眼の日記/ヨレンタ探偵事務所事件録   作:すう

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第三十九話:レジスタンス

「いや、大したもんだな。隊長にあそこまで言ってのけるたぁ、いい度胸だ。」

 倉庫の片付けをしながら、レヴァンドロフスキがまくし立てた。

 休む気にはなれず、体を動かすことで気を紛らわそうとしていた。

 薄暗い照明の下にいるのは、ドゥラカとレヴァンドロフスキの二人だけだ。

「はは。震えてたよ、私。情けないくらい。」

 まだ、心臓の余韻が抜けきらないでいた。

「いや、正直、助かった。

 嬢ちゃんが組織長の意志を継ぐって言ってくれたおかげで、俺たちはまだ組織でいられる。…俺たちは、寄せ集め集団だからさ。」

 やることが一区切りつき、レヴァンドロフスキは木箱に腰掛けた。ドゥラカも向かいに座る。

「レヴァンドロフスキさんは、なんでレジスタンスに入ったんですか?」

 なんとなく気になって、尋ねてみる。踏み込んだ質問かもしれないと思ったが、彼の話しやすさに甘えてしまった。

「俺にはな、妹がいた。」

 ぽつりと漏らした言葉には、炎が宿っていた。

「心臓の難病でな、何年もドナーが見つかるのを待ってた。命が尽きかける寸前で奇跡的に移植が決まった。だが、手術の直前で横取りされた。相手はどっかの偉いさんの息子だったらしい。」

「……。」

「妹は生きる希望を見出せた矢先、どん底に突き落とされて失意のまま死んでいった。

 妹から心臓を奪った連中は、今も何の罰も受けずに生きている。」

 その声は怒りではなかった。長い年月、悔しさに摩耗した静かな震えだった。

「妹の最期の目が頭から離れない。

 俺がレジスタンスに参加したのは、もうあの時何も出来なかった過去の無力な俺じゃないって証明したかったからだ。」

 息の詰まるような空気の中、ドゥラカが頭を下げた。

「…ごめん、辛いこと聞いて。」

「まあ、俺達がここにいる理由なんて、誰とも割と似たり寄ったりだ。」

 レヴァンドロフスキは首を振り、ことさら軽く言ったように見せて、わざと視線をそらす。

「シュミット隊長は元警官だった。議員の不正を見つけて、法に則って追求したら、報復で家族を全員殺された。

 ボルコは漁師。親会社に搾取され続けて逆らったら、濡れ衣着せられて財産から何から全部奪われた。」

 皆、既得権益者を恨む理由があった。大きな喪失と傷を抱え、救いでも呪いでもいいから何かを信じたくて、ヨレンタの元へ集っている。

「ま、例外もいるけどな。」

「例外?」

「フライだよ。あいつは元ハッカーだったらしい。優秀な頭脳と立ち振る舞いの良さを見込まれてスカウトされたって話だ。他の連中とは毛色が違うかな。」

 公安に潜入しているという人物か。スパイなどという危険な任務を任されるからには、相当優秀なのだろう。

 ドゥラカは冷静に人物の情報をインプットしていく。

 ヨレンタは、これほどの人材を集めて何をしようとしていたのだろう。

 既得権益者への復讐?

 彼女がそんな抽象的な目的のためにここまで大きな組織を作るだろうか。

 ドゥラカのまだ知らない事実が多くあるのだろう。情報の不足は時に命取りになる。

「…ぃよっし!」

 ドゥラカは頬にバチンと喝を入れて、立ち上がった。

 やるべきことが見えてきた。

 自分の本分は考えること。

 考えろ。

 ヨレンタは、なぜあの場所にいたのか。

 そしてあの爆発は、何を意味しているのか。

 雑木林の地図を頭の中で広げる。近くには女学院。もう一つは、今は使われなくなった旧病院。

 老朽化のため街の中心部へ移転し、今は総合病院になっている。確か、エミルが入院していたのもそこだ。

 スマホを取り出し、検索をかける。

 …総合病院の屋上から転落事故死――ボランティアの男性死亡――

「……シモン?」

 ニュースの欄から、見知った名前を見つけて驚愕する。彼は、オクジーにエミルの依頼を持ちかけてきた人物だったはずでは。

 胸の奥がざわつく。偶然にしては、出来すぎている。

 ヨレンタの死、雑木林、旧病院、そしてシモン。どこかで全てが繋がりかけている予感がする。

 ドゥラカは検索画面から目を離し、ゆっくり息を吸った。

 旧病院。

 すべての糸口は、あそこにある。

「調べたいことがあるんだけど。」

 そう告げると、レヴァンドロフスキはドゥラカの目を真正面から受け止め、にっと笑った。

「おう。」

 夜明け前の深い青が、窓の外の景色をかすかに浮かび上がらせていた。

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