「……ならば、貴様の目的はなんだ?」
夏目傑が鋭く問いただした。
鉄山たち「
「呪術師の復興、か」
脳噛は、さも馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに鼻で笑った。
「いいや。それは
脳噛は焦げた鉄山の遺体へ視線を向け、冷ややかに続ける。
「そもそも、忍者と呪術師にどんな違いがある? 扱うチャクラに傾向はあれど、どちらも性質変化を扱えば、陰陽属性だって扱う。例外だってたくさんあるじゃないか」
彼は両手を広げ、呆れたように首を振った。
「彼らには過去があり矜持があるから、『忍者への復讐』『陰陽遁という優位性』……。言いたいことは分かるが、賛同はできないな」
「……じゃあ、お前は何がしたいんだ!」
廻仟が叫ぶ。
脳噛は、まるで講義をする教師のように、一本指を立てた。
「私が望むのは、人類の進化……チャクラの『
狂気を含んだ瞳が輝く。
「私は長い時間を生きて、ありとあらゆる術、チャクラの研究をしてきた。だが、ここ暫くは目新しさが無くなってきてね。……限界が見えてしまったのさ」
脳噛の声に熱が帯びる。
「だが、チャクラの可能性はこんなものではないと信じている。五大性質、陰陽、血継限界……。私たちが扱うチャクラの全ては、太古の時代に存在した『
神樹。忍の歴史における始祖的な概念。
「ならば、各地に散らばったチャクラを……要するに、全人類を一度神樹と同化させ、根源のチャクラに立ち返れば、まだ見ぬ可能性が生まれるのではないか?」
全員が絶句する。
それは、全人類の個を消滅させ、一つの巨大なエネルギー体にするということだ。
「新しいチャクラの形は、この星のチャクラを統合し、一段階上の存在に昇華させることで生まれる。……そのために私は六道の因子を収集し、神樹の苗床となる『
脳噛は宣言する。
「十尾をもって、この星すべてのチャクラを食らい尽くし、一つとする。それが私の計画だ」
沈黙。
あまりに壮大で、あまりに身勝手な狂気。
会話が成立する相手ではない。
「……話は分かった。だが、そのふざけた夢想に付き合う気はねぇよ」
そう?残念、と然程気にしていない風な脳噛。
廻仟が一歩前に出た。
「先生はどこだ。『獄門鏡』はどこにある」
脳噛はにんまりと笑い、廻仟の敵意を心地よさそうに受け止めた。
今の彼にとって、廻仟たちは取るに足らない存在。久しぶりの御喋り、計画の全貌を語り高揚感に浸っていた彼は、致命的な油断をしていた。
「うん? それならここにあるよ」
脳噛が懐から、掌サイズの古びた銅鏡を取り出し、見せつけるように掲げた。
その瞬間。
「
横にいた男、
パァンッ!!
東導の術は、拍手をトリガーに、範囲内の「一定以上のチャクラを持つモノ」の位置を入れ替える時空間忍術。
「!」
脳噛の手から、銅鏡の重みが消えた。
代わりに握らされていたのは、一枚の紙切れ――
そして、東導のポケットの中からは『獄門鏡』が覗いていた。
「しまった――」
「ハッ!」
ドォンッ!!
脳噛の手元で起爆札が炸裂する。
ダメージはない。だが、視界が一瞬塞がれた。
――そうそう、という声。
「挨拶が遅れたね」
夏目傑が黒い大布を広げた。
「はじめまして、脳噛。そして、さようなら」
バサァッ!
夏目がAチーム全員を黒い布で覆い隠す。
同時に、Bチームのいる独房でも、マイケルが同様の布を広げていた。
その光景を、付き添ったカラス越しに確認していた
「憂々、やって」
「はい、姉様」
憂々が印を結ぶ。
布で覆い隠した対象を、同じく布で覆い隠した別の場所へと転移させる時空間忍術。
脳噛が天道の斥力で煙を晴らした時には、もう遅かった。
広間には、黒い布だけがひらりと舞い落ちていた。
気配はない。完全に逃げられた。
「あちゃー……やられたね」
脳噛は苦笑した。
獄門鏡を奪われ、葛車の反応も消えている。奪還された。完全な敗北だ。
「つい、お喋りがすぎたか。……油断していたよ」
だが、その表情に焦りはない。
彼は場に残った黒い布を拾い上げ、埃を払った。
「まあいい。南条悟が戻ったところで、間もなく『
脳噛は、広間の奥から溢れ出る強大な呪いの気配を感じ取り、口元を歪めた。
「それに、葛車の地獄道の因子にしても……どうせ後で、他の因子とまとめて回収しに行くんだ。手間が少し増えただけのこと」
彼は楽しそうに笑った。
駒は揃いつつある。
これからの計画実行――世界が混沌に包まれ、一つになるその瞬間を想像し、脳噛は暗い地下室で一人、嗤っていた。