呪術師 廻仟   作:四月三十日

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第4話「遍殺」

 『総員に通達! な、南条上忍のチャクラ反応消失! 封印された模様! 繰り返す、南条悟が封印された!』

 

 その通信は、里の空気を凍りつかせた。

 瓦礫の山で避難誘導を行っていた由良恵は、無線機を持つ手を震わせた。

 嘘だろ。あの人が。最強の忍が、負けるはずがない。

 だが、広場の方角から感じていた、あの太陽のような圧倒的なプレッシャーは、嘘のように消え失せている。

 代わりに漂ってくるのは、粘りつくような絶望の気配だけだ。

 

「……先生!!」

 

 廻仟が叫び、瓦礫を蹴って走り出した。

 思考などない。ただ、助けなければという本能だけが体を動かしていた。

 全速力で広場へ向かう。

 だが、その行く手を遮る影があった。

 

「アハ……アハハハハ! いない! 邪魔な先生がいなくなった! これで僕たちの時代だ!」

 

 路地裏から飛び出してきたのは、(はざま)だった。

 鼻や耳から血を流し、足取りは泥酔したようにフラついている。南条の領域展開によって無限の情報を流し込まれ、脳を焼かれた影響だ。

 だが、その瞳には理性を失った獣の狂気と、殺戮への渇望が宿っていた。

 

「なら、遊びの続きだ! 僕と遊ぼうよ、廻仟クン!」

「退けェェッ!!」

 

 廻仟が突っ込む。

 間仁の手が伸びる。触れれば魂の形を変えられ、即死か異形化か。

 だが、廻仟は止まらない。恐怖を怒りでねじ伏せ、間仁の懐へ飛び込む。

 

「陰陽遁・魂魄転変(こんぱくてんぺん)!」

 間仁の掌が廻仟の胸板に触れた。

 その瞬間、廻仟の魂を歪めようとする異質なチャクラが流し込まれる。

 死の感触。

 だが──

 

 ジュボッ!!

 

 不快な音と共に、流し込まれたチャクラが廻仟の体内へと消失していく。

 術は発動しない。

 間仁は、歪んだ笑みを消して舌打ちした。

 

「チッ……そうだった。君は『天敵』だったね」

 

 驚きはない。

 以前、一度戦った時に学習済みだ。この小僧には、魂を変形させるためのチャクラそのものを吸われてしまう。

 相性が最悪だ。

 

「やりづらいなぁ。……術が効かないなら、物理で潰すしかないか」

 

 間仁が後ろへ跳び、距離を取る。  その体から、どす黒いオーラが噴き出した。

 

「お前のその力……使わせない!」

 

 南条先生の元へ急ぎたいが、この男を放っておくと被害が大きくなりすぎる。

 廻仟が追撃しようとするが、間仁の体が異変を起こす。

 全身の傷口から黒い体液が噴き出し、それが瞬時に硬化していく。

 チャクラを高密度に圧縮して物理的な硬度を得る。鎧のような外殻を纏い、間仁は獣のように四つん這いになった。

 

「さぁ、どんどんいくよ!?」

 

 ドンッ!!

 間仁が突っ込む。速い。

 硬質化した肘打ちが廻仟のガードの上から叩きつけられる。

 

「ぐっ……!」

 

 重い一撃。だが、廻仟は耐えた。

 そして接触した瞬間、餓鬼道の吸引力が間仁の「鎧」を構成するチャクラを削り取る。

 

「なっ……!?」

 

 間仁の肘の装甲が、ボロボロと崩れ落ちた。

 有効打を与えられない。以前会ったときと比較して、異常なまでに動けるようになっている廻仟に驚愕する間。

 そして殴れば殴るほど、触れれば触れるほど、こちらのエネルギーが奪われていく。

 

「くそっ、これならどうだ!」

 

 間仁が腕を刃に変えて振り回す。触れさせない、受けさせない。

 だが、そこへ横合いから援護が入る。

 

「陰陽遁・脆点!」

「水遁・鉄砲玉!」

 

 無数の起爆札と水弾が間仁を襲う。

 由良恵と七丹が合流したのだ。

 

「この先に行かないと南条先生を助けに行けないけど! ここでこいつを止めなきゃ、もっとひどいことになる!」

「三人で囲むぞ!」

 

 三対一。

 南条の領域による脳へのダメージで精彩を欠く間仁に対し、三人の連携が突き刺さる。

 由良が動きを封じ、七丹が隙を作り、廻仟が殴る。

 そのたびに、間仁のチャクラが奪われていく。

 

「はぁ、はぁ……くそっ、なんだこの、泥沼は……!」

 

 間仁の動きが鈍る。

 ──致命的に相性が悪い。

 廻仟を相手取ると、接触してしまうだけでこちらのチャクラが奪われてしまう。

 硬質化させた装甲は剥がされ、魂の変形と維持に必要なチャクラも失っていく。

 今までの戦闘は触れられたらアウトな状況を相手に強いてきたが、今度はこちらが強いられることになるとは……。

 援護に来た忍者も問題だ。魂魄転変に触れるリスクなく攻撃できる召喚系の忍者に、高めた防御を脆くしてくる鉈持ちの忍者……。焦り。苛立ち。そして枯渇への恐怖。

 じわじわと削り殺されていく感覚。

 

「動きが鈍くなってきたな!!」

 

 廻仟の拳が間仁の顔面を捉えた。

 チャクラを吸い尽くされ、防御すらできなくなった間仁が、枯れ木のように吹き飛ぶ。

 

「ガハッ……」

 

 地面に転がった間仁は、立ち上がろうとして膝をついた。

 力が入らない。

 逃げなければ。一旦引いて、体勢を立て直さなければ。

 

 そう思った、その時だった。

 ザシュッ。

 背後から、冷たい何かが心臓を貫いた。

 

「ガ……、ぁ……?」

 

 見下ろすと、胸から漆黒の「黒い棒」が生えていた。

 そこから流れ込む異質なチャクラが、間仁の神経を麻痺させ、チャクラの練り上げを強制的に阻害する。

 

「あなたは逃げ足が速く捕らえづらい。取り逃がすと追うのが大変ですからね」

 

 背後から聞こえたのは、穏やかで、しかし絶対的な冷徹さを含んだ声だった。  間仁は、動かない首を無理やり後ろへ向けた。

 

「……へへ、やっぱり、ね」

 

 そこに立っていたのは、長着(ながぎ)羽織(はおり)()初老(しょろう)のように見える男。その頭部には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あまりにも異質な佇まいだった。  間仁は血の泡を吹きながら、皮肉げに笑った。

 

「いつか、裏切るだろうとは……思って、いたさ……脳噛(のうがみ)

「騒がないでくれて助かります。他の者に見つかると面倒なので」

 

 脳噛は表情一つ変えず、もう一本の黒い棒を取り出した。

 そして、躊躇なく間仁の脳天へと突き刺した。

 

 ズプッ。

 

 間仁の体がビクンと跳ね、泥のように崩れ落ちる。

 死にゆく肉体の中心から、赤黒いチャクラの塊──「人間道(にんげんどう)」の因子が抽出され、「黒い棒」を伝わり、脳噛へと流れ込む。

 

「……誰だ、お前は」

 

 あまりの光景に、廻仟が声を絞り出した。

 仲間ですら道具のように使い捨てる男。

 その男が今、廻仟たちへゆっくりと視線を向けた。

 

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