るこの水源は何か。

 答えは容易に分かった。自分だ。

 バーソロミュー・ロバーツは、自分の目元に手をやった。

 彼の涙腺は壊れていた。

 ──途端、響くアナウンス。開発顧問の少女の快活な声が機械越しに拡大されていた。

『あー、テステス。よし聞こえてるね! たった今確認されたことだが、1部のサーヴァントに霊基異常で涙が止まらなくなるという現象が発生している! 具体的に言うと混沌・悪がそうなっているようだ! 症状が出ている者はその場で待機! いずれ医療班が訪れるのを待ってくれ! 以上だ!』

(待ってくれ、今混沌・悪と言ったな? それなら黒髭の奴も泣いてるのか……?)

 その様を想像するとゾッとしなかったが、それよりもはたと気づく。

 ──ドバイの夏で、不思議に惹かれ合った結果「お付き合い」なるものをはじめた、伝説の騎士。疑いようのないほどの清廉潔白、秩序・善に相応しい清らかな人。自分のようなタールのようにべとついた海賊にはあまりに相応しくない人物だ。尤もそれはパーシヴァルの絶え間ない愛情で自己肯定感を無理矢理底上げされていたが。

 バーソロミューがここで彼の名を出したのは、理由がある。

 ──こういった事態に、動かぬ彼ではない。

 逃げようか。しかし涙が視界を邪魔して動けない。そうこうしていると、テーブルに置いたままだった茶器に手がぶつかった。床に接吻した彼あるいは彼女はあえなく無慈悲に打ち砕かれる。このときのバーソロミューは、ただでさえ霊基異常で不安定なところに、涙が止まらないというデバフがかかっていて正常な判断ができなかった。だから、それを思わず素手で片付けようとした。

 さて、サーヴァントの身体は神秘がなければ傷つけられない。しかし比較的近代の出身とは言え神秘の塊のサーヴァントに愛用されたカップがその神秘を身に宿すことはあるだろう。

 つまり、破片で英霊の皮膚に傷をつけることもできるのだ。その実例がたった今起きた。

「いた……」

 不用意に鋭利な破片に触れたことを反省し、どこからか箒と塵取りを持って来られないかと思案する。しかし今は動くなと言われている──

 途端、扉が開いた。外側から、勝手に。

「バート!」

 純白の騎士がなだれ込んできた。

 思わず割れたカップの前で動揺したまましゃがみ込んでいたバーソロミュー。その彼が涙をこぼしているのと、手に怪我を負ったらしいことを見て取ったパーシヴァルは、後ろ手に扉を閉めながら、武装を解いてバーソロミューの身体を担ぎ上げる。そしてベッドに横たえた。

 それから、そっとその立派な大胸筋にバーソロミューを抱き締める。

「泣かないで、スイートハート。……あぁいや、ここはいくらでも泣いていいというべき場面かな?」

「なんでここに」

 とはバーソロミューは尋ねながらも答えはわかっていた。

「突然泣き出す人たちが出てきて。あなたもひとりで泣いてやしないかと肝を冷やしたんだ。やはり泣いていたね。いけないよ、ひとりの涙は孤立の元だ」

 そう言ってぎゅう、と恋人を抱き締める。恋人、と言ったがまるで自分の子どもを慰めるようだ。それに、バーソロミューは少しおかしくなってしまう。

「ふふ、こ、子どもじゃないんだから……ひっく」

「あぁ無理に喋らないで。大丈夫。傍にいるよ」

「……君とは正反対の混沌・悪なのに?」

 その意地悪に対するパーシヴァルの答えは明瞭だった。

「あなたが誇り高い英霊であることに変わりはないだろう」

「──は」

 思わぬ言葉を告げられ、バーソロミューは涙を流したまま呆ける。それから、彼は笑い出した。

「は、はは! 清廉潔白たる騎士と比べ物にならないよ私なんて」

 そう言いながら大粒の涙をこぼす。それは丁度海に眠る真珠のようだった。

「私なんて、……」

 それからバーソロミューは黙り込む。それ以上は言葉を継げなかったらしい。黙って、パーシヴァルに背中を優しく叩かれるのに任せた。

 カップを片付けなければ。その意識は最後まであったが、それに気付いた様子のパーシヴァルに「茶器は私があとで片付けておくよ」という言葉に、バーソロミューはすこんと意識を落とした。泣き疲れである。

 

 なおこのとき、治癒されたティーチが、バーソロミューの泣きはらした顔で眠っている画像を撮ったことで「データごと返しなさい」と真っ黒い顔のパーシヴァルに追われることになるが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

End.


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