呪術師 廻仟   作:四月三十日

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「呪術廻戦」と「NARUTO」

どちらもありうる……
そんだけだ


第一章
第1話「飢餓の器」


 ピー、ピー、ピー。  無機質な電子音が、病室の静寂を規則的に切り刻んでいた。

 窓の外には、無数の配管と蒸気が絡み合う「芥隠(あくたがく)れの里」の夜景が広がっている。

 かつてこの島を支配していた呪術師たちの古都。その焼け跡と遺跡を埋め立てるように建設されたこの里は、どこか歪で、古びた墓標のような空気を纏っていた。

 

「……爺ちゃん」

 

 里立病院の一室。丸椅子に腰掛けた少年──廻仟(かいせん)は、ベッドに横たわる老人の手を握ろうとして、寸前で止めた。

 指先が震える。

 ──触れれば、奪ってしまう。  ここ数ヶ月、廻仟はずっとその感覚に(さいな)まれていた。

 花に触れれば枯れ、小動物を抱けば衰弱する。

 まるで掌に、見えない「穴」が開いているかのように、触れた相手から温かい()()が自分の中へと流れ込んでくるのだ。

 祖父が急激に弱ったのも、自分が看病と称して傍に居続けたからではないか。

 その疑念が、喉の奥に鉛のように詰まっていた。

 

「……廻仟、か」

 

 酸素マスクの下から、枯れ木のような声が漏れた。

 廻仟は弾かれたように顔を上げる。濁った瞳が、彼を捉えていた。

 

「爺ちゃん! 今、人を呼ぶ……」

「いい……呼ぶな」

「でも!」

「最期くらい、静かに逝かせろ」

 

 祖父は痩せこけた腕を、重力に逆らうように持ち上げた。廻仟は反射的に身を引くが、その手は廻仟の頬には触れず、空を掴むように彷徨った。

 

「廻仟。……お前、気づいてるな?」

「え……?」

「お前のその……特異な体質だ」

 

 心臓が早鐘を打った。祖父は、知っていたのだ。

 

「お前は強い。だがその強さは、飢えた獣のそれだ。……放っておけば、お前はただ奪うだけの化け物になる」

「……俺、どうすればいいんだよ。誰とも触れ合えないなんて」

「だからこそ、だ」

 

 祖父の言葉に、最期の力が籠る。

 

「その飢えを、己のためだけに使うな。誰かを助けるために使え。……俺みたいに、傷つけるのを恐れて独りで死ぬな。大勢に囲まれて死ね」

「爺ちゃん……」

「人を、助けろ。……約束、だぞ」

 

 ガクッ、と腕が落ちた。

 電子音が一本の線になり、けたたましい警告音へと変わる。

 駆け込んできた看護師たちの喧騒の中で、廻仟はただ、自分の掌を見つめていた。

 奪ったばかりの微かな温もりが、呪いのように手に残っていた。

 

   ◆

 

 火葬を終え、病院を出た頃には、里は深い夜に沈んでいた。

 湿った海風が、錆びた鉄の臭いを運んでくる。

 芥隠れの里は特殊な場所だ。

 大昔、この地で「陰陽遁(おんみょうとん)」を極めた呪術師の一族が反乱を起こし、本土の五大里によって滅ぼされた。

 その後、残党の監視と、島に残る強力な「負の遺産」を管理するために作られたのが、この里だという。

 だからだろうか。この里の夜は、他のどの国よりも暗く、重い。

 

(人を、助けろ……か)

 

 祖父の遺言を反芻しながら、人気のない路地を歩く──その時だった。

 

「──そこで止まれ」

 

 冷ややかな声が、頭上から降ってきた。

 廻仟が足を止めると、電信柱の上に人影があった。

 逆立った黒髪、学ランのような特徴的な詰め襟の忍装束。額には、忍びの証である額当て。  月光を背に、その少年は冷たい瞳で廻仟を見下ろしていた。

 

「お前が廻仟だな」

「……誰だ」

由良(ゆら)由良恵(ゆらめぐみ)だ。里の上忍会議の命により、お前の身柄を拘束しに来た」

 

 由良が音もなく地面に降り立つ。その手には、既に印が結ばれていた。

 

「喪中のところ悪いが、緊急事態だ。お前、自分が周囲にどんな影響を与えているか自覚があるか?」

 

 冷たいものが伝う感覚がした。思い当たる節があった。たった今、それに悩まされていたところだった。

 

「お前は周囲のチャクラを無差別に吸収し続けている。まるで歩くブラックホールだ」

 

 由良の視線が、廻仟の胸元へと突き刺さる。

 

「この周辺の空間チャクラ濃度が低下している。……その特異体質、里の結界維持に支障をきたすレベルだ。場合によっては、その場で『()()』する許可も出ている」

 

 処理。その単語の意味を理解した瞬間、廻仟の背筋が凍る。

 やはり自分は、人間ではなく、排除されるべき化け物なのか。

 

「……俺は、人を傷つけるつもりなんてない」

「意思の問題じゃない。事実、お前の近くにいた人間は衰弱している。……祖父もそうだったんじゃないか?」

 

 図星だった。

 廻仟の顔が歪む。否定したかった。だが、その言葉こそが真実だと、手が覚えている感覚が告げていた。

 

「抵抗するな。大人しくくれば、悪いようにはしな……」

 

 由良が一歩踏み出した、その時。

 ぞわり、と空間が歪んだ。

 由良の言葉を遮るように、路地裏の深い闇から、どす黒い殺気が溢れ出した。

 

「──おやおや。忍者が先に接触しちゃうなんて、計算外だなぁ」

 

 ねっとりとした声。

 その主が、路地の陰から姿を現す。

 ツギハギだらけの奇妙な青年だった。額当てはしておらず、ボロボロの法衣を纏っている。  だが、その瞳だけが、無邪気な子供のように輝き、廻仟を見つめていた。

 

「初めまして、廻仟くん。僕は間 仁(はざま ひとし)。君を助けに来たんだ」

「……助ける?」

「そうさ。君は病気じゃない。ましてや、処理されるべき欠陥品なんかじゃないよ」

 

 間仁は、由良の存在など無視するように、両手を広げて廻仟へ歩み寄る。

 

「君は選ばれたんだ。『餓鬼道(がきどう)』の因子……素晴らしい才能だよ。忍者のような窮屈な枠組みじゃ、君の魂は窒息してしまう。だから、こっちへおいで」

 

 間仁の言葉は甘く、そしてどこまでも不気味に響いた。

 

「僕らと一緒に、正しい世界を取り戻そうじゃないか」

 

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