呪術師 廻仟   作:四月三十日

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第5話「脳噛」

 一方、地下施設の独房区画。

 迷路のように入り組んだ通路を、Bチームの面々は疾走していた。

 

「コッチダ! カラスノ反応ト、ソナーガ一致シテイル!」

 

 先頭を行くマイケルが叫ぶ。

 その肩には、冥々(めいめい)の使役するカラスが留まり、的確なルートを指示していた。

 

「急ごう。……葛車さんのチャクラ反応が弱っている」

 

 最後尾で与幸一(むた こういち)が声を絞り出す。

 彼の右腕には、破壊された『阿修羅』の残骸から急造した、武骨な傀儡籠手が装着されている。

 突き当たりにある、一際厳重な封印が施された鉄扉の前で、一行は足を止めた。

 

「ここですね。……結界が幾重にも張られています」

 

 七丹が扉を分析する。由良恵が影の中から苦無を取り出すが、通常の物理攻撃で破れる代物ではない。式神を呼ぶか。

 そこで、与が前に出た。

 

「俺がやる!」

 

 与が掌を扉にかざす。

 内蔵されたチャクラ増幅回路が唸りを上げ、掌の噴出口から青白い炎の刃が形成された。

 

「機巧忍法・切断炎(せつだんえん)!」

 

 高熱に収束された火遁のビームが、分厚い鉄扉とそこに刻まれた術ごと焼き切っていく。

 溶断された鉄板が、ズドンと重い音を立てて内側へ倒れ込んだ。

 

「葛車さん!!」

 

 与が真っ先に飛び込む。

 薄暗い部屋の奥、拘束具に繋がれた状態で、葛車寛見(くずるま ひろみ)はぐったりと項垂れていた。

 全身に拷問のような儀式の痕跡があり、衰弱しきっている。

 

「……う、あ……」

 

 駆け寄った与に抱き起こされ、葛車は薄く目を開けた。

 

「与……君、か……」

 

「はい、助けに来ました! すぐにここから脱出しましょう!」

 

 だが、葛車は安堵するどころか、絶望に顔を歪めた。

 

「すまない……。私が、奴を……『其真(きしん)』を呼び戻す片棒を、担がされてしまった……」

「え……?」

「もう、手遅れだ……」

 

 葛車はそれだけ言い残すと、糸が切れたように再び意識を失った。

 

「葛車さん! しっかりしてください!」

 

 その時だった。

 

 ズズズズズン……!!

 

 地鳴りのような振動と共に、施設全体が脈動した。

 空気の密度が変わるほどの、圧倒的な重圧。

 感知タイプでなくともわかる気配。全員の肌が粟立った。

 

「なんだ、この寒気は……!?」

「チャクラノ桁ガ違ウ……! 化ケ物ガ、目覚メヨウトシテイルノカ!?」

 

 奥から伝わってくるのは、生物としての格の違いを見せつけるような、絶対的な捕食者の気配だった。

 

   ◆

 

 場面は変わり、地下広間。

 Aチームと脳噛(のうがみ)が対峙する空間にも、その波動は届いていた。

 

「ッ……!?」

 

 廻仟、東導、菅原、そして夏目。

 全員が動きを止めた。

 広間の奥、さらに深い場所から溢れ出してくる、強烈な陰陽遁チャクラの奔流。

 あまりにも強大な存在の復活が近いことを、本能が理解していた。

 

「……どうやら、順調に進んでいるようですね」

 

 脳噛は、揺れる地面の上で平然と微笑んでいた。

 その余裕に、夏目傑が一歩前に出た。

 

「答えろ。……お前は、『賀茂憲倫(かも のりとし)』だな?」

 

 夏目の問いに、廻仟たちが息を呑む。

 過去の文献にあった、呪術師の名。

 脳噛は少し驚くような様子を見せたあと、フッ、と笑った。

 

「ええ、そうです」

 

 あっさりと肯定した。

 廻仟が眉を寄せて叫ぶ。

 

「じゃあ、脳噛じゃないのかよ!?」

 

 その問いに、男は首を振り、面白そうに答えた。

 

「いいえ。私は『脳噛(のうがみ)』です」

 

 男は首をコキリと鳴らすと、纏っていた堅苦しい空気を脱ぎ捨てるように、ふぅーっと長く息を吐いたあと、破顔した。

 

「……あははは。そう、この身体の持ち主は確かに『賀茂憲倫』だ。けどね、中身は違う。……私はこうして他人の肉体を乗っ取り、その時の都合で身体を替え続けてきたんだよ」

 

 男は自身の額、環状に打ち込まれた黒い棒をトントンと指差した。

 

「……賀茂憲倫の身体には随分と長く居座ってしまってね。この時代、もはや彼を知る者もいなくなった」

 脳噛は語り始める。今までの印象とは打って変わって、固い雰囲気を崩していた。

 

「この肉体は捨てがたくてね。……六道の力……私の造ったこの『輪廻眼』と、賀茂憲倫の肉体は相性が良かった。次があるかわからないから、乗り換えずに使い続けていたんだよ」

 

 まるでネタ晴らしを楽しんでいるかのように、廻仟たちに目をやりながら、わかりやすく説明をする脳噛。

 

「名前については……わざわざ死んだはずの歴史上の人物を名乗って、君たちのような勘のいい連中に調べられるのも面倒だろう? 『大昔の人間がなぜ生きている?』と怪しまれるのは避けたかったからね」

 

 男は人差し指を立てて、にっこりと笑う。

 

「だから、ある時から『賀茂憲倫』のフリをするのはやめていたんだ。今はもう、私本来の名前を名乗っている」

 

 ()()は偽名ではない。彼自身の名。

 ──偽りだったのは、その身体のほうだった。

 

 男は、あっそうだ、という風に居なおり、廻仟たちに挨拶をする。

 

「改めて皆さん、はじめまして。私は脳噛(のうがみ)、古い時代の呪術師です。どうぞよろしく」

 

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