こちらはチ。-地球の運動について-の二次創作。転生現代パロディです。
オクジー、バデーニ、ヨレンタ、ドゥラカをはじめ、様々な登場人物が六百年前とは違った立場で出会う物語です。
途中、モブもたくさん出て来ます。ご了承ください。
全五十五話(プロローグ、エピローグ含む)。12万字程を予定しています。
よろしければお付き合いくださいませ。
某国とある一地方。
昼下がり。
短い夏が終わり、秋に差し掛かろうという頃。オクジーは染まりはじめた街路樹を眺めながら、石畳の道を歩いていた。
大学の授業が終わり、午後の空いた時間を潰そうと昼食を兼ねて行きつけのベーカリーに寄った時のこと。
店の隅の掲示板に立ち寄る。
そこにはアルバイト募集のチラシが貼られていて、時々目を通すようにしている。この夏も、短期のバイトで機械の修理工場に雇ってもらった。
今日も、割りのいいバイトはないかと目を通す。
『ヨレンタ探偵事務所。アルバイト募集』
ふと興味を惹かれて、走り書きで書かれたチラシに目を留める。
『地下通路を掘れるくらい、体力ある方求む』
募集要項がやや不穏だ。
探偵事務所なのに?探偵の仕事といったら、素行調査とか、証拠収集とかだろうか?いやでも、張り込みとか確かに体力勝負なとこありそうだし。いやしかし、地下通路などと妙に具体的な内容が気になる。
気になるのはそれだけではない。
報酬や勤務時間など、通常求人広告に記されているであろう項目に一切触れられていないのだ。
ただ、事務所の名前と、電話番号と、謎の応募条件だけ。
……怪しい。
いたずらにしては凝りすぎていて、求人にしてはふざけすぎている。しかし、なぜか目が離せない。
探偵。
人には、生まれつき謎を解き明かしたいという知的好奇心があると言う。平凡な自分が非日常に関わるチャンスなんて、人生の中で一度あるかないかかもしれない。
視線は探偵事務所のメモ書きに留めたまま、尻ポケットからスマホを取り出す。
ベーカリーの店員が常連のオクジーに気がついて声をかけようとした時には、彼は電話口の向こうの人物と話している最中だった。
…………………………
「ここ、かな。」
アルバイト募集のチラシを頼りに、吸いよせられるように連絡をとった。半刻ほどのち。
オクジーは古いテナントビルの前にいた。ここに件の探偵事務所が入居しているという。
秋風に吹かれて冷静になった頭で、今、懸命に考えている。
立ち止まって、改めて思う。
なぜ自分は、ここに来てしまったのだろう。
「…何度考えても、分からない。」
ベーカリーの店員によると、数日前、若い女性が求人を出したいと言ってチラシを店の掲示板に貼って行ったそうだ。ただ、その女性も誰かに頼まれたのかもしれなかった。
探偵事務所の電話口に出たのは、落ち着いた声の女性だった。
その声に、場違いなところへ足を踏み入れた気がして、オクジーは一瞬言葉に詰まる。
それでも名を名乗り、掲示板の求人を見たこと、そこで働きたいと思ったことを告げた。
女性は数秒の沈黙ののち、時間を作って一度事務所に来れるか聞いてきた。時間はあるのですぐに向かうことを伝えると、電話を切った。
場所は、ここからさほど離れていない。徒歩で向かえそうだった。
探偵事務所は、大通りから一本中に入ったテナントの中にあった。
この建物には、探偵事務所の他、一階に清掃か何かの業者が入り、あとは空き店舗のようだ。手入れの行き届いた建物は、古いが、清潔だ。正面玄関のガラス戸はぴかぴかに磨かれている。
オクジーは濃い眉毛をギュッと寄せて、取っ手に手をかけた。
正直、困惑している。
引き返そうかと立ち止まる間もなく、勢いよく物事が進んでいく。自分はなぜこんなにも直感に従って行動しているのだろうか。
ただ、冷静になったところで、一度連絡をしてしまったのでこのまま引き下がるのは相手に失礼だ。
なにより。
自分の意思というより、誰かに肩を押されているような感覚。この不自然な感覚を確かめるために、ここに来た。
ガラス戸にうつる自分の顔は、もう迷っている顔ではなかった。必ず何か特別なことが起こる、そんな予感がある。
握った取っ手の冷たさに一瞬ためらう。覚悟を決めると、押し戸に力を入れて建物の中に足を踏み入れた。
第一話は、本日21時頃投稿予定です。