呪術師 廻仟   作:四月三十日

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第6話「最適化」

「……ならば、貴様の目的はなんだ?」

 

 夏目傑が鋭く問いただした。

 鉄山たち「呪術師復興派(じゅじゅつしふっこうは)」は、かつての栄光を取り戻すために動いていた。ならば、その首魁である彼も同じ夢を見ているはずだ。

 

「呪術師の復興、か」

 

 脳噛は、さも馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに鼻で笑った。

 

「いいや。それは呪術師復興派(彼ら)の目的であって、私のではないよ」

 

 脳噛は焦げた鉄山の遺体へ視線を向け、冷ややかに続ける。

 

「そもそも、忍者と呪術師にどんな違いがある? 扱うチャクラに傾向はあれど、どちらも性質変化を扱えば、陰陽属性だって扱う。例外だってたくさんあるじゃないか」

 

 彼は両手を広げ、呆れたように首を振った。

 

「彼らには過去があり矜持があるから、『忍者への復讐』『陰陽遁という優位性』……。言いたいことは分かるが、賛同はできないな」

「……じゃあ、お前は何がしたいんだ!」

 

 廻仟が叫ぶ。

 脳噛は、まるで講義をする教師のように、一本指を立てた。

 

「私が望むのは、人類の進化……チャクラの『()()()』だ」

 

 狂気を含んだ瞳が輝く。

 

 

「私は長い時間を生きて、ありとあらゆる術、チャクラの研究をしてきた。だが、ここ暫くは目新しさが無くなってきてね。……限界が見えてしまったのさ」

 

 脳噛の声に熱が帯びる。

 

「だが、チャクラの可能性はこんなものではないと信じている。五大性質、陰陽、血継限界……。私たちが扱うチャクラの全ては、太古の時代に存在した『神樹(しんじゅ)』から分化していったものとされる」

 

 神樹。忍の歴史における始祖的な概念。

 

「ならば、各地に散らばったチャクラを……要するに、全人類を一度神樹と同化させ、根源のチャクラに立ち返れば、まだ見ぬ可能性が生まれるのではないか?」

 

 全員が絶句する。

 それは、全人類の個を消滅させ、一つの巨大なエネルギー体にするということだ。

 

「新しいチャクラの形は、この星のチャクラを統合し、一段階上の存在に昇華させることで生まれる。……そのために私は六道の因子を収集し、神樹の苗床となる『十尾(じゅうび)』を復活させる」

 

 脳噛は宣言する。

 

「十尾をもって、この星すべてのチャクラを食らい尽くし、一つとする。それが私の計画だ」

 

 沈黙。

 あまりに壮大で、あまりに身勝手な狂気。

 会話が成立する相手ではない。

 

「……話は分かった。だが、そのふざけた夢想に付き合う気はねぇよ」

 

 そう?残念、と然程気にしていない風な脳噛。

 廻仟が一歩前に出た。

 

「先生はどこだ。『獄門鏡』はどこにある」

 

 脳噛はにんまりと笑い、廻仟の敵意を心地よさそうに受け止めた。

 今の彼にとって、廻仟たちは取るに足らない存在。久しぶりの御喋り、計画の全貌を語り高揚感に浸っていた彼は、致命的な油断をしていた。

 

「うん? それならここにあるよ」

 

 脳噛が懐から、掌サイズの古びた銅鏡を取り出し、見せつけるように掲げた。

 

 その瞬間。

 

()()だな」

 

 横にいた男、東導葵(とうどう あおい)が、ニヤリと笑い、乾いた音を立てて拍手をした。

 

 パァンッ!!

 

 秘術(ひじゅつ)美伐舞(ビバップ)

 東導の術は、拍手をトリガーに、範囲内の「一定以上のチャクラを持つモノ」の位置を入れ替える時空間忍術。

 

「!」

 

 脳噛の手から、銅鏡の重みが消えた。

 代わりに握らされていたのは、一枚の紙切れ――()()()

 そして、東導のポケットの中からは『獄門鏡』が覗いていた。

 

「しまった――」

「ハッ!」

 

 ドォンッ!!

 

 脳噛の手元で起爆札が炸裂する。

 ダメージはない。だが、視界が一瞬塞がれた。

 

 ――そうそう、という声。

 

「挨拶が遅れたね」

 

 夏目傑が黒い大布を広げた。

 

「はじめまして、脳噛。そして、さようなら」

 

 バサァッ!

 

 夏目がAチーム全員を黒い布で覆い隠す。

 同時に、Bチームのいる独房でも、マイケルが同様の布を広げていた。

 その光景を、付き添ったカラス越しに確認していた冥々(めいめい)が、憂々(ういうい)に合図を送る。

 

「憂々、やって」

「はい、姉様」

 

 憂々が印を結ぶ。

 秘術(ひじゅつ)所々転々(しょしょてんてん)

 布で覆い隠した対象を、同じく布で覆い隠した別の場所へと転移させる時空間忍術。

 脳噛が天道の斥力で煙を晴らした時には、もう遅かった。

 

 広間には、黒い布だけがひらりと舞い落ちていた。

 気配はない。完全に逃げられた。

 

「あちゃー……やられたね」

 

 脳噛は苦笑した。

 獄門鏡を奪われ、葛車の反応も消えている。奪還された。完全な敗北だ。

 

「つい、お喋りがすぎたか。……油断していたよ」

 

 だが、その表情に焦りはない。

 彼は場に残った黒い布を拾い上げ、埃を払った。

 

「まあいい。南条悟が戻ったところで、間もなく『其真(きしん)』が復活する」

 

 脳噛は、広間の奥から溢れ出る強大な呪いの気配を感じ取り、口元を歪めた。

 

「それに、葛車の地獄道の因子にしても……どうせ後で、他の因子とまとめて回収しに行くんだ。手間が少し増えただけのこと」

 

 彼は楽しそうに笑った。

 駒は揃いつつある。

 これからの計画実行――世界が混沌に包まれ、一つになるその瞬間を想像し、脳噛は暗い地下室で一人、嗤っていた。

 

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