呪術師 廻仟   作:四月三十日

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第3話「助力」

 翌日。

 空は低く垂れ込め、湿った海風が吹き荒れる中、廻仟たちはとある施設の前に立っていた。

 島の北端、断崖絶壁の上にそびえる古びた石造りの建物。かつては灯台か、修行場として使われていた廃墟だ。

 

「……本当にここに、あいつらがいるのか?」

 

 静まり返った廃墟を見上げ、廻仟が疑わしげに呟く。

 人の気配はない。チャクラの反応も、巧妙に隠蔽されているのか微弱だ。

 すると、バサバサと羽音が響き、一羽の烏が近くの枯れ木に舞い降りた。

 その烏の嘴が開き、艶やかな女性の声が響いた。

 

『ええ、恐らくね』

 

 烏を通して聞こえてくる声。この場にはいない協力者だ。

 

『目立たないようにしていたみたいだけど、呪詛師の出入りを確認しているわ。途中までだけど内部も視認済みよ。地下に大きな空間があることも分かっている』

「すげぇな……。こんなにすぐ見つけちまうなんて」

 

 廻仟が素直に感嘆の声を上げる。島中にある無数の廃墟から、一夜にして正解を引き当てたのだ。

 すると、烏から別の声──少年の声が響いた。

 

『そうです。姉様は凄いんです。姉様のご助力を得られたことを、君たちは感謝するべきです』

「あ、はい……」

 

 もう一人の協力者、その言葉からは姉への心酔ぶりが十二分に伝わってきて、廻仟は苦笑いするしかなかった。

 

「急なお願いにもかかわらず、助かりました。ありがとうございます、冥々(めいめい)さん」

 

 菅原憂太(すがわら ゆうた)が、烏に向かって丁寧に頭を下げた。

 

『いいのよ、憂太。しっかり弾んで貰ったしね』

 

 冥々の声には、満足げな響きが含まれていた。

 彼女は冥々(めいめい)。芥隠れの里の上忍でありながら、フリーランスのような立ち位置で活動する異色の忍だ。

 陰陽術の応用で偽りの命、烏を生成する。さらに烏と視覚を共有して偵察を行うほか、その烏を弾丸として特攻させる強力な遠距離攻撃も行える「秘術(ひじゅつ)喃々嘖々(なんなんさくさく)」を操る実力者。

 そして何よりの特徴は、彼女の納得する金額を支払いさえすれば、基本的にどんな危険な仕事でも引き受けるという守銭奴(ビジネスライク)な一面だ。里の協力が得られない現状、サポートを頼むことができる貴重な忍者だった。

 もう一人の声の主は、弟の憂々(ういうい)。彼は姉を崇拝しており、冥々が協力するというなら、命さえ投げ出す覚悟で協力してくれる。

 

「……いくら払ったんだ?」

 

 廻仟が恐る恐る尋ねると、菅原は遠い目をして答えた。

 

「数年分の貯金が飛んだね……」

「えぇっ!?」

「でも、それで冥々さんたちのサポートが買えるなら、安いくらいだ。そうしなければ、敵が動く前にこの場所を見つけることすらできなかっただろうから」

 

 菅原はきっぱりと言い切った。

 上空からの広域偵察と、リアルタイムでの情報共有。それは忍者の中でも、ごく一部の使い手にしかできない希少かつ強力な技能だ。

 時を買ったと思えば、金など安いものだ。

 

「さて、これから施設に潜入するけれど、まずは確認だ」

 

 菅原が表情を引き締め、全員を見渡した。

 

「目標は二つ。南条(なんじょう)先生が封印された『獄門鏡(ごくもんきょう)』の奪還。そして、葛車(くずるま)さんの救出だ」

 

 全員が頷く。

 夏目傑(なつめ すぐる)が、事前に決めていた編成を口にする。

 

脳噛(のうがみ)の持つ『獄門鏡』の奪還を担当するAチームは、私、菅原君、東導君、そして廻仟君」

 

 敵の主力──脳噛や鉄山と接敵する可能性が高く、何としても南条を取り戻すための、特級戦力を集めた攻撃部隊。また、仮に獄門鏡を奪還できない場合に、せめて破壊の試行だけでもできないかに賭けるため廻仟も連れていく。

 

「捕らわれている葛車さんの救出を担当するBチームは、マイケルさん、七丹さん、由良君、与君だ」

 

 こちらは探索能力と、救護・護衛に長けたバランス部隊だ。

 そして、後方からのバックアップ支援を、冥々と憂々が担当する。

 

『各チームには連絡用に私の烏を一羽ずつつけるわ。何かあればすぐに報告して』

 

 冥々の声と共に、二羽の烏が舞い降り、夏目と七丹の肩にそれぞれ留まった。

 

「準備はいいか、親友(ブラザー)!」

 

 東導葵(とうどう あおい)が、獰猛な笑みを浮かべて首を鳴らす。

 

「おう!」

 

 廻仟が力強く応える。

 夜明け前の薄暗がりの中、二つのチームが動き出した。

 

「いざ、潜入開始だ」

 

 夏目の合図と共に、彼らは廃墟の闇へと身を投じた。

 反撃の刻が始まった。

 

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