中央広場は混沌としていた。
逃げ場を失った民間人が悲鳴を上げる中、その人混みを盾にするように、三人の呪詛師が波状攻撃を仕掛けてくる。
「
石畳を一瞬で融解させ、高熱の泥流となって広範囲を焼き尽くすマグマの波。
同時に、死角から
だが、南条悟は動じない。
彼の身に纏う「
熔岩の波は南条の頭上で見えない壁に阻まれて弾け飛び、樹木の槍は触れる手前で砕け散った。
「……まるで有効ではないな」
鉄山は攻撃を繰り出しながら、冷や汗を流していた。
南条の動きには無駄がない。
術で弾くまでもない攻撃は、最小限の体捌きで回避し、死角から攻撃しようとすると、既に南条がこちらへ向き直っている。攻撃の起こりを極力察知されないように工夫しても、南条はこちらを捉えている。
「先生! これあげる!」
それは、先ほどまで人間だったモノ──改造人間だ。
風船のように膨れ上がった肉塊が、苦悶の声を上げながら南条に迫る。
南条の瞳が、痛ましげに細められた。
助からない。魂の形を変えられた時点で、彼らはもう死んでいる。
ならば、せめて。
南条は掌をかざした。
「……安らかに」
ドォン!!
放たれた衝撃波が、改造人間を瞬時に破壊し、塵へと変えた。
これ以上、化け物として利用させないための、慈悲深き介錯。
「アハハハ! 優しいねぇ!」
間仁が笑いながら次の攻撃を仕掛けようとするが、南条の意識はすでに切り替わっていた。
「……来るか」
鉄山と光海が動いた。
二人は人混みに紛れて接近し、南条の目前で加速した。その拳には、薄い膜のようなチャクラが纏わりついている。
ドォォン!!
鉄山の熔岩を帯びた拳と、光海の木遁が突き出される。
南条の「斥力の鎧」に触れた瞬間、防御壁が中和され、攻撃が通り抜ける。
届く。絶対不可侵の聖域に、今なら刃が届く──。
はずだった。
「『
南条は冷静に呟き、バックステップでその一撃を紙一重でかわしていた。
転生眼に映る情報が、事実を告げている。
──なるほど。術を付与しない空の領域を纏って、僕の天道の力を中和しようとしているわけか。
南条は冷ややかに分析し、距離を取った。
領域展延による中和を使えば攻撃は通る。だが、当たらなければ意味がない。
そして南条の体術は格上のレベルにある。
「チッ……!」
鉄山が舌打ちをする。
光海が樹木を広範囲に展開し、間仁が改造人間を次々と投擲する。
展延による近接打撃と、術による遠距離攻撃のスイッチ。
三人がかりの絶え間ない連撃。
だが、南条はその全てを、あくびが出るほど退屈そうに捌き続けていた。
改造人間を粉砕し、樹木の檻を体術ですり抜け、展延の拳を掌底でいなす。
傷一つつけられない。
息一つ乱れない。
流れ作業のように攻撃を凌ぎきる。
これが、現代最強の忍。
「……化け物め」
攻めあぐねる鉄山の脳裏に、作戦決行前の光景が蘇る。
◆
──回想。
アジトの一室。作戦会議というよりは、作戦前の休息時間だった。
『南条悟が最も力を発揮するのはいつだと思いますか?』
『……いつだ?』
『それは一人きりのときです。守るべき足手まといが周囲にいないとき、彼は躊躇なく全力で戦うことができます』
脳噛は穏やかに語る。
『今回の襲撃で民間人の逃走ルートをコントロールし、戦場に盾、人質を用意しましょう。人混みの中からゲリラ的に攻撃されれば、南条も鬱陶しく思うはずです』
『……それで、奴の領域展開は封じられるのか?』
鉄山の問いに、脳噛は頷いた。
『もちろん。民間人を巻き込みかねない状況を作って、一時的に彼の領域を封じることはできるでしょう』
『封じたとして、勝てるものなのか?』
『十中八九、不可能でしょうね』
鉄山は呆れて言葉を失ったが、脳噛は構わず続けた。
『ですが鉄山。……そもそも今回の戦いでは、まず南条に領域を「使ってもらわなければ」なりません』
『は? 封じるのではなかったのか?』
『ええ。封じて、追い込んで……「今なら使える」という状況をあえて作るのです』
◆
「……ああ、そうだ」
鉄山は南条を見据え直した。
最強の男は、民間人への被害を最小限に抑えながら、我々をあしらっている。
その余裕、その優しさ──いや甘さ。
それこそが、我々がつけ入る唯一の隙だ。
「光海! 間仁! まだ終わらんぞ! 命を燃やせ!」
鉄山の号令と共に、三人の呪詛師が再び特攻を開始した。
南条の眉間に、僅かに苛立ちのシワが刻まれる。