眼の日記/ヨレンタ探偵事務所事件録   作:すう

44 / 64
第四十三話:計画

 翌日。

 倉庫の作業場にレジスタンスのメンバーが招集された。

 人数はざっと四十人ほどだろうか。男性もいれば、女性もいる。年齢も様々で、統一感は無くとも、皆、同じ志を持ってここにいるのだろう。表情は一様に険しく、雌伏の時を待っている。

 石壁に貼られた地図の前に現れたシュミットは、咳払いをひとつする。

「昨晩、我々は新たなメンバーを加えた。バデーニ、オクジー、フベルト。三名から得た情報をもとに、今夜、作戦を決行する。」

 緊迫が走り、ざわめきが吸い込まれるように消えた。

 オクジーは汗ばむ手を握りしめ、まっすぐ前を見つめる。

 バデーニは腕を組み、地図を見つめていた。

「標的は街の東北。旧病院内に潜伏する、ラファウとする。――作戦の目的は、ラファウの殺害。」

 シュミットの言葉に、オクジーは冷たい空気を吸い込んだまま動けなかった。

 その時。

「待った。」

 ドゥラカが勢いよく椅子を蹴って立ち上がる。

「ヨレンタさんが望んでいるのは殺戮じゃない。

 黒幕はラファウじゃなく、その背後にいる人物です。」

「……。」

「あなた達の目的は、既得権益者の暴走を止めることでしょう。ラファウの殺害じゃ、その構造は変わらないんじゃないですか?」

「なら、既得権益者側を消すかね?政治、宗教、報道…奴らは国の中枢に毛細血管のように入り込んでいる。」

「違う。

 ラファウを利用してのさばってる諸悪の根源がいる。そいつを叩くべきだ。」

 ドゥラカが紙の束を取り出し、地図の上に押し付けた。彼女の能力を駆使して集めた情報の数々だ。

「ここ数年、ラファウを利用して勢力を伸ばしていると思われる人物がいる。総合病院の理事長、アントニ。

 黒い噂が絶えないのに、一切証拠が出てこない。」

 バデーニが静かに手を挙げ、口を開く。

「…ドゥラカ君の言う通りだ。ラファウ個人を殺害する理由はない。」

 オクジーも続く。

「捕獲、もしくは説得の道はないでしょうか?」

 フベルトも頷き、一歩前に出る。

「私がここに来たのはラファウに用があるからだ。殺してもらっては困る。」

 シュミットは眉間を押さえ、深く溜息をつく。

「…作戦の目的は、ラファウの確保とする。

 ただし。抵抗した場合、または明確な敵意を示した場合は、殺害もやむを得ない。いいな。」

 シュミットの声が倉庫内に響く。隊員達が一斉に「おう。」と声を上げる。

「午後八時に規制線が解かれる。作戦の決行は午後十時とする。それまでに各小隊に分かれ、作戦の確認をしておくこと。」

 ドゥラカが胸の前で強く拳を握った。

 それが、ヨレンタが目指した戦いに最も近い選択だと信じたかった。

 

 木箱の中には、武器が並ぶ。

 アサルトライフルの手入れをしていたレヴァンドロフスキは、手についたグリスをぬぐう。

「あの。」

 控えめにかけられた声に振り向くと、シュミットが連れてきたと言う新人の姿があった。

 オクジーは申し訳なさそうに頭をかき、少し意を決してからこう言った。

「俺に、武器の扱いを教えてくれませんか?」

「…お前さん、前線に出るつもりなのか?」

 レヴァンドロフスキは眉を寄せて、思わずオクジーの顔を凝視した。一般人の彼は、作戦には参加せずアジトで待機するものだと思っていた。

「いやまあ、足を引っ張るだろうことは明白なんですが、何もしないではいられないと言うか。」

 しどろもどろになりながら出てきた言葉に、レヴァンドロフスキは呆れる。「これ」は、生半可な気持ちで持つものではない。

 威嚇の気持ちを込めて、ボルトハンドルを引いてカシャリと鳴らす。弾薬が薬室に装填される。

「……これが、人を殺すための道具だってことは分かってます。」

 レヴァンドロフスキの指が、わずかに止まった。

「持つ以上、撃つ覚悟はあります。撃てば、相手は死ぬかもしれない。それは相手も同じだから、俺は撃ちます。」

 オクジーは目は逸らさない。

 しばしの沈黙。

 レヴァンドロフスキは小さく息を吐いた。

「……覚悟だけは一人前だな。お前さんも、あの嬢ちゃんも。」

 銃を木箱に戻し、次の武器を手に取る。

「だが、俺に言わせりゃ甘いんだよ。組織長は殺しを望まないって言うが、殺るか殺られるかなんだ。」

「それは違います。」

 オクジーが今度ははっきりと言った。

「ドゥラカさんも、バデーニさんも、賢い人たちだから、銃を使わないで済む方法を考えてくれています。俺は考えるより体を動かすほうが得意だから、今出来ることをやるだけです。」

 レヴァンドロフスキは、バシンと木箱を叩くと、中から一丁のアサルトライフルを取り出し、オクジーに突きつけた。

「迷わず撃て。迷えば死ぬ。」

「はい。」

 掌の中でライフルは見た目よりもずしんと重く、冷たかった。

「見て覚えろ。まずは分解して構造を覚えろ。命を預ける相棒になるんだからな。」

 オクジーは深く息を吸い、頷いた。

 

 少し離れた場所でその様子を見ていたバデーニは、そっと視線を外した。

 信頼された以上、応えるしかないだろう。

 地図と資料を手に取り、静かに作戦会議へと向かう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。