呪術師 廻仟   作:四月三十日

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第4話「極ノ術」

 隠された地下への階段を下り、一行は冷たく湿った石造りの通路を進んでいた。

 冥の偵察烏からの情報と、与が解析した施設の構造データに基づき、通路の分岐点でチームは二手に分かれた。

 

「頼むぞ、マイケル、七丹!」

「任セテオケ!」

 

 廻仟がBチームに声をかけ、彼らは独房区画へと続く通路へ消えていく。

 残ったAチーム──廻仟、東導、菅原、夏目の四人は、奥の広間を目指して直進した。

 しばらくして、大きな扉が現れる。東導と廻仟は並んで駆け出し、重厚な扉を押し開けた。

 そこは地下とは思えないほど広大な、ドーム状の空間だった。

 天井は高く、周囲には儀式用の祭壇が並んでいる。

 その中央に、一人の男が仁王立ちしていた。

 

「……脳噛の言った通りか。火鼠が入り込んだようだな」

 

 隻眼の老兵、鉄山(てつざん)

 以前の戦いで失ったはずの腕は再生しており、全身から放たれるチャクラ量は、万全の状態に戻っていた。

 

「バレていたようだね」

 

 夏目傑が冷静に呟き、全員が戦闘態勢をとる。

 

「小賢しい小細工は無しだ。……消し炭にしてやる」

 

 鉄山が印を結ぶ。

 挨拶代わりの牽制ではない。最初から、この広間ごと全員を蒸発させるつもりだ。

 彼の掌から、異常な密度のチャクラが膨れ上がる。

 

極ノ術(ごくのじゅつ)隕落(いんらく)

 

 ゴオォォォォォッ!!

 

 空間が歪み、頭上に巨大な灼熱の隕石が出現した。

 それは単なる熔遁ではない。極限まで練り込まれた陰陽エネルギーが、術に編みこまれていた。陰陽術により概念や法則を補強する呪術師の技。

 

「極ノ術……!」

 

 夏目が目を見開く。

 それは呪術師の間で伝わる奥義。

 性質変化の相性を無視し、術者の「(ことわり)」を現実に押し付ける絶技だ。

 この隕石の前では、水遁で冷やすことも、土遁で防ぐことも、力で砕こうとすることも意味をなさない。触れたもの全てを、「燃焼」と「潰滅」という結果へ強制的に導く。

 かつて陰陽遁に長けた呪術師が恐れられていたその理由の一つが、この理不尽なまでの「理の押し付け」だった。

 

「世を呪う呪術の奥義! これでは砕くことも冷やすこともできないな!」

 

 夏目は瞬時に判断した。

 理不尽な理(ルール)に対抗できるのは、同じく理不尽な理のみ。

 

「ならば、こちらも!」

 

 夏目が両手を広げる。

 掌の中でチャクラが荒れ狂い、白と黒の輝きを放ちながら超高速で回転し始めた。

 

極ノ術(ごくのじゅつ)陰陽螺旋玉(おんみょうらせんだま)

 

 キイィィィィィン!!

 

 陰と陽のチャクラ、二色の軌跡が描く、──うずまき。

 球体に圧縮したエネルギーの嵐。

 その回転力は、陰陽遁による絶対的な法則の強制により空気抵抗も、摩擦も、あらゆる物理干渉をねじ伏せ、決して失速することなく回転を続ける。

 

「行けッ!!」

「滅びろ!!」

 

 二つの極ノ術が放たれ、広間の中央で激突した。

 

 カッ────────!!

 

 音すら置き去りにする閃光。

 続いて、世界が震えるような衝撃波が走った。その振動は、離れた場所にいるBチームの足元すら揺るがすほどだった。

 だが、爆発は起きない。

 互いの極ノ術が互いの理を食らい合い、対消滅したのだ。

 光が収まると、そこには砂埃ひとつ立っていなかった。

 完全な相殺。

 

「……ほう」

 

 鉄山は目を細めた。

 敵とはいえ、これほどの極ノ術を扱える「()()()」がいたことへの、ある種の敬意と感心すら浮かんでいた。

 だが、手は止まらない。鉄山は止まれない。即座に次の手を打った。

 必殺の術が相殺されたなら、次は必中の領域で仕留めるのみ。

 

 ──印を構える。

 

 鉄山のチャクラが膨れ上がる。

 廻仟と東導が即座に「簡易領域」の構えを取り、夏目も自身の領域を展開しようと印を結ぶ。

 だが、それより速く、一人の青年が前に出た。

 

「僕が対応します」

 

 菅原憂太だった。

 彼が印を結んだ瞬間、背後の空間が歪み、禍々しい、巨大な影が顕現した。

 

『憂太ァ……ヤるのォ?』

「ああ。力を貸して、理下(リカ)ちゃん」

 

 菅原の背後に浮かぶのは、人造尾獣「理下」。

 強大なチャクラを持つ化け物。

 菅原憂太は、()()()()()()()()だ。

 

『領域展開』

 

 両者の声が重なった。

 

 ズゥン!!

 

 鉄山の領域と、菅原の領域が同時に展開され、衝突した。

 通常、領域同士の戦いは結界の強度や術の洗練度が勝敗を分ける。

 ──だが、菅原のそれは違った。

 理下から供給される莫大なのチャクラによる、圧倒的な出力。

 鉄山の領域が瞬く間に菅原の領域に塗り替えられていく。

 

「なっ……馬鹿な、この出力は……!?」

 

 鉄山の領域を押し切り、遂に菅原の領域が鉄山を捉えた。

 菅原が印を結ぶ。

 その術は──

 

()()()()()()

 

 鉄山の頭上に、先ほど彼自身が放ったはずの灼熱の隕石が出現した。

 

「貴様……!?」

 

 鉄山が驚愕に目を見開く。

 菅原の瞳には、三つの巴が回転する紅い瞳──「写輪眼(しゃりんがん)」が宿っていた。

 視認した術を解析し、模倣する瞳術。

 だが、陰陽遁が複雑に編み込まれた「極ノ術」すらもコピーするなど、常識の範疇を超えている。

 しかし、呪術師の血を色濃く引き、高度な陰陽遁への適正を持つ菅原は、『理下』の補助もあり、それを可能としていた。

 

「陰陽遁の編み込まれた血継限界、その極ノ術……それすらも模倣するというのか……!」

 

 ズドォォォォォン!!

 

 必中の効果が付与された自らの奥義が、鉄山を直撃した。

 抵抗する間もなく、熔岩の使い手が、より強大な熱量によって焼き尽くされていく。

 

 パチパチ……

 紅蓮の炎の中で、鉄山は声を上げることもなく炭化し、崩れ落ちた。

 圧倒的な勝利。

 静寂が戻った広間。

 その奥、暗闇の中から、一人の男がゆっくりと歩いてきた。

 脳噛(のうがみ)だ。

 

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