眼の日記/ヨレンタ探偵事務所事件録   作:すう

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第四十四話:作戦開始

第四十四話 作戦開始

 午後八時。

 時間ぴったりに雑木林周辺を覆っていた規制線が解除された。

 赤いランプの点滅が消え、警官達が撤収すると、暗闇と静寂が一気に戻る。

 レジスタンスの隊員達を乗せた車両は、各場所に停車し、その時を待っている。

 外部アンテナを積んだ車両に乗り込んだシュミットから、再び今回の作戦が説明された。

『我々は地上部隊と地下部隊に分かれ、それぞれ別ルートで旧病院を目指す。

 地上部隊は正面突破。病院内に潜入後、三手に分かれ目標ラファウを目指す。院内には軍隊が配備されているため、混戦が予想される。』

 病院内の見取り図には三か所に印がつけられていた。

ラファウは、このいずれかに潜伏していると推定されている。三チームが最短ルートでそれぞれの地点を目指し、ラファウを確保後、全員で地下を目指す。

『地下部隊はバデーニの先導で地下通路を通り、病院付近で横穴を掘る。内側と外側、両方に爆弾を仕掛け、爆発で穴を開け、脱出口を作る。』

 オクジーの待機する車両には、穴を掘るための電動ドリルやスコップが用意されている。

「…まさか本当に地下通路を掘ることになるとは思いませんでした。」

 探偵事務所の求人に、唯一書かれていた文言だった。

 オクジーの軽口に、バデーニが口をへの字に曲げる。

「私もだ。」

 地下部隊に割り振られた人数は六人。地下通路から横穴を掘り、約五メートルの距離を三時間で掘らねばならない。

 バデーニの計算では、「実現可能。」とのことだったが、時間との勝負だ。時間がかかるほど、地上部隊や軍人達の死傷者が増えることになる。

 無意識に震える指に気づき、オクジーはスコップを握りしめた。背中にはレヴァンドロフスキから指導を受けたライフル銃が背負われている。

 その姿を横目で見ながら、バデーニは思考を展開させる。頭の中で地下通路入り口から病院への最短距離を弾き出す。ここからは、寸分の計算ミスも許されない。

 刻一刻とその時は近づき、車両内の口数も減っていった。

 

 …………………………

 

 雑木林の暗闇の中、静かに隊員達は配置についていた。枝葉を揺らす風の音すらうるさく聞こえるような緊張感の中、時計の針が午後十時を指す。

 無線から明瞭な声が響く。

『では、行動を開始する。』

号令と共に足を踏み出した、その刹那。

 

 カッ

 

 突然の眩しい光に、オクジーの視界が白く焼ける。

 ライトで照らされているのが自分達だと気づいた瞬間、銃声が聞こえた。

 遅れて人の呻き声。

 

 状況を判断するより先に、オクジーはバデーニを庇って地に伏せた。

「やられた。待ち伏せされていたんだ…!」

 土を握りしめ、呻くバデーニ。

 オクジーはようやく慣れてきた視界を巡らせる。

 地上部隊に向かって盾を装備した集団が向かっていく。

 警察の特殊部隊……だろうか。

 叫び声と、銃声が響く。

「地下に避難しましょう。バデーニさん、案内を。」

 幸い、まだこちらには気づかれていない。地を這うように通路の入り口を目指す。

 地下通路の入り口は地面に開いた穴だった。枯葉と鉄板で隠されたそれを持ち上げると人一人が潜れる穴が開いている。

 一人の隊員が体の向きを変えた。

「ここが見つかるわけにはいかない。私が奴らの注意を引きます。あなた達は急いで。」

 言い残すと、隊員は鉄板で入り口を塞いだ。パラパラと軽い音がする。枯葉や土をかけて入り口を隠しているのだろう。

「……!」

 もう進むしかないことは分かっていたが、やりきれない気持ちは拭えない。歯を食いしばり、はって前に進む。

 少し進んだところで開けた場所に出ると、隊員がカンテラをつけた。照らされた顔は皆一様に暗い。

「どうする。作戦は失敗だ。」

 隊員の一人が、声を押し殺して疑念を言葉にする。

 地下に潜ると無線は雑音になり、孤独を増幅させた。地上部隊はどうなったのだろう。

 車両で待機しているドゥラカとフベルトにはこのことは伝わっているのだろうか。伝わっているのなら、一刻も早く逃げ出してほしい。

「ここで潜伏していても状況は変わらない。見つかる可能性もゼロじゃない。……行こう。」

 バデーニが通路の奥を指差した。

「作戦はまだ終わっていない。我々が、生きている。」

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