『総員に通達! な、南条上忍のチャクラ反応消失! 封印された模様! 繰り返す、南条悟が封印された!』
その通信は、里の空気を凍りつかせた。
瓦礫の山で避難誘導を行っていた由良恵は、無線機を持つ手を震わせた。
嘘だろ。あの人が。最強の忍が、負けるはずがない。
だが、広場の方角から感じていた、あの太陽のような圧倒的なプレッシャーは、嘘のように消え失せている。
代わりに漂ってくるのは、粘りつくような絶望の気配だけだ。
「……先生!!」
廻仟が叫び、瓦礫を蹴って走り出した。
思考などない。ただ、助けなければという本能だけが体を動かしていた。
全速力で広場へ向かう。
だが、その行く手を遮る影があった。
「アハ……アハハハハ! いない! 邪魔な先生がいなくなった! これで僕たちの時代だ!」
路地裏から飛び出してきたのは、
鼻や耳から血を流し、足取りは泥酔したようにフラついている。南条の領域展開によって無限の情報を流し込まれ、脳を焼かれた影響だ。
だが、その瞳には理性を失った獣の狂気と、殺戮への渇望が宿っていた。
「なら、遊びの続きだ! 僕と遊ぼうよ、廻仟クン!」
「退けェェッ!!」
廻仟が突っ込む。
間仁の手が伸びる。触れれば魂の形を変えられ、即死か異形化か。
だが、廻仟は止まらない。恐怖を怒りでねじ伏せ、間仁の懐へ飛び込む。
「陰陽遁・
間仁の掌が廻仟の胸板に触れた。
その瞬間、廻仟の魂を歪めようとする異質なチャクラが流し込まれる。
死の感触。
だが──
ジュボッ!!
不快な音と共に、流し込まれたチャクラが廻仟の体内へと消失していく。
術は発動しない。
間仁は、歪んだ笑みを消して舌打ちした。
「チッ……そうだった。君は『天敵』だったね」
驚きはない。
以前、一度戦った時に学習済みだ。この小僧には、魂を変形させるためのチャクラそのものを吸われてしまう。
相性が最悪だ。
「やりづらいなぁ。……術が効かないなら、物理で潰すしかないか」
間仁が後ろへ跳び、距離を取る。 その体から、どす黒いオーラが噴き出した。
「お前のその力……使わせない!」
南条先生の元へ急ぎたいが、この男を放っておくと被害が大きくなりすぎる。
廻仟が追撃しようとするが、間仁の体が異変を起こす。
全身の傷口から黒い体液が噴き出し、それが瞬時に硬化していく。
チャクラを高密度に圧縮して物理的な硬度を得る。鎧のような外殻を纏い、間仁は獣のように四つん這いになった。
「さぁ、どんどんいくよ!?」
ドンッ!!
間仁が突っ込む。速い。
硬質化した肘打ちが廻仟のガードの上から叩きつけられる。
「ぐっ……!」
重い一撃。だが、廻仟は耐えた。
そして接触した瞬間、餓鬼道の吸引力が間仁の「鎧」を構成するチャクラを削り取る。
「なっ……!?」
間仁の肘の装甲が、ボロボロと崩れ落ちた。
有効打を与えられない。以前会ったときと比較して、異常なまでに動けるようになっている廻仟に驚愕する間。
そして殴れば殴るほど、触れれば触れるほど、こちらのエネルギーが奪われていく。
「くそっ、これならどうだ!」
間仁が腕を刃に変えて振り回す。触れさせない、受けさせない。
だが、そこへ横合いから援護が入る。
「陰陽遁・脆点!」
「水遁・鉄砲玉!」
無数の起爆札と水弾が間仁を襲う。
由良恵と七丹が合流したのだ。
「この先に行かないと南条先生を助けに行けないけど! ここでこいつを止めなきゃ、もっとひどいことになる!」
「三人で囲むぞ!」
三対一。
南条の領域による脳へのダメージで精彩を欠く間仁に対し、三人の連携が突き刺さる。
由良が動きを封じ、七丹が隙を作り、廻仟が殴る。
そのたびに、間仁のチャクラが奪われていく。
「はぁ、はぁ……くそっ、なんだこの、泥沼は……!」
間仁の動きが鈍る。
──致命的に相性が悪い。
廻仟を相手取ると、接触してしまうだけでこちらのチャクラが奪われてしまう。
硬質化させた装甲は剥がされ、魂の変形と維持に必要なチャクラも失っていく。
今までの戦闘は触れられたらアウトな状況を相手に強いてきたが、今度はこちらが強いられることになるとは……。
援護に来た忍者も問題だ。魂魄転変に触れるリスクなく攻撃できる召喚系の忍者に、高めた防御を脆くしてくる鉈持ちの忍者……。焦り。苛立ち。そして枯渇への恐怖。
じわじわと削り殺されていく感覚。
「動きが鈍くなってきたな!!」
廻仟の拳が間仁の顔面を捉えた。
チャクラを吸い尽くされ、防御すらできなくなった間仁が、枯れ木のように吹き飛ぶ。
「ガハッ……」
地面に転がった間仁は、立ち上がろうとして膝をついた。
力が入らない。
逃げなければ。一旦引いて、体勢を立て直さなければ。
そう思った、その時だった。
ザシュッ。
背後から、冷たい何かが心臓を貫いた。
「ガ……、ぁ……?」
見下ろすと、胸から漆黒の「黒い棒」が生えていた。
そこから流れ込む異質なチャクラが、間仁の神経を麻痺させ、チャクラの練り上げを強制的に阻害する。
「あなたは逃げ足が速く捕らえづらい。取り逃がすと追うのが大変ですからね」
背後から聞こえたのは、穏やかで、しかし絶対的な冷徹さを含んだ声だった。 間仁は、動かない首を無理やり後ろへ向けた。
「……へへ、やっぱり、ね」
そこに立っていたのは、
「いつか、裏切るだろうとは……思って、いたさ……
「騒がないでくれて助かります。他の者に見つかると面倒なので」
脳噛は表情一つ変えず、もう一本の黒い棒を取り出した。
そして、躊躇なく間仁の脳天へと突き刺した。
ズプッ。
間仁の体がビクンと跳ね、泥のように崩れ落ちる。
死にゆく肉体の中心から、赤黒いチャクラの塊──「
「……誰だ、お前は」
あまりの光景に、廻仟が声を絞り出した。
仲間ですら道具のように使い捨てる男。
その男が今、廻仟たちへゆっくりと視線を向けた。