呪術師 廻仟   作:四月三十日

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第3話「南条班」

 里の一角にある、使われていない雑居ビルの一室。

 カーテンが締め切られた薄暗い部屋で、南条悟の声が響いた。

 

「違う違う! クライマックスで吸っちゃダメだってば!」

 

 南条が指差した先で、廻仟が膝に乗せていた練習用のウサギが、げっそりと痩せ細って目を回していた。

 廻仟は慌ててウサギを床に下ろす。ブラウン管テレビの中では、B級恋愛映画のヒロインが雨の中で絶叫していた。

 

「……難しいな、これ」

「君の体にある『餓鬼道』の穴は、いわば壊れた掃除機だ。常にスイッチが入ったままになってる。それを意識的にオフにする、あるいは出力を絞る感覚を覚えなきゃ、君は一生誰とも手を繋げないよ」

 

 南条はソファに深々と腰掛け、ポップコーンを頬張りながら言った。

 弟子入りしてから数日。廻仟に課された修行は、チャクラを練る訓練でも、手裏剣の練習でもなかった。

 ただひたすらに、己の「飢え」を律すること。

 感情が高ぶった瞬間、無意識に開くチャクラの「蛇口」を閉め続ける訓練だ。

 

「笑っても泣いても、常に(なぎ)の状態を維持しろ。……でないと、大切な人を守るどころか、抱きしめ殺すことになる」

「……ああ、分かってる」

 

 廻仟は冷や汗を拭う。

 だが、成果は少しずつ出ていた。当初は触れるだけで花を枯らせていたが、今は意識を集中すれば、微弱な吸収に留めることができるようになっている。

 祖父の遺言が、彼を支えていた。

 

「ま、才能はあるよ。飲み込みが早くて助かる」

 

 南条はリモコンでテレビを消し、立ち上がった。

 

「よし、基礎訓練はここまで。今日はこれから、今後一緒に任務をこなす愉快な仲間たちと顔合わせだ」

 

   ◆

 

 指定されたのは、第3演習場の広場だった。

 そこには、二人の先客がいた。

 一人は、見知った顔だ。

 学ラン風の忍装束に身を包んだ少年、由良恵。

 右肩には包帯が巻かれているが、既にチャクラの流れは正常に戻っているようだ。

 

「……よう。怪我、大丈夫か?」

 

 廻仟が気まずそうに声をかけると、由良は無表情にこちらを一瞥した。

 

「医療班のおかげでな。……それより、遅いぞ」

 

 由良の隣に目を向けた廻仟は、ぎょっとして足を止めた。  そこには、人間ではない「何か」が立っていたからだ。

 全高2メートルはあろうかという、巨大な人型。木と金属の複合装甲で覆われ、無機質な一つ目が赤く光っている。

 まるでSF映画に出てくるロボットだ。

 

「な、なんだコリャ!? ロボットか?」

「……ロボット?」

 

 巨大な人型の影から、ひょっこりと一人の少年が姿を現した。

 長い黒髪に、どこか神経質そうな顔立ち。肌は病的に白い。

 

「田舎者が。これは傀儡(くぐつ)だ。忍具だ」

 

 少年は不機嫌そうに吐き捨てた。

 

「紹介しよう。彼がもう一人のメンバー、傀儡丸(くぐつまる)だ」

 

 南条が紹介すると、由良が眉をひそめて口を開いた。

 

「傀儡丸……。噂は聞いている。傀儡部隊の研究棟に引きこもっている変わり者だと。まさかお前が現場に出てくるとはな」

「フン、現場になど興味はない。だが、この『機巧(カラクリ)阿修羅(アシュラ)』の実働データが必要になっただけだ」

 

 傀儡丸と呼ばれた少年は、悪びれもせずに答えた。

 由良はため息をつきつつ、鋭い視線をその傀儡に向けた。

 

「……おい、一つ聞くぞ。お前、どうやってそれを動かしている?」

「あ?」

「チャクラの糸が見えない。傀儡の術は指先からチャクラ糸を出して操るのが基本だろう。なのに、お前の指からは何も出ていない」

 

 由良の指摘に、廻仟は「え、糸がいるのか?」とキョトンとしている。

 傀儡丸はニヤリと口角を上げた。

 

「よく見ているな、優等生。……普通の傀儡師ならそうするだろうな」

「普通じゃないってことさ」

 

 南条が割って入る。

 

「彼はチャクラ糸を使わない。意思一つで傀儡を遠隔操作できるんだ。……僕の眼で視たところ、彼の中には六道の『修羅道(しゅらどう)』の因子が眠っている」

「修羅道……?」

 

 聞き慣れない単語に、廻仟が首を傾げる。

 

「全身を兵器化する戦闘の道さ。彼の場合、その力が『外部装置へのリンク』として発現している。だから無線でコイツを動かせるのさ」

 

 南条の説明に、傀儡丸は自身の傀儡『阿修羅』のボディを愛おしそうに撫でた。

 

「俺はただ、効率を求めているだけだ。本体と傀儡、二対一の状況を作り出し、確実に敵を殲滅する。……廻仟、お前も『()()()()』なんだろう?」

 

 傀儡丸の視線が変わる。侮蔑ではなく、ある種のシンパシーを含んだものへ。

 

「南条先生に言われて、俺もこの因子の制御訓練をしている。……お互い、厄介な爆弾を抱えたもんだな」

「……ああ、そうだな」

 

 廻仟は苦笑した。

 エリートでまとめ役の由良、技術屋で異能の傀儡丸。

 南条は楽しそうに三人を交互に見た。

 

「特殊体質の廻仟。影使いの天才・由良。そして無線操作傀儡の傀儡丸。……うんうん、実に僕好みの『異端』が揃ったね」

 

 南条は一枚の書状を取り出した。

 

「さて、新生『南条班』の初任務だ」

 

 場の空気が引き締まる。

 

「場所は里の北区画。最近勢力を伸ばしている新興宗教、『六道神樹教(りくどうしんじゅきょう)』の支部だ」

「宗教……?」

「表向きはね。だが、どうやら裏できな臭い連中が出入りしているらしい。特に、この島にかつて存在した『呪術』に関わる遺物を収集しているという情報がある」

 

 由良が表情を硬くする。

 

「呪術……先日、俺たちを襲ったあの男とも関係が?」

「大ありだろうね。だからこそ、僕らが出る」

 

 南条の声色が、教師のものから忍のものへと変わった。

 

「潜入し、実態を調査。もし『クロ』なら……組織ごと解体する。準備はいいかい、少年たち」

 

 廻仟は拳を握りしめた。

 自分の中にある力。それを狙う連中。そして、頼もしい仲間たち。

 全ての答えを探すために、廻仟は強く頷いた。

 

「ああ。行こう、先生」

 

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