【完結】Pandora   作:扇架

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二十五話

「なにせできたてほやほやでしたから」

 僕にも勝機があったんですよ。

 ね? と小首を傾げてみせる。穏やかで理知的なレイブンクロー生のそんな仕草も、黄褐色(ライオン)の眼差しにかかっては意味をなさなかったようだ。その男は冷ややかにこう言った。

「ダンブルドアとて、十と四歳の頃に」

 大悪と決闘して勝てるとは思えない。

「――と魔法大臣はお思いなんですね」

 フェンネルは鼻を鳴らした。六月末日。ホグワーツ城の小部屋には、燦々と陽が降り注いでいる。夏の訪れを感じさせる、よい日である。だというのにフェンネルは、厳めしい顔をした魔法使いと膝を突き合わせるはめになっている。なんということだろうか。悲劇である。

「心配しておいでなのだ」

 魔法使い――闇祓いの長、ルーファス・スクリムジョールが嘆息する。時の空費にほかならぬ、まったくもって無為な「事情聴取」に倦んでいるのは明らか。その証拠に、パン屑をひとつ、ふたつと落としてくださっているのだ。

「第二の闇の帝王なんて冗談じゃないですよ」

 ひらひらと手を振る。魔法大臣コーネリウス・ファッジは心配で夜も眠れないらしい。クィディッチワールドカップで混乱が起き、三校対抗試合もごたごたし、バーテミウス・クラウチ・ジュニアが実は脱獄しており、ヴォルデモートの復活を許した挙げ句、たった十四歳がそれを討った。

 不甲斐ない魔法省。座っているだけの魔法大臣、となにやら言われるのがわずらわしいのだろう。それならば「ヴォルデモートを討ちし者」が次代の闇の帝王だった……なんて物語があれば都合がよい。そうだったらいいなあ……という淡い期待を受け、ルーファス・スクリムジョール御自ら、ホグワーツくんだりまでおいでくださったのである。宮仕えは辛いね。

「ハリー・ポッターは蛇語使いらしいが?」

「ああ、それは僕らの祖父だか曾祖父の置き土産で」

 母方に、竜騎士(ドラグナー)の血が流れているようですよ。

 しゃあしゃあと言ってのけても、スクリムジョールは眉一つ動かさなかった。事情聴取は形式的なものである。彼がそう明言したわけではない。が、いかにも事務的で、気のない様子だった。本気でフェンネルもといポッター家の兄弟が次代の闇の帝王候補だと思っていれば、椅子に縛り付けるくらいはするし、真実薬をぶちこむであろう。実態はただの雑談である。

「ロディア・オミニス・マクファスティーか」

 計算は合うし、平仄も合うし、ありえなくはないな。

 淡々と告げられ、フェンネルは頷いた。内心では生みの母に謝りまくっていた。エヴァンズ家の記録を書き換えることは決定している。魔法省がマグル生まれの家系に興味を示すとも思えないが、念のためだ。

 スクリムジョールの手元で、羽根ペンが踊る。自動筆記するものだ。羊皮紙には聴取の内容が記されているのだろう。

 まったくもって二度手間である。魔法大臣は三校対抗試合の審査員として、ホグワーツに来ていた。当然「ヴォルデモート」の亡骸も見ているし、ポッター家の兄弟から事情も聞いている。衰弱したマッド・アイのことも見ていれば、魂を抜かれたバーテミウス・クラウチ・ジュニアのことも見ている。そもそも、ファッジはジュニアが実質的に死んだ原因である。吸魂鬼の到着を待ち、のこのことホグワーツ城内に入ったのだから。

――自分の立場を

 分かっているのか、あの男は。

 ヴォルデモートの亡骸がある以上、その死を認めるしかない。復活していませんでした、は通じない。変にひっかき回すくらいなら、現状を受け入れるほうがいいのだ。

 それらしい説明に――もちろん第二の闇の帝王なんて与太話はなし――耳を傾けるのが、ファッジにとっての最善である。

 

 ふ、と息を吐く。手間をかけさせやがって。さっさと「ヴォルデモート復活、後に討伐」とでも発表すればよいものを。ポッター家の兄弟が事情を説明しても、ファッジは「とても信じられない」と、ふらふらしながら魔法省にお帰り遊ばしたのである。軟弱である。せっかく弟と打ち合わせたのに。ダンブルドアやシリウス、ミネルバ、そしてセドリックとも打ち合わせたのに。医務室が会議の場となった。ポッター家の兄弟は校長室で一旦目覚めたらしい。しかし、すぐに気を失って、医務室に運ばれた……らしい。伝聞である。

 フェンネルはどうやって弟を叩き起こしたか、てんで覚えていなかった。弟も似たようなものだ。隣り合った寝台で意識を取り戻し「なんだか憑き物が落ちた気分だよ」「奇遇だな弟よ」なんて呑気なやりとりを交わした。奇妙な幸福感に包まれていたのは数瞬。ダンブルドアがさっさと仕切り、あっという間に会議が開催された。無粋な男である。

「復活したばかりで、新しい身体に慣れていなかった。たかが子ども、と油断もあった。そして僕は竜騎士の末裔で」

 弟を攫われて頭に来ていた。

 死の呪文を唱えるのにおよそ一秒。対して、得物を突き出すほうが速い。

「――不名誉な死、と」

 スクリムジョールはさらりと返す。フェンネルは宙を見た。

「杖にばかり頼るからだ」

 ゴドリック・グリフィンドールよろしく、武器の扱いにも精通すればよかったんだ。

 無茶を言うな。スクリムジョールがこぼしたが、非難の色はない。むしろ共感が滲んでいた。どうやら、闇祓いの長は剣の道に通じているようだ。握手したときにそうと知れた。戦う者の手であった。

「死喰い人は」

 いなかったか。

 スクリムジョールが繰り出す問いを、フェンネルはするりとかわし、弾き返した。

「忠義者は、誰も」

「――そうか」

 闇祓いの長、その眼が鋭利な光を宿す。フェンネルは静かに彼を見返した。嘘は言っていない。忠義者はいなかった。狭義の死喰い人とは、闇の帝王の腹心を指すものだ。腕に蛇を飼う者たち。あの場にいたのは元死喰い人と言ったほうが正しい。誰も彼も、心から忠誠を誓っているわけではなかった。恐怖から従った。あるいは、もたらされるものにすり寄っていただけだ。

「弟はヴォルデモートの追跡を振り切るのに忙しく、僕もまた、死の呪文を回避するのに忙しかった」

 スクリムジョールがかすかに唸る。猛獣の、不満そうな声。すまないスクリムジョール。僕も弟もばっちり死喰い人もとい不忠者を把握しているのだ。けれど、言ったところでなんになる? 弟にはそう説いた。ヴォルデモートは死んだんだからいいだろう。やつら、裁判で無罪になった連中だ。ほじくり返したところで無駄だ。そりゃあ、ほぼ真っ黒だけど。

――証言だけなのだ

 物的証拠こと本人――ワームテールを引っ張ってきた時とは違う。監獄にぶちこむのは難しい。

 医務室で懇々と言って聞かせれば、弟は今にも爆発しそうな顔をしていた。証言だけで監獄に入れるのってどうなのかなあ、と言ってやり、シリウスをちらりと見れば黙った。親愛なる共犯者、名付け親は顔をひきつらせていた。俺を使うなよ、とフェンネルを睨んできたが、無視したのである。

 最終的に「お前が闇祓いになって、監視すればいいさ」と弟に言って黙らせた。今、目の前にいるスクリムジョールと同じような顔をしていた。確かに、弟は闇祓いに向いているのかもしれない。それを言ったのがジュニアだったのが気に食わないが。あれと決闘し、追われて生き延びたのだから素質はある。魔の数分間である。お兄ちゃんはひやりとしたぞ。

――わかっているのかね

 

 ぺらぺらと「おしゃべり」する危険性を。弟が証言したとしよう。なんならフェンネルも口添えしたとしよう。不忠者どもは全力でポッター兄弟を頭がおかしいと言うだろう。そんな記事を書かせるかもしれない。純血名家の連中で、仲良く力を合わせればそれなりのことができるだろう。集金でもしてどこぞの新聞に寄付する。完了。

 間の悪いことに、弟はリータ・スキーターによからぬ記事を書かれていた。傷跡が脳に重大な傷害を起こしている、とか。弟がおかしいなら兄もおかしい。ポッター家の兄弟は虚言癖の嘘吐きだ、と展開できる。それくらいの報復はしかねないのだ。彼らは平和な時代を、罪を忘れて生きたいのである。

 虫のいいことだと思うが、わからないでもない。また、不忠者どもをつついたところで益はない。ルシウスに釘を刺してある。墓場にて、双方合意もした。問題はない。穏和しく、素知らぬ顔をして生きていくことだろう。なにやら下手を打って捕縛される可能性はあるが、フェンネルが知ったことではない。闇祓いに頑張っていただこう。

「整合性はとれているな」

「とれなきゃ困るでしょう。そもそも「一回目」の時だって状況証拠だったくせに」

 生き残った男の子、と囁いてやる。なぜハリー・ポッターが「生き残った男の子」か。ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターが死に、生存していたのは双子のみ。片方には不思議な傷跡が刻まれていて、ヴォルデモートは消えていた。単なる消去法である。英雄には、不思議な痣や傷、いわゆる(しるし)が付き物だ、と。

 フェンネルの言わんとすることが通じたのだろう。スクリムジョールは、重いため息を吐いた。

「護衛はいるかね」

 ヴォルデモートを討ちし者?

「闇祓い資格をくださいな」

「おい」

「人員を割けないでしょうよ。あと、マーリン勲章……ハリーとハーマイオニー、あと僕とフラーを中傷した記事の「お詫び」掲載も欲しい」

「いや、いるだろう護衛。記事はなんとか手を回そう。マーリン勲章は、言わなくてもファッジが寄越すさ」

「いりません。僕だけで対処します。記事はできたら、でいいです。どうせお祭り騒ぎで忘れられる。勲章はありがたく頂戴します」

「君は十四歳だぞ?」

「昔の成人は十五歳。あと、ブラック家の者に手を出す者は少ないはず。問題なし。資格をください。「におい」を消せば楽になる」

 レギュラス・ブラックにも勲章がほしいですね、と付け加える。スクリムジョールは眼を瞑った。

「行方不明だったのが、発見されたとか」

「思うところあって闇の陣営を裏切って、落命したんですよ」

 それだけを返す。『分霊箱』については口にしない。おとぎ話の与太話、戯言だ。スクリムジョールとて、ヴォルデモートがなにやら魔法を使って、死を逃れたと察してはいるだろう。けれど、それがどういう術が知る必要はない。

 大悪は滅んだのだから。

「善処しよう」

「あなたが柔軟な方でよかった」

「君は私をなんだと思っている?」

「将来の弟の上司」

「闇祓いは狭き門だぞ、と言っておけ」

 瞬いた。スクリムジョールを凝視する。ではなんだ、弟が闇祓いを目指すのを歓迎すると。

「いいんですか?」

「ポッター家の弟――生き残った男の子を引き入れられるのならば、益がある。名前にあぐらをかいた無能はいらんがね……心配するな」

 黄褐色が煌めく。老いた獅子は、静かに言った。

「『グリンデルバルドの夜(グリンデルバルド・ナハト)』は起こらない」

 竜騎士の末裔よ。

 差し出された言質、あるいは譲歩。スクリムジョールは知っている。ヴォルデモートが誰なのか。トム・マールヴォロ・リドルだということを。

 そうしてこう言っている。お前たちが「リドル」の血縁、弟の血筋だからといって、迫害はしないと。

 ありがたいことだ。小さく呟き、立ち上がった。影が長く伸びる。小部屋は、黄昏の色に染まっていた。

「祝祭の夜が近づいて参りましたので」

 失礼しますよ。小さく笑み、踵を返す。

 背後から声が追いかけてきた。

「惜しいことだ」

 娘の婿にしたかったのだが。

「残念」

 くつ、と喉を鳴らす。

竜騎士(ドラゴン)の琴線は」

 乙女に握られて久しいので。

 扉を開く。するりと外へ出て、廊下を飛ぶように走る。

「気の利かない人だよ」

 こんな日に押し掛けてくるなんて。遅れたらどうしてくれようか。

 祝祭の夜が近づいている。

 出会いを喜び、別れを惜しむ夜。闇が祓われたことを祝う夜が。

 

 

「……悲しいことだ」

 さようならしないといけないなんて。

 フェンネルは囁く。例年ならば学期末の宴が催される今日、大広間は舞踏会場と化していた。三校対抗試合の終わりを告げ、優勝者二人を讃える宴である。ダンブルドアが「ヴォルデモートはフェンネル・ポッターによって討たれた」と第三の課題翌日には、大広間で発表した関係もあって、一応、闇の時代が遠ざかったことへの祝いも含まれている――はずである。

 うるさい視線もなんのその、フェンネルは目の前のことに集中する。パートナーの手をとって、歩を踏むことに。その眼を見つめ、言葉を届けることに。

「白馬に乗って迎えに来てくれるかな?」

「喜んで、と言いたいところだけど」

 息を合わせ、くるりと回る。夜の黒と月の銀がふわりと広がる。青い青い眼が竜騎士を貫く。

「こういう時、殿方が言う台詞があるでしょう?」

 銀の妖精、宮廷の花は、竜騎士の手をきゅっと握った。絹の白手袋から、革の黒手袋に、熱が移る。

 じんわりと首筋が熱くなる。竜騎士はつっと笑んだ。細い腰に手を添え、衣を翻す。完璧な円を、調和を描く。

「――貴女を盗みに参りましょう」

 竜は乙女を攫うもの。

「いつかのような、夜がいいわ」

 乙女が身を寄せる。竜騎士の耳朶を、甘い吐息がくすぐった。

「そう遠くない、月の夜に」

 (うけ)いする。

「天高きところにて」

 星の海をお見せしよう。

 

 月をいくつか数えた後、とある諸島にて、約束は果たされた。天の織物――星々が散らされた夜の空に、二人は身を浸した。

 竜騎士は囁いた。

 時が満ちるまで待ってほしいと。

 銀の妖精は軽やかに笑った。

 あと数年、なんてことないわ。

 だって、穢れた闇は去ったのだもの。

 破れぬ誓いを交わしましょうか? 竜騎士様。

 いいえ、そんなものがなくても。

 あなたが大人になるまで待ってあげる。

 そうして星に願いましょう。

 早くその日が来るようにと。

 

 

 

 世界は平和そのものだ。ヴォルデモートの影はなく、もちろん『グリンデルバルドの夜』は訪れない。

「……おおむね」

 順調だったのだけど。

 英国はとある地方、寂れた町の、とある一画。

 汚らしい家の、階段下の物置を覗き込んだ。どいつもこいつも、と舌打ちが漏れかける。物置になんでも放り込むのが好きときた。

 それがたとえ、幼い子どもであろうとも。

――ロウルめ

 男は眼を細める。いや、マルフォイも悪いと思い直した。とあるものを視てしまい、ルシウスを締め上げて、ロウル家を突き止めたのだ。

「――ものじゃないんだよ」

 毒を吐き、そうっと息を整える。小さな扉、奥を見やる。縮こまっている影を、手招いた。

「おいで。迎えに来たよ」

 小さな小さなその子は、眼をいっぱいに見開いて、男を見返す。両の眼は燃えるような紅。髪はもつれ、からまり、灰色にくすんでしまっている。四歳になるはずだが、もっと小さく見えた。正確には四歳と半年余りか。おびえきった獣同然のその子――女の子は、四年前の六月二十四日に産声を上げたのだから。

 マルフォイ家の地下で。時刻は――大悪がこの世に再び現れた、その時。預けられていた銀の器が砕け、赤ん坊が転がり出て泣いていたのだ、とはマルフォイ夫人ことナルシッサの言である。

 

 卵に似たその器が預けられたのは随分前のこと。いっかな産声を上げぬ、不良品だと聞かされていた。

――俺様とベラの子だ

 そう、聞かされていたのだと。

 合わさった卵と胤、月の魔力と銀の器。力に満ち満ちた薬液の中で、形なき命は育ち――長い長い眠りを経て、肉の父の復活とともに、目覚めたのだ。

 私が手を出す道理はないのだが。むっと唇を引き結ぶ。

 ルシウスが悪い。せっかく「我が君」が討たれたというのに、赤ん坊などいたら邪魔だ、とロウルに押しつけたのである。

 仕方がないではないか。暗く小さい物置で、縮こまっている子どもを視てしまったのだ。

――見捨てる選択肢など

 あるものか。

 ろくでなしの兄の置き土産、怪物と怪物の娘であろうとも。

 望んで生まれてきたわけでなく、虐げられる道理もない。

「怖いことはしない」

 柔らかく、呼びかける。おいでおいで、と根気よく手招く。邪魔する者はいない。ロウル夫妻は制圧したし、記憶もきっちり消去して、思いだそうとしたらどうなるかわかっているな、と服従の呪文も刷り込んだ。子どもを虐待する者が男は大嫌いであった。闇祓い資格様々、ルーファス・スクリムジョール万歳。

 ポケットから菓子を取り出す。色鮮やかなそれは、双子のウィーズリー作であった。

「お腹が減っているだろう?」

 こっくりと、女の子は頷き――俯いた。震えているのは怯えのためか。ほしいと言ってはいけないと、ロウルたちに躾られてきたのだろう……。酷いことに。

「たくさんあるし、ロウルはいない」

 重ねて言う。女の子が一歩、二歩と近づいてきた。ウィーズリーの双子万歳。怯えた子どももこの通り、引き寄せてしまうのです。

 

 残り一歩のところて、女の子が立ち止まる。すかさず小さな身体を――細すぎる体躯を引き寄せ、抱き上げてしまう。つん、と刺激臭がした。本当に、ロウルたちはろくに世話をしていないとみた。やっぱりこの家は更地にし、ロウルたちも始末すべきだろうか。我が婚約者だって是と言うだろう。彼女も子どもが酷い目に遭うことを嫌うのだ。

 ちらと過ぎった思考を追い払う。固まっている女の子の、小さな小さな頭をそっと撫でた。

「名前は?」

 オー、グリー、とたどたどしい声。不明瞭な発音に、切ないものが過ぎる。物置に放り込まれ、会話らしい会話もなかったのだろう……ただ存在しているだけ、息をしているだけ。金の対価。厄介で、不吉。だからオーグリーと名付けたのだ。

――ルシウスたちは

 赤ん坊に名前すら付けずにロウルたちに押しつけた。

「もっといい名を」

 美しい名をあげよう。

 デルフィーニ、と男は囁いた。彼はその名を「視て」いた。なぜならば、彼は先視。気まぐれな神の恩寵を受けた者。神の御手に撫でられた者であるから。

 歌うように、予言する。

「きっと大丈夫」

 君は明るいところへと、泳いでいける。

 陽は没し、生まれ変わる。

「デルフィーニ・ブラック」

 君もまた、生まれ変わる。

 一九■■年十二月三十一日。

 フェンネル・エムリス・ブラックは。

 小さな命に祝福を贈った。

 闇は去った。穢れた禁忌の箱(Pandora)は閉じられた。

 最後に残った希望(Elpis)は、なんにも持たないこの子を導く――。

――星となるだろう




本編終了です。お付き合いいただき、ありがとうございました。
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