隠された地下への階段を下り、一行は冷たく湿った石造りの通路を進んでいた。
冥の偵察烏からの情報と、与が解析した施設の構造データに基づき、通路の分岐点でチームは二手に分かれた。
「頼むぞ、マイケル、七丹!」
「任セテオケ!」
廻仟がBチームに声をかけ、彼らは独房区画へと続く通路へ消えていく。
残ったAチーム──廻仟、東導、菅原、夏目の四人は、奥の広間を目指して直進した。
しばらくして、大きな扉が現れる。東導と廻仟は並んで駆け出し、重厚な扉を押し開けた。
そこは地下とは思えないほど広大な、ドーム状の空間だった。
天井は高く、周囲には儀式用の祭壇が並んでいる。
その中央に、一人の男が仁王立ちしていた。
「……脳噛の言った通りか。火鼠が入り込んだようだな」
隻眼の老兵、
以前の戦いで失ったはずの腕は再生しており、全身から放たれるチャクラ量は、万全の状態に戻っていた。
「バレていたようだね」
夏目傑が冷静に呟き、全員が戦闘態勢をとる。
「小賢しい小細工は無しだ。……消し炭にしてやる」
鉄山が印を結ぶ。
挨拶代わりの牽制ではない。最初から、この広間ごと全員を蒸発させるつもりだ。
彼の掌から、異常な密度のチャクラが膨れ上がる。
「
ゴオォォォォォッ!!
空間が歪み、頭上に巨大な灼熱の隕石が出現した。
それは単なる熔遁ではない。極限まで練り込まれた陰陽エネルギーが、術に編みこまれていた。陰陽術により概念や法則を補強する呪術師の技。
「極ノ術……!」
夏目が目を見開く。
それは呪術師の間で伝わる奥義。
性質変化の相性を無視し、術者の「
この隕石の前では、水遁で冷やすことも、土遁で防ぐことも、力で砕こうとすることも意味をなさない。触れたもの全てを、「燃焼」と「潰滅」という結果へ強制的に導く。
かつて陰陽遁に長けた呪術師が恐れられていたその理由の一つが、この理不尽なまでの「理の押し付け」だった。
「世を呪う呪術の奥義! これでは砕くことも冷やすこともできないな!」
夏目は瞬時に判断した。
「ならば、こちらも!」
夏目が両手を広げる。
掌の中でチャクラが荒れ狂い、白と黒の輝きを放ちながら超高速で回転し始めた。
「
キイィィィィィン!!
陰と陽のチャクラ、二色の軌跡が描く、──うずまき。
球体に圧縮したエネルギーの嵐。
その回転力は、陰陽遁による絶対的な法則の強制により空気抵抗も、摩擦も、あらゆる物理干渉をねじ伏せ、決して失速することなく回転を続ける。
「行けッ!!」
「滅びろ!!」
二つの極ノ術が放たれ、広間の中央で激突した。
カッ────────!!
音すら置き去りにする閃光。
続いて、世界が震えるような衝撃波が走った。その振動は、離れた場所にいるBチームの足元すら揺るがすほどだった。
だが、爆発は起きない。
互いの極ノ術が互いの理を食らい合い、対消滅したのだ。
光が収まると、そこには砂埃ひとつ立っていなかった。
完全な相殺。
「……ほう」
鉄山は目を細めた。
敵とはいえ、これほどの極ノ術を扱える「
だが、手は止まらない。鉄山は止まれない。即座に次の手を打った。
必殺の術が相殺されたなら、次は必中の領域で仕留めるのみ。
──印を構える。
鉄山のチャクラが膨れ上がる。
廻仟と東導が即座に「簡易領域」の構えを取り、夏目も自身の領域を展開しようと印を結ぶ。
だが、それより速く、一人の青年が前に出た。
「僕が対応します」
菅原憂太だった。
彼が印を結んだ瞬間、背後の空間が歪み、禍々しい、巨大な影が顕現した。
『憂太ァ……ヤるのォ?』
「ああ。力を貸して、
菅原の背後に浮かぶのは、人造尾獣「理下」。
強大なチャクラを持つ化け物。
菅原憂太は、
『領域展開』
両者の声が重なった。
ズゥン!!
鉄山の領域と、菅原の領域が同時に展開され、衝突した。
通常、領域同士の戦いは結界の強度や術の洗練度が勝敗を分ける。
──だが、菅原のそれは違った。
理下から供給される莫大なのチャクラによる、圧倒的な出力。
鉄山の領域が瞬く間に菅原の領域に塗り替えられていく。
「なっ……馬鹿な、この出力は……!?」
鉄山の領域を押し切り、遂に菅原の領域が鉄山を捉えた。
菅原が印を結ぶ。
その術は──
「
鉄山の頭上に、先ほど彼自身が放ったはずの灼熱の隕石が出現した。
「貴様……!?」
鉄山が驚愕に目を見開く。
菅原の瞳には、三つの巴が回転する紅い瞳──「
視認した術を解析し、模倣する瞳術。
だが、陰陽遁が複雑に編み込まれた「極ノ術」すらもコピーするなど、常識の範疇を超えている。
しかし、呪術師の血を色濃く引き、高度な陰陽遁への適正を持つ菅原は、『理下』の補助もあり、それを可能としていた。
「陰陽遁の編み込まれた血継限界、その極ノ術……それすらも模倣するというのか……!」
ズドォォォォォン!!
必中の効果が付与された自らの奥義が、鉄山を直撃した。
抵抗する間もなく、熔岩の使い手が、より強大な熱量によって焼き尽くされていく。
パチパチ……
紅蓮の炎の中で、鉄山は声を上げることもなく炭化し、崩れ落ちた。
圧倒的な勝利。
静寂が戻った広間。
その奥、暗闇の中から、一人の男がゆっくりと歩いてきた。