廻仟たちが間仁と死闘を繰り広げていたのと、ほぼ同時刻。
西地区の避難シェルター前。
『総員に通達! な、南条上忍のチャクラ反応消失! 封印された模様!』
無線から流れた絶望的な情報は、
「……南条先生が、封印された?」
「落ち着きなさい、与君」
隣に立つ
「南条さんが負けるとは考えにくい。ですが……この嫌な空気、ただ事ではありませんね」
葛車がスーツの襟を正し、前方を見据える。
ズズズン……と地響きが近づいてくる。
燃え盛る炎の向こうから、隻眼の老兵・
片腕を失い、全身から煙を上げているが、その殺気は衰えるどころか、より研ぎ澄まされている。
「南条悟は堕ちた」
鉄山のボロボロの片腕が蒸気をあげている。医療忍術か、少しずつ回復しているようだった。
「次はお前たちの番だ。……我らが悲願のため、その『
視線の先、狙いは葛車──地獄道の因子だ。
与は歯を食いしばり、『機巧・阿修羅』を動かす。
「ふざけるな! 先生を返せ!」
──阿修羅、全門開放!
阿修羅の肩、胸、背中から無数のミサイルとチャクラ砲が一斉に発射される。
爆炎が鉄山を飲み込む。
だが。
「土遁・
印すら結ばずに術を発動する。鉄山の足元から巨大な岩壁がせり上がり、物理的な障壁となって爆風を防ぐ。陰陽遁が編み込まれているのか、それは通常の土遁よりも整っていて、強靭さの伺える壁だった。
さらに、壁の背後から灼熱のマグマが噴出する。
「
セメントのような高温の粘液が、阿修羅の機体に降り注ぐ。
瞬時に固まり、関節駆動部を塞ぎ、装甲を溶かし始める。
「ぐわぁぁぁッ!? う、動かない!?」
「変わらず、ただの鉄屑だな」
鉄山が片手印を結ぶと、固まった石灰が大爆発を起こした。
阿修羅が大破し、与の意思に応えなくなる。
「下がっていてください、与君」
葛車が前に出た。
その手には尺のような形状をした忍具が握られている。
「下がってください! 相手は里をここまで破壊できる呪詛師です!」
「ええ。だからこそ、私が
葛車の手元から影が広がり、巨大な冥府の王の顔が顕現した。
「口寄せ・
ドォォォォン!!
出現した閻魔の口からチャクラの腕が伸び、鉄山の体を捕縛する。
物理的な拘束ではない。魂そのものを掴む不可避の法廷。
「尋問の時間だ」
葛車が冷徹に告げる。
鉄山の口が強制的に開かれ、舌のようなエネルギー体が引き出される。
「……あなたは、罪なき民を殺め、この里を火の海に変えた」
葛車の瞳が鋭く光る。
「その行いを、罪だと認めているか?」
地獄道の審判。
閻魔の前で嘘をついた者は、即座に舌を抜かれ死に至る。
──人間は生来、殺人に対する忌避感、罪悪感を持つ。相手がどんな理由で民を殺めていたとしても、この尋問には、どう答えても心にひっかかるものがあるはずだ。答えに偽りがあれば、閻魔によって魂を抜かれる質問である。
だが、鉄山は不敵に笑った。
「罪、か」
鉄山は、引き抜かれそうになる自らの魂を前に、揺るがない瞳で答えた。
「
老兵の咆哮が轟く。
「我が生涯は、腐りきった忍の世界を破壊し、あるべき混沌へ還すための戦い! この手に染みた血の一滴に至るまで、全ては我らが『正義』の礎であり、誇りである!!」
……沈黙。
閻魔は動かない。舌を抜かない。
「なっ……!?」
葛車の表情が驚愕に歪む。
嘘ではない。
この男は、本気でそう思っている。
数多の虐殺を、罪だとは微塵も感じていない。彼の中では、それは純然たる正義であり、真実なのだ。
「判定は『白』か……ッ!」
地獄道の欠点。
対象が確信犯であり、主観的な真実のみを語った場合、裁くことができない。
「忍者の法で我を縛れると思うなァァッ!!」
鉄山が片手印を結ぶ。
口寄せされた閻魔の拘束が解けるのと同時だった。
「熔遁・
鉄山の足元から、文字通り火山が噴火するように、大量の溶岩流が噴出した。
圧倒的な熱量が、葛車を襲う。
「くっ……!」
葛車は咄嗟に防御の印を結ぶが、溶岩の濁流はその防御ごと彼を飲み込み、壁へと叩きつけた。
「ガハッ……!」
全身に火傷を負い、葛車が崩れ落ちる。
スーツは焦げ、意識が遠のく。
「葛車さん!!」
瓦礫の中から与が叫ぶ。
鉄山はゆっくりと歩み寄り、倒れた葛車の襟首を掴んで担ぎ上げた。
「……回収完了だ」
鉄山は、もはや戦闘不能となった与には目もくれず、背を向けた。
"呪術師復興派"。彼らの目的は”ある呪術師”の復活。
それに必要なのは、冥府の王を使役できる「地獄道」の因子。
鉄山が地面に潜るように、土遁で姿を消していく。
残されたのは、破壊された機体と、己の無力さに打ちひしがれる少年だけだった。
「待て……! 待ってくれぇぇぇッ!!」
与の慟哭が、燃える里に虚しく響いた。