呪術師 廻仟   作:四月三十日

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第2話「輪廻天生」

 六道神樹教の施設、その地下深くの隠し区画。

 カビと湿気の匂いが充満する石造りの広間に、不気味なチャクラの光が揺らめいていた。

 広間の中央には、複雑怪奇な文様を描いた巨大な魔法陣が敷かれている。

 その中心で拘束されているのは、全身に傷を負った葛車寛見(くずるま ひろみ)だった。

 意識は朦朧とし、四肢は鎖で繋がれ、不気味な術が刻まれた法陣の中にいた。

 

「……準備は整いましたね」

 

 脳噛(のうがみ)が、無感動に陣を見下ろした。

 

「これから、其真(きしん)の魂魄を回収します」

 

 その隣には、鉄山(てつざん)が控えている。その腕の怪我はもう治っており、先の戦いの傷跡は残っていなかった。

 

 (いよいよ……か……)

 

 鉄山は呪術師復興の野望が、また一歩、大きく前進していることを感じていた。同時に、一緒に歩むことができなかった仲間のことも思い出していた。

 

 (光海(こうかい)……(はざま)……)

 

 二人とも先の里襲撃の際に、忍者との闘いで命を落とした。光海は、南条の手によって。

 

 ──あの領域の中、もし南条が最初に儂を狙っていたら、ここに立っていたのは光海のほうだったのだろうか。

 

 それでもいい。鉄山は本心からそう思っていた。

 呪術師が忍者を滅ぼし、再び呪術師全盛の時代がやってくるのなら、そこに立っているのは自分でなくともよい。と、そう考えていた。

 間の死に目には立ち会うことすら出来なかった。やんちゃで調子に乗りがちな男だったが、才ある有望な呪術師の若者だった。

 鉄山の歩みは止まらない。二人の仲間の死(呪い)を背負い、あらゆる(すべ)を尽くして、忍者を滅ぼす。

 彼はただ力強くこぶしを握り締め、成り行きを見守っていた。

 

「さて、始めましょう。……呪いの王の帰還を」

 

 脳噛が印を結ぶ。  同時に、葛車の体から強制的にチャクラが引き抜かれ、陣へと流し込まれる。

 地獄道の因子──冥府の王を喚び出すその力は、現世と浄土を繋ぐ扉の鍵となる。

 

「口寄せ・獄閻王(ごくえんおう)

 

 地獄道の能力である閻魔の顔の召喚、ズズズと広間に現れた六道の力の一端に、見物している「呪術師復興派」の呪詛師達の間に緊張が走る。

 脳噛は続けて印を結ぶ。それは死者の魂を、こちらに呼び戻す六道の奥義。

 

外道(げどう)輪廻天生(りんねてんせい)……」

 

 ガパッ……!!

 

 獄閻王の口が大きく開き、その口腔から赤黒い煙が噴き出した。

 その煙は、まるで意思を持つかのように渦を巻き、一つの強大な魂魄の形を成していく。

 

「オオオオ……ッ!!」

「素晴らしい……!」

 

 「呪術師復興派」の呪詛師たちが歓喜の声を上げる。

 魂魄だけだというのに、肌を刺すような重圧。濃密すぎる陰陽エネルギー(呪力)が空間を塗りつぶしていき、地下空間の酸素すら奪っていくようだ。

 呪いの王、其真(きしん)。その魂が、長い時を超えて今ここに在る。

 脳噛は用意していた硝子の瓶を取り出し、その魂魄を封じ込めた。

 瓶の中で、赤黒い霧が暴れまわるように脈動する。

 

「魂魄の回収は成功です。あとは『器』となる即身仏と、里から奪った呪物による受肉の儀を行うだけ」

 

 脳噛は瓶を懐にしまい、踵を返した。

 呪詛師達が慌ただしく脳噛に続く。

 鉄山が尋ねる。

 

「この男はどうする? 用済みなら殺すか?」

 

 鉄山が、ぐったりと項垂れる葛車を見下ろして問うた。

 振り返った脳噛は首を横に振った。

 

「いいえ。彼にはまだ用があります」

 

 脳噛は呪詛師の一人に指示を出した。

 

「彼を独房へ。拘束しておいてください」

「はっ……! しかし、なぜ?」

「質問は許可していませんよ」

 

 脳噛の瞳が一瞬、冷たく光った。

 呪詛師はしぶしぶといった様子で葛車を担ぎ上げた。

 「呪術師復興派(かれら)」は知らない。脳噛が真に求めているのは呪術師の復興などではなく、葛車の中に眠る「地獄道」、「六道の因子」であることを。

 

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