呪術師 廻仟   作:四月三十日

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第2話「最強の戦場」

 中央広場は混沌としていた。

 逃げ場を失った民間人が悲鳴を上げる中、その人混みを盾にするように、三人の呪詛師が波状攻撃を仕掛けてくる。

 

熔遁(ようとん)灼河(しゃくが)!」

 

 鉄山(てつざん)が口から灼熱の熔岩を吐き出す。

 石畳を一瞬で融解させ、高熱の泥流となって広範囲を焼き尽くすマグマの波。

 同時に、死角から光海(こうかい)の操る樹木が槍となって突き出された。

 

 だが、南条悟は動じない。

 彼の身に纏う「天道(てんどう)」の斥力は、自動的にあらゆる攻撃を弾く不可侵の鎧だ。

 熔岩の波は南条の頭上で見えない壁に阻まれて弾け飛び、樹木の槍は触れる手前で砕け散った。

 

「……まるで有効ではないな」

 

 鉄山は攻撃を繰り出しながら、冷や汗を流していた。

 南条の動きには無駄がない。

 術で弾くまでもない攻撃は、最小限の体捌きで回避し、死角から攻撃しようとすると、既に南条がこちらへ向き直っている。攻撃の起こりを極力察知されないように工夫しても、南条はこちらを捉えている。

 

「先生! これあげる!」

 

 間仁(はざま ひとし)が、自身の身体をバネのようにしならせ、両手に抱えた「何か」を南条へ投げつけた。

 それは、先ほどまで人間だったモノ──改造人間だ。

 風船のように膨れ上がった肉塊が、苦悶の声を上げながら南条に迫る。

 南条の瞳が、痛ましげに細められた。

 助からない。魂の形を変えられた時点で、彼らはもう死んでいる。

 

 ならば、せめて。

 南条は掌をかざした。

 

「……安らかに」

 ドォン!!

 

 放たれた衝撃波が、改造人間を瞬時に破壊し、塵へと変えた。

 これ以上、化け物として利用させないための、慈悲深き介錯。

 

「アハハハ! 優しいねぇ!」

 

 間仁が笑いながら次の攻撃を仕掛けようとするが、南条の意識はすでに切り替わっていた。

 

「……来るか」

 

 鉄山と光海が動いた。

 二人は人混みに紛れて接近し、南条の目前で加速した。その拳には、薄い膜のようなチャクラが纏わりついている。

 

 ドォォン!!

 

 鉄山の熔岩を帯びた拳と、光海の木遁が突き出される。

 南条の「斥力の鎧」に触れた瞬間、防御壁が中和され、攻撃が通り抜ける。

 届く。絶対不可侵の聖域に、今なら刃が届く──。

 

 はずだった。

 

「『領域展延(りょういきてんえん)』か」

 

 南条は冷静に呟き、バックステップでその一撃を紙一重でかわしていた。

 転生眼に映る情報が、事実を告げている。

 

──なるほど。術を付与しない空の領域を纏って、僕の天道の力を中和しようとしているわけか。

 

 南条は冷ややかに分析し、距離を取った。

 領域展延による中和を使えば攻撃は通る。だが、当たらなければ意味がない。

 そして南条の体術は格上のレベルにある。

 

「チッ……!」

 

 鉄山が舌打ちをする。

 光海が樹木を広範囲に展開し、間仁が改造人間を次々と投擲する。

 展延による近接打撃と、術による遠距離攻撃のスイッチ。

 三人がかりの絶え間ない連撃。

 だが、南条はその全てを、あくびが出るほど退屈そうに捌き続けていた。

 改造人間を粉砕し、樹木の檻を体術ですり抜け、展延の拳を掌底でいなす。

 傷一つつけられない。

 息一つ乱れない。

 流れ作業のように攻撃を凌ぎきる。

 これが、現代最強の忍。

 

「……化け物め」

 

 攻めあぐねる鉄山の脳裏に、作戦決行前の光景が蘇る。

 

   ◆

 

 ──回想。

 

 アジトの一室。作戦会議というよりは、作戦前の休息時間だった。

 脳噛(のうがみ)はソファに深く腰掛け、コーヒーを啜りながら、まるで世間話でもするように語りだした。

 

『南条悟が最も力を発揮するのはいつだと思いますか?』

『……いつだ?』

『それは一人きりのときです。守るべき足手まといが周囲にいないとき、彼は躊躇なく全力で戦うことができます』

 

 脳噛は穏やかに語る。

 

『今回の襲撃で民間人の逃走ルートをコントロールし、戦場に盾、人質を用意しましょう。人混みの中からゲリラ的に攻撃されれば、南条も鬱陶しく思うはずです』

『……それで、奴の領域展開は封じられるのか?』

 

 鉄山の問いに、脳噛は頷いた。

 

『もちろん。民間人を巻き込みかねない状況を作って、一時的に彼の領域を封じることはできるでしょう』

『封じたとして、勝てるものなのか?』

『十中八九、不可能でしょうね』

 

 鉄山は呆れて言葉を失ったが、脳噛は構わず続けた。

 

『ですが鉄山。……そもそも今回の戦いでは、まず南条に領域を「使ってもらわなければ」なりません』

『は? 封じるのではなかったのか?』

『ええ。封じて、追い込んで……「今なら使える」という状況をあえて作るのです』

 

   ◆

 

「……ああ、そうだ」

 

 鉄山は南条を見据え直した。

 最強の男は、民間人への被害を最小限に抑えながら、我々をあしらっている。

 その余裕、その優しさ──いや甘さ。

 それこそが、我々がつけ入る唯一の隙だ。

 

「光海! 間仁! まだ終わらんぞ! 命を燃やせ!」

 

 鉄山の号令と共に、三人の呪詛師が再び特攻を開始した。

 南条の眉間に、僅かに苛立ちのシワが刻まれる。

 

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