呪術師 廻仟   作:四月三十日

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第5話「尋問」

 廻仟たちが間仁と死闘を繰り広げていたのと、ほぼ同時刻。

 西地区の避難シェルター前。

 

『総員に通達! な、南条上忍のチャクラ反応消失! 封印された模様!』

 

 無線から流れた絶望的な情報は、与幸一(むた こういち)の思考を一瞬停止させた。

 

「……南条先生が、封印された?」

「落ち着きなさい、与君」

 

 隣に立つ葛車(くずるま)が、冷静さを努めて維持しながらも、その眉間には深い皺が刻まれていた。

 

「南条さんが負けるとは考えにくい。ですが……この嫌な空気、ただ事ではありませんね」

 

 葛車がスーツの襟を正し、前方を見据える。

 ズズズン……と地響きが近づいてくる。

 燃え盛る炎の向こうから、隻眼の老兵・鉄山(てつざん)が姿を現した。

 片腕を失い、全身から煙を上げているが、その殺気は衰えるどころか、より研ぎ澄まされている。

 

「南条悟は堕ちた」

 

 鉄山のボロボロの片腕が蒸気をあげている。医療忍術か、少しずつ回復しているようだった。

 

「次はお前たちの番だ。……我らが悲願のため、その『()()』を頂戴する」

 

 視線の先、狙いは葛車──地獄道の因子だ。

 与は歯を食いしばり、『機巧・阿修羅』を動かす。

 

「ふざけるな! 先生を返せ!」

 ──阿修羅、全門開放!

 

 阿修羅の肩、胸、背中から無数のミサイルとチャクラ砲が一斉に発射される。

 爆炎が鉄山を飲み込む。

 だが。

 

「土遁・土流壁(どりゅうへき)!」

 

 印すら結ばずに術を発動する。鉄山の足元から巨大な岩壁がせり上がり、物理的な障壁となって爆風を防ぐ。陰陽遁が編み込まれているのか、それは通常の土遁よりも整っていて、強靭さの伺える壁だった。

 さらに、壁の背後から灼熱のマグマが噴出する。

 

熔遁(ようとん)石灰凝(せっかいぎょう)(じゅつ)!」

 

 セメントのような高温の粘液が、阿修羅の機体に降り注ぐ。

 瞬時に固まり、関節駆動部を塞ぎ、装甲を溶かし始める。

 

「ぐわぁぁぁッ!? う、動かない!?」

「変わらず、ただの鉄屑だな」

 

 鉄山が片手印を結ぶと、固まった石灰が大爆発を起こした。

 阿修羅が大破し、与の意思に応えなくなる。

 

「下がっていてください、与君」

 

 葛車が前に出た。

 その手には尺のような形状をした忍具が握られている。

 

「下がってください! 相手は里をここまで破壊できる呪詛師です!」

「ええ。だからこそ、私が()()します」

 

 葛車の手元から影が広がり、巨大な冥府の王の顔が顕現した。

 

「口寄せ・獄閻王(ごくえんおう)!!」

 ドォォォォン!!

 

 出現した閻魔の口からチャクラの腕が伸び、鉄山の体を捕縛する。

 物理的な拘束ではない。魂そのものを掴む不可避の法廷。

 

「尋問の時間だ」

 

 葛車が冷徹に告げる。

 鉄山の口が強制的に開かれ、舌のようなエネルギー体が引き出される。

 

「……あなたは、罪なき民を殺め、この里を火の海に変えた」

 

 葛車の瞳が鋭く光る。

 

「その行いを、罪だと認めているか?」

 

 地獄道の審判。

 閻魔の前で嘘をついた者は、即座に舌を抜かれ死に至る。

 ──人間は生来、殺人に対する忌避感、罪悪感を持つ。相手がどんな理由で民を殺めていたとしても、この尋問には、どう答えても心にひっかかるものがあるはずだ。答えに偽りがあれば、閻魔によって魂を抜かれる質問である。

 だが、鉄山は不敵に笑った。

 

「罪、か」

 

 鉄山は、引き抜かれそうになる自らの魂を前に、揺るがない瞳で答えた。

 

(いな)!!」

 

 老兵の咆哮が轟く。

 

「我が生涯は、腐りきった忍の世界を破壊し、あるべき混沌へ還すための戦い! この手に染みた血の一滴に至るまで、全ては我らが『正義』の礎であり、誇りである!!」

 

 ……沈黙。

 閻魔は動かない。舌を抜かない。

 

「なっ……!?」

 

 葛車の表情が驚愕に歪む。

 嘘ではない。

 この男は、本気でそう思っている。

 数多の虐殺を、罪だとは微塵も感じていない。彼の中では、それは純然たる正義であり、真実なのだ。

 

「判定は『白』か……ッ!」

 

 地獄道の欠点。

 対象が確信犯であり、主観的な真実のみを語った場合、裁くことができない。

 

「忍者の法で我を縛れると思うなァァッ!!」

 

 鉄山が片手印を結ぶ。

 口寄せされた閻魔の拘束が解けるのと同時だった。

 

「熔遁・灼河大噴火(しゃくがだいふんか)!!」

 

 鉄山の足元から、文字通り火山が噴火するように、大量の溶岩流が噴出した。

 圧倒的な熱量が、葛車を襲う。

 

「くっ……!」

 

 葛車は咄嗟に防御の印を結ぶが、溶岩の濁流はその防御ごと彼を飲み込み、壁へと叩きつけた。

 

「ガハッ……!」

 

 全身に火傷を負い、葛車が崩れ落ちる。

 スーツは焦げ、意識が遠のく。

 

「葛車さん!!」

 

 瓦礫の中から与が叫ぶ。

 鉄山はゆっくりと歩み寄り、倒れた葛車の襟首を掴んで担ぎ上げた。

 

「……回収完了だ」

 

 鉄山は、もはや戦闘不能となった与には目もくれず、背を向けた。

 "呪術師復興派"。彼らの目的は”ある呪術師”の復活。

 それに必要なのは、冥府の王を使役できる「地獄道」の因子。

 

 鉄山が地面に潜るように、土遁で姿を消していく。

 残されたのは、破壊された機体と、己の無力さに打ちひしがれる少年だけだった。

 

「待て……! 待ってくれぇぇぇッ!!」

 

 与の慟哭が、燃える里に虚しく響いた。

 

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