爆発の衝撃は、レジスタンスのアジトにいるドゥラカのところにも届いていた。
静かだった仮眠室がざわつき始め、交代で休息をとっていた隊員たちが次々に起き出す。
ドゥラカは窓辺へ駆け寄り、外を覗いた。外は静寂を取り戻して何事もなかったかのような顔をしている。
スマホを取り出しSNSで検索すると、投稿が一気に更新されていく。
「爆発の瞬間」と題された防犯カメラの映像。雑木林の奥から立ちのぼる黒煙の写真。
なんだろう、胸騒ぎがする。
ドゥラカが廊下に飛び出すと、物資庫の前で隊員たちが集まりはじめていた。隊員の中に見知った顔を見つけた。
「レヴァンドロフスキさん、何かあったの?」
「分からん。今隊長が確認して…。」
レヴァンドロフスキは言葉を切り、視線を入口のほうへ向けた。
隊員たちの喧噪が潮のように引き、現れたシュミットが静かに立つ。
この場にいる全員が息を呑む中で、シュミットは短く告げた。
「組織長……ヨレンタさんが、自爆した。公安に潜入しているフライ君から、連絡が入った。」
「じばっ……は?」
足元が抜け落ち、世界が暗く沈んでいくような感覚がドゥラカを襲った。
「嬢ちゃん、大丈夫か?」
あまりに酷い顔をしていたのだろうか。隣にいたレヴァンドロフスキに肩をゆすられていることにもしばらく気づけなかった。
「じばく?」
「組織長との申し合わせだった。身に危険が迫った時はそうすると。彼女は死んでも、組織の信念は残っている。」
「信念…。」
隊員たちは互いに黙って頷き合う。彼らにとって死とは日常であり、重要なのはどこで死ぬかであった。
シュミットが声を張り上げ、隊員を鼓舞する。
「我々の目的は、既得権益者たちの秘匿された悪行を暴き、止めさせることだ!
敵はボスを潰したことで我々が弱体化したと思うだろう。だからこそ…今が攻勢のチャンスだ!」
おおっ、と隊員たちが威勢よく呼応する。足元の木箱には銃、火薬、数々の兵器。
それらは、人を傷つけるために作られた道具だ。
「ちょっと待って。」
ドゥラカの声に、あたりが静まった。
「ヨレンタさんは何故レジスタンスを立ち上げたの?」
問いを向けられたシュミットは、息をひとつついて答えた。
「……遠い昔、大きな権力に友人を奪われたからだと言っていた。彼女自身もそれらに翻弄され、全てを失った。
権力に奪われた自由と人生を取り戻したいという想いから、この組織を立ち上げたのだと。」
ドゥラカはレジスタンスでのヨレンタの顔を知らない。
でも、ドゥラカの知っている彼女は、誰かの悲しみの上に成り立つものを望むことはしないだろう。
「私は…ヨレンタさんから、迷いのない信念は時に呪いにもなるって教えられた。だから考えて、迷う。あなた達は思考停止で従ってない?」
その言葉に、シュミットの無表情が揺らいだ。
「…確かに、目的を盾に暴力は加速しえる。しかし、我々は少ない戦力で巨大な敵と対峙している。そこに感情は不要だ。迷いは命取りになる。」
「目的のために、ヨレンタさんの想いを見失ってはいけないと思う。力の行使は悲劇を繰り返すだけでは?」
沈黙。
シュミットはゆっくりと目を伏せた。
「…理解している。彼女の信念がなければ、この組織はただの暴力集団になる。だが綺麗事だけでは目的は達成出来ない。」
ドゥラカは息を呑む。ヨレンタが今まで自分に伝えてきたことは、全て、今、この時のためだったのだ。
「なら、私がヨレンタさんの信念を引き継ぎます。」
空気がピリ、と揺れた。
「…君がそこまでする義理はないだろう。」
隊員達は静かにドゥラカとシュミットの問答を見守る。咳払いひとつ、身じろぎひとつすらためらわせる空気感がそこにはあった。
やがて、シュミットが低く息を吐いた。
「…いずれ直面するだろう。信念を貫く難しさに。
ある時において、信念が保身を超えた時、命をかけられないのなら口だけだ。」
「それは…。」
「ここから先は、情と両立して進められる領域ではない。ここにいるものは皆、覚悟を背負ってここにいる。」
空気がぴんと張り詰め、誰も口を開かない。
「…あなた達は情だと切り捨てるかもしれないけど、だったら私は拾う。
あなた達の計画は、ヨレンタさんの目的は達成出来ても、記憶がない。」
「……。」
「それに、前にヨレンタさんと、大切なものを守るために手を貸してくれって、約束しちゃってたから。」
静寂のあと、シュミットが答えた。
「……ならば、君がその役割を担うといい。」
「はい!」
ドゥラカは静かに頷いた。
自分の中で確固とした想いが定まるのを感じる。ヨレンタの最期の行動を、次の悲劇を呼ぶものにしてはいけない。
倉庫内の空気がゆっくりと動き出す。
レヴァンドロフスキが大きく息を吐いた。