地下通路を抜け出したオクジーたちは、ある場所を目指していた。
雑木林の枝の隙間から、朝日が差し込んでいた。
昨夜の戦闘がまるで幻だったかのように、森は静けさを取り戻している。
通路の入り口は巧みに隠されており、特殊部隊の目に触れることはなかったようだ。
「地下部隊にいた人が、私たちを見つけてここまで案内してくれたんです。」
ドゥラカは、自分たちがここに辿り着いた経緯を語った。
改めて思う。
レジスタンスの仲間がいなければ、今の自分は存在していなかった。
繋いでくれた命の糸を、途絶えさせてはいけない。
「アントニは用心深い男です。自分にとって邪魔になる者は、何としても排除するでしょう。」
オクジーたちはまだ、安全を確信できる状況にはない。
朝日の作る影に身を隠しながら、彼らが目指したのは――グラスの工房だった。
「……おかえり、オクジー君。」
オクジー達の突然の来訪に、グラスは柔らかな声で出迎えた。
「すみません、他に頼れる人がいなくて。」
「いやいや、頼りにされるのは悪くない。……よく無事に戻ったね。」
グラスはニコニコとオクジー達を工房に迎え入れた。久方ぶりの石油ストーブの匂いに、安堵のため息が出た。
ドゥラカが一歩前に出て、頭を下げる。
「初めまして、ドゥラカです。お世話になります。」
「アイーダさんのところの子だね。後で顔を見せてやるといい。彼も随分と心配していたよ。」
フベルトはグラスと顔を合わせると、小さく頭を下げた。
「やるべきことは、叶ったのか?」
「ああ。……たった今やったよ。」
フベルトの視線の先には、オクジー、ドゥラカ、バデーニの三人がいる。
傷だらけで、疲弊し、泥だらけの若者達。彼らの姿は、フベルトの目には未来そのもののように映っている。
グラスの工房で、全員が頭を突き合わせる形で作戦会議が開かれた。
「……アントニは、あらゆる手を使ってお前たちを探し出そうとするだろうな。」
これまでの経緯を聞いたグラスは、皆が抱いていた不安を、そのまま言葉にした。
場に、重苦しい沈黙が落ちる。
ヨレンタを危険人物として祭り上げ、公安に追わせていたのも、おそらくアントニだ。
政治、宗教、報道機関。
彼の息がかかっている組織は、あまりにも多い。
こんな巨大な権力に、反撃の糸口などあるのだろうか。
誰もが答えを見つけられずにいた。
その時。
「やめだ、やめだ!」
突然、グラスが大きな声を上げた。
「全員、今日は休め!」
グラスが強引にその場の解散を言い出した。
「でも…。」
オクジーが言いかける。
立て続けに起こった出来事を思えば、休む気になれないのも無理はない。
だがグラスは、はっきりと言い切った。
「寝て、食って、満たされた時に、心ってのはようやく動き出すんだ。それが生きてる者の特権だ。」
ニッカリと笑うグラスの言葉には、妙な説得力がある。
誰も、それ以上反論できなかった。
…………………………
熱いシャワーを浴びて部屋に戻ったバデーニは、部屋の隅のオクジーの背中に気づいた。
机に向かい、何かを熱心に書き続けている。
思わず覗き込み、バデーニはハッとする。以前も、同じ事をして、随分と反省する羽目になった。
だがオクジーは気分を害した様子もなく、ペンを動かしたまま背後に語りかけた。
「……今までのことを、文章に残してるんです。こうして書いていると、頭が整理されて、落ち着くんです。」
以前、オクジーが持っていたノートは、公安の手に渡ってしまった。
ノヴァクが尋問で彼の家族の話を持ち出したのも、あのノートの内容を利用した可能性が高い。
その瞬間。
バデーニの中で、何かが弾けた。
「よし! よし! よし! よし!」
拳を痛めるほど壁を叩き始める奇行に、オクジーはぎょっとして振り返る。
「な、何してるんですか!?」
「行けるかもしれん……!」
バデーニは両手を合わせ、祈るように、しかし確信を込めて呟いた。
反撃の糸口は、ここにあった。